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その1「何気ない俺の日常に来たるか恋風」
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春、2年生。
将来を考えるには早く、遊び盛りな割には3年生たちが就職活動やらなんやらを意識し始めたのに当てられて、少しずつ将来について意識し始めるころ。
俺、神田亮はなぜか知らないが生徒会長を目指すことになったらしい。
「俺が、生徒会長の選挙に出馬だと!?」
「この前休んでた時あったでしょう? それで選ばれたんだよ」
目の前にいる、俺のクラスメイトで親友の「筒賀村 三月」は苦笑いを浮かべながら、ブレザーのネクタイをいじっている。三月は俺の1年の頃からの仲である無二の親友だ。
生物学上では男なのだが、女子にしか見えないほどの、可憐な顔パーツを持っているのが特徴なのだが、これと言って特技もない、特異な科目もない、テストの成績もいいわけではないといった本当にとらえどころのない男……だ。
顔は本当に清楚な少女のような見た目だ。だが男だ。
道を行けば10人中10人の男が振り返り、三月に話しかけてくる。だが男だ。
この前、カラオケに二人で行ったら店員にカップル割されてしまったが多分男のはずだ。
男子生徒用のブレザーを着用しているので、おそらくは男なんだ……悔しいことに。
ネクタイに対して並々ならぬこだわりがあるらしく、よくネクタイを触る癖を持つ。
そんな奴のいうことだ、マジもんのマジなんだろう。
「ごめんね。僕も止めたかったんだけどクラスの空気が予想以上に満場一致でさ」
「む、むぅ……」
俺が風邪を引いて辛い時に限って何でこんなに統率力たっぷりで俺を推薦するんだよ。
しかし可愛い俺の親友のことを責めたって仕方ない。
「そもそも、新学期だっていうのに、早々に体調を崩したリョウが悪いんじゃないか」
「それはそうなんだが、崩れちゃったもんはしょうがないだろ?」
「体調管理も大事だよ? 弟くんにまた看病してもらったんでしょう?」
「いや、自分の世話は自分でやった。大丈夫だ」
露骨に溜息を吐かれた。
呆れてるんだろうけど、それでも俺を見捨てることなどなかったりする。
「とりあえず、どうするの?」
「生徒会長選挙か? 当然やるよ。やるやる」
「あれ? やる気だね?」
そりゃそうだ。俺は拳を空に掲げて教室の真ん中で案外小声で言い放った。
「俺は生徒会長になって、周りからチヤホヤされるんだ!!」
「こんな単純で不純な生徒会長への志願理由みたことない。でもさ、なんでそんなチヤホヤとかされたいのさ? モテたいとかいうならまだしも」
「それも理由の一つに入るな……しかし、俺が目指す理由はもっと根深いのさ」
「なんで?」
どうやらこいつはこの学園の生徒会におけるジンクスをご存じないようだ。では僭越ながら、この俺様(笑)が直々に教えてやろうではないか。
「この森永学園の生徒会ジンクスって知ってるか?」
「いや、知らないけど」
「じゃあ去年からの生徒会長はどんな人だったかは当然知っているよな?」
「荒川会長だよね。すっごい色白で思わず見惚れるほどだったよ」
っと、そこでどうやら三月は思いついたらしく、俺に視線を戻してきた。
なぜか目を半月のようにジトッとした目で。
「まさか生徒会に女の子を求めて生徒会長を目指すとかじゃないよね?」
「ふふふ、ばれてしまったようだな?」
「いや、自分から明かしたんじゃないか」
そう。この森永学園は俺にとってはエデンの園も同様のびっくりどっきり青春満載学園なのだ。
生徒に美人も多く、そして俺が入る4年ほど前から突如共学化したこの学園。学科もビジネスや商業系、デザインやアートなどの女子生徒に人気の選考学科ばかりなため、男子生徒は当然少ない。まさにハーレムを形成するにはぴったりの学園なのだ。
現在まさに俺のクラス……デザイン学科2年三組も、男子生徒5人に対して女子生徒24人というトンでもスペースホールなわけなのだ。まさに夢男子ホイホイといっても過言ではない。
そして、こうゆうときに限って俺に舞い込んできた超ステータス的要素。
それが生徒会長。
しかも、得られる称号は「初の男子生徒会長」という名誉勲章なのだ。
たとえ二階級特進してでも手に入れたいこの称号で、この学園に俺が俺に向けた俺のためのスーパー青春学園生活を完成させ、そして女子生徒からチヤホヤされるのだ!
「まさか、最初から生徒会長を目指すつもりじゃなかっただろうね?」
「いや、それはない。ただ単に面倒ごとを押し付けられたからポジティブに行こうと思ったんだ」
流石に自分から生徒会長になろうと思ってこんな肩身の狭い学校に入らない。
事実、俺の肩身の狭さは高速道路で110キロ出してる時のガードレールとセンターポールとの間に似ている。地味に微妙な閉塞感を感じるのだ。わからないというのならば自転車で道路の白線の上を走ってみるとわかるだろうか。
「とにかく、俺はこの学園で生徒会長となり、モテモテとチヤホヤを一身に受ける学園生活を手に入れてみせる! 別にいっそ会長職じゃなくてもいいけど」
「意思弱いな!?」
仕方ないじゃないか! 普通女の子が出馬してるんだったら女の子に入れるでしょう!?
俺はアイドルとかではないので普通に出ても普通に落選するだろうよ! 努力するけど!
「二人とも、なんの話してるのかしら?」
「あっ、蘭ちゃん」
「げっ……」
しまった。面倒なのが寄ってきた。
三崎蘭。
一言でこいつを表現するならば、俺の天敵と言える存在だ。
自身の顔よりも大きく膨らんだ双丘とピンク色のお下げを大きく揺らし、面白いほど豊満な体を揺らしながら、こちらへとまるで母親のような慈愛に満ちた表情を向けてくる凄まじく青少年への性教育に悪そうな女がこちらへ近づいてきた。
「なにが、げっ……なのかしら?」
「いやいや、なんでもねえけどさぁ」
「そうかしら? 面白そうなことを察知したのだけれど……」
首元に人差し指を置いて、それをくるくると首筋をなでるように動かしながら言う、蘭はまるで俺たちと同級生とは思えないほどの色気を放っている。
ちなみに蘭のクラスでの愛称は「ママ」だ。この愛称は俺と三月以外は割とみんな使っている。
これの起源はどうやら、うちのクラスの誰かが「バブみを感じる最高に尊い」と言ってふざけて呼び始めたのが始まりといえば始まりだ。
俺はおもしろそうだと詮索してくる蘭に対して、手を振って答えることにした。
「お前の勘違いだ勘違い」
「嘘。」
蘭の妖艶な雰囲気を纏う顔が視界いっぱいに広がった。
俺の目を刺すかと思うぐらい鋭い爪が俺の眼球に触れるか触れないかの位置においてある。
「私ね。嘘が大っ嫌いなの。生徒会のことくらい私もクラスメイトなんだから知ってるわよ」
「すみません。素直に白状するので勘弁してもらっていいですか?」
エスパーの上に猟奇持ちとはなかなか恐ろしい女だ。だから苦手なんだが。
んでもって現在胸を上下させるこの女は、俺の方に向けていた指を外して、上を指さした。
「それはそうと、神田君、生徒会長様が呼んでるわよ?」
「え? マジで? 今行くよ」
「急いだほうがいいわよ? なにやら気が立っていた様子だったから」
「くっそ! 荒川会長めぇ!! また意味もなく呼び出したな!? 悪い三月、またあとでな!」
「うん、荒川会長によろしくねー」
俺はダッシュで廊下に滑り出ると、そのまま3階にある生徒会室を目指して爆走するのだった。
その際、俺は弟とすれ違った。
なぜか弟は天然パーマの頭をかきむしりながら、あくびをかみ殺し、ずり落ちた眼鏡を正しい位置に戻して、俺を一瞥すると
「ご愁傷。兄さん」
っと言ってきた。ムカつく。
「失礼しまっす!!」
俺は生徒会室のドアを勢いよく開け放つと、そこには何処か懐かしいラスボス臭のするギャングの親玉が座っていそうな革製品の椅子が、窓の外を向いていた。
「遅かったね」
「な、なにかご用ですか?」
椅子が回ると、そこには日本人とはとても思えないような顔立ちの銀髪美少女がおわした。
銀髪の髪をツインテールにまとめ、かわいさが際立つアイラインを持ち、どこか小悪魔的な雰囲気を持つ彼女こそが、我らが森永学園生徒会長「トバリ・フォード・荒川」だ。
ちなみにちゃんとした日本名にすれば「荒川 帳」という名前なんだそうだ。
「これを見てくれないかな?」
そう言って、俺にスマホの画面を向けてくるハーフ美少女。
ちなみにロシア人とのハーフだそうだが、家は特に大富豪ってわけではないらしい。
「・・・・・・なになに?」
スマホをのぞいてみると、そこには、すでに用件の書いてあるメール文が表示されていた。
ちなみに、その件名は「生徒会の次回会議について」とされており、明日からの予定についての出席の可否について質問する文が打ちこんであった。
「実は君にこのメールの打ち方を教えてもらって、初めて自分一人で出来たんだ!」
「ヘーヨカッタデスネー」
そんなことをわざわざ俺に教えるために呼んだのか。
蘭の言っていた気が立ってるってなんだったんだ?
見てると、会長は何かを言ってほしいようでそわそわしているようだ・・・・・・そこで合点がいったのだが、おそらくはこのそわそわした雰囲気を蘭が勘違いしたのではないかと思った。
「それで、君にもう一つ質問があって・・・・・・文字が打てても、ネットでは調べてもわからなくて」
「はい・・・・・・なんでしょう?」
出た。
会長はなんでもスマホに頼りまくってしまう癖がある。調べてもわからない場合は俺に聞く。まず俺に聞くのだ。ほかの人にも聞けばいいではないか。
面倒見がいい生徒会書記の女の子なんていくらでも教えてくれそうなものだ。
とりあえず質問の内容を聞いてみようか。
「メールの送信者ってどうやって設定するの?」
言葉を失った。いや、どう考えても最近の老人でもない限りはわからないやつなんていないはず。それをわざわざなんでモブ存在たる俺に・・・・・・? 面倒なのでスルーしても本人以外は誰も文句は言わないはずだ。
「えっと、とりあえずスマホ貸してもらってもいいですか?」
「いいよ。はい」
俺はメールの送信者の一覧をタップして、電話帳を調べる。
「―――って誰のアドレスも入ってない!?」
それどころか親の連絡先すら入っていないという緊急事態だ! なにやってんの親御さん!
電話番号は親だけが一方的に知っていても意味がないんだからね!?
しかも俺の叫びを聞いた先輩は、自分がどうゆうことになっているのかわからないらしく。
「え? アドレスってなに?」
っと、かわいすぎてムカつくほどかわいく首をかしげた。
「いやいや! 誰かに連絡先とかメアドとかラインとか教えてもらわなかったんですか!?」
「え? それが必要なの?」
「必要なの!! すっごい重要!」
俺は事細かに、今このポンコツ先輩が置かれている状況を一息に説明する。
すると、先輩はやっと納得がいったのか、膝から崩れ落ちてショックにうちひしがれるのだ。
「・・・・・・ま、まさか、この私が誰のメアドも知らないなんて」
「それいつ買ったんですか?」
「昨日の夕方」
「じゃあ前の携帯は?」
「捨てた」
「うっそだろおまえ!?」
連絡先ないのに合点がいったぞ! 絶対バックアップ取らずに携帯移行したやつだ。
俺も一度だけあったが、あの時はラインの連絡先がすべて消えていた。ついでのように中学時代にすごくラッキーでもらえた好きな女の子の連絡先が消えてしまったのは俺の記憶に新しい。
「ちょっといいかな?」
「どうしました?」
いかにも深刻そうに眼を伏せる荒川会長。
俺もその雰囲気につられて、怪訝な態度でのぞき込んでしまう。
「もしかして……私、相当のおバカなんじゃ……?」
「もしかしなくても相当のおバカですよセンパイ」
今更すぎるんですが。
いやいや、そんなショックそうな顔されても事実揺らぎませんからね!?
「はっはっはっは!」
今度は唐突に笑い始めたんだが、どうしたんだろうこの先輩バグってんのだろうか。
ひとしきり笑い笑った後、荒川会長は静かに言った。
「忘れよう」
「忘れんなよ!? 現実逃避されても困るわ! 明日からちゃんと連絡先聞いてまわれ!」
「そ、そんな怒んないでよぉ……」
おっと、いつの間にかツッコミに熱くなりすぎたか。
ついつい熱が入ってしまうと、大声を出してしまう癖だけはどうにかしないとな……ネタがついてまわる人生というのは本当に苦労が多い。
「す、すみません……つい熱く……」
「この前、君のカバンからペンを一本取ったの謝るからさぁ」
「そんなことで怒ってねえよ!? ってかどうやって抜いた!?」
それで今朝からボールペン一本見つからないと思ったんだ! くそやられた!
というか反省の色が一切見えないんですけど、反省の色って何色なんだ? 俺の顔みたいに真っ赤だったら、それはとてもとても素敵だなっと俺は思う。俺が取られたボールペンのように黒色だった場合は容赦なくビンタを張るが。
「このボールペン持ってっていいから」
そう言うと、荒川会長は胸ポケットから一本ボールペンを取りだして、俺に手渡してきた。
「は、はぁ……ありがとうございます」
俺もそれを素直に受け取った。
「私のじゃないけど」
「じゃあ誰のだよ!!」
その辺の机にあったペン刺しに突っ込んでもどしておいた。
誰のかも知らないボールペンなんぞもらっても使ってしまうわけにはいかないだろう。
「こ、こんなくだらないことで呼び出したんですか?」
俺のこめかみにまるで漫画のような青筋が浮かび上がってるのがおわかりだろうか?
わからない人にはとりあえず俺が激おこぷんぷん丸であることだけはわかってほしい。
俺が苛立ちに苛立っていると、会長はそんなことお構いなしに、首をかわいく傾けた。
「なんのこと? あれ、そういえばなんで呼び出したんだっけ?」
「頭バグってんのかあんたは!?」
なんかそろそろイライラしてきたぞ。顔はかわいくとも強烈なほどボケ性能が高いキャラは扱いに困ってくるから、この世界の美人には嫌な予感しかしないんんだ。
「あのさぁ……」
「なんですか?」
「あたしバグってるよ?」
「自分で言ってちゃ世話ねえな!? デバックしっかりしておくれ!」
もうダメだこの先輩!
誰か助けてと本気で願ったのが届いたのか、生徒会室の中にノックの音が響いてきた。
荒川会長が応答すると、「失礼します~」と伸びやかなイントネーションを持った声が扉の向こうから聞こえてきた。
「トバリ~おはよう~」
「あ、サリーおはようー」
入ってきたのは、荒川会長と同じく生徒会役員の書記を務める「井上 紗理奈」先輩だ。
俺や荒川会長や、他の生徒会メンバーは愛称で「サリー」と呼んでいる。
地毛であろう綺麗なブラウンに彩られた茶髪を、ポニーテールにして一本にまとめたいかにも明るそうな、見た目の軽薄さとは裏腹の真面目さや面倒見のよさが男女問わず人気を集める美少女だ。
見た目は完璧な美少女で、非の打ちどころがなく、容姿で言えば荒川会長と双璧をなすだろう。
そんな美少女に、俺は全力ですがりついた。
「サリー先輩助けてください!」
「あ~、神田君だぁ~。弟のほうだっけ~? やっはろ~」
「いや、兄のほうです」
「そうなの~? しっかりしてそうに見えないから勘違いしちゃった~」
サリー先輩は俺たち兄弟のことをいい加減覚えてくれ。
この人は致命的に人の顔を覚えるのが下手だ。というか眼中にない人はまず全然全く相手をしてくれない、案外排他的で温厚な人柄の女性である。時にほかのメンバーの名前を覚えてくれなくて、一週間ほどで生徒会メンバーの顔を覚えさせたというスーパー根性精神を持ち合わせている会長がいたため、今までうまくやってこれたわけではあるが、一週間に5日ほど顔を合わせてる俺たちを未だに認識してくれないあたり、脈はなさそうだ。哀れ俺たち。
「それにしてもなんで~神田君がいるの~?」
「いやいや、荒川会長に呼ばれて来たんですよ。なんかまた妙なことでしたけど」
「あらら~また世間知らずが失礼しちゃってごめんね~。でも大丈夫~だよ~。ただトバリが呼び出したのは、君にかまってほしいだけなんだからさぁ~」
「ひゃああああああああああああああああああああああああ!! やめて! 今すぐ! そんな恥ずかしいこと言わないで! 馬鹿馬鹿! なんで言っちゃうのさ!?」
サリー先輩がいたずらのように言った言葉で、会長がまるで瞬間的に熱した鉄か何かのような真っ赤っか具合で頭をパイロさせて、サリー先輩に巻くしたて始めた。
うすうす俺も気づいていたことなのだが、会長それで隠せていたつもりなのか。
鈍感系主人公たる才能を見せたほうが、会長の尊厳も守れるんだろうが、そこは残念だが、察しが良い方であることに少し後悔している。
「わ、私は、ただわからないことがあったらいつでも聞いていいと、彼が言ったからそうしてるだけであってだね? べ、別にこれっぽっちも恋心なんて持ってないし、頼れる可愛い私の後輩ぐらいにしか思ってないんだからね!」
「う~ん、ベッタベタじゃない~。こっちまで~恥ずかしいよ~」
一体俺にどうしろと言うのだろうか。
じっとりと俺の方を見つめてくるサリー先輩の視線を少し避けつつ、めちゃ可愛く荒川会長を見つめていると
「「あっ・・・」」
目が合った。
「あぁぁぁああ・・・・・・」
みるみるうちに顔の赤みが増していく。まるでリンゴ飴のようなほどの赤さにまでなっていく会長。ちなみに会長はロシア人とのハーフ故、かなりの色白なので顔の赤みが一層際立つ。
「さよならぁああああ!!!」
「あ、会長!?」
会長が大声を上げたかと思うと、目にもとまらぬ早さで生徒会室から飛び出していった。
サリー先輩もあきれ果てたようにやれやれポーズを取っているのだが、追っていかないのだろうか。そういう俺もあまりにも唐突な逃走だった故に追いかけられなかったわけだが。
「あぁ~いいよ~追わなくって~。ああなったトバリちゃんはなかなか面倒だから~」
それでいいのかな・・・・・・なんだか妙な罪悪感だけはあるんだけど。
「あ~でも私はトバリちゃん追わないとね~。面倒だけど~」
それでいいのか親友様よ?
とりあえず面倒な会長の相手をしに、サリー先輩もマイペースな歩みで生徒会室を退室していった。本当にマイペースで、まるでこれから散歩にでも出かけるがごとく足取りは軽くて、のろい。
「・・・・・・俺一人になっちまったな」
「・・・・・・私もいますが?」
「うおっ!!!?」
びっくりした。2cmほど地面から浮くほど。
俺が声のした、本棚側の机がある方を振り返る。
「えっ・・・?」
そこには黒髪を夕日に写し、まるで夜空を連想させるかのような、美しい美少女がおわした。
目は多少きつめにつり上がり、口の輪郭が少し下がっているが、それでもぷるぷると艶のあるのを感じさせる唇。なによりも瞳がきらきらと潤んでおり、吸い込まれるような黒真珠のごとき深い美しさを持った少女がいた。
だ、誰だこいつ・・・・・・? 生徒会メンバーにこんなやついたか?
「き、君は・・・・・・?」
「退任した二階堂先輩の席に入った、一年生の三崎麗奈です」
に、二階堂先輩って言うと、女の子なのに女子をナンパしまくって生徒会で注意処分の嵐をもらってやめてった書記のことか・・・・・。
というかこんな美少女なら俺が部屋に入ってきた時点でわかると思うんだが・・・・・・。
「えっと、今日はいつからここに?」
「だいたい、『なんのご用ですか?』のあたりからですかね」
最初っから居たということか。
というか入ったタイミングがほぼ一緒ってことか。気づかなかった。
「「・・・・・・」」
き、気まずい! 気まずすぎる!
なんだこの妙に居心地の悪い環境は。三崎さんもなんだかそわそわしてらっしゃるのがわかる。
流石に異性と二人っきりで一つの部屋にいるのはまずかったか?
そう思い俺は声を出そうとした。
「「あの・・・・・・」」
く、くそ! こんな偶然いらない! というかまた気まずくなるだけだから神様こういうのは一回に絞ってやってくれれば十分だし、起こる確率少しでも乱数調整しといてよ、頼む。
「「お、お先にどうぞ」」
だからもおおおおおおおおおおおお!
なんだおまえ割とわざとやってるんじゃなかろうな!?
いや、落ち着け。俺も頭に血が上っているんだ。多少なりとも気があうだけで、かなり幸運とも言うべき青春ビッグチャンスをものにするっきゃないわけだから慎重にな。
「こほん、えっと・・・・・・クラスはどこなの?」
ありきたり・・・・・・というかストーカー予備軍にでもなるかのような質問は今すぐにやめるべき、もれなくポリスのしょっぴきでお陀仏でーす。
「二組ですよ」
おぉ!? もれなく答えてくれたこの子の優しさに是非とも拍手を俺の中の観客ども!
・・・・・・ってか二組ってことは禄の居るクラスじゃねえ?
「じゃあロクのクラスメイトか」
「はい!そうです!」
元気いっぱいに返事を返してくる三崎。一方の俺はその華やいだ笑顔に完全にハートをショットされていたわけだが、ここでときめいていてはこの先どんな恋愛イベントでもこなせないであろうことが目に見えているため、ここは耐えろ俺。もだえるな俺。
次の質問をして少しでも好感度を稼ぐんだ俺!
「ロクとは仲がいいの?」
「いいえ・・・・・・その、あんまり話したこともなくって」
むむむ、笑顔から一転、夕暮れのごとく暗い顔にさせてしまった・・・・・・この質問はだめだったようだ。
というか俺しゃべりすぎでは? もしかしたら三崎も俺の話が無駄に長くってうんざりしてて居心地悪そうにしているのでは? あぁ足が若干いらついたようにローファーの底をならしてるし。
「あの、先輩・・・・・・」
「おう?」
俺が考え込んで震えていると、正面で椅子に座っている黒髪の美少女は髪をくりくりと人差し指に巻き込みながら、照れたように言うのだ。
「――相談が、あるんです」
将来を考えるには早く、遊び盛りな割には3年生たちが就職活動やらなんやらを意識し始めたのに当てられて、少しずつ将来について意識し始めるころ。
俺、神田亮はなぜか知らないが生徒会長を目指すことになったらしい。
「俺が、生徒会長の選挙に出馬だと!?」
「この前休んでた時あったでしょう? それで選ばれたんだよ」
目の前にいる、俺のクラスメイトで親友の「筒賀村 三月」は苦笑いを浮かべながら、ブレザーのネクタイをいじっている。三月は俺の1年の頃からの仲である無二の親友だ。
生物学上では男なのだが、女子にしか見えないほどの、可憐な顔パーツを持っているのが特徴なのだが、これと言って特技もない、特異な科目もない、テストの成績もいいわけではないといった本当にとらえどころのない男……だ。
顔は本当に清楚な少女のような見た目だ。だが男だ。
道を行けば10人中10人の男が振り返り、三月に話しかけてくる。だが男だ。
この前、カラオケに二人で行ったら店員にカップル割されてしまったが多分男のはずだ。
男子生徒用のブレザーを着用しているので、おそらくは男なんだ……悔しいことに。
ネクタイに対して並々ならぬこだわりがあるらしく、よくネクタイを触る癖を持つ。
そんな奴のいうことだ、マジもんのマジなんだろう。
「ごめんね。僕も止めたかったんだけどクラスの空気が予想以上に満場一致でさ」
「む、むぅ……」
俺が風邪を引いて辛い時に限って何でこんなに統率力たっぷりで俺を推薦するんだよ。
しかし可愛い俺の親友のことを責めたって仕方ない。
「そもそも、新学期だっていうのに、早々に体調を崩したリョウが悪いんじゃないか」
「それはそうなんだが、崩れちゃったもんはしょうがないだろ?」
「体調管理も大事だよ? 弟くんにまた看病してもらったんでしょう?」
「いや、自分の世話は自分でやった。大丈夫だ」
露骨に溜息を吐かれた。
呆れてるんだろうけど、それでも俺を見捨てることなどなかったりする。
「とりあえず、どうするの?」
「生徒会長選挙か? 当然やるよ。やるやる」
「あれ? やる気だね?」
そりゃそうだ。俺は拳を空に掲げて教室の真ん中で案外小声で言い放った。
「俺は生徒会長になって、周りからチヤホヤされるんだ!!」
「こんな単純で不純な生徒会長への志願理由みたことない。でもさ、なんでそんなチヤホヤとかされたいのさ? モテたいとかいうならまだしも」
「それも理由の一つに入るな……しかし、俺が目指す理由はもっと根深いのさ」
「なんで?」
どうやらこいつはこの学園の生徒会におけるジンクスをご存じないようだ。では僭越ながら、この俺様(笑)が直々に教えてやろうではないか。
「この森永学園の生徒会ジンクスって知ってるか?」
「いや、知らないけど」
「じゃあ去年からの生徒会長はどんな人だったかは当然知っているよな?」
「荒川会長だよね。すっごい色白で思わず見惚れるほどだったよ」
っと、そこでどうやら三月は思いついたらしく、俺に視線を戻してきた。
なぜか目を半月のようにジトッとした目で。
「まさか生徒会に女の子を求めて生徒会長を目指すとかじゃないよね?」
「ふふふ、ばれてしまったようだな?」
「いや、自分から明かしたんじゃないか」
そう。この森永学園は俺にとってはエデンの園も同様のびっくりどっきり青春満載学園なのだ。
生徒に美人も多く、そして俺が入る4年ほど前から突如共学化したこの学園。学科もビジネスや商業系、デザインやアートなどの女子生徒に人気の選考学科ばかりなため、男子生徒は当然少ない。まさにハーレムを形成するにはぴったりの学園なのだ。
現在まさに俺のクラス……デザイン学科2年三組も、男子生徒5人に対して女子生徒24人というトンでもスペースホールなわけなのだ。まさに夢男子ホイホイといっても過言ではない。
そして、こうゆうときに限って俺に舞い込んできた超ステータス的要素。
それが生徒会長。
しかも、得られる称号は「初の男子生徒会長」という名誉勲章なのだ。
たとえ二階級特進してでも手に入れたいこの称号で、この学園に俺が俺に向けた俺のためのスーパー青春学園生活を完成させ、そして女子生徒からチヤホヤされるのだ!
「まさか、最初から生徒会長を目指すつもりじゃなかっただろうね?」
「いや、それはない。ただ単に面倒ごとを押し付けられたからポジティブに行こうと思ったんだ」
流石に自分から生徒会長になろうと思ってこんな肩身の狭い学校に入らない。
事実、俺の肩身の狭さは高速道路で110キロ出してる時のガードレールとセンターポールとの間に似ている。地味に微妙な閉塞感を感じるのだ。わからないというのならば自転車で道路の白線の上を走ってみるとわかるだろうか。
「とにかく、俺はこの学園で生徒会長となり、モテモテとチヤホヤを一身に受ける学園生活を手に入れてみせる! 別にいっそ会長職じゃなくてもいいけど」
「意思弱いな!?」
仕方ないじゃないか! 普通女の子が出馬してるんだったら女の子に入れるでしょう!?
俺はアイドルとかではないので普通に出ても普通に落選するだろうよ! 努力するけど!
「二人とも、なんの話してるのかしら?」
「あっ、蘭ちゃん」
「げっ……」
しまった。面倒なのが寄ってきた。
三崎蘭。
一言でこいつを表現するならば、俺の天敵と言える存在だ。
自身の顔よりも大きく膨らんだ双丘とピンク色のお下げを大きく揺らし、面白いほど豊満な体を揺らしながら、こちらへとまるで母親のような慈愛に満ちた表情を向けてくる凄まじく青少年への性教育に悪そうな女がこちらへ近づいてきた。
「なにが、げっ……なのかしら?」
「いやいや、なんでもねえけどさぁ」
「そうかしら? 面白そうなことを察知したのだけれど……」
首元に人差し指を置いて、それをくるくると首筋をなでるように動かしながら言う、蘭はまるで俺たちと同級生とは思えないほどの色気を放っている。
ちなみに蘭のクラスでの愛称は「ママ」だ。この愛称は俺と三月以外は割とみんな使っている。
これの起源はどうやら、うちのクラスの誰かが「バブみを感じる最高に尊い」と言ってふざけて呼び始めたのが始まりといえば始まりだ。
俺はおもしろそうだと詮索してくる蘭に対して、手を振って答えることにした。
「お前の勘違いだ勘違い」
「嘘。」
蘭の妖艶な雰囲気を纏う顔が視界いっぱいに広がった。
俺の目を刺すかと思うぐらい鋭い爪が俺の眼球に触れるか触れないかの位置においてある。
「私ね。嘘が大っ嫌いなの。生徒会のことくらい私もクラスメイトなんだから知ってるわよ」
「すみません。素直に白状するので勘弁してもらっていいですか?」
エスパーの上に猟奇持ちとはなかなか恐ろしい女だ。だから苦手なんだが。
んでもって現在胸を上下させるこの女は、俺の方に向けていた指を外して、上を指さした。
「それはそうと、神田君、生徒会長様が呼んでるわよ?」
「え? マジで? 今行くよ」
「急いだほうがいいわよ? なにやら気が立っていた様子だったから」
「くっそ! 荒川会長めぇ!! また意味もなく呼び出したな!? 悪い三月、またあとでな!」
「うん、荒川会長によろしくねー」
俺はダッシュで廊下に滑り出ると、そのまま3階にある生徒会室を目指して爆走するのだった。
その際、俺は弟とすれ違った。
なぜか弟は天然パーマの頭をかきむしりながら、あくびをかみ殺し、ずり落ちた眼鏡を正しい位置に戻して、俺を一瞥すると
「ご愁傷。兄さん」
っと言ってきた。ムカつく。
「失礼しまっす!!」
俺は生徒会室のドアを勢いよく開け放つと、そこには何処か懐かしいラスボス臭のするギャングの親玉が座っていそうな革製品の椅子が、窓の外を向いていた。
「遅かったね」
「な、なにかご用ですか?」
椅子が回ると、そこには日本人とはとても思えないような顔立ちの銀髪美少女がおわした。
銀髪の髪をツインテールにまとめ、かわいさが際立つアイラインを持ち、どこか小悪魔的な雰囲気を持つ彼女こそが、我らが森永学園生徒会長「トバリ・フォード・荒川」だ。
ちなみにちゃんとした日本名にすれば「荒川 帳」という名前なんだそうだ。
「これを見てくれないかな?」
そう言って、俺にスマホの画面を向けてくるハーフ美少女。
ちなみにロシア人とのハーフだそうだが、家は特に大富豪ってわけではないらしい。
「・・・・・・なになに?」
スマホをのぞいてみると、そこには、すでに用件の書いてあるメール文が表示されていた。
ちなみに、その件名は「生徒会の次回会議について」とされており、明日からの予定についての出席の可否について質問する文が打ちこんであった。
「実は君にこのメールの打ち方を教えてもらって、初めて自分一人で出来たんだ!」
「ヘーヨカッタデスネー」
そんなことをわざわざ俺に教えるために呼んだのか。
蘭の言っていた気が立ってるってなんだったんだ?
見てると、会長は何かを言ってほしいようでそわそわしているようだ・・・・・・そこで合点がいったのだが、おそらくはこのそわそわした雰囲気を蘭が勘違いしたのではないかと思った。
「それで、君にもう一つ質問があって・・・・・・文字が打てても、ネットでは調べてもわからなくて」
「はい・・・・・・なんでしょう?」
出た。
会長はなんでもスマホに頼りまくってしまう癖がある。調べてもわからない場合は俺に聞く。まず俺に聞くのだ。ほかの人にも聞けばいいではないか。
面倒見がいい生徒会書記の女の子なんていくらでも教えてくれそうなものだ。
とりあえず質問の内容を聞いてみようか。
「メールの送信者ってどうやって設定するの?」
言葉を失った。いや、どう考えても最近の老人でもない限りはわからないやつなんていないはず。それをわざわざなんでモブ存在たる俺に・・・・・・? 面倒なのでスルーしても本人以外は誰も文句は言わないはずだ。
「えっと、とりあえずスマホ貸してもらってもいいですか?」
「いいよ。はい」
俺はメールの送信者の一覧をタップして、電話帳を調べる。
「―――って誰のアドレスも入ってない!?」
それどころか親の連絡先すら入っていないという緊急事態だ! なにやってんの親御さん!
電話番号は親だけが一方的に知っていても意味がないんだからね!?
しかも俺の叫びを聞いた先輩は、自分がどうゆうことになっているのかわからないらしく。
「え? アドレスってなに?」
っと、かわいすぎてムカつくほどかわいく首をかしげた。
「いやいや! 誰かに連絡先とかメアドとかラインとか教えてもらわなかったんですか!?」
「え? それが必要なの?」
「必要なの!! すっごい重要!」
俺は事細かに、今このポンコツ先輩が置かれている状況を一息に説明する。
すると、先輩はやっと納得がいったのか、膝から崩れ落ちてショックにうちひしがれるのだ。
「・・・・・・ま、まさか、この私が誰のメアドも知らないなんて」
「それいつ買ったんですか?」
「昨日の夕方」
「じゃあ前の携帯は?」
「捨てた」
「うっそだろおまえ!?」
連絡先ないのに合点がいったぞ! 絶対バックアップ取らずに携帯移行したやつだ。
俺も一度だけあったが、あの時はラインの連絡先がすべて消えていた。ついでのように中学時代にすごくラッキーでもらえた好きな女の子の連絡先が消えてしまったのは俺の記憶に新しい。
「ちょっといいかな?」
「どうしました?」
いかにも深刻そうに眼を伏せる荒川会長。
俺もその雰囲気につられて、怪訝な態度でのぞき込んでしまう。
「もしかして……私、相当のおバカなんじゃ……?」
「もしかしなくても相当のおバカですよセンパイ」
今更すぎるんですが。
いやいや、そんなショックそうな顔されても事実揺らぎませんからね!?
「はっはっはっは!」
今度は唐突に笑い始めたんだが、どうしたんだろうこの先輩バグってんのだろうか。
ひとしきり笑い笑った後、荒川会長は静かに言った。
「忘れよう」
「忘れんなよ!? 現実逃避されても困るわ! 明日からちゃんと連絡先聞いてまわれ!」
「そ、そんな怒んないでよぉ……」
おっと、いつの間にかツッコミに熱くなりすぎたか。
ついつい熱が入ってしまうと、大声を出してしまう癖だけはどうにかしないとな……ネタがついてまわる人生というのは本当に苦労が多い。
「す、すみません……つい熱く……」
「この前、君のカバンからペンを一本取ったの謝るからさぁ」
「そんなことで怒ってねえよ!? ってかどうやって抜いた!?」
それで今朝からボールペン一本見つからないと思ったんだ! くそやられた!
というか反省の色が一切見えないんですけど、反省の色って何色なんだ? 俺の顔みたいに真っ赤だったら、それはとてもとても素敵だなっと俺は思う。俺が取られたボールペンのように黒色だった場合は容赦なくビンタを張るが。
「このボールペン持ってっていいから」
そう言うと、荒川会長は胸ポケットから一本ボールペンを取りだして、俺に手渡してきた。
「は、はぁ……ありがとうございます」
俺もそれを素直に受け取った。
「私のじゃないけど」
「じゃあ誰のだよ!!」
その辺の机にあったペン刺しに突っ込んでもどしておいた。
誰のかも知らないボールペンなんぞもらっても使ってしまうわけにはいかないだろう。
「こ、こんなくだらないことで呼び出したんですか?」
俺のこめかみにまるで漫画のような青筋が浮かび上がってるのがおわかりだろうか?
わからない人にはとりあえず俺が激おこぷんぷん丸であることだけはわかってほしい。
俺が苛立ちに苛立っていると、会長はそんなことお構いなしに、首をかわいく傾けた。
「なんのこと? あれ、そういえばなんで呼び出したんだっけ?」
「頭バグってんのかあんたは!?」
なんかそろそろイライラしてきたぞ。顔はかわいくとも強烈なほどボケ性能が高いキャラは扱いに困ってくるから、この世界の美人には嫌な予感しかしないんんだ。
「あのさぁ……」
「なんですか?」
「あたしバグってるよ?」
「自分で言ってちゃ世話ねえな!? デバックしっかりしておくれ!」
もうダメだこの先輩!
誰か助けてと本気で願ったのが届いたのか、生徒会室の中にノックの音が響いてきた。
荒川会長が応答すると、「失礼します~」と伸びやかなイントネーションを持った声が扉の向こうから聞こえてきた。
「トバリ~おはよう~」
「あ、サリーおはようー」
入ってきたのは、荒川会長と同じく生徒会役員の書記を務める「井上 紗理奈」先輩だ。
俺や荒川会長や、他の生徒会メンバーは愛称で「サリー」と呼んでいる。
地毛であろう綺麗なブラウンに彩られた茶髪を、ポニーテールにして一本にまとめたいかにも明るそうな、見た目の軽薄さとは裏腹の真面目さや面倒見のよさが男女問わず人気を集める美少女だ。
見た目は完璧な美少女で、非の打ちどころがなく、容姿で言えば荒川会長と双璧をなすだろう。
そんな美少女に、俺は全力ですがりついた。
「サリー先輩助けてください!」
「あ~、神田君だぁ~。弟のほうだっけ~? やっはろ~」
「いや、兄のほうです」
「そうなの~? しっかりしてそうに見えないから勘違いしちゃった~」
サリー先輩は俺たち兄弟のことをいい加減覚えてくれ。
この人は致命的に人の顔を覚えるのが下手だ。というか眼中にない人はまず全然全く相手をしてくれない、案外排他的で温厚な人柄の女性である。時にほかのメンバーの名前を覚えてくれなくて、一週間ほどで生徒会メンバーの顔を覚えさせたというスーパー根性精神を持ち合わせている会長がいたため、今までうまくやってこれたわけではあるが、一週間に5日ほど顔を合わせてる俺たちを未だに認識してくれないあたり、脈はなさそうだ。哀れ俺たち。
「それにしてもなんで~神田君がいるの~?」
「いやいや、荒川会長に呼ばれて来たんですよ。なんかまた妙なことでしたけど」
「あらら~また世間知らずが失礼しちゃってごめんね~。でも大丈夫~だよ~。ただトバリが呼び出したのは、君にかまってほしいだけなんだからさぁ~」
「ひゃああああああああああああああああああああああああ!! やめて! 今すぐ! そんな恥ずかしいこと言わないで! 馬鹿馬鹿! なんで言っちゃうのさ!?」
サリー先輩がいたずらのように言った言葉で、会長がまるで瞬間的に熱した鉄か何かのような真っ赤っか具合で頭をパイロさせて、サリー先輩に巻くしたて始めた。
うすうす俺も気づいていたことなのだが、会長それで隠せていたつもりなのか。
鈍感系主人公たる才能を見せたほうが、会長の尊厳も守れるんだろうが、そこは残念だが、察しが良い方であることに少し後悔している。
「わ、私は、ただわからないことがあったらいつでも聞いていいと、彼が言ったからそうしてるだけであってだね? べ、別にこれっぽっちも恋心なんて持ってないし、頼れる可愛い私の後輩ぐらいにしか思ってないんだからね!」
「う~ん、ベッタベタじゃない~。こっちまで~恥ずかしいよ~」
一体俺にどうしろと言うのだろうか。
じっとりと俺の方を見つめてくるサリー先輩の視線を少し避けつつ、めちゃ可愛く荒川会長を見つめていると
「「あっ・・・」」
目が合った。
「あぁぁぁああ・・・・・・」
みるみるうちに顔の赤みが増していく。まるでリンゴ飴のようなほどの赤さにまでなっていく会長。ちなみに会長はロシア人とのハーフ故、かなりの色白なので顔の赤みが一層際立つ。
「さよならぁああああ!!!」
「あ、会長!?」
会長が大声を上げたかと思うと、目にもとまらぬ早さで生徒会室から飛び出していった。
サリー先輩もあきれ果てたようにやれやれポーズを取っているのだが、追っていかないのだろうか。そういう俺もあまりにも唐突な逃走だった故に追いかけられなかったわけだが。
「あぁ~いいよ~追わなくって~。ああなったトバリちゃんはなかなか面倒だから~」
それでいいのかな・・・・・・なんだか妙な罪悪感だけはあるんだけど。
「あ~でも私はトバリちゃん追わないとね~。面倒だけど~」
それでいいのか親友様よ?
とりあえず面倒な会長の相手をしに、サリー先輩もマイペースな歩みで生徒会室を退室していった。本当にマイペースで、まるでこれから散歩にでも出かけるがごとく足取りは軽くて、のろい。
「・・・・・・俺一人になっちまったな」
「・・・・・・私もいますが?」
「うおっ!!!?」
びっくりした。2cmほど地面から浮くほど。
俺が声のした、本棚側の机がある方を振り返る。
「えっ・・・?」
そこには黒髪を夕日に写し、まるで夜空を連想させるかのような、美しい美少女がおわした。
目は多少きつめにつり上がり、口の輪郭が少し下がっているが、それでもぷるぷると艶のあるのを感じさせる唇。なによりも瞳がきらきらと潤んでおり、吸い込まれるような黒真珠のごとき深い美しさを持った少女がいた。
だ、誰だこいつ・・・・・・? 生徒会メンバーにこんなやついたか?
「き、君は・・・・・・?」
「退任した二階堂先輩の席に入った、一年生の三崎麗奈です」
に、二階堂先輩って言うと、女の子なのに女子をナンパしまくって生徒会で注意処分の嵐をもらってやめてった書記のことか・・・・・。
というかこんな美少女なら俺が部屋に入ってきた時点でわかると思うんだが・・・・・・。
「えっと、今日はいつからここに?」
「だいたい、『なんのご用ですか?』のあたりからですかね」
最初っから居たということか。
というか入ったタイミングがほぼ一緒ってことか。気づかなかった。
「「・・・・・・」」
き、気まずい! 気まずすぎる!
なんだこの妙に居心地の悪い環境は。三崎さんもなんだかそわそわしてらっしゃるのがわかる。
流石に異性と二人っきりで一つの部屋にいるのはまずかったか?
そう思い俺は声を出そうとした。
「「あの・・・・・・」」
く、くそ! こんな偶然いらない! というかまた気まずくなるだけだから神様こういうのは一回に絞ってやってくれれば十分だし、起こる確率少しでも乱数調整しといてよ、頼む。
「「お、お先にどうぞ」」
だからもおおおおおおおおおおおお!
なんだおまえ割とわざとやってるんじゃなかろうな!?
いや、落ち着け。俺も頭に血が上っているんだ。多少なりとも気があうだけで、かなり幸運とも言うべき青春ビッグチャンスをものにするっきゃないわけだから慎重にな。
「こほん、えっと・・・・・・クラスはどこなの?」
ありきたり・・・・・・というかストーカー予備軍にでもなるかのような質問は今すぐにやめるべき、もれなくポリスのしょっぴきでお陀仏でーす。
「二組ですよ」
おぉ!? もれなく答えてくれたこの子の優しさに是非とも拍手を俺の中の観客ども!
・・・・・・ってか二組ってことは禄の居るクラスじゃねえ?
「じゃあロクのクラスメイトか」
「はい!そうです!」
元気いっぱいに返事を返してくる三崎。一方の俺はその華やいだ笑顔に完全にハートをショットされていたわけだが、ここでときめいていてはこの先どんな恋愛イベントでもこなせないであろうことが目に見えているため、ここは耐えろ俺。もだえるな俺。
次の質問をして少しでも好感度を稼ぐんだ俺!
「ロクとは仲がいいの?」
「いいえ・・・・・・その、あんまり話したこともなくって」
むむむ、笑顔から一転、夕暮れのごとく暗い顔にさせてしまった・・・・・・この質問はだめだったようだ。
というか俺しゃべりすぎでは? もしかしたら三崎も俺の話が無駄に長くってうんざりしてて居心地悪そうにしているのでは? あぁ足が若干いらついたようにローファーの底をならしてるし。
「あの、先輩・・・・・・」
「おう?」
俺が考え込んで震えていると、正面で椅子に座っている黒髪の美少女は髪をくりくりと人差し指に巻き込みながら、照れたように言うのだ。
「――相談が、あるんです」
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