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決戦の兆し

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 秀信の報せにより大阪から出陣の許可が降りた。
 そして、西軍は徳川の息の根を止めるため、出陣。
 秀信の予定には無かった九州、中国、四国からも諸大名が出陣し、大阪に集まりつつあった。
 それは秀信の策ではなく、淀殿の提案であった。
 
「よろしかったのですが? 三郎殿に何も聞かずに……」
「良いのです。もし徳川討伐軍が負けたら勢いそのまま大阪になだれ込んでくるやもしれません。そうなってから集めるのでは遅すぎます」
 
 秀信の狙いは大軍で持って徳川に降伏か停戦を求めるものだったが、淀殿はその目的を代えた。
 徳川を滅ぼす為に出陣させたのだ。
 片桐且元の問いに淀殿は答える。
 
「それに、余力は残しておくものでしょう? 信包殿?」
「左様ですな。もし前線の部隊が窮地に陥っても兵を集めておけば援軍を出せまする。集めておいて損は無いかと」
 
 信包も淀殿の意見に賛同すると片桐且元はいよいよ反論出来なくなった。
 
(出来ればこれ以上戦は起こしたくなかった……徳川や上杉、伊達までもがいなくなっては織田が完全に主導権を握ってしまう……毛利様は一歩引かれておるし……)
 
 片桐且元の懸念点はそこだった。
 豊臣の天下のため、誰か一人が権力を持つと言うのは避けたかったのだ。
 
「しかし、それにしても大阪に集めたのでは戦場が遠すぎますな」
「しかし、秀頼の身が……」
 
 淀殿がそう言うと、信包は頷く。
 
「では、こう致しましょう。大阪に集まった兵を半分程もう少し前へ進めまする。そこに駐留し、不利となった戦場にすぐさま駆けつける」
「……成る程、それならば確実ですな」
 
 片桐且元は融和路線を諦め、腹をくくった。
 
「では、何処にしますかな?」
「……そうですな……岐阜が良いでしょう」
 
 淀殿は頷く。
 
「では、そうしましょう。且元、任せましたよ」
「ははっ!」

 かくして、西軍は岐阜へ集う。
 決戦が近づいていた。
 
 
 
「そうか、中山道の豊臣方は内輪揉めを……」
 
 結城秀康は文を読んでいた。
 杉江勘兵衛からの書状である。

「伝令! 豊臣方に動きあり! 大軍が東進! 北陸、中山道を進むとのこと! 大阪にも兵が集まっているどの事!」
「成る程……」

 その伝令の言葉に天海は頷く。
 
「今こそ好機。大阪にまだ兵が集っておらぬこの機に一斉に攻めかかりましょうぞ」

 結城秀康が言う。

「……ですな。では、予めの策の通りに」
 
 天海がそう言うと皆が頷く。
 
「上杉様は北陸より、結城秀康様は中山道から、秀忠様は東海道より大阪を目指して頂きまする」

 天海が地図上の駒を動かしながら説明する。
 
「この榊原康政、秀康様と共に中山道を行きまする。敵が籠もる上田城は先の戦でも攻めた城。今度こそ落としてみせましょう」
「上杉様は居られませぬが、文を出しておきます。陸を進む軍には伊達より船に乗れなかった余った兵達が加わるとのこと。兵力は十分でしょうな。拙僧は秀忠様と共に東海道を行きまする」
 
 天海が付け加える。
 
「既に伊達様も海より尾張を目指しておいでです。島左近殿も伊達と共におります。各戦線で兵力差で不利な戦況となりましょうが、伊達殿たちによって尾張が落ちるまで耐えて下され。皆様方。必ずや、勝ちましょうぞ」
 
 天海がそう言うと、皆が頷く。
 そして、天海は考える。
 
(織田三郎……かの信長公と似た気配を感じた……福を娶ったときき、融通したが……油断はならぬか……織田に天下を取らせるわけには行かん。今度こそ、滅ぼして見せよう)
 
 天海は三郎を最も警戒していた。
 秀則の偽報、杉江勘兵衛の書状に気付くことは無かった。
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