歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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楽な敵

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「改めて確認です。あなたは私を自分のものにしたいと?」
「あぁ。魔族だろうと美しいものは傷つけたくないからな。というか惚れた」
 
 和義は恥ずかしげもなく言う。
 その和義の返答を聞き、キサラは剣を構える。
 
「分かりました。ならば私を打ち負かして下さい。そして自分の勇姿を認めさせなさい」
「そんな事でいいのか? 女など……」
「ですがスキルは無しです」
「何?」
「もしあなたがそのスキルを使えば私は跡形もなく消えるでしょう。肉片でも良いのならそうしますが」
「……それは流石に嫌だな」
 
 和義は少し考えると頷いた。
 
「ふむ……とにかく、俺が勝てば結婚してくれるって事だな?」
「けっ……結婚!?」
 
 まさかの言葉にキサラは少し戸惑う。
 
(……でも、サナンさんの行動の事はもう忘れてるみたい……周りで戦っているというのに……なら、好きなようにさせておくのが良いですね)
 
 覚悟を決めて、恥ずかしさを堪えて答える。
 
「え、えぇ……良いでしょう。もし私に勝てば……け……結婚してあげます」
「よし! じゃあ……」
「ですが! もし私に負ければこちらに投降してもらいます。捕虜として、情報を洗いざらい吐いてもらいますからね!」
「成る程な……どちらが勝とうが一緒になれるのか! なら問題は無いな!」
 
 キサラは少し認識の齟齬があった気がしたが、無視することにした。
 和義は構える。
 
「さぁ、やるぞ!」
「えぇ……」
 
 仕方無い、と諦め構え直して和義を見る。
 すると和義は勢いよく距離を詰め、剣を振り上げる。
 
「っ!」
 
 キサラは勢いよく振り下ろされた剣を受け止める。
 鍔迫り合いの形になり、キサラは違和感を覚える。
 
「ん?」
「どうだ! スキルが無くても……」
「……とう」
 
 鍔迫り合いになった途端、キサラは軽く弾く。
 
「……ありゃ?」
「やっぱりですか」
 
 明らかな隙。
 しかしキサラは追撃を仕掛けない。
 
「く、くそ! もう一回!」
「無駄ですよ」
 
 キサラは和義の攻撃を全て難なく弾く。
 全ての攻撃が大振りで軽く、これでは雑兵の方が強いとまで言えた。
 和義はどうすることも出来ず、体力が底を突き、尻もちをついた。
 そして、キサラは隙だらけの喉元に剣を突きつける。
 
「はぁ……はぁ……もう駄目だろ…」
「佐切殿が言っていました。異世界人は……日本人は平和な世で生活していたから戦慣れしていない。その全てをスキルに頼っていると。スキル無しでの勝負を受けたのでそれなりに自信あるのかと思いましたが……まさか私が女だから、スキル無しでも勝てるとでも?」
「え、ええと……」
 
 和義は視線を背ける。
 答えを聞かずとも、その答えは分かった。
 
「……私は最前線に身を置いていたんですよ。舐めすぎです。最低ですね」
「う……」
 
 流石の和義でも、キサラの怒りは分かった。
 キサラのその眼差しは、まるで汚物をみるかのようであった。
 
「でも……」
「でも?」
「その視線も……良い!」

 和義は悪びれる様子も無く、一心不乱に思いを告げる。
 その和義の言葉に、キサラは咄嗟に本心を口にしてしまう。

「……キモ」
「うっ……でもそれも……」
「一体何してるんだ……?」
 
 その様子を端から見ていたサナンに声をかけられる。
 
「あら、終わったんですか」
「いやこっちのセリフですよ。まさか勝ってるなんて……」
「相手がバカで助かりましたよ」
「もっと罵って欲しい……」
「……本当にキモいな、そいつ」
 
 なにはともあれ、東門も決着がつく。
 本来であればこのまま押しとどまるべきであったが、城門は破壊され、他の城門からは敵がなだれ込もうとしていた。
 
「さぁ、全員撤退です。あなたの声なら皆聞くでしょう」
「そうしよう。全軍撤退! 第二壁まで退くぞ!」
 
 思いもよらぬ助っ人によって、東門でも窮地を脱したのであった。
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