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大事な物

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 一体何人殺したのだろうか。
 もはや数えるのはやめた。
 ティルも途中からスキルを奪った報告をしてこなくなった。
 
「……。」
 
 全身が血に塗れ、辺りが真っ赤に染まる。
 ある程度注意を反らせただろうか……。
 ……彼らが無事ならそれで良い。
 いや、彼女等か?
 それも怪しくなってきた。
 名前が……。
 分からない……。
 
「アルフレッド君!」
 
 その声に意識が戻る。
 すると、眼の前に敵が居た。
 その敵の持つ刃の切っ先は俺の目を貫こうとしていた。
 
「くっ!」
 
 咄嗟に躱す。
 だが、披露していた俺の体は反応しきれなかった。
 刃が眼球をかすった。
 
「……惜しかった。あと少しで殺せたのにな……。」
 
 右目を押さえながら相手を見る。
 眼の前の敵。
 何処か見覚えがある気がする。
 あの女は敵の親玉か?
 先程までの奴らよりも遥かに手強い事が分かる。
 
「誰だ……。……まぁ良い全員殺す。」
「もはや私も覚えてないとはね。まぁ良いさ。戦うことすら忘れるまで時間を稼いであげよう。陽炎部隊と君の仲間は放っておいても良い。狙いは君だ。」
 
 すると、その女は煙幕を張った。
 辺りが全く見えなくなる。
 
「……ちっ。」
 
 おぼつかない足どりで前へと進む。
 いや、何処が前かはもう分からない。
 とにかく進む。
 
「アルフレッド君!大丈夫ですか!?」
 
 すると、背後から声が聞こえる。
 その声に反応し、後ろを振り向く。
 
「……敵、か?」
 
 敵なら殺す。
 しかし、その姿を見ても敵意を感じない。
 殺意を覚えない。
 逆に安堵感すら感じる。
 
「……私です。」
「……誰だ。」
「っ!やっぱり記憶が……。」
 
 だが、警戒は解いてはいけない。
 油断を誘って殺す戦法かも知れない。
 ナイフを握りしめる。
 
「レインです!アルフレッド君!思い出して!」
(主様!右の手の平を見て下さい!)
 
 頭の中に響く声。
 それに従い、右手を開く。
 するとそこには「エルフの女性、レインは必ず守れ。彼女を泣かせるな。」と書かれていた。
 顔を上げる。
 
「……っ。」
 
 眼の前のレインと名乗ったエルフは涙を浮かべていた。
 成る程。
 これは俺のメッセージか。
 記憶を失ってもこれだけは守るために。
 
「レイン……さん。」
「っ!思い出してくれたんですか!?」
 
 レインさんが駆け寄ってくる。
 彼女がどういった人物なのか、分からない。
 が、守るべき人なのは分かった。
 俺も近寄ろうとする。
 が、躓いてしまう。
 
「あっ!」
 
 すると、気が付けばレインさんに抱きかかえられていた。
 
「もう、大丈夫です。安全な所へ行きましょう。グロールさん達も待ってます。」
「……。」

 優しく抱き抱えられる。
 その心地よさに目を瞑ろうとする。
 レインさんはそのまま立ち上がろうとした。
 
「……っ!」
 
 レインさんの動きが止まる。
 
「レイン……さん?」
 
 目を開けるとレインさんの腹部から刃が飛び出していた。
 レインさんは俺を咄嗟に庇ってくれたのか、刃は届いていない。
 
「レインさん!」
 
 レインさんは膝を付く。
 
「ご、ごめんなさい……。」
 
 そのままレインさんはその場に倒れた。
 気を失っているようだ。
 まだ生きてはいる。
 
「……届かなかったか。」
 
 そして、レインさんの居た所の後ろには先程の女が居た。
 
「貴様!よくも!」
「もはや誰だか覚えていない女のために怒るのかい?変な奴だね。」
 
 俺は右手を開き、相手に見せた。
 
「確かに覚えていることはもう少ない。でも、大切な者は分かっている。最後に俺が教えてくれた。」
 
 最早戦える力はほとんど残っていない。
 これが、最後になるだろう。
 
「お前を殺す!」
「やれるならやってみな!私達もこれで全員だ!」
 
 煙が晴れると辺りには敵がいた。
 囲まれていたようだ。
 まだこんなにいたのか。
 だが、関係無い。
 全員殺すまでだ。
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