サブキャラへのゲーム転生は、思ったより大人しくしていられない

こなひー

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第31話 主人公は何度でも選ぶ

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「……ここが、ユークリウッド家で使われる儀式用の祭壇……」

 セレナに連れられて来たのは、シリウスルートにおいてハッピーエンドの象徴とされる最後の場所だった。教会のような荘厳な雰囲気とは裏腹に、複数の色を使ったステンドグラスからの光で空間が彩りを持っている。部屋の中央に大きく構えているのは慈愛の女神を象った僕の二倍ほどの大きさがある像。前方に伸ばした両手は差し込む光を手で包み込むようになっている。周囲の花壇にはこれまた多彩な花達が惜しげもなく植えられている。

(リリアはここでシリウスと結ばれて祝福の加護を授かる……だったっけ)

 僕がプリ庭で見た最初のエンディングだったから、よく覚えている。ゲームが上手じゃなかった僕にとって、初めてのクリアは達成感に満ちていた。ただ、このことを嬉々として妹に報告したら『おー、じゃあ残りのエンディングも頑張ってねー』とあっさり流されてしまった。

「あの時は、この場所に辿り着けたことがあんなに嬉しかったのになぁ」

 今はどうだろうか。実際に僕がサブキャラになって、ゲーム通りのシナリオから大きく外れてしまった。シリウスのルートだったはずなのに、ここに来たのはサブキャラであるハルトだけ。僕にとってのハッピーエンドは存在しない事を思い知らせるかのように、慈愛の女神像に光は当たっていない。ただ空が曇っているだけだ、という考えに今の僕は至ることができない。

「何で僕が来ちゃったんだろうなぁ。セレナもいつの間にか居なくなってるし、もう出よう……」

 バァンッ!

 この部屋にこれ以上僕がいるべきじゃない。そう思い踵を返したところで、祭壇に大きく響く音を立てながら、扉が勢いよく開かれた。

「ハルト君っ!」
「うひゃあ!?」

 入ってきたのはこのプリ庭の主人公、この場所にふさわしい人物であるリリアだった。先程まで静かだった祭壇で突然名前を呼ばれて体が跳ね上がってしまった。息を切らしている様子から、ここまで走ってきたのだろう。僕がいることを確認した彼女は、歩みを止めずに僕のいる女神像の前まで来た。

「どうしてここに!? あれ、まだ授業中のはずじゃ?」
「シリウス様とエマ様に、授業はいいから今すぐ行きなさいって背中を押されまして……この場所まではセレナさんに案内していただきました」
「また兄さんは……って、エマさんも?」
「はい」

 シリウスとセレナが、ここで僕をリリアと合わせようと示し合わせたのだろうということを何となく察した。けれど、エマがリリアの背中を押したのはどうしてだろう。二人が信頼関係を築いているという話は聞いたことがない。僕が不思議そうにしていることに気づいたリリアは説明をしてくれた。

「誤解が解けた後、エマ様には、シリウス様のいる場所を教えていたんです」
「兄さんのいる場所って……わかるんですか?」
「前にお話しした通り、私の頭には選択肢が浮かんでくるんですよ」
「あ、そっか。選択肢の一つが兄さんの居場所なのか」
「そういう事です。どうせ浮かんでくるのなら、活かそうと思いまして。微力ながらエマ様の手助けをさせてもらっていたんです」
「……皆、すごいなあ」

 皆、自分の替えが効かない役割を持っている。リリアはこれまで悩みとして抱えていた選択肢を、エマのために活かして見せた。そんな使い道があるなんて、思いもしなかった。ハルト……僕はそんな風に誰かの役に立つことができない。

「僕には、そういうのが無いから。誰かの代わりで精一杯です。……もっとも、代わりですらも出来てなかったんですけど」
「っ!」

 思わずリリアから目を背けて、背中を向けてしまう。自分でも良くない事を言っているのはわかっている。けれど、僕には邪魔にならないサブキャラすら務めきることが出来なかった。この事実が僕の存在を否定してくる。これ以上、皆の邪魔をしてはいけない。そう思ってリリアから離れようとしたのだが……。

 ギュッ!

「へっ!?」
「……」

 リリアに後ろから抱きしめられて、歩き出すのを止められた。背中が柔らかくて温かい感触に包まれる。力いっぱい抱きしめられているのもあるけれど、初めての感覚に戸惑いすぎて体が硬直しまっていて動くことができなかった。

「君は一体、誰の代わりなんですか?」
「えっ? それは……」

 もちろんハルトの……と言いかけて、止める。リリアは僕の前世云々の事情を知らないし教えていない。それに、きっと彼女は今そんな話がしたいわけではなさそうだ。
 
「私は! 君が選択肢になかったからなんて理由で選んだわけじゃありません!」
「……!」

 強引に僕の向きを動かして、向かい合った状態になる。リリアの腕はしっかりと僕の体を包みこんでいて、リリアの瞳に僕が映っているのが見えるほどに近い。

「誰かの代わりに君を選ぶなんてありえません! これまで私と一緒に居てくれたのは、貴方だけです! 私は、ほ他の誰かではなくハルト君の事が大好きなんです!」

 彼女は二度と僕が勘違いしてしまわないようにと、本気で直接思いをぶつけてきた。リリアが言い切った後、祭壇には数秒間の沈黙が流れる。僕から目を逸らさないまま、僕の返事を待っている。

「……でも、僕なんかじゃ……」

 それでも、僕は自分の意志を言い出せない。ここで僕もそうだと言えたらどんなに良いだろうか。目の前の彼女もそれを望んでいるはずなのに。こういう土壇場で動けなかったから、前世で後悔を残したまま死んでしまったというのに、今更踏み出せるものかと影のような何かに止められてしまう。

「これでもまだ足りませんか? でしたら……!」
「えっ!? リ……」

 僕を止めていた陰から強引に引っ張り出されて、気が付くと僕と彼女の唇が、重なっていた。
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