歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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北方にて最初の試練

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 その後、順調に川下りを続けた。
 無論、川の周辺には人里もあるので、そこは勇者の一行だということで押し通した。
 そこで食料などを調達し、旅の支度を整えた。
 そして、現在は勇者達を召喚したザルノール王国を抜け、魔王領と接しているノージリア国へと足を踏み入れようとしていた。
 
「さて……ここまで来たはいいが、どうやってノージリア国へ入るかだな」
「軍師殿の策のお陰で魔王討伐軍より早く到着できたのは良いが、ノージリア国は最前線。これまでのような誤魔化しでは入れないぞ」
 
 ノージリア国は容易に入国できる国ではない。
 関所は全て要塞化されており、入出国は厳しく審査される。
 その関所を無視して通れる道は無く、ほぼ全域に常に巡回 が歩いている。
 今、目の前には関所があり、それをどう通り抜けるか論議していた。
 
「……まず、この行列に並ぶところから始まるが、俺達がどういう設定で入国しようとしているか決めないとな」
「あぁ。サナンの言う通り、そこが問題だな」
 
 目の前の行列は非常に長く、それらが解消されるのには非常に長い時間を要することは明白であった。
 それらを理解している者達はテントを張り、一泊か二泊している者達もいた。
 
「……やはり、商人だろうな」
 
 今目指している町は魔王軍との最前線の町であり、ここの関所はそこに一番近く、行列も殆どは商人であった。
 戦争がある所は経済が回る。
 それを理解している商人はこの町に集まり、商売をしているのだ。
 
「しかし……商品は無いぞ」
「……あるじゃないか」
 
 そして、サナンの腰を指さす。
 
「ま……まさか……」
「そうそのまさかだ」
 
 
 
「次の者! 前へ!」
 
 前の者が通され、いよいよ自分達の番が回ってくる。
 数名の仲間が荷車を引っ張りながらついてくる。
 ちなみにこの荷車は船を解体し、使える木材を使って作り上げた物である。
 一応、全て船で行けない事も想定して荷車に変えられるように作ってあった。
 無論、部員は足りないので、その都度現地調達である。
 
「用向きは?」
 
 事前に列に並んでいた者達に話を聞いており、用件だけを聞かれることは分かっていた。
 それは、人を早く流す為と、名前を聞いた所で偽名を名乗られれば、この世界の制度ではそれを証明する手段がないからである。
 
「商売です。商品はあの奴隷が引いている荷車にあります」
 
 荷車は数台あり、全て布が被せてある。
 魔王派の仲間には、労働奴隷に扮して貰っている。
 衛兵は鋭い目つきで後ろの荷車をみると、口を開いた。
 
「商品を改めさせてもらう。構わんな?」
「ええ、勿論」
 
 笑顔で承諾し、荷車の後ろに回る衛兵とともについていく。
 そして、少しあたりを気にしながら、荷台にかけられた布を剥がす。
 
「こ、これは……」
「……へへ、そりゃあ驚くでしょう。美術品としての価値が高い、めったに出回らない、刀です」
 
 衛兵は目を丸くする。

(……悪徳商人の感じ、出てるよな?)

 自分の演技力に不安を感じつつも、演技を続ける。
 すると、衛兵が小声で聞いてくる。
 
「こ、こんな物を何処で……これは、魔王派の人間が使う物の筈……」
「そう。それ故、数は非常に少ない。しかし、芸術品としての価値が認められ、オークションでは常に高値がつくというこの刀、とあるルートで仕入れましたね」
 
 手招きをし、周りに聞こえないように小さな声で喋る。
 
「実は、魔王派のアジトの跡のようなものを見つけましてね……そこに保管されていたものをこっそりと持ち出して来たんですよ……」
「それは……ザルノール王国には報告したのか?」
 
 少し笑い、荷車の中にあった小刀を衛兵に手渡す。
 
「まぁ、詳しくは聞かないで下さいよ。ここはノージリア。他国の事なんて知った事では無いでしょう」
「こ、これは……こんな高い物、受け取れん」
「いえいえ、無論お代は頂きませんとも。これも何かの縁。武器としても上等な物ですし、お近付きの印とでも思って下さい」
 
 そう言うと、衛兵は暫く考えた後、それを懐にしまう。
 
「……荷物に問題は無いな。よし、通って良いぞ」
「……ありがとうございます」
 
 頭を下げ、前へと進む。
 
「……少し待て」
 
 すると、小刀を受け取った衛兵に呼び止められる。
 
(ち……受け取るだけ受け取って捕まえる気か……?)
 
 衛兵は近づいてきて、耳打ちをする。
 
「この町には入ってすぐの所に娼館がある。その裏路地にあまり表には出せないような物を取り扱う商人がいる。もし売るのなら、そこを通すが良い。通常よりも高値で取引してもらえるらしい」
「……ありがとうございます」
 
 そのまま、今度こそ関所を通る。
 暫く進み、付近に人がいないことを確認し、隊を止めて後ろの荷車に乗っていたフィアナとレナに話しかける。
 実は念の為、奴隷の商品も取り扱っているという設定を用意していたのだが、一つ目の荷車を調べられるだけで済んだので、二人の出番は無かったのだ。
 
「すまんな。奴隷のフリなんかさせて。辛い思い出もたくさんあるだろうに……受けてくれて本当にありがとう」
「いえ、お役に立てたのなら、何よりです」
 
 しかし、そう言うフィアナとレナの体は少し震えていた。
 嫌な思い出が蘇ったのだろう。
 
「……」
 
 荷車に乗り、二人に先ほどかけていた布をかけてやる。
 
「北方はやっぱり寒いな。大事な体なんだから、壊さないようにしないと。街に着いたらまずは温かい飲み物でも貰うとしよう。二人共、ここから先も頼りにしてるからな?」
「は、はい……」
「……」
 
 二人は布を被り、大人しくなる。
 震えも止まっていた。
 
(……奴隷時代、優しくされることは無かっただろう……)
 
 関所は抜けた。
 目的地である魔王軍は、もうすぐそこまで来ていた。
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