冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった

こなひー

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第3章 玲は冷に非ず

第4話 台風襲来

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 木曜日の夕方、天気は台風の接近によって大荒れになっていた。オフィスの窓は雨がゴウゴウと打ち付けており、外に出るのは止めておけと言ってきているかのように思える状態だった。

「うへー、この天気じゃ帰るのも一苦労だぜ……」
「私は既に近くのホテル予約しましたよー」
 
 小里は家が遠いため、電車などの都合で帰れるか不安になった時は決まって早めにホテルを予約している。今回もかなり早くから対策をとっていたようだ。
 
「戸村はこういう時だけ行動早いんだよなー」
「前から思ってるんですけど佐々木先輩、私の扱いがずっと酷く無いですか!? ていうかそれを言うなら先輩もじゃないですか!」
「まあな、俺も家が近い知り合いの家に泊めてもらう約束を既にしているぜ!」
「ほんと似たもの同士だなお前ら……」
「佐々木先輩と似てるとか本気で止めてください、鳥肌立ちました」
「俺だって嫌なんだから一人だけ被害者面するの止めてくんない!?」

 二人の思考回路が同じすぎるだろう、と呟きながら健斗は帰り支度を始める。その様子を見た聡一は、一度外を見てまだ風が止まなそうである事を確認してから提案を促す。

「音無の家だったらそこまで遠くないからギリ行けそうかもだけどさー、ここは俺と一緒に近くで泊めてもらったほうが……」
「いや、このくらいなら大丈夫だ。どうにかして帰るよ」
「そっかー、色々物が飛んでたりするらしいから気をつけろよー」
「ああ」
「先輩お疲れさまでしたー」


 会社を出ると、健斗の唯一の防具である傘はものの数分で破壊されてしまった。しかしそれでも帰らなければ家にいる玲が困ってしまう。だから引き下がるわけにはいかないと一心不乱に帰路を辿った。
 
「はぁー、はぁー……。帰れたには帰れたが……やれやれ、全身がびっしょりだ」

 マンションにつく頃には、まるで水浴びでもしてきたかのように濡れていた。全身から雨水が滴り落ちている状態で玄関前に着くと、丁度玲が鍵を開けて姿を見せた。

「おかえりなさい、音無く……ずぶ濡れですね、雨具は持っていかなかったのですか?」
「それが……、傘がこのようにバキバキにされてしまったもので」
「それは大変でしたね、風邪をひかないように気を付けて……」

 ガアァーン!!!

 近くで心臓が飛び出してしまいそうなほどの大きな音がした。恐る恐る音がした方向を見ると、どうやら大きな看板が下の道路まで落ちてきた音だったらしい。マンションの前の道をほとんど塞いでいる状態だ。この調子だとまだまだ物が飛んできて危険である。しかし玲は帰り支度を止めずに玄関から出た。

「それじゃあ、お疲れ様でした。音無君、明日は本社で……」
「ちょ、ちょっと待ってください泉さん! 今出るのはまずいですって!」
「丈夫な雨具や必要な道具は一通り持っているので問題は……」
「そういうレベルじゃない事が今起きたじゃないですか!」

 今玲が持っている傘がいくら丈夫でも、看板などが飛んで来たらひとたまりもないだろう。健斗は絶対に行かせまいと彼女の両肩を掴んでゆっくりと玄関に引き戻す。

「とにかく強風が収まるまでは中にいてください!」
「……わかりました」

 玲は抵抗することなく家の中に戻った。一安心する健斗だったが、濡れた服がまとわりついて体が冷えてきてしまい、思わず体が震えてしまう。

「とりあえず音無君はシャワーを浴びて着替えてください。そのままでは風邪をひいてしまいますよ」
「そうします……。泉さんは気にせず寛いでいてくださいね」
「はい、そうさせて貰いますね」

 健斗はシャワー室へ、玲はリビングに移動する。健斗がシャワーを浴びている最中、玲はテレビで天気の情報を集めていた。結果、この日にとんでもないイベントが始まってしまう事が確定したのであった。
 
「……今晩中は、収まりそうにないみたいですね」
「な、なんてこった……。え、それじゃあまさか……」
「台風の事を考慮して着替えは予め持っていますので、音無君。……今日の一晩だけ、泊めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「え、えぇーっ!?」
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