歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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「し、視察!? どうして急に……」
「黙れ。これはザルノール国の決まりだ。お前も知っているだろう、先日からここの管理官が新しくなったことは」
 
 後日、奴隷市場にザルノールの鎧を身にまとった赤髪の騎士が訪れた。
 その背後にフードを被った男を引き連れて。
 唐突の訪問に、奴隷商は慌てふためいていた。
 
「え、ええ! それは勿論! しかしそれが……」
「私の格好を見て分からんか? 防衛団長もザルノール国の人間に変わったのだ。つまり、ここ要塞街ファレスはノージリア国の物ではなくなった」
「な、何故ですか!? そんな無茶苦茶な!」
「上の話し合いの結果だな。私にも詳しい事は知らされていない。安心しろ。ザルノールでも奴隷制は認められている。ただ、法律が少し変わるだけだ。もし違反しているようなことがあれば罰金は科されるが、捕まることはない。勿論、素直に払えばの話だがな」
 
 奴隷商は赤髪の騎士の話を聞き、仕方が無い、と諦めた。
 
「分かりました……どうぞご覧ください」
 
 奴隷商は自分の市場を案内し始める。
 この奴隷商はファレスの最大の奴隷商で、抱えていた奴隷は五百を越えた。
 一通り視察を終えると奴隷商が口を開いた。
 
「どうでしょうか……何か問題は……」
「……いいや、駄目だな」
「な……」
 
 奴隷商は言葉に詰まる。
 カルラの情報でこの男は用心深く、他国でも店を構えているらしい。
 つまり、どの国でも通用する奴隷の販売をしているのだ。
 実際、カルラの情報によれば問題は無いらしい。
 
「ありえません! 一体何処が……お教え下さい!」
「……教えてもよいがとてつもない数だ。罰金も億は越えるな。流石の貴様でも払えまい」
「億……ですか……払えない事はありませんが……」
「え?」
 
 思わず声が出てしまう。
 その行動で、赤髪の騎士に睨まれる。
 俺は慌てて口を塞いだ。
 
「所で……後ろのお方は?」
「……それは……その……お前が払えなかった場合の救済処置のつもりだったのだが……」
 
 気まずそうに赤髪の騎士は答える。
 俺はフードを深く被り思考を巡らせた。
 
(どうする……予定が狂った! 確かに奴隷市場は高値で需要もあるから売れれば大金が入る……想定していた以上に金を持ってたか……)
 
 そう、もはやわかりきっていただろうが、赤髪の騎士はロームで、フードを被った男は俺である。
 今度の策に必要な為、奴隷市場を掌握したかったので一芝居打ったのだが……。
 
「じつは先日高値で奴隷が売れましてね。そのお蔭で資産が十億を超えたのですよ……詳しい額をお聞かせ願いますか?」

 奴隷商は手放す必要がなくなったからと調子に乗り始めたのか、逆に攻めてくる。

「……よし、仕方無い。ロームさん」
「……はぁ……」
 
 すると、ロームが消える。
 唐突の出来事に奴隷商は反応しきれずにいた。
 
「な……」
「すまんな」
 
『神速』により奴隷商の背後に回ったロームは即座に奴隷商を組み伏せ、即座に縛り上げ、喉元に剣を突きつける。
 
「騒げば殺す。質問に対する答え以外に声を上げても殺す。牢屋の鍵を全て渡せ」
「う、上着の内ポケットにある!」
 
 ロームはすぐさま上着を探り鍵を掌握する。
 そして、奴隷商の口を縛った。
 
「……ちょっと、予定と違うんだけど?」
「……そうですね……作戦が大幅にズレました。こちらの意図を汲んでくれて助かりましたよ」
 
 本来ならば適当に理由をつけて俺がこの奴隷市場の管理者になる予定であった。
 そして、それが不可能になったので実力行使に出たのだ。
 
「……まぁ、後は彼を隠して従業員に俺が新しい管理者だと言えば済みます。カルラさんの情報によればここの従業員はこの奴隷商と仲が良くなかったそうですから、問題は無いでしょう。協力ありがとうございます」
「……私にこんな猿芝居させないで……いつボロが出るか不安だったわ……」
 
 なにはともあれ、第一段階は終了した。
 他の方面に展開し、策の下準備を進めている仲間達も良い頃合いだろう。
 下地は整い、後はタイミングだ。
 
(……しかし、扱いは酷い……な)
 
 確保した奴隷市場の惨状は酷かった。
 高値の奴隷はしっかり管理されていたがそれ以外は酷い。
 軽く見ただけで痩せこけており、病気を患っている奴隷も多い。
 フィアナとレナを連れてこなくて本当に正解だった。
 
(……二人のためにも、この策は成功させなくちゃな)
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