王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

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霧の決闘

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「中々やりますね。」
「それはこっちのセリフよ。そんな老体でよくついてこれるわね。」
 レインはセイルズと互角の戦闘を繰り広げていた。
 セイルズの様子を見て分かったのだが、老体が故に体力は無い。
 が、その剣術は洗練されており、決して油断は出来ない。
 つまりは長期戦に持ち込めば持ち込むほどこちらが有利になるということである。
 現に徐々に押し始めている。
「では、そろそろ決着をつけさせて頂きましょう!」
 するとセイルズが一気に距離を詰めてきた。
 咄嗟のことだが、反応し反撃する。
 互いの攻撃は頬をかする。
 そのまま、セイルズは絶え間なく攻撃してくるが、やはり速度は遅く、難なく受け流せている。
 このまま勝負を決めることも出来るとは思うが、出来るだけ勝利を確実な物にしたい。
 もう少しだけ体力を消耗させるとしよう。
「くっ!」
 するとセイルズの攻撃が遅くなっていることに気づく。
(ここか!)
 すかさず反撃する。
 その反撃は上手く体に命中した。
 致命傷にはならなかったが、これはこちらが有利であることを示すものだ。
「そろそろ観念したら?もう無理でしょ?おじいさん?」
「……確かに、この老体にはもう限界でしょうな。このまま続けても無意味でしょう。ですが……。」
 セイルズは立ち上がり武器を構える。
「こんなところで終わるわけには行きませんので。」
「なら……。」
 薙刀を構える。
「死になさい!」
 一気に距離を詰め、セイルズの首を狙う。
 走馬灯のように周りがゆっくりと動いている。
 セイルズの動きは鈍く、このまま仕留められるだろう。
 だが、少し違和感を感じた。
 余裕過ぎるのだ。
 アルフレッドからはあらかじめセイルズには注意するようにと言われてきていた。
 それが、こんなにあっさり決着がつくとは思えない。
 この薙刀がセイルズの首に届くまでのほんの少しの時間でセイルズの様子を再確認する。
 するとセイルズがにやけていたのだ。
 咄嗟に恐怖を感じた。
 しかし、既に薙刀は繰り出している。
 もう戻すことは出来ない。
 只の直感だった。
 危険を感じて薙刀から手を離し、セイルズから距離を取った。
 無茶な姿勢から後ろに飛び退いたので、体が少し痛むが、この判断が正解だったと後から分かった。
 薙刀が腐ったのか何なのかよく分からないが溶けたように液状に変化し、地面に落ちて行ったのだ。
「おや、感づかれましたか。惜しかった。あと少しであなたも溶かせれたのに。」
「……何をしたの?」
 予備で持ってきていた剣を抜く。
 先ほどまでの体力切れで疲れきっていたセイルズはいなかった。
 まるで、今戦闘を始めたかのようなピンピンしたセイルズがたっていたのだ。
「なんてことはありませんよ。ただ、少し道具を使っただけです。」
 するとセイルズは懐から1つ札のようなものを取り出した。
 いや、あれは札なのだろうか。
 何か紋様が描かれている。
「これは、所持者の周りに結界を作り、結界の中に入った物を腐らせ、溶かすという神具です。」
 あのスタミナ切れの様子はここまで誘い込むための演技だったのだろう。
 それに、あのような神具を持ち出されると手の出しようが無い。
「くっ!どうすれば……。」
「ふふふ、もう私の勝ちだと言うことが分かったでしょう?」
 どうすれば勝てるのだろうか。
 正直どう戦えば良いのか分からない。
 ……いや、まずはあの神具の特徴を探ることだ。
 あの結界がどういった形で展開されているのか、どれほどの範囲なのか。
 調べる必要がある。
 諦めるのはそれからだ。
 足元に転がっていた石を投げる。
 3つほど投げ、それぞれ頭、体、足へ向けて投げる。
 すると、頭へと投げた石が最も近くまで行ってから溶けたのが分かった。
 つまり結界は所持者を中心にドーム状に展開しているのだ。
「なるほど。結界の範囲を調べましたか。ですが、だからといってどうするのです?」
「ええ、どうしましょう。」
 ドーム状に展開している。
 そして、結界の中に入ったものは徐々に腐って溶けていく。
 そしてその腐った物は周囲を溶かしているのが分かる。
 ……ならば。
「どうしました?この結界を使っている時点であなたに勝ち目は無いと分かったのですか?」
 セイルズは再度ら札を懐から取り出し頭近くまで持ってきてこちらに見せてくる。
 勝ちを確信しての余裕だろうか、札を見せてくれた。
(今だ!)
 一気に距離を詰める。
 油断していたのか、セイルズの反応は遅い。
「なっ!?」
 先程の石で結界の範囲は分かった。
 そして、狙いは札を持っている左手だ。
「はぁっ!」
 左手をめがけ、剣を思い切り薙ぐ。
 剣は結界に入るなり腐り始めるが、セイルズが左手を頭近くまで持ってきてくれているので、そこまで腐らず左手に到達した。
「っ!まさか!」
「ええ。そのまさかよ。」
 剣は腐りながらもセイルズの左手を切り落とした。
「くそっ!」
 セイルズは急いで飛び退いた。
 セイルズの様子を見ると体が少し腐っているいるのがわかる。
「なるほど……。左手を切り落とすことで結界の所有者を私から私の左手に移したということですね。」
「ええ。一か八かだったけど。」
 つまり、これまで所有者はセイルズだったが、左手を斬り落とすことで結界を発動したまま所有者が左手に移ったのだ。
 それによって結界に入ったと認識されてしまったセイルズは腐ったのだ。
 どちらにせよセイルズからあの札を奪えればそれで良かったので、取り敢えず作戦通りである。
「もう無理でしょう?降参しなさい。もし、今からほんの少しでも動こうとしたら首を刎ねるから。」
「……分かりました。どちらにせよこの状態ではもう戦えないでしょう。降参するとしますよ。」
 剣を向けたまま、一息つく。
 なんとか勝てたが、危なかった。
 あとはアルフレッドが勝つことを祈ろう。
(待っててね、マイン。それにゼイル殿。アルフレッド様と一緒に無事に帰ってきて見せるから。)
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