冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった

こなひー

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第1章 思いがけない交渉

第4話 飲み会開始

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 仕事時間が終わり、予定通りに開発部での飲み会が始まった。部内での交流をより広めることが目的のため、席は自由となっている。普段は仕事以外で話さない人が生活の話をしていたり、気になるあの人へ話しかけたりと、各々が新鮮な交流を楽しんでいる。
 そんな中、健斗と聡一、加えて小里はと言うと……。

「……いや、結局俺たちで固まっちゃってるじゃんよー」
「これじゃあ面白味無いじゃないですかー」
「……別にいいだろ、楽だし」
「そうですけどー……」
「もうちょっとこう、新しい流れというかさー……」

 健斗、聡一、小里の三人はオフィスでの座席と同じように座っていた。周囲からも何となくいつもの三人だなー、と流されている状態である。途中で移動することも可能なのだが、一度腰を下ろしてしまうと中々動くのが面倒に感じるものである。

「けど音無は良いのか? あの人のところに行かなくて」
「あー、上の人たちに囲まれていて大変だろうからな」
「正確には上の男たち、だけどなー」
「音無先輩強がっちゃってー、本当は行きたいくせに」
「……今行っても埋もれるだけだろ」

 玲は健斗から見える位置にはいるものの、お互いの会話が周囲の喧騒で埋もれてしまう程度の距離がある。あの玲と会話ができる機会だという事で下心見え見えな上司たちに囲まれており、とても健斗の入る余地は無さそうだった。

「こりゃ、機会は訪れそうにねーなー。残念だったな、音無」
「こうなると予想はついてたからな、問題ない」
「強がりがすぎますよ先輩、握ってるコップが割れちゃいそうなんですけど」

 聡一に肩を軽く叩かれながらわかりやすく落ち込む健斗の様子を見て、小里は気を使って話題を変えることにした。

「そ、そういえば先輩! あれって結局一度も使ってないんですかー?」
「ああ、音無んちの防音室の話か? 嘘だろ結局一度も?」
「あー……、最近はもう物置化が進んでるよ」

 聡一と小里は健斗が防音室を持っている事を既に知っている。加えてその部屋を全く使えていないという事も同じく知っており、時々話に上がっては使っていないことを思い出すという恒例の話題となっていた。

「新しい趣味を見つけるために買ってみたのは良いが、仕事が思ったより捗ってしまったからな」
「前にも聞いたかもですけど、不満じゃないんですかー?」
「今はもう全然やる気無くなっちまったからな、別にどうしてもしたかったわけでもないし」
「もったいねえなー……。一人暮らし始める時、そこにほとんど費用使ったんだろ?」
「ああ、家具は最低限のものしかなくなっちゃったしな……飾り部屋もいいとこだ」

 あまりに状態がひどくならないようにたまに掃除はしている。しかし使用していないお陰で全く変わり映えせずに放置されている始末だった。もし今の状況で使うとしたら、と健斗は思いついた案を出す。

「泉先輩みたいに在宅勤務になったら、いい具合に使えるかもな」
「……あー、確かに集中できそうですねー」
「仕事に使うのかよ……」

 健斗の遊びじゃなく仕事で使うという思考に、二人はわかりやすくテンションが下がった返事をした。
 
「音無お前、本当に会社の従順な犬になっちまったな……」
「その言い方は止めてくれ。違うから」
「そうですよ、音無先輩は犬ですよ!」
「それな!」
「犬の方を変えろっつーの」

 三人の会話はそのまま飲み会の終わりまで続きそうだったが、しばらく談笑した後に聡一と小里はゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、俺たちは他の課の知り合いの所に行ってくるわ」
「友達少ない先輩は、のんびりしていてくださいねー」
「余計な事を言わんでいい、さっさと行ってこい」
「はーい」

 二人は健斗から離れていった。健斗は腰を動かさず一人でぼんやりとし始めた。健斗は小里に友達が少ないと揶揄われたが、悲しきかなその通りなのである。しかし健斗にとってそれはどうでもよく、別の事で頭がいっぱいだった。それは健斗が飲み会に参加した最大の動機である。

「はぁ……、泉さんと話したかったなぁ……」

 つい口に出てしまうほど、健斗は熱望していたのだ。いつもチャット上で業務のやり取りしかしてこなかった憧れの玲と、何でもいいから話をしてみたいと思っていた。もう飲み会も終盤の時間であり、もう望めないかと思っていた……その時だった。
 
「ええ、私もです。音無君」
「え……はっ!? い、泉さん!?」
「はい。なので今から話しましょう、隣失礼しますね」
「は、はい……!」

 健斗に奇跡のような出来事が、起こったのだった。
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