上 下
3 / 36

依頼者

しおりを挟む
「さぁ、こちらへどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
 
 後日スミスの案内で事務所へ依頼者が訪れた。
 白衣を着た、少しくせっ毛の目立つ茶髪の日本人であった。
 相手が女だとスミスは少し態度が変わる。
 結婚しているはずなのに、浮ついた奴だ。
 
「で、依頼は?内容を教えてくれ。」
「え、えぇと……。」
 
 こういう所に慣れていないのか、すこし怯えている。
 まぁ平和ボケした日本人では仕方のないことか。
 
「その……実験に協力してほしいんです。」
「実験?」
 
 装いからもしやと思ったが研究職の人間か。
 
「日本のご立派な博士様がこんな弱小民間軍事会社になんの実験を依頼するんだ?良いか?俺達は戦争屋だ。頼む所を間違えたんじゃないか?」

 日本は高い技術を持った国というのは知っている。
 そして、平和の国だということも。
 少し挑発をしてみた。

「大丈夫です。全て承知の上ですから。」
 
 その発言に俺は腰の銃を引き抜き、日本人へ銃口を向けた。
 
「俺達の本業は人殺しだ。今の発言、俺達を弱小と罵ったと受け取っていいんだな?」
「……構いません。私は弱小民間軍事会社に要件があるのですから。」
 
 その発言を受け、俺は安全装置を外す。
 
「待て!カイル!」
  
 迷わず、引き金を引く。
 
「っ!」
 
 流石に日本人も怯え、目を瞑る。
 が、弾が出ることは無かった。
 
「これはおもちゃだ。それで良い。人殺しをしたことが無いやつは、銃に怯えるのが普通だ。強がる必要は無い。」
「……はぁ、全く。」
 
 スミスが溜息をつく。
 
「すまんな、うちの隊長が。俺はスミス。彼はカイル。どうやら、君の依頼は受けるつもりのようだ。」
 
 スミスが手を差し出す。
  
「あ、ありがとうございます。」
 
 彼女は恐る恐るスミスと握手を交わす。
 
「で、話を聞こうか。実験がなんだって?俺達、傭兵に頼むってことは荒事なんだろ?」
「はい。依頼したいのはとあるAIの実用実験です。」
 
 彼女は一つのUSBを取り出した。
 
「私は核に変わる抑止力の開発に注力してきました。これがその集大成です。」
「核に変わる抑止力?」
  
 すごい単語だ。
 もしそれが可能なら夢のような話だな。
 
「はい。この中には私が作った戦略型AIが入っています。これの実戦データを欲しいんです。」
「戦略型AIか……。」
「だが、平和の国、日本の人間である君が何故そんなものを?それはつまり人殺しを依頼しているということだ。」
 
 スミスの言う通り日本は戦争とはかけ離れた国だ。
 最近こそきな臭くなって来たが、それでも最も安全な国だ。
 
「……わかっています。でも、だからといって核による平和を許すわけには行かないんです!」
「そこまで核を嫌う理由は?核によって大規模な戦争が起きていないことは事実だろう。」
 
 確かに核抑止による平和はある。
 一昔前と比べれば紛争は増えたがそれでも平和は続いていると言えるだろう。
 
「……お話します。何故私が核による平和を嫌うのかを。」
しおりを挟む

処理中です...