歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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築き上げてきた物 中編

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「佐切勘助、魔王様の命により、謀反の疑いで処刑します」
「キサラさん……そんな……私は……」

 フィアナは自分達が罠に嵌められた事を察する。
 そして、この現状を招いたのは自分だということを理解し、絶望する。
 そんな今まで見たことのない顔をしているフィアナを見て、レナは怒りを隠せなかった。

「……許せない」
「……謀反? 俺達が? 一体何を……」
 
 キサラが配置した、俺達の護衛だった筈の兵に囲まれ、逃げ場はない。
 全ての弓が俺たちを狙っている。
 もう一度言おう。逃げ場は、無い。
 
「貴方の知略は恐ろしい。もしこの戦に勝てば、貴方の支持率は高くなり、その知略をもってすればザルノール王国をそのまま手中に収められる。そうなれば、魔王様と対立する構図が簡単に見て取れます。魔王様には申し訳ありませんが、あなたが謀反を企てていると伝え、討伐の許可を得ました」
「……その兵達は?」
「魔族については、私と同じ思いを持つ者達です。人間は……」
 
 キサラは少し胸元を開ける。
 
「誘惑、しました」
「誘惑? そんな簡単に……」
「そう言えば説明してませんでしたね。私の種族はサキュバス。意志の弱い人間の男なら、簡単に洗脳出来るんです。既に、この軍にもたくさん仕込んでます。いつでも動けるようね。ここにいるのはほんの僅かの手勢です」
「……いつから俺を始末するつもりだったんだ?」
「あら、口調が変わりましたね。敵に対する言葉遣いになってますよ。でもそれで良い。私は敵ですから」
 
 キサラは淡々と説明を続ける。
 
「ファレスでの戦いの頃からですね……あの戦は、正直負けるかと思いました。でも、それを貴方は覆してしまった……」
「違う」

 すると、レナが割って入る。

「あの戦い、最後は勘助が掻っ攫ったけど、あそこまで耐えたのはフィアナ。間違えないで」
「……レナさん? それだとフィアナを殺せと言っているような気が……」
「……やっぱ忘れて。でも勘助も殺さないで」
「……なんか腰が折られますね」

 そんなレナに若干ペースが乱されながらも、キサラは続けた。

「と、とにかく。あなたは将来、魔王軍にとって障害となります。なので排除させていただきます」
「そうか……なら、始末するのは俺だけにしろ」
「佐切様!?」
 
 俺の言葉に、フィアナが反応する。
 その反応は予想できている。
 すると、レナも勿論拒絶して来る。
 
「……それだけは駄目」
「いや、何よりも許せないのは、俺の家族を……家族同然の仲間を狙ったことだ。俺を脅威に感じるのはいい。源義経や黒田官兵衛のように、活躍した者が警戒されるのはよくあることだ。だが、二人は無関係だろ」
「……いえ、フィアナさんはファレスで兵達の支持を集めました。それに知略の上でも貴方に及ぶ所まで来ているでしょう。あなたかいなければ、次はフィアナさんが障害となるでしょう。見過ごす事は出来ません。レナさんは……」
 
 キサラはレナを見る。
 
「……あなたとフィアナさんを殺したら、絶対に黙ってないでしょう?」
「……それもそうだな! なら仕方ない!」
 
 しまった。納得してしまった。
 ……だが、もう充分だろう。
 
「……所で、根本的に一つ勘違いしてるぞ」
「……どういう事です?」
「……お前に俺は……俺達は殺せない」
「っ……何を……もういいです。あの男を殺しなさい!」
 
 キサラが激を飛ばす。
 キサラの隣にいる男が、俺をめがけて矢を放つ。
 しかし、その矢は横から飛んできた正確無比な矢に弾かれる。
 
「なっ……」
「佐切殿! 今参った!」
「丁度いいタイミングです! 助かりました!」
「あれは……スランディアさん!?」
 
 その矢は、スランディアさんが放った物だった。
 そのスランディアの弓の腕前に、フィアナは驚いていた。
 スランディアさんが俺を助けてくれたのだ。
 エルフの弓は超がつくほど正確。
 飛んでいる矢を当てることは造作も無い。
 
「くっ……なら数で勝負しなさい! 一斉に矢を放て!」
「それも対策済み! エルフを舐めるな!」
 
 すると、茂みからエルフの戦士たちが出て来て放たれた矢を次々と射落として行く。
 
「な……いつの間に……なら……白兵戦よ! 予定通り、行きなさい!」
「応!」
 
 半分程の兵が弓を捨て、剣を抜いてこちらに向かってくる。
 すると、キサラの背後の茂みから、物凄い速さで男が出てくる。
 こちらに向かってくるその男の顔には見覚えがあった。
 
「お前は……畠山!? 報告にはあったが……こんな所にいたのか」
「おう! 久しぶりだな! お前とはあまり話したことがなかったが、この畠山義和の顔を覚えてくれてたこと、感謝するぞ! そして死ね!」
 
 畠山がこちらに斬り掛かってくる。
 しかし、その切っ先は寸前で止まる。
 
「な!? 俺の攻撃を受け止めただと!?」
「残念だったな! ドワーフの背の低さがこんな時に役立つとは思わなかったわ!」
「儂らが作り上げた、ドワーフの盾を打ち破れると思うな!」
 
 目立たずこちらに接近していたドルドとゴズン。
 俺は気付かれないように『俯瞰』でこの状況を見ていた。
 仲間がここに来ていたのは気づいていた。
 ゴズンが咄嗟のことに対応しきれていない畠山に攻撃する。
 
「そらっ!」
「くっ……」
 
 畠山はゴズンの斧をかわし、距離を取る。
 
「行け! 佐切殿を守れ!」
 
 すると、ドワーフの兵数名が俺の下にくる。
 全て想定されていた動きのように滑らかである。
 
「儂らドワーフの鉄壁の守りを打ち破れる物なら破ってみよ!」
「フィアナ! レナもこっちに来い!」

 俺達三人はドワーフの兵達に守られる。

「く……仕方無いですね……全軍投入します! 必ずここで奴らの息の根を止めなさい!」
 
 すると、後詰めとして用意されていたのか、さらに茂みの奥から敵が出て来る。
 いや、本来は友軍なのだが。
 そして、先頭の男は見たことがある。
 
「あれは……城塞群指揮官のオルテガか。彼も魅了されているのか……いや、報酬目当てで簡単に裏切るようなやつだ。それもそうか……」
「私の魅了は洗脳に近いので、彼に意識はありませんよ。何を言っても無駄です」
「……流石に不利か」
 
 こちらの手勢はせいぜい五十ほど。
 向こうは数百はいる。
 精鋭といえど、この状況は……不利である。
 
「さて……どうしたものか……」
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