第六天魔王、再臨す 〜関ヶ原から始める織田家再興物語〜

疑心

「何？　三郎が？」
　　
　徳川信康が出陣し、立花宗茂、島津義弘らと合流し、東海道を進む最中、秀信は岐阜にて戦支度を整えていた。
　徳川に動き有りとの知らせが入り、備えていた秀信の下にまた別の噂が届いた。
　
「は。黒田討伐の折、目まぐるしい活躍をなされたようで、今や三郎様はかつての五大老にも並ぶ信頼を得ております」
「私ではなく、三郎がか……」
　
　百々綱家、木造長政ら重臣の話を聞く秀信は二人によって徐々に三郎に不信感を抱いていた。
　が。
　
「だが三郎は……信長公は織田家の再興を望んでいる。成り代わって……等とは考えぬだろう」
「しかし、万が一と言う事も……」
「綱家。今は三郎が頼りなのだ。ここまでこれたのも三郎のおかげ。あまりそう言うな」
　
　百々綱家や木造長政は信長の統治時代を生きており、三郎が権力を持つのを恐れていたのだった。
　
「……ですが、力を持っているのは事実。そこはどうされるおつもりですかな？」
「……如水殿」
　
　そこで、如水が問いかける。
　更に勘助も付け加える。
　
「如水殿の言う通り、このままでは秀信様の言葉に従う者はおりませぬぞ。何か、対策はしなくてはなりませぬな」
「……勘助殿まで、か」
　
　秀信は勘助と如水を見る。
　
「……申し訳無いが、天下を取ろうとしたお主らの言葉を容易に信用するわけには行かん……しかし、確かに三郎に頼り切りというのも申し訳が無いな」
　
　秀信は暫く考える。
　すると、そこに伝令が駆け込んでくる。
　
「殿、書状にございます」
「うむ」
　
　その書状を百々綱家が受け取り、秀信に手渡す。
　そして、秀信は内容を確認する。
　
「……おお、三郎がやり遂げたそうだ！」
「という事は……前田は心配いりませぬな！」
　
　秀信は頷く。
　
「うむ……三郎は徳川が戦支度を整えていると言っている。噂によれば上杉、伊達は徳川と戦をやめ、徳川と盟を結んだと」
「……如何なされますか」
　
　木造長政の言葉に秀信は考える。
　
「仕掛け時か……上杉に圧をかける。前田、丹羽、金森。それに転封となった生駒と蜂須賀と共に上杉領に兵を進める。大軍で持ってすれば上杉も容易には動けまい」
「それは良き案ですな！　東海道には徳川信康殿や立花、島津殿らがおりますし、中山道には真田、毛利、それに秀則様や有楽斎様、秀雄様もおられまする！」
　
　百々はそこまで言うととある事に気が付く。
　
「……東海道を進む軍は江戸徳川の者らが信康殿に寝返る者がおると思われまする。東海道は兵力の心配はないと思われまするが……」
「うむ、中山道が少々心許ないな。信雄叔父上と福島正則殿にご出陣願うとしよう」
　
　織田信雄はかねてよりの案通りに北畠家の旧領である伊勢の辺りに所領を与えられていた。
　
「これで徳川を抑え込む。大軍を目の前にすれば徳川も諦めがつくだろう。これならば他の者もこの岐阜中納言を認めるだろう」
「流石にございます！　早速大阪へ願い出るとしましょう！」
　
　秀信は頷く。
　秀信の動きは正しかった。
　が、この動きが原因で豊臣方は窮地に陥る事となる。