1 / 3
1章 入れ替わり
第1話 クロノ王子
しおりを挟む
第一王子のクロノ・グランツはとある男に捕らえられた。捕らえた男は、自分と全く同じ顔をしていた。捕らえられたクロノに彼は、こう言った。
「俺はフォーゼ、今は盗賊をやらしてもらってるんだ。とあるお偉いさんから、『この国の第一王子、クロノに成り済ませ』って依頼を受けたのさ」
フォーゼは言葉の通りたった数刻でクロノ王子に成り代わり、優雅な暮らしを得た。対してクロノはボロボロの服を着せられ、とある農村に追いやられたのだ。
「僕は一体、どうしたらいいんだ……?」
これは、王子であるクロノが同じ顔に生まれた盗賊フォーゼとの入れ替わりを強いられた話である。
ここはグラン王国の王城。数十年に渡って国を統治してきたグランツ家は、現王リカルド・グランツと王妃エルザ・グランツの手腕によって支えられている。
その実子の長男クロノは、今朝も定刻通りに目を覚ました。
「おはようございます、クロノ様」
「ああ、おはようハンス」
起き上がったクロノに声をかけたのは、執事のハンスである。ハンスはクロノの姿勢や鍛錬の教師役を務めており、整った白い口髭と黒の執事服が様になっている。
「何か変わったことはあったか?」
「いいえ、平常通りでございます」
「それは何よりだ」
ベッドから出たクロノは着替えて襟を正す。寝起きには必ずボサボサになってしまうショートの青髪を櫛で整える。毎日同じ動きで支度をするのは、幼少期から習慣になっている。真面目なクロノにとっていつもと違う行動を取ると著しくやる気を失ってしまうのだ。
「本日は午前に授業、午後にはユリア様とお食事のご予定がございます」
「いつもやっている、騎士団に交じっての剣術の稽古は無いのか?」
「昨日は倒れるまで稽古をなさったのですから、今日は体を徹底的に休ませる日ですよ。毎日倒れるまで鍛えるのは逆効果だと何度も申しているではありませんか」
クロノは一度やると決めたらやりすぎてしまうきらいがある。父リカルドから『王族たるもの、自身も戦えるよう鍛えておくのだ』と言われてから、鍛錬をサボった事は一度もない。寧ろ休めと止められてしまうほどだ。今もハンスの言葉に納得がいかない様子である。
「そうか……。だが、自主練はしてもいいんだよな?」
「私の話聞いてました?」
ハンスは額に手を当てて大きくため息をついた。クロノが小さいころからの付き合いであるハンスは、時々遠慮のない言葉をぶつけることがある。
「忘れもしませんよ。私が『一晩中剣を振り続ける位の覚悟をお持ちください』と心構えの話をしたら、本当に一晩中振り続けて倒れてしまったあの日の衝撃を……」
「あれは本当に必要だと思ったからやったんだが、まさか物の例えだったとは……」
「人の言葉を真に受けすぎです。クロノ様は時々、常識から外れた行動をなさるので心配なのですよ」
クロノはかなり純粋な人間だ。指示された事は忠実にこなし、教えられた事は着実に身につける。そして自分の信じた事はとことんやるという彼の性格は、教育係であるハンスにとっては信頼できるものだが、それ以上に不安の種ともなっていた。
「大丈夫だハンス。僕は、信頼できる人間の言葉しか聞かない」
「ええ、その点は重々承知しておりますよ。ですがクロノ様。例え身近な人間であっても、嘘や裏切りは起こりえるのですから、常に意識しておく必要があるのです」
「なに、少なくともグランツ家に仕える人間であれば、問題は無いだろう」
「……まあ、そうですな」
クロノの真っすぐな言葉に、ハンスは何かを飲み込んで同意した。
「……しかしハンス、貴方も昔僕と同じように一晩中走り込みをして倒れた事があると聞い――」
「この話は終わりに致しましょう」
「おいこら」
実は昔のハンスも同類なのだった。元騎士団の頃のハンスも突っ走りすぎる性格だったようで、よく暴走しては失敗を繰り返していたらしい。似たような経験をしたハンスは、なおのことクロノを気に掛ける理由となっている。
「俺はフォーゼ、今は盗賊をやらしてもらってるんだ。とあるお偉いさんから、『この国の第一王子、クロノに成り済ませ』って依頼を受けたのさ」
フォーゼは言葉の通りたった数刻でクロノ王子に成り代わり、優雅な暮らしを得た。対してクロノはボロボロの服を着せられ、とある農村に追いやられたのだ。
「僕は一体、どうしたらいいんだ……?」
これは、王子であるクロノが同じ顔に生まれた盗賊フォーゼとの入れ替わりを強いられた話である。
ここはグラン王国の王城。数十年に渡って国を統治してきたグランツ家は、現王リカルド・グランツと王妃エルザ・グランツの手腕によって支えられている。
その実子の長男クロノは、今朝も定刻通りに目を覚ました。
「おはようございます、クロノ様」
「ああ、おはようハンス」
起き上がったクロノに声をかけたのは、執事のハンスである。ハンスはクロノの姿勢や鍛錬の教師役を務めており、整った白い口髭と黒の執事服が様になっている。
「何か変わったことはあったか?」
「いいえ、平常通りでございます」
「それは何よりだ」
ベッドから出たクロノは着替えて襟を正す。寝起きには必ずボサボサになってしまうショートの青髪を櫛で整える。毎日同じ動きで支度をするのは、幼少期から習慣になっている。真面目なクロノにとっていつもと違う行動を取ると著しくやる気を失ってしまうのだ。
「本日は午前に授業、午後にはユリア様とお食事のご予定がございます」
「いつもやっている、騎士団に交じっての剣術の稽古は無いのか?」
「昨日は倒れるまで稽古をなさったのですから、今日は体を徹底的に休ませる日ですよ。毎日倒れるまで鍛えるのは逆効果だと何度も申しているではありませんか」
クロノは一度やると決めたらやりすぎてしまうきらいがある。父リカルドから『王族たるもの、自身も戦えるよう鍛えておくのだ』と言われてから、鍛錬をサボった事は一度もない。寧ろ休めと止められてしまうほどだ。今もハンスの言葉に納得がいかない様子である。
「そうか……。だが、自主練はしてもいいんだよな?」
「私の話聞いてました?」
ハンスは額に手を当てて大きくため息をついた。クロノが小さいころからの付き合いであるハンスは、時々遠慮のない言葉をぶつけることがある。
「忘れもしませんよ。私が『一晩中剣を振り続ける位の覚悟をお持ちください』と心構えの話をしたら、本当に一晩中振り続けて倒れてしまったあの日の衝撃を……」
「あれは本当に必要だと思ったからやったんだが、まさか物の例えだったとは……」
「人の言葉を真に受けすぎです。クロノ様は時々、常識から外れた行動をなさるので心配なのですよ」
クロノはかなり純粋な人間だ。指示された事は忠実にこなし、教えられた事は着実に身につける。そして自分の信じた事はとことんやるという彼の性格は、教育係であるハンスにとっては信頼できるものだが、それ以上に不安の種ともなっていた。
「大丈夫だハンス。僕は、信頼できる人間の言葉しか聞かない」
「ええ、その点は重々承知しておりますよ。ですがクロノ様。例え身近な人間であっても、嘘や裏切りは起こりえるのですから、常に意識しておく必要があるのです」
「なに、少なくともグランツ家に仕える人間であれば、問題は無いだろう」
「……まあ、そうですな」
クロノの真っすぐな言葉に、ハンスは何かを飲み込んで同意した。
「……しかしハンス、貴方も昔僕と同じように一晩中走り込みをして倒れた事があると聞い――」
「この話は終わりに致しましょう」
「おいこら」
実は昔のハンスも同類なのだった。元騎士団の頃のハンスも突っ走りすぎる性格だったようで、よく暴走しては失敗を繰り返していたらしい。似たような経験をしたハンスは、なおのことクロノを気に掛ける理由となっている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる