21 / 57
第3章 玲は冷に非ず
第4話 台風襲来
しおりを挟む
木曜日の夕方、天気は台風の接近によって大荒れになっていた。オフィスの窓は雨がゴウゴウと打ち付けており、外に出るのは止めておけと言ってきているかのように思える状態だった。
「うへー、この天気じゃ帰るのも一苦労だぜ……」
「私は既に近くのホテル予約しましたよー」
小里は家が遠いため、電車などの都合で帰れるか不安になった時は決まって早めにホテルを予約している。今回もかなり早くから対策をとっていたようだ。
「戸村はこういう時だけ行動早いんだよなー」
「前から思ってるんですけど佐々木先輩、私の扱いがずっと酷く無いですか!? ていうかそれを言うなら先輩もじゃないですか!」
「まあな、俺も家が近い知り合いの家に泊めてもらう約束を既にしているぜ!」
「ほんと似たもの同士だなお前ら……」
「佐々木先輩と似てるとか本気で止めてください、鳥肌立ちました」
「俺だって嫌なんだから一人だけ被害者面するの止めてくんない!?」
二人の思考回路が同じすぎるだろう、と呟きながら健斗は帰り支度を始める。その様子を見た聡一は、一度外を見てまだ風が止まなそうである事を確認してから提案を促す。
「音無の家だったらそこまで遠くないからギリ行けそうかもだけどさー、ここは俺と一緒に近くで泊めてもらったほうが……」
「いや、このくらいなら大丈夫だ。どうにかして帰るよ」
「そっかー、色々物が飛んでたりするらしいから気をつけろよー」
「ああ」
「先輩お疲れさまでしたー」
会社を出ると、健斗の唯一の防具である傘はものの数分で破壊されてしまった。しかしそれでも帰らなければ家にいる玲が困ってしまう。だから引き下がるわけにはいかないと一心不乱に帰路を辿った。
「はぁー、はぁー……。帰れたには帰れたが……やれやれ、全身がびっしょりだ」
マンションにつく頃には、まるで水浴びでもしてきたかのように濡れていた。全身から雨水が滴り落ちている状態で玄関前に着くと、丁度玲が鍵を開けて姿を見せた。
「おかえりなさい、音無く……ずぶ濡れですね、雨具は持っていかなかったのですか?」
「それが……、傘がこのようにバキバキにされてしまったもので」
「それは大変でしたね、風邪をひかないように気を付けて……」
ガアァーン!!!
近くで心臓が飛び出してしまいそうなほどの大きな音がした。恐る恐る音がした方向を見ると、どうやら大きな看板が下の道路まで落ちてきた音だったらしい。マンションの前の道をほとんど塞いでいる状態だ。この調子だとまだまだ物が飛んできて危険である。しかし玲は帰り支度を止めずに玄関から出た。
「それじゃあ、お疲れ様でした。音無君、明日は本社で……」
「ちょ、ちょっと待ってください泉さん! 今出るのはまずいですって!」
「丈夫な雨具や必要な道具は一通り持っているので問題は……」
「そういうレベルじゃない事が今起きたじゃないですか!」
今玲が持っている傘がいくら丈夫でも、看板などが飛んで来たらひとたまりもないだろう。健斗は絶対に行かせまいと彼女の両肩を掴んでゆっくりと玄関に引き戻す。
「とにかく強風が収まるまでは中にいてください!」
「……わかりました」
玲は抵抗することなく家の中に戻った。一安心する健斗だったが、濡れた服がまとわりついて体が冷えてきてしまい、思わず体が震えてしまう。
「とりあえず音無君はシャワーを浴びて着替えてください。そのままでは風邪をひいてしまいますよ」
「そうします……。泉さんは気にせず寛いでいてくださいね」
「はい、そうさせて貰いますね」
健斗はシャワー室へ、玲はリビングに移動する。健斗がシャワーを浴びている最中、玲はテレビで天気の情報を集めていた。結果、この日にとんでもないイベントが始まってしまう事が確定したのであった。
「……今晩中は、収まりそうにないみたいですね」
「な、なんてこった……。え、それじゃあまさか……」
「台風の事を考慮して着替えは予め持っていますので、音無君。……今日の一晩だけ、泊めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「え、えぇーっ!?」
「うへー、この天気じゃ帰るのも一苦労だぜ……」
「私は既に近くのホテル予約しましたよー」
小里は家が遠いため、電車などの都合で帰れるか不安になった時は決まって早めにホテルを予約している。今回もかなり早くから対策をとっていたようだ。
「戸村はこういう時だけ行動早いんだよなー」
「前から思ってるんですけど佐々木先輩、私の扱いがずっと酷く無いですか!? ていうかそれを言うなら先輩もじゃないですか!」
「まあな、俺も家が近い知り合いの家に泊めてもらう約束を既にしているぜ!」
「ほんと似たもの同士だなお前ら……」
「佐々木先輩と似てるとか本気で止めてください、鳥肌立ちました」
「俺だって嫌なんだから一人だけ被害者面するの止めてくんない!?」
二人の思考回路が同じすぎるだろう、と呟きながら健斗は帰り支度を始める。その様子を見た聡一は、一度外を見てまだ風が止まなそうである事を確認してから提案を促す。
「音無の家だったらそこまで遠くないからギリ行けそうかもだけどさー、ここは俺と一緒に近くで泊めてもらったほうが……」
「いや、このくらいなら大丈夫だ。どうにかして帰るよ」
「そっかー、色々物が飛んでたりするらしいから気をつけろよー」
「ああ」
「先輩お疲れさまでしたー」
会社を出ると、健斗の唯一の防具である傘はものの数分で破壊されてしまった。しかしそれでも帰らなければ家にいる玲が困ってしまう。だから引き下がるわけにはいかないと一心不乱に帰路を辿った。
「はぁー、はぁー……。帰れたには帰れたが……やれやれ、全身がびっしょりだ」
マンションにつく頃には、まるで水浴びでもしてきたかのように濡れていた。全身から雨水が滴り落ちている状態で玄関前に着くと、丁度玲が鍵を開けて姿を見せた。
「おかえりなさい、音無く……ずぶ濡れですね、雨具は持っていかなかったのですか?」
「それが……、傘がこのようにバキバキにされてしまったもので」
「それは大変でしたね、風邪をひかないように気を付けて……」
ガアァーン!!!
近くで心臓が飛び出してしまいそうなほどの大きな音がした。恐る恐る音がした方向を見ると、どうやら大きな看板が下の道路まで落ちてきた音だったらしい。マンションの前の道をほとんど塞いでいる状態だ。この調子だとまだまだ物が飛んできて危険である。しかし玲は帰り支度を止めずに玄関から出た。
「それじゃあ、お疲れ様でした。音無君、明日は本社で……」
「ちょ、ちょっと待ってください泉さん! 今出るのはまずいですって!」
「丈夫な雨具や必要な道具は一通り持っているので問題は……」
「そういうレベルじゃない事が今起きたじゃないですか!」
今玲が持っている傘がいくら丈夫でも、看板などが飛んで来たらひとたまりもないだろう。健斗は絶対に行かせまいと彼女の両肩を掴んでゆっくりと玄関に引き戻す。
「とにかく強風が収まるまでは中にいてください!」
「……わかりました」
玲は抵抗することなく家の中に戻った。一安心する健斗だったが、濡れた服がまとわりついて体が冷えてきてしまい、思わず体が震えてしまう。
「とりあえず音無君はシャワーを浴びて着替えてください。そのままでは風邪をひいてしまいますよ」
「そうします……。泉さんは気にせず寛いでいてくださいね」
「はい、そうさせて貰いますね」
健斗はシャワー室へ、玲はリビングに移動する。健斗がシャワーを浴びている最中、玲はテレビで天気の情報を集めていた。結果、この日にとんでもないイベントが始まってしまう事が確定したのであった。
「……今晩中は、収まりそうにないみたいですね」
「な、なんてこった……。え、それじゃあまさか……」
「台風の事を考慮して着替えは予め持っていますので、音無君。……今日の一晩だけ、泊めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「え、えぇーっ!?」
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる