【祝!完結!】第六天魔王、織田信長、再臨す 〜関ヶ原から始める織田家再興物語〜 

中村幸男

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「……さて」
 
 船の上。
 三郎は懐から文を取り出す。
 
「三郎。もう読むんですか?」
「……さて、どうしたものか……」
 
 三郎は文を見つつ考える。
 すると、どこからともなく虎助が現れる。

「今すぐ読みたいが、今読んでしまえば後の航海が暇になる……長い航海、考えなければ……と、言った所かな?」
「虎助……その通りだ」
 
 見抜かれ、三郎はため息を付く。
 
「まぁ、読むか」
「良いんですか?」
「もったいぶっても仕方が無い」
 
 三郎は文を開き、中身を読む。
 
「まずは秀則からか」
 
 

「三郎へ。まずは生きていて良かったと思う。岐阜城の戦いからここまで、お前がいなければ生き残ることすら難しかったかもしれない。信長公の生まれ変わりであろうと無かろうと、どちらが上とかは関係無く本当の兄弟のように思っていた。織田家の一門であれたことを誇りに思う。かの織田信長公の孫の名に恥じないよう、励むつもりだ。家族として、三郎の幸せを心より願う。織田秀則より」
 
 
 
「秀則……」
 
 実は織田秀則は関ヶ原の後、豊臣家を頼り大坂の陣まで豊臣家を支えた。
 詳しく記録は残っていないが、有楽斎等のように大坂の陣の前後に城を脱出したという話もある。
 意外と、長生きしたのだった。
 
「あいつには、秀信を支えてもらわなければならん。数々の経験を積んで、良き武将となったあいつは、織田政権を支えてくれるだろうな」
「秀則殿は、秀信殿の片腕となり、今後も重宝されるでしょうな」
 
 虎助の言う通り、秀則は今後内政面でも活躍する事となる。
 秀信の良き片腕となり、織田幕府の重鎮となって行く。
 
「さて……次は有楽斎か」
 
 
 
「三郎殿。これまで、様々な事がありましたが、あなたが表舞台に立つようになってからというもの、流れが、大きく変わった気がしますな。関ヶ原では敵として戦いましたが、あの戦、まるで全ての動きを知ったうえでの差配のようでした。感服致した。その後の差配も、何処か我が兄織田信長を彷彿とさせるものでしたな……その手腕を、海の外でも発揮する事を、期待しておりまする。織田有楽斎より」
 
 
 
「あいつめ……鋭いな」
「そもそも、三郎が信長公の生まれ変わりであった事自体、驚きなのですが」
 
 すると、福が三郎を見てくる。
 三郎は笑いつつ、軽く謝る。
 
「まぁそう言うな。今はもう信長の意識が無いとは言え、そう簡単に言い振らせることじゃなかったからな」
「分かってます。少し意地悪しただけです」
 
 互いに笑い合い、三郎の視線は手紙に戻る。
 
「次は……信包か」
 
 
 
「大阪城で一目お前を見た時から、いずれ大物になるという予感がしていた。お前ならば織田家をもう一度盛り立ててくれるとな。あの時から、時が来れば自分の身は顧みず、織田家の為に尽くそうと考えていた。二度目の本能寺の変で勝手な事をした事は謝罪しよう。されど、それが織田家の為を思っての事だというのは理解してもらいたい。旅の無事を祈る。織田信包より」
 
 
 
「あいつは勝手なことをしたが、結局は織田家の天下となった。いずれ秀頼や淀殿が障害となるのは分かっていた故、感謝しなければな」
「あの方のおかげで織田家の天下が一歩早まったからな。流石は信包様だ」
 
 虎助と共に当時に思いを馳せる。
 本能寺で虎助に命を救われなければ、死んでいた。
 信包も三郎は死ぬと思い込んでいた為、ああいった大胆な行動に出ようとしたのであった。
 
「お。次は勘助か」
 
 
 
「さて三郎。お前に言いたい事は山ほどあるが、今は良い。かつては敵同士だったが、今は友と思っている。同じ境遇だったが、お前とは違い俺は前の自分が生きていた。俺は生きている前世の自分の悔いを晴らす事が出来たが、お前は違う。お前は信長の亡霊とも言えるものに縛られていたが、今は自由だ。俺は今後如水と秀信の為に動くが、お前は好きなように生きろ。信長の意志に縛られず、自分の意思に従え。無事の旅路を心より祈る。さらばだ、親友。小寺勘助より」
 
 
 
「勘助……」
「三郎にとっても、勘助殿にとっても互いに心の許せる存在だった。という事ですな」
 
 虎助の言葉に三郎は頷く。
 
「……あいつのおかげで天下が取れたような物だ。まぁ、生かす選択をしたのも俺だがな。奴には感謝しかない」
 
 三郎の声が何処か弱々しく響く。
 二人には、涙をこらえている事が分かった。
 
「……さて、次が最後だな!」
「という事は……秀信様か」
 
 虎助の言葉に三郎は頷く。
 
「あぁ。気を取り直して読むとしよう」
 
 
 
「三郎。まず、事が終わってからというもの、俺から逃げまくっていた事に俺は腹を立てている。生きていたのは良い。だが逃げる必要は無いだろ。と、怒りを覚えている。しかし何よりもお前が生きていてくれた事に最大の喜びを得ている。ありがとう三郎。お前があの日、岐阜城に現れなければあの時点で織田家の未来は潰えていた。自分の未熟さで、織田家の歴史を終わらせてしまうところだった。しかしお前が現れてくれた。それからというもの、事の中心は徐々に織田家を中心に動くようになっていった。結果、天下を取るまで行ったのだ。何度も言うが、全てはお前のおかげだ。心より感謝する。岐阜城に再臨した第六天魔王、織田信長の孫であり織田三郎の兄弟。織田秀信より」
 
 
 
「……長いな」
 
 三郎は笑いながら、涙を流す。
 これまでの出来事を思い出し、涙を流していた。
 
「まるで今生の別れみたいに言うな……まぁ、実際いつ帰れるか分からんからな……」
 
 三郎は涙を拭くと文をしまう。
 
「よし! 止めだ止めだ! 湿っぽいのはここで終わりにして、二人共。今後について話し合おう!」
「今後……ですか?」
 
 福の言葉に三郎は頷く。
 そして、山積みの荷物を指差す。
 
「あぁ! これから俺達は商売をする! 日の本が鎖国によって交易が制限されるという事は、日の本の品の価値が非常に高くなる! 持ってきたこいつ等で一儲けして、船を買い、世界中を旅しよう! これが俺の商売繁盛の策だ!」
 
 その策を聞き、福と虎助は笑う。
 
「やはり、三郎は変わりませんね。その大荷物、何かと思ってました」
「ええ、どこまでもついて行きたくなる。そんな人だ」
 
 後の歴史書に、この時期から謎のアジア人の商会の名が出てくるようになる。
 商会の名は、『織田商会』。
 決まった拠点を持たず、フィリピン、中国、朝鮮を始めとして、インド、果ては欧州、南蛮までもその影響力を広める事となる。
 その商会の主の事は不明な点が多く、ある書物には自ら進んで戦乱に参加したとあったり、海賊狩りをした、反乱を支援した、国を興した等、信憑性に欠ける記述が世界各地に多く残っている。
 しかし確実な事はある。
 商会の主とその妻、そして従者の名である。
 護衛兼相談役、大垣虎助。
 商会の主の妻、織田福。
 そして商会の主、織田三郎である。
 夫婦は大変仲睦まじく、三郎は側室を持つことは生涯無かったという。
 虎助も親友であり護衛、相談役として大いに活躍したと記されている。

 この織田商会が、繰り広げる数々の冒険譚は、また別の話である。

 かくして、関ヶ原の大乱から始まった第六天魔王の生まれ変わり、織田三郎による織田家の再興物語はここに幕を閉じたのであった。
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