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第29話 主人公の選ぶ力
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こうして彼女から相談を受けるのも、もう何度目だろうか。思えばリリアは僕の事をずっと信じてくれていた。今もユークリウッド家にはるばる来ては、二人きりになって相談を持ち掛けてきてくれている。
「それじゃあ、リリアさんの相談について……」
「相談の前に……ハルト君は大丈夫なのですか?」
「へ? 何がですか?」
「先程まで表情が暗かったので、それにさっきの言葉は……」
「いえいえ、全然問題ないですよ!」
「そうですか……?」
大丈夫だとちょっと大袈裟に頷いて見せる。ここで僕の悩みの話をするのは忍びないし、余計な心配をかけてしまうだけだ。
「では……。私がこれからお話しすること、笑わずに聞いていただけますか?」
「は、はい」
一体どんな話なのだろうか、と唾を飲み込む。するとリリアの口からは、確かに他の人なら信じてくれないような話を始めたのである。
「この学園に編入してから……時々、私の中で奇妙なことが起き始めました」
「おかしなこと?」
「私が何をしようかと考え始めると……私が選べそうな行動を文字で書いている窓のようなものが、頭の中に浮かび上がってくるようになったのです」
「それってまさか……選択肢!?」
「選択肢……そうですね、その言葉が一番合っています」
ゲームのシステムがリリアの行動に大きな影響を与えている、という想定外の内容だった。当人は自分が主人公である等のゲーム的な自覚は無く、自分の知らない謎の現象に戸惑っている、といった様子だ。ここがゲームの世界であることを知らない、かつ転生者でもないという事がこれではっきりとわかった。更なる確認のために、僕は話を続ける。
「選択肢の内容って、どんな内容なんですか?」
「そうですね……大抵はシリウス様、クロード様、ノエル様のどなたかと関わる可能性のあるものでした。お三方が嫌というわけでは無いのですが……何者かに誘導されているかのようで、気味の悪い感覚でした」
(この間のお出かけの時にしたあの質問は、選択肢が出てきていたからだったのか)
ゲームの基本は、主人公の行動によって物語が動き、プレイヤーの選択によってたどり着く展開が変わる。しかしそこに主人公の意思はあるのだろうか。もしも自分が知らない誰かに行動を決められる日々を過ごせと言われたら、たまらなく嫌になるだろう。
「なので多少強引に選択肢と違うことをしてきました。何度も君を無理に突き合わせてしまって、ごめんなさい」
「……はは、そういうことか」
僕の中で、何かが嵌まってしまった。リリアは選択肢を避ける行動をしてきただけだった。ハルトは選択肢に無い存在だった。選択肢に無い相手を選んでシステムの誘導から逃れていただけ。つまりそれは……。
(…………サブキャラなら『誰でも良かった』んじゃないか)
僕はサブキャラであることを思い出させられた。この世界に来てから少しだけ憧れた、『代わりのいない存在』になんてなれるはずが無かった。これまで積み上げてきた物が、崩れ落ちていったような気がした。
「あ……ごめんなさい。笑わないでって約束してたのに」
「……ハルト君?」
「その話は、信じます。選択肢と違う行動をしてきた、んですよね。これまで僕なんかと一緒にいてくれたのは、そういう事だったんだ……」
「っ!? 違います! そういう訳じゃ……」
僕は、唯一無二とは無縁のキャラクターだ。例えゲーム世界のサブキャラに乗り移ったとしても、これだけは揺るがなかったということだ。
「いいんです。わかっていたんです。僕は誰にも選ばれない。これまでも、……これからも」
「ハルト君!」
「今日は、部屋に戻ります。……もう、わざわざ僕を代わりにしなくてもいいですから」
彼女が何かを言う前に、僕は応接室から飛び出して部屋のベッドに潜り込んだ。それからどうなったのか、よく覚えていない。ただ一つ覚えていたのは、僕がハルトになってから初めて、枕を濡らす事になってしまったという事実だった。
「それじゃあ、リリアさんの相談について……」
「相談の前に……ハルト君は大丈夫なのですか?」
「へ? 何がですか?」
「先程まで表情が暗かったので、それにさっきの言葉は……」
「いえいえ、全然問題ないですよ!」
「そうですか……?」
大丈夫だとちょっと大袈裟に頷いて見せる。ここで僕の悩みの話をするのは忍びないし、余計な心配をかけてしまうだけだ。
「では……。私がこれからお話しすること、笑わずに聞いていただけますか?」
「は、はい」
一体どんな話なのだろうか、と唾を飲み込む。するとリリアの口からは、確かに他の人なら信じてくれないような話を始めたのである。
「この学園に編入してから……時々、私の中で奇妙なことが起き始めました」
「おかしなこと?」
「私が何をしようかと考え始めると……私が選べそうな行動を文字で書いている窓のようなものが、頭の中に浮かび上がってくるようになったのです」
「それってまさか……選択肢!?」
「選択肢……そうですね、その言葉が一番合っています」
ゲームのシステムがリリアの行動に大きな影響を与えている、という想定外の内容だった。当人は自分が主人公である等のゲーム的な自覚は無く、自分の知らない謎の現象に戸惑っている、といった様子だ。ここがゲームの世界であることを知らない、かつ転生者でもないという事がこれではっきりとわかった。更なる確認のために、僕は話を続ける。
「選択肢の内容って、どんな内容なんですか?」
「そうですね……大抵はシリウス様、クロード様、ノエル様のどなたかと関わる可能性のあるものでした。お三方が嫌というわけでは無いのですが……何者かに誘導されているかのようで、気味の悪い感覚でした」
(この間のお出かけの時にしたあの質問は、選択肢が出てきていたからだったのか)
ゲームの基本は、主人公の行動によって物語が動き、プレイヤーの選択によってたどり着く展開が変わる。しかしそこに主人公の意思はあるのだろうか。もしも自分が知らない誰かに行動を決められる日々を過ごせと言われたら、たまらなく嫌になるだろう。
「なので多少強引に選択肢と違うことをしてきました。何度も君を無理に突き合わせてしまって、ごめんなさい」
「……はは、そういうことか」
僕の中で、何かが嵌まってしまった。リリアは選択肢を避ける行動をしてきただけだった。ハルトは選択肢に無い存在だった。選択肢に無い相手を選んでシステムの誘導から逃れていただけ。つまりそれは……。
(…………サブキャラなら『誰でも良かった』んじゃないか)
僕はサブキャラであることを思い出させられた。この世界に来てから少しだけ憧れた、『代わりのいない存在』になんてなれるはずが無かった。これまで積み上げてきた物が、崩れ落ちていったような気がした。
「あ……ごめんなさい。笑わないでって約束してたのに」
「……ハルト君?」
「その話は、信じます。選択肢と違う行動をしてきた、んですよね。これまで僕なんかと一緒にいてくれたのは、そういう事だったんだ……」
「っ!? 違います! そういう訳じゃ……」
僕は、唯一無二とは無縁のキャラクターだ。例えゲーム世界のサブキャラに乗り移ったとしても、これだけは揺るがなかったということだ。
「いいんです。わかっていたんです。僕は誰にも選ばれない。これまでも、……これからも」
「ハルト君!」
「今日は、部屋に戻ります。……もう、わざわざ僕を代わりにしなくてもいいですから」
彼女が何かを言う前に、僕は応接室から飛び出して部屋のベッドに潜り込んだ。それからどうなったのか、よく覚えていない。ただ一つ覚えていたのは、僕がハルトになってから初めて、枕を濡らす事になってしまったという事実だった。
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