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第2章 契約開始
第2話 最初の定時
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会社に就業のチャイムが鳴り響く。健斗は今日分の作業を終えていたため帰宅の準備を進める。玲とチャットのやり取りをする時、表情でバレないように口を右手で覆うようにし始めた。
『お疲れ様です。作業を終了しましたので、十九時頃に帰宅します』
『わかりました、荷物を纏めて玄関で待機しておきます』
(流石泉さん、返信がめっちゃ早い)
帰宅時間を伝えて直ぐに返事が返ってきた。それに安心した健斗はパソコンを閉じて席から立ちあがる。周囲の席を見渡すと、知り合いの顔は見当たらなかった。
「あいつらは席にいないな……。まあいいか、お先に失礼します」
健斗はさっさと退散することにした。帰る時間を既に決めてしまっている事もあるが、彼は自分が隠し事が下手であると自覚しており、あまり多く話しをしてボロが出てしまう事を避けるためでもあった。
その後、すれ違いで聡一と小里は席に戻ってきた。椅子に腰を下ろす前に、健斗がいない事に気づいて軽く周囲を見渡した。
「あれ? 音無もう帰ったのか?」
「鞄ももう無いですし……。え、早くないですか?」
「そんな……俺達に何も言わずに行っちまうなんて……」
「まあ私達が就業時間終わって直ぐに休憩行ってただけなんですけどねー」
二人は多少の疑念は抱いたものの、まあいいかとそこで疑いをかけられるような事は起こらなかった。
健斗は真っすぐ帰る事以外には全く目もくれずに早歩きで家に向かっていた。元から寄り道などを基本しない彼だが、今日は特に遅れたくない理由がある。自宅に到着した健斗は、玲から鍵を受け取るために一度インターホンを押そうとする。
(自分の家のインターホンを押すなんて、変な感じだ)
自分の家のインターホンを久々に見たなと思っていたその時、ガチャッと家の扉が開いた。不意を突かれた健斗は思わず飛びのいてしまう。
「おわ!?」
「音無君、時間通りですね」
「は、はい! ほんとだ、ピッタリ十九時……」
玲は既に帰る準備を終えていたようで、健斗が伝えた時刻ピッタリに扉を開いたのである。その正確さに健斗は舌を巻いた。硬直する健斗に構わず玲は手に持っていた鍵を手渡す。
「鍵をお返しします」
「あ、はい」
「それではお疲れさまでした。明日もよろしくお願いしますね」
「お疲れさまでした……」
やり取りを終えると、玲はあっさりと帰って行ってしまった。あまりのあっさりさ加減に健斗はただ茫然と見送るだけとなった。
マンションの出入り口は、玄関から出たところにいる健斗から見える位置にある。健斗が部屋に入らず、何気なく出入り口を見下ろしていると、階段を降りてきた玲の背中があった。彼女は一度も振り返ることなく歩き去っていく。
(ずっと見てきた後ろ姿だけど、なんか近しく感じるような……)
玲の姿が見えなくなるのを見届けた後、自分の家に入ると部屋はまるで未使用かのように何も変わっていなかった。流石泉さんだと思いつつも、ちょっとぐらい名残を残して欲しかったな、とも思ってしまう。先程まで玲が使っていたであろう机を撫でながら、健斗はここまでの玲との時間を思い返す。
一日の中で玲と会ったのは二度、話した時間はほんのわずかである。しかし健斗にとってはこのわずかな時間が一日の印象を根こそぎ搔っ攫っていた。今日会社で何をして何があったのかを全然覚えていない。
(毎回こんな調子じゃ身が持たないよなあ。……果たして慣れる日が来るんだろうか)
玲との契約が日常に溶け込むのは、まだまだ先になるのであった。
『お疲れ様です。作業を終了しましたので、十九時頃に帰宅します』
『わかりました、荷物を纏めて玄関で待機しておきます』
(流石泉さん、返信がめっちゃ早い)
帰宅時間を伝えて直ぐに返事が返ってきた。それに安心した健斗はパソコンを閉じて席から立ちあがる。周囲の席を見渡すと、知り合いの顔は見当たらなかった。
「あいつらは席にいないな……。まあいいか、お先に失礼します」
健斗はさっさと退散することにした。帰る時間を既に決めてしまっている事もあるが、彼は自分が隠し事が下手であると自覚しており、あまり多く話しをしてボロが出てしまう事を避けるためでもあった。
その後、すれ違いで聡一と小里は席に戻ってきた。椅子に腰を下ろす前に、健斗がいない事に気づいて軽く周囲を見渡した。
「あれ? 音無もう帰ったのか?」
「鞄ももう無いですし……。え、早くないですか?」
「そんな……俺達に何も言わずに行っちまうなんて……」
「まあ私達が就業時間終わって直ぐに休憩行ってただけなんですけどねー」
二人は多少の疑念は抱いたものの、まあいいかとそこで疑いをかけられるような事は起こらなかった。
健斗は真っすぐ帰る事以外には全く目もくれずに早歩きで家に向かっていた。元から寄り道などを基本しない彼だが、今日は特に遅れたくない理由がある。自宅に到着した健斗は、玲から鍵を受け取るために一度インターホンを押そうとする。
(自分の家のインターホンを押すなんて、変な感じだ)
自分の家のインターホンを久々に見たなと思っていたその時、ガチャッと家の扉が開いた。不意を突かれた健斗は思わず飛びのいてしまう。
「おわ!?」
「音無君、時間通りですね」
「は、はい! ほんとだ、ピッタリ十九時……」
玲は既に帰る準備を終えていたようで、健斗が伝えた時刻ピッタリに扉を開いたのである。その正確さに健斗は舌を巻いた。硬直する健斗に構わず玲は手に持っていた鍵を手渡す。
「鍵をお返しします」
「あ、はい」
「それではお疲れさまでした。明日もよろしくお願いしますね」
「お疲れさまでした……」
やり取りを終えると、玲はあっさりと帰って行ってしまった。あまりのあっさりさ加減に健斗はただ茫然と見送るだけとなった。
マンションの出入り口は、玄関から出たところにいる健斗から見える位置にある。健斗が部屋に入らず、何気なく出入り口を見下ろしていると、階段を降りてきた玲の背中があった。彼女は一度も振り返ることなく歩き去っていく。
(ずっと見てきた後ろ姿だけど、なんか近しく感じるような……)
玲の姿が見えなくなるのを見届けた後、自分の家に入ると部屋はまるで未使用かのように何も変わっていなかった。流石泉さんだと思いつつも、ちょっとぐらい名残を残して欲しかったな、とも思ってしまう。先程まで玲が使っていたであろう机を撫でながら、健斗はここまでの玲との時間を思い返す。
一日の中で玲と会ったのは二度、話した時間はほんのわずかである。しかし健斗にとってはこのわずかな時間が一日の印象を根こそぎ搔っ攫っていた。今日会社で何をして何があったのかを全然覚えていない。
(毎回こんな調子じゃ身が持たないよなあ。……果たして慣れる日が来るんだろうか)
玲との契約が日常に溶け込むのは、まだまだ先になるのであった。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
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