179 / 182
出立 そして別れ
しおりを挟む
「さて、行くか」
「ねぇ三郎? 南蛮船って初めてなんだけど……大丈夫なの?」
堺の港で三郎達一行が船に乗ろうとしていた。
その様子を、虎助達本能寺衆は遠くから見守っている。
本能寺衆も共に日本を離れるが、出来る限り二人の邪魔をしないように気を使っているのだった。
それに、大荷物を抱えていた。
それは世界を旅すると決めてから考えた三郎の策の一つであった。
「……俺も初めてだが……大丈夫だろ。多分」
「本当に大丈夫なの……」
福はあからさまに不安そうな顔をする。
そこで、三郎は不安を紛らわせる為に軽くに口を開いた。
「まずは明へ渡ろう。朝鮮も見てみたいが……太閤殿下の朝鮮出兵のせいで少し危ないからな。福はどこか見てみたい所はあるか?」
「そうですね……果ては南蛮も見てみたいです!」
将来の話に花を咲かせる三郎と福の間に虎助が割って入る。
「三郎。そろそろ乗らなくては乗り遅れてしまうぞ」
「ん。そうだな」
三郎は船に乗ろうとする。
足元を見つつ乗船する三郎。
すると、既に乗船している人間にぶつかる。
「おっと……失礼……」
「あぁ。本当に失礼な奴だ。征夷大将軍にぶつかるなど、打首ものだな」
三郎が顔を上げると、そこには見覚えのある男の顔があった。
「ひ……秀信……」
「何があとは頑張れよ……だ。ふざけるのも大概にしろ。置き手紙で俺がお前を見逃すと思うか?」
「な、何故ここに? 政務は大丈夫なのか?」
「政務は秀則に任せている。……まぁ、この場に来れない事を悔しがっていたがな。そして……」
すると、秀信は三郎達の後ろを見る。
その視線に気付き、三郎は振り返る。
すると、虎助の隣に勘助が立っていた。
「よ。久し振り」
「勘助!? 虎助どういう事だ!?」
「どうもこうも、勘助殿に三郎の居所を聞かれた故、答えたまで。征夷大将軍の名を出されては断るわけにもいかぬ故な。あと、この事を三郎に漏らせば殺すとまで言われてはな」
「ぐ……そこまでしてか……」
ぐぅの音を出す三郎。
その光景を見た福は笑い出す。
「ふふ……三郎。観念したら? どうやら、秀信殿は止めたい訳では無いみたいですよ?」
三郎が振り返ると、秀信は三郎の前を開けていた。
「秀信……」
「……何もお前を止めに来たのでは無い。最後に、一目見ようと思ってな。別れの言葉も無しに行くとは、冷たい奴め」
「……お前ならば止めると思ってな。……悪かった」
秀信は笑う。
「止めはせん。淋しくなるとは思うが、俺にはお前の意志を縛り付ける事は出来ん。お前の中から信長公が消えたとしても、な」
「……成る程。知ってるのか」
秀信は頷く。
「……この先、素直に生きろ。自分に正直に、やりたい事をせよ。この時代に来て成すべきことを成したならば、元の時代に戻る術を探すもよし、この時代で生きるもよし。全てはお前の自由だ」
「秀信……」
秀信は懐から文を取り出す。
「これを。今度、お前の葬儀を執り行う事となってな。それを名目に皆からお前がどういう人間だったのか書いてもらった。そのついでにお前が生きていることを知っている者達から文を書いてもらった。……今後、歴史に突如として現れたお前は詳細の分からない武将として歴史に名を残すだろう。」
三郎は秀信から文を受け取る。
「勘助の助言で、後世にお前の名が残るように盛大に葬儀を執り行い、皆が記したお前についての記述を残しておこうと思ってな。それがあればお前が確かにここで生きた証が残る。お前が日の本にいなくても、お前の名は確実に歴史に残るだろう」
「秀信……感謝する」
三郎は文を懐にしまい、秀信と抱擁を交わす。
「元気でいろよ。秀信」
「お前もな。三郎」
互いに肩を叩き、見つめ合う。
そして、二人は別れ、三郎は船に乗り、秀信は船から降りる。
福や虎助ら本能寺衆も船に乗り込み、出港準備が整う。
そして、徐々に船が動き出した。
「三郎! 淋しくなったらいつでも戻ってこい! 織田の家紋を掲げれば、いつでも歓迎しよう!」
「秀信! 俺はいつか必ず帰ってくる! それまでの間に、日の本を立派に育て上げておけよ! 虎助、あれを」
「は」
すると、本能寺衆が旗を掲げる。
それは織田家の家紋、織田木瓜が描かれた旗であった。
「さらばだ秀信! お前と過ごした時は、非常に楽しかった! ありがとう!」
「……俺もだ! ありがとう! お前がいてくれたおかけで俺はここまでこれた! 本当に感謝する! 元気でな! 三郎!」
その言葉を最後に、声は届かなくなる。
しかし、最後まで、姿が見えなく成るその時まで、二人は互いに見つめ合っていたのだった。
「三郎? 秀信殿が言っていた信長公の……の辺り話、詳しく聞いても?」
「勿論だ。いずれ話そうと思っていたしな……秀信……元気でやれよ」
三郎達の長い長い旅が始まる。
そんな旅の無事を秀信達は祈っていた。
「秀信殿。そろそろ行きましょう。征夷大将軍がこのような所にいては騒ぎになります」
「わかっているさ勘助。それよりもいいのか? お前はあまり話していなかったが」
「……良いのです。言いたい事は文に書いておいた故」
秀信達も帰路につく。
秀信と三郎。
二人の人生が今後交わるかどうか、それはまだわからない。
「ねぇ三郎? 南蛮船って初めてなんだけど……大丈夫なの?」
堺の港で三郎達一行が船に乗ろうとしていた。
その様子を、虎助達本能寺衆は遠くから見守っている。
本能寺衆も共に日本を離れるが、出来る限り二人の邪魔をしないように気を使っているのだった。
それに、大荷物を抱えていた。
それは世界を旅すると決めてから考えた三郎の策の一つであった。
「……俺も初めてだが……大丈夫だろ。多分」
「本当に大丈夫なの……」
福はあからさまに不安そうな顔をする。
そこで、三郎は不安を紛らわせる為に軽くに口を開いた。
「まずは明へ渡ろう。朝鮮も見てみたいが……太閤殿下の朝鮮出兵のせいで少し危ないからな。福はどこか見てみたい所はあるか?」
「そうですね……果ては南蛮も見てみたいです!」
将来の話に花を咲かせる三郎と福の間に虎助が割って入る。
「三郎。そろそろ乗らなくては乗り遅れてしまうぞ」
「ん。そうだな」
三郎は船に乗ろうとする。
足元を見つつ乗船する三郎。
すると、既に乗船している人間にぶつかる。
「おっと……失礼……」
「あぁ。本当に失礼な奴だ。征夷大将軍にぶつかるなど、打首ものだな」
三郎が顔を上げると、そこには見覚えのある男の顔があった。
「ひ……秀信……」
「何があとは頑張れよ……だ。ふざけるのも大概にしろ。置き手紙で俺がお前を見逃すと思うか?」
「な、何故ここに? 政務は大丈夫なのか?」
「政務は秀則に任せている。……まぁ、この場に来れない事を悔しがっていたがな。そして……」
すると、秀信は三郎達の後ろを見る。
その視線に気付き、三郎は振り返る。
すると、虎助の隣に勘助が立っていた。
「よ。久し振り」
「勘助!? 虎助どういう事だ!?」
「どうもこうも、勘助殿に三郎の居所を聞かれた故、答えたまで。征夷大将軍の名を出されては断るわけにもいかぬ故な。あと、この事を三郎に漏らせば殺すとまで言われてはな」
「ぐ……そこまでしてか……」
ぐぅの音を出す三郎。
その光景を見た福は笑い出す。
「ふふ……三郎。観念したら? どうやら、秀信殿は止めたい訳では無いみたいですよ?」
三郎が振り返ると、秀信は三郎の前を開けていた。
「秀信……」
「……何もお前を止めに来たのでは無い。最後に、一目見ようと思ってな。別れの言葉も無しに行くとは、冷たい奴め」
「……お前ならば止めると思ってな。……悪かった」
秀信は笑う。
「止めはせん。淋しくなるとは思うが、俺にはお前の意志を縛り付ける事は出来ん。お前の中から信長公が消えたとしても、な」
「……成る程。知ってるのか」
秀信は頷く。
「……この先、素直に生きろ。自分に正直に、やりたい事をせよ。この時代に来て成すべきことを成したならば、元の時代に戻る術を探すもよし、この時代で生きるもよし。全てはお前の自由だ」
「秀信……」
秀信は懐から文を取り出す。
「これを。今度、お前の葬儀を執り行う事となってな。それを名目に皆からお前がどういう人間だったのか書いてもらった。そのついでにお前が生きていることを知っている者達から文を書いてもらった。……今後、歴史に突如として現れたお前は詳細の分からない武将として歴史に名を残すだろう。」
三郎は秀信から文を受け取る。
「勘助の助言で、後世にお前の名が残るように盛大に葬儀を執り行い、皆が記したお前についての記述を残しておこうと思ってな。それがあればお前が確かにここで生きた証が残る。お前が日の本にいなくても、お前の名は確実に歴史に残るだろう」
「秀信……感謝する」
三郎は文を懐にしまい、秀信と抱擁を交わす。
「元気でいろよ。秀信」
「お前もな。三郎」
互いに肩を叩き、見つめ合う。
そして、二人は別れ、三郎は船に乗り、秀信は船から降りる。
福や虎助ら本能寺衆も船に乗り込み、出港準備が整う。
そして、徐々に船が動き出した。
「三郎! 淋しくなったらいつでも戻ってこい! 織田の家紋を掲げれば、いつでも歓迎しよう!」
「秀信! 俺はいつか必ず帰ってくる! それまでの間に、日の本を立派に育て上げておけよ! 虎助、あれを」
「は」
すると、本能寺衆が旗を掲げる。
それは織田家の家紋、織田木瓜が描かれた旗であった。
「さらばだ秀信! お前と過ごした時は、非常に楽しかった! ありがとう!」
「……俺もだ! ありがとう! お前がいてくれたおかけで俺はここまでこれた! 本当に感謝する! 元気でな! 三郎!」
その言葉を最後に、声は届かなくなる。
しかし、最後まで、姿が見えなく成るその時まで、二人は互いに見つめ合っていたのだった。
「三郎? 秀信殿が言っていた信長公の……の辺り話、詳しく聞いても?」
「勿論だ。いずれ話そうと思っていたしな……秀信……元気でやれよ」
三郎達の長い長い旅が始まる。
そんな旅の無事を秀信達は祈っていた。
「秀信殿。そろそろ行きましょう。征夷大将軍がこのような所にいては騒ぎになります」
「わかっているさ勘助。それよりもいいのか? お前はあまり話していなかったが」
「……良いのです。言いたい事は文に書いておいた故」
秀信達も帰路につく。
秀信と三郎。
二人の人生が今後交わるかどうか、それはまだわからない。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる