歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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築き上げてきた物 後編

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「さて……どうしたものか……」
 
 数的不利。
 この戦況を覆す策は流石にない。
 エルフとドワーフも、つれてきたのはこれだけのようだ。
 キサラのことだ、この包囲を抜けたとしても、何かしらの策は残してあるだろう。
 
「おい! そもそも俺を殺したこと、諸将にはどう説明するつもりだ? ジョバンニさんやロームさんが黙ってるとは思えんぞ!」
「川辺で敵の奇襲にあったということにします。我らも奮戦しましたが……と。エルフとドワーフについては……想定外ですが、数は少ないですし何とかなるでしょう」
「そうか……」
 
 俺は『俯瞰』で戦況を見る。
 何か……何か打開策が……。
 隣で意気消沈しているフィアナを見る。
 やはり、気に病んでいるようだ。
 
「……」
「どうしました? 負けを認めますか?」
「……そんなわけ無いだろ。フィアナ。安心しろ。生き残る術はある。スランディアさん! エルフの兵もここに集めて下さい!」
「分かった!」
 
 スランディアがエルフ達に指示を出し、エルフの兵も俺の周囲に集まる。
 背後を川に任せて背水の陣をとる。
 
「ドワーフの陣の内側から射掛けて数を減らします! 持久戦に持ち込みます!」
「了解した! 皆の者! よく狙え!」
「よっしゃ! お前ら、誰一人として通すな!」
「儂は前に出る! 敵陣を乱す!」
 
 完全武装のドルドが前に出て敵を引きつける。
 ドワーフの鋼鉄の鎧に守られた、歴戦の勇将であるドルドを防げる人間の兵は誰一人としておらず、数を頼りに対処するしか無かった。
 そして、無防備になった側面をエルフの弓が狙う。
 近づいてきた敵はドワーフの鉄壁の守りに弾かれていた。
 
「しかし佐切殿。あの手紙の内容には驚いたぞ」
「あぁ。敵味方問わず川の動向に注意せよ、か。あの手紙を受け取ってから状況の変化があまりにも早くて、サナン殿の伝言がなければ間に合わなかったぞ」
 
 サナンにはエルフとドワーフの三人に先程の手紙を読めと伝えてもらった。
 そして、サナンには俺たちの行動についても伝えてもらったので、ドワーフとエルフの三人は難なく状況を把握出来たのだ。
 何故『念話』で伝えなかったのかは、スキルによる妨害を警戒してのことだった。
 盗聴の恐れも考慮して、サナンに直接伝えてもらった。
 
「しぶといですね……とっとと殺しなさい!」
「……その言い草、もはや仲間じゃないな。なら、遠慮はしない」
 
 すると、川から水しぶきの音が響いてくる。
 
「な……」
「……これは俺も予想外でした。でも、助かりましたよ! カルラさん!」
「あぁ、待たせたね! さぁ! 反逆者を打ち倒しな! まったく……短期間でこんな立派な船作るなんて、力を貸してくれたガルンには感謝だね!」
 
 川からカルラさんの操舵する中型の舟が降りてくる。
 甲板には数人のドワーフがおり、その先頭にはサナンが立っていた。
 
「佐切! 無事か!?」
「おう! 助かった!」
 
 船が止まり、渡し板が下りる。
 
「さあみんな、早く乗れ!」
 
 サナンの声で俺は船に乗る。
 
「さぁ、みんなも早く!」
「佐切様!」
 
 フィアナの声で振り向く。
 すると、そこには川の中に潜んでいたであろう、リザードマンが船の側面を登って来ていた。
 船員と化したドワーフたちも、驚きを隠せていなかった。

「な……」
「なんだこいつら!? いつの間に!?」
「言ったでしょう。全戦力を投入してるんです。リザードマンなら川を使えば、『俯瞰』の認識の外側から詰め寄ることもできます。まぁ、流石に船は予想外ですけどね」

 既に数匹、甲板に上がっている。
 俺は丸腰、無防備だ。

「死ね! 佐切勘助!」

 リザードマンが槍を繰り出す。
 ドワーフも俺も、咄嗟の出来事に反応できていなかった。
 リザードマンの槍が俺の心臓へ……。
 当たることは無かった。
 
「な……槍が……」
 
 一瞬、眩い光が辺りを包み、リザードマンの槍を砕いた。
 薬指に衝撃が走る。
 気が付けば、俺が嵌めていた指輪は粉々に砕け散っていた。
 
「っ! そら!」
「うおっ!?」
 
 俺はリザードマンを蹴り落とす。
 
「フィアナ! レナ!」
 
 川辺で戦う仲間たちのもとにもリザードマンが襲いかかる。
 ドワーフの手勢は少なく、方陣を組んで全方位を防衛ふるのは厳しい。
 背後を完全に留守にしており、フィアナとレナの下にリザードマンが迫る。
 
「油断はしません!」
 
 フィアナはかつて俺がプレゼントした護身用のナイフでリザードマンを突き刺す。
 
「私も負けない!」
 
 レナも負けじと隠し持っていた小刀でリザードマンを撃退する。
 
「二人共……武器持ってたのか!?」
「えぇ……これは佐切様から頂いた物なので肌見放さず……」
「私は……護身用」
 
 レナはカルラを見上げていた。
 
「……レナ、もう隠さなくてもいいよ。よくやったね」
「いいの?」
「あぁ。もう十分だろ?」
 
 ……成る程なんとなく理解した。
 
「成る程な……レナ。俺を護衛してたな?」
「う……」
「あの魔法使いらしき女に会った時、頑なに俺についてきたのが少し不思議だったんだ」
「……御名答」
「へぇ……お見通しだったのかい。前にキサラに不穏な動きが見られたからね。……というか……魔法使い? 後で詳しく聞かせてもらうよ」
「私にも聞かせてもらえますね?」
「……は、はい……」
 
 カルラとフィアナからの圧が強い。
 やはり黙っていたのは良くなかったか……。
 すると、甲板でリザードマンを突き落としていたサナンの声が響く。
 
「なぁ! とにかく今は離脱しようぜ! こいつら落としても落としても上がってきやがる! きりがねぇ!」
「すまんな、サナン! 確認だけど、ドワーフの人たちを指揮してるだけだよな?」
「あ、当たり前だろ! 本気出したらカルラさんに説教されるわ! まぁ……ほんの少しやってるけどよ」
 
 サナンは一生懸命ドワーフを指揮して上がってくるリザードマンをおとしていた。
 しかし、中々手が回らなくなってきているのか、時々サナンも軽く突き落としていた。
 
「スランディアさん! ドルドさんに、ゴズンさんも! 殿はいりません! 先に船に乗ったエルフの弓で足止めします! 上がってきて下さい!」
「承知した!」
「よし! 儂らも早く乗るぞ!」
「おい、俺が先だ!」
 
 川辺で戦っていた者達も乗船し始める。
 敵の追撃部隊は先に乗船したエルフの弓で阻まれていた。
 
「く……逃さないで! 矢も放ちなさい! 全力で……」
「おい、キサラ」
 
 すると、カルラが恨みのこもった声でキサラへ声をかけた。
 
「……ここまで命を落としてきた将兵の為、私達は勝たなくてはならない。エルフやドワーフ、魔族に次はないんだ。だから、私達の主力は残しておいてやる。好きに使いな。エルフの指揮はガルンに一任してるし、問題は無いはずだ。だが、もし負ければあんたの責任だ。佐切がいれば勝てた戦を、あんたが台無しにした。もしそうなれば……必ず、責任は取ってもらうよ」
「……」
 
 キサラは答えない。
 そうこうしている間に全員が乗船した。
 
「よし! 船を出しな! 逃げるよ!」
「フィアナ。レナ。無事だな?」
「はい! ありがとうございます! これも佐切さまの策ですか……流石です」
「ん。偉い偉い」
 
 二人はあの時矢に当たった。
 俺も矢に当たり川を流れていった。
 キサラのせいで、俺達の晴れやかな未来は曇ったが、順調だな。
 それもこれも、俺が築き上げてきた物のおかげ、か。
 ……いや、順調過ぎる……。
 あの絶望の未来から、こんなにも大きく変化するか?
 なんだ……何か引っ掛かる……。
 何か……思い出せ……。
 
『あの人が相手の時はうまく行っている時ほど負けるのよ!』

 ロームさんの言葉か……。
 うまく行っている時ほど……順調な時程……か。

『あなたが変えようと努力するのは問題ない。けど、この『魔法』は大きく流れは変えられないの。細かな出来事は変えられても、結末は大きくは変わらない。人の生き死にが、その結末に影響を与えないのなら、人の生死の運命を変えられるかもね』
 
 結末は大きく変わらない……。
 ここでの結末……つまり、俺が矢にあたること?
 まさか……。
 俺は『俯瞰』ですぐに確認する。
 
「っ! 盾を! 対岸です!」
「……ほう。気付いたか。だが……一瞬、遅かったな」
 
 対岸を見ると、そこにはドルーガが僅かな手勢を率いてそこにいた。
 その僅かな手勢は、皆弓を構えていた。
 勿論、ドルーガも弓を構えていた。
 ドルーガの狙いは、俺。
 ドルーガの弓は他とは比べ物にならない程の強弓で、あれに貫かれればひとたまりもないだろう。
 
「さらばだ。佐切勘助」
「佐切様!」
 
 フィアナが駆け寄る。
 あの未来を味わうのは、俺だけで良い。

「サナン!」
「くそっ! 待てフィアナ! 行くな!」
「止めないで! 行かせてください!」

 しかし、もう遅い。
 矢が、放たれた。
 
「ぐっ……かはっ……」
 
 矢が俺の右胸を貫く。
 心臓近くを貫いた。
 心臓をかすったのか、太い血管が傷ついたのか、詳しくは分からないが鮮血が噴き出す。
 肺に血が入ったのか、俺は血を吐き出した。
 
「勘助!」
「駄目だ! 雑兵の奴らの矢も正確過ぎる! 回復スキルを持ってるお前を狙ってる! 今出たらカモだ!」
 
 微かに見えた光景。
 サナンがドワーフの盾に隠れ、フィアナとレナを必死に抑えている。
 仲間たちは盾に隠れたりしている者もいるが、矢に当たった者も少なくない。
 段々、意識が霞んでいく。
 
「……フィ……アナ……レナ……」
 
 俺は二人の方へ手を伸ばす。
 それを最後に、俺の意識は途絶えたのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
            
      プロローグ 序章 追放編 完
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