歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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顔見知り

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(よりによってあいつか……樫本大樹)
 
 樫本大樹。
 彼は言うまでもなく勇者で俺の同級生である。
 
「佐切殿……彼は……」
「いや、ジョバンニさん。まずは軍師殿に今後の行動をどうするか先だろう。どうする? 作戦は……」
「……いいや、作戦に変更は無い。一人になった所を狙う……」
 
 ヒソヒソと作戦について話し合う。
 すると、樫本大樹が声を上げた。
 
「そして今ここにも勇者がいる! 群衆に紛れているが、僕は見逃さないよ。佐切」
「……」
 
 あいつは目が良い。
 そして勘も良い。
 慌ててフードで顔を隠したが、逆にそれが良くなかったのか。
 いや、それだとしても準備が良すぎる。
 予め情報を掴んでいたのか。
 
「佐切殿……逃げる準備を……」
「いいや、この状況、逆手に取ります。どちらにせよ逃げ道は封じられているでしょう。彼は抜け目が無いので」
 
 俺は前へと出ていき、フードを取る。
 
「よう。久しぶりだな。まさかこんな所でお前と会うとは思わなかったぞ」
「あぁ、僕もだよ」
 
 互いに見つめ合う。
 樫本大樹……彼は所謂幼馴染である。
 しかし決して仲が良かった訳では無い。 
 成績も向こうが上、人間関係……交友関係も上、家の裕福さでさえも向こうが上であった。
 幼少期からの彼を知っているが、常に他人を見下していた。
 そして、その人気さ、優秀さ故に何かミスをしても咎められない。
 自然と、他人のせいになるのだ。
 その被害を、俺は何度も食らった。
 
「一体何の用だ?」
「何を言っているんだい? 要件があるのは君の方だろう? 僕を殺しに来た癖に。真田護を殺したのは君だろ?」
「……」
 
 すると、足元が光り始める。
 魔法陣のような物が足元に現れた。
 咄嗟に反応するが、もう遅い。
 
「佐切殿!」
 
 ジョバンニさんが駆け寄るが間に合わなかった。
 気が付けば、俺は大樹の隣に立っていた。
 これが大樹のスキルか。
 
「……成る程な」
「今日、僕は宣言しに来たんだ。国の隠密によって君達がこの街に潜入したのは知っていたからね」
「……何を宣言するんだ?」
「裏切り者は決して許さないという事さ」
 
 大樹が手を挙げる。
 すると、近くの武装した兵が俺を拘束した。
 
「く……」
「この男は勇者でありながら国を去り、魔王へ味方した! 決して許すわけには行かない! 今日、この場で処刑を行う!」
「……」
 
 成る程、そう来たか。
 だが、やはりただの学生だ。
 いかに優秀であろうと……いや、優秀だからこそか、人の気持ちがよくわかっていない。
 
「これより、この男の処刑を行う! 処刑人、前へ!」
 
 大きな切れ味の悪そうな斧を持った大男が前へと出て来る。
 その様子を見てジョバンニさん達が慌て始め、動き出す。
 彼等には独自に動いてもらおう。
 下手をすればこのまま死ぬが……。
 
「……いいや、そんな事はどうでも良いさ」
 
 手足を縛られながらも口を開く。
 
「この街の住民はそんな事どうでも良い。裏切って魔王についた男の末路など、どうでもね。今、住民が気になっているのはそんな事じゃない。そうだろう!?」
「……何?」
 
 俺は叫ぶ。
 
「何故ノージリア国の重要都市であるこのファレスがザルノール国の人間によって管理されなければならない! ノージリアはザルノールの属国ではないぞ!」
「な……」
 
 そう叫ぶと、群衆からも声が上がる。
 
「そうだ! ふざけるな! なんでお前みたいな若造に従わなくちゃ行けないんだ!」
「そうよ! 私達の管理官を返して!」
 
 群衆から野次が飛ぶ。
 そして、石が投げられたり、もはや暴動と化していた。
 前任の管理官は非常に民衆に人気があった。
 彼等からすれば裏切り者の処罰よりも大樹への恨みの方が強い。
 
「く……こんな……」
 
 これには流石の優等生も対処に困っている。
 予想通り、煽ればこうなった。
 さて……どうする、優等生君。
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