王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

父との対決

「……流石だな。」
「俺も息子がここまで成長してるとは思わなかったよ。」
　何度か斬り合い、戦闘能力は五分五分だと言うことが分かった。
　このままではジリ貧である。
　何とか決定打を決めたいところではある。
「さて、少し本気を出してみるとするか。こんなことでは死ぬなよ？息子よ。」
「……何だと？」
　すると気が付けばアロンの姿は無く、背後に気配があった。
(っ！速い！)
　即座に反応し、振り向き、飛び退く。
　自分の体があった場所には既にアロンの剣があった。
　あとほんの数秒遅ければ死んでいただろう。
「よく避けたな。」
「ちっ！」
　あの様子ではまだ本気は出していないのだろう。
　それに、あの早さは見覚えがある。
　あの陽炎部隊の隊長バイゼルの速さと酷似している。
　しかし、バイゼルよりも速かった。
　恐らくアロン自身の速さも影響しているのだろう。
　それに気が付けば奴は片眼鏡を付けている。
　恐らく数秒先が見えるという先見のレンズだろう。
　まだ在庫があったのか。
「無理ゲーだな……。」
　不思議と笑みがこぼれてしまう。
　勝ち目の無い戦い。
　奴はまだ本気を出していない。
　これまでの戦闘でそれなりに経験を積んできたつもりだが、勝てる気がしない。
　だが、癖のせいで笑みがこぼれてきてしまう。
　無理ゲーならば、本気で攻略して見せるしか無い。
「まだ、笑えるほどの余裕があるようだな？」
「ふふ、これは癖だよ。癖。」
　剣を構える。
「そうか、ならば」
　アロンの姿が消える。
　やはり、気配は後ろだ。
「死ね。」
「……お前がな。」
　視界から姿が消える。
　ならば、奴は先程と同じように背後に現れるだろう。
　そう予測したのだ。
「ぐっ！」
　アロンの腹部に剣が突き刺さる。
　俺はノールックで、剣を脇から背後に向け突きだしたのだ。
　振り向き、アロンの様子を見ると脇腹をかすっている程度だった。
　先見のレンズのお陰だろうか、やはりかわされてしまったようだ。
「やはり、俺の息子なだけはあるな。」
　気が付けばアロンは距離を取っていた。
「まぁな、残念ながら。」
　決して油断はしない。
　次が上手く行くとは限らないのだ。
「だが、次で終わらせる。」
　少し、様子が変わった。
　恐らく本気を出してくるのだろう。
　果たして、どう来るのだろうか。
　今度の攻撃は防げるのか。
　……本来のアルフレッドに身を任せれば余裕で勝てるのかもしれない。
　だが、分かるのだ。
　次に本来のアルフレッドに変われば戻ってはこれないと。
　だが、変わらなければ死んでしまう。
　そうなれば、セラやレイン、セインにジゲンも悲しませてしまうことになる。
　それにジゲン、いや勝久様をもう一人で死なせることはしたくはない。
　ならば、変わるしかない。
「っ！？」
　アロンは何かを察知したのか警戒し、仕掛けてこない。
「元はといえば本来の息子になるのか。なら、最後は本当の息子に譲るとするか。」
　覚悟を決め、アルフレッドを呼び覚まそうとしたところ、辺りの霧が晴れて来たのが分かった。
「っ！何だ！？」
　アロンがこちらから目線を切った。
　今ならば、先見のレンズは使えない。
　目覚めさせるのは中止し、すかさず距離を詰め、剣を振るう。
「っ！しまった！」
　アロンも咄嗟に身を避けようとしたが、既に遅く剣はアロンの体を斬っていた。
「ちっ！浅かった！」
　回避速度は上昇しているので、致命傷にはならなかった。
　だが、傷をつけられただけでも良かったのだろう。
「……どうやら決着はお預けのようだな。」
「そうみたいだな。」
　霧がどんどんと晴れていく。
　誰かが、結界を破ってくれたのだろう。
　アロンも邪魔がはいっては不利になると分かったのか剣を収めた。
「この決着は城でつけよう。城の中で待っているぞ。」
「ああ、待っていろ。必ず殺してやる。」
　アロンはそのまま霧の中へと消えていった。
　出来れば母上のこととか聞いておきたかったのだが、仕方がないだろう。
　レインとセイルズの勝負の結果も気になるし、マインやゼイルもどうしているかが気になる。
　今は速く皆の所へ戻るとしよう。