【祝!完結!】第六天魔王、織田信長、再臨す 〜関ヶ原から始める織田家再興物語〜 

中村幸男

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出立 そして別れ

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「さて、行くか」
「ねぇ三郎? 南蛮船って初めてなんだけど……大丈夫なの?」
 
 堺の港で三郎達一行が船に乗ろうとしていた。
 その様子を、虎助達本能寺衆は遠くから見守っている。
 本能寺衆も共に日本を離れるが、出来る限り二人の邪魔をしないように気を使っているのだった。
 それに、大荷物を抱えていた。
 それは世界を旅すると決めてから考えた三郎の策の一つであった。
 
「……俺も初めてだが……大丈夫だろ。多分」
「本当に大丈夫なの……」
 
 福はあからさまに不安そうな顔をする。
 そこで、三郎は不安を紛らわせる為に軽くに口を開いた。
 
「まずは明へ渡ろう。朝鮮も見てみたいが……太閤殿下の朝鮮出兵のせいで少し危ないからな。福はどこか見てみたい所はあるか?」
「そうですね……果ては南蛮も見てみたいです!」
 
 将来の話に花を咲かせる三郎と福の間に虎助が割って入る。
 
「三郎。そろそろ乗らなくては乗り遅れてしまうぞ」
「ん。そうだな」
 
 三郎は船に乗ろうとする。
 足元を見つつ乗船する三郎。
 すると、既に乗船している人間にぶつかる。
 
「おっと……失礼……」
「あぁ。本当に失礼な奴だ。征夷大将軍にぶつかるなど、打首ものだな」
 
 三郎が顔を上げると、そこには見覚えのある男の顔があった。
 
「ひ……秀信……」
「何があとは頑張れよ……だ。ふざけるのも大概にしろ。置き手紙で俺がお前を見逃すと思うか?」
「な、何故ここに? 政務は大丈夫なのか?」
「政務は秀則に任せている。……まぁ、この場に来れない事を悔しがっていたがな。そして……」
 
 すると、秀信は三郎達の後ろを見る。
 その視線に気付き、三郎は振り返る。
 すると、虎助の隣に勘助が立っていた。
 
「よ。久し振り」
「勘助!? 虎助どういう事だ!?」
「どうもこうも、勘助殿に三郎の居所を聞かれた故、答えたまで。征夷大将軍の名を出されては断るわけにもいかぬ故な。あと、この事を三郎に漏らせば殺すとまで言われてはな」
「ぐ……そこまでしてか……」
 
 ぐぅの音を出す三郎。
 その光景を見た福は笑い出す。
 
「ふふ……三郎。観念したら? どうやら、秀信殿は止めたい訳では無いみたいですよ?」
 
 三郎が振り返ると、秀信は三郎の前を開けていた。
 
「秀信……」
「……何もお前を止めに来たのでは無い。最後に、一目見ようと思ってな。別れの言葉も無しに行くとは、冷たい奴め」
「……お前ならば止めると思ってな。……悪かった」
 
 秀信は笑う。
 
「止めはせん。淋しくなるとは思うが、俺にはお前の意志を縛り付ける事は出来ん。お前の中から信長公が消えたとしても、な」
「……成る程。知ってるのか」
 
 秀信は頷く。
 
「……この先、素直に生きろ。自分に正直に、やりたい事をせよ。この時代に来て成すべきことを成したならば、元の時代に戻る術を探すもよし、この時代で生きるもよし。全てはお前の自由だ」
「秀信……」
 
 秀信は懐から文を取り出す。
 
「これを。今度、お前の葬儀を執り行う事となってな。それを名目に皆からお前がどういう人間だったのか書いてもらった。そのついでにお前が生きていることを知っている者達から文を書いてもらった。……今後、歴史に突如として現れたお前は詳細の分からない武将として歴史に名を残すだろう。」

 三郎は秀信から文を受け取る。

「勘助の助言で、後世にお前の名が残るように盛大に葬儀を執り行い、皆が記したお前についての記述を残しておこうと思ってな。それがあればお前が確かにここで生きた証が残る。お前が日の本にいなくても、お前の名は確実に歴史に残るだろう」
「秀信……感謝する」
 
 三郎は文を懐にしまい、秀信と抱擁を交わす。
 
「元気でいろよ。秀信」
「お前もな。三郎」
 
 互いに肩を叩き、見つめ合う。
 そして、二人は別れ、三郎は船に乗り、秀信は船から降りる。
 福や虎助ら本能寺衆も船に乗り込み、出港準備が整う。
 そして、徐々に船が動き出した。
 
「三郎! 淋しくなったらいつでも戻ってこい! 織田の家紋を掲げれば、いつでも歓迎しよう!」
「秀信! 俺はいつか必ず帰ってくる! それまでの間に、日の本を立派に育て上げておけよ! 虎助、あれを」
「は」
 
 すると、本能寺衆が旗を掲げる。
 それは織田家の家紋、織田木瓜が描かれた旗であった。
 
「さらばだ秀信! お前と過ごした時は、非常に楽しかった! ありがとう!」
「……俺もだ! ありがとう! お前がいてくれたおかけで俺はここまでこれた! 本当に感謝する! 元気でな! 三郎!」
 
 その言葉を最後に、声は届かなくなる。
 しかし、最後まで、姿が見えなく成るその時まで、二人は互いに見つめ合っていたのだった。
 


「三郎? 秀信殿が言っていた信長公の……の辺り話、詳しく聞いても?」
「勿論だ。いずれ話そうと思っていたしな……秀信……元気でやれよ」
 
 三郎達の長い長い旅が始まる。
 そんな旅の無事を秀信達は祈っていた。
 
「秀信殿。そろそろ行きましょう。征夷大将軍がこのような所にいては騒ぎになります」
「わかっているさ勘助。それよりもいいのか? お前はあまり話していなかったが」
「……良いのです。言いたい事は文に書いておいた故」
 
 秀信達も帰路につく。
 秀信と三郎。
 二人の人生が今後交わるかどうか、それはまだわからない。
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