【祝!完結!】第六天魔王、織田信長、再臨す 〜関ヶ原から始める織田家再興物語〜 

中村幸男

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軍師の策

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「決して通すな! 兄上の元に辿り着かれては、我らの負けだ!」
 
 秀則が迫る伊達軍を相手に指揮を取る。
 
「秀則様! 相手にはあの前田慶次がおりまする! 下がってくだされ」
「木造殿……されど、逃げるわけには行かん! 私が生きて兄上が死んでは元も子もない!」
 
 すると、百々綱家が叫ぶ。
 
「しかし秀則様! もはや予備の兵は一人もおりませぬ! 万が一のことがあっては……」
 
 その綱家の言葉を、最前線で槍を振るう慶次は聞き逃さなかった。
 
「おい! 今の言葉聞こえたな!」
「は!」
「早く政宗殿に伝えよ! 俺は一気に攻める!」
 
 伝令は頷くとすぐにその場を後にする。
 そして、慶次は次々と敵兵をなぎ倒していく。
 
「おらおら! 織田の兵はこの程度か! 俺の頃はもっと強かったぞ!」
「く……仕方が無い。あの男は無視せよ! 雑兵を蹴散らせ!」
 
 秀則の指示で兵達が、動く。
 しかし、慶次はそれを見逃す。
 
「あぁ、そうかい。なら、俺は一人で秀信の首を取らせてもらうぞ」
「秀則様! よろしかったのですか!?」
 
 焦る綱家。
 それに比べて、秀則は落ち着いていた。
 
「慌てるな。兄上の下にも兵はいる。いくらあの前田慶次とて、護衛の兵全てを蹴散らして兄上の首を取ることは出来ないであろう」
 
 慶次は秀則達を素通りし、秀信の本陣へと迫る。
 次の瞬間、突如として政宗の本隊が現れる。
 
「そこだ! 慶次に続け!」
「っ! 何だと!?」
 
 その慶次に続き、伊達政宗が手勢を引き連れ、突き抜ける。
 その突然の出来事に、秀則は反応しきれず、政宗の本隊の通過を許してしまう。
 
「……」
「秀則様……」
 
 秀則は通過していく政宗の本隊を見ていた。
 その様子を見て、百々綱家は口を開く。
 
「策の通り、ですな」
 
 今度は敵に聞こえないように小さな声で喋る。
 
「あぁ。まさかここまで上手く行くとはな……流石は真田殿だ」
 
 
 
「織田秀信! 覚悟!」
 
 政宗と慶次が秀信の本陣へと到達する。
 陣幕に囲まれた中央に、秀信は座っていた。
 兜で顔は隠れており、表情は分からなかった。
 政宗達の登場に、僅かな秀信の手勢は構える。
 
「これで、我らの勝ちだ。その僅かな手勢で前田慶次と我らの兵を抑えられるか?」
「……」
 
 しかし、秀信は口を開かない。
 その様子を見た政宗は、決着をつけるべく、号令をかける。
 
「……かかれ! 秀信の首を取るのだ!」
 
 政宗の兵が襲いかかる。
 政宗自身も馬を走らせる。
 秀信の手勢が政宗の兵とぶつかり、慶次と政宗の二人が秀信の目と鼻の先まで迫る。
 
「取った!」
「……馬鹿者め」
 
 すると、秀信が手を挙げる。
 
「っ!?」
 
 その次の瞬間、陣幕が突如として下ろされ、背後に隠れていた無数の鉄砲隊が姿を現す。
 それらは既に火蓋を切っており、政宗達に狙いを定めていた。
 政宗達は足を止める。
 
「……伊達政宗よ」
 
 織田秀信は兜を取る。
 すると、そこにいたのは若き織田秀信の顔ではなく、老練、百戦錬磨の真田昌幸の顔があった。
 
「な……真田だと!?」
「道中、織田の将を相手にしたことで、ここにいるのが本当に秀信殿だと思ったであろう。予備の兵がいないと聞いたお主は、まんまと策に嵌り、単身、ここに乗り込んだ」
 
 昌幸は手を挙げる。
 
「ここで死ぬのはお主の方だ」
「……くっ……ここまでか……」
 
 政宗は諦める。
 自らの死を受け入れた。
 
「見事であった。ここにいたのが誠に秀信殿であれば、討ち取られていたやもしれんな。……さらばだ」
 
 昌幸は手を振り下ろす。
 
「……御免!」
 
 すると、慶次が馬から政宗を引きずり降ろし、馬を盾にする。
 その瞬間、無数の銃撃が放たれ、馬は倒れた。
 
「け、慶次殿!?」
「生きられよ! 諦めてはなりませぬ!」
 
 すると、銃撃を放った織田の兵達はその場にしゃがむ。
 その背後にはもう一列、鉄砲隊が構えていた。
 
「往生際の悪い……確実に仕留めさせてもらう為、こちらも用意させてもらった。逃がしはせぬ」
「さぁ! 早く行かれよ!」
 
 昌幸が手を振り上げる。
 
「……くっ! すまぬ!」
 
 政宗が走り出す。
 その次の瞬間、腕が振り下ろされ、銃撃が放たれる。
 
「……かはっ!」
 
 慶次が盾となり、銃撃を浴びる。
 血を吐き、その場に倒れ込んだ。
 
「……誠に、見事な男よ」
「昌幸様。伊達政宗が逃げましたが……」
 
 側近の言葉に昌幸は頷く。
 
「うむ。あらかじめの策の通り、騎馬で追え。確実に仕留めよ」
「はっ!」
「そうは……させん……」
 
 すると、即死してもおかしくない程の銃撃を浴びた慶次が立ち上がる。
 
「……ほう。咄嗟に身を反らし、急所は避けたか……流石だな」
「俺が……立っている間は……追わせぬぞ」
 
 慶次は体で受け止めず、側面で受け止めた。
 そのおかげで、左腕は使えなくなったが、即死は免れた。
 すると、昌幸は笑う。
 
「だが、その右腕でどこまでやれるかな? まずはあやつを仕留めよ!」
 
 昌幸の策が、政宗を追い詰める。
 しかし、かろうじて命を取り留めた政宗は、慶次の活躍により戦場を脱する。
 慶次は満身創痍でありながらも、複数の敵を切り倒し、最後は再度銃撃を受け、討死した。
 戦は、終わりつつあった。
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