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第2話 友田義人は何故好感度を知っているのか
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転機は一月ほど前。青野卓哉は休み時間の教室で、突如奇妙な事を言い出したのが始まりだった。
『俺、このギャルゲー世界の主人公だったわ! 前世の記憶を思い出したんだよ!』と。
義人や周囲の人間からしたら、ただの痛い奴にしか見えない。クラスメイトは皆ドン引きである。正面から聞いていても全く理解が追い付かない義人を置いてけぼりにしたまま、卓哉は更に続ける。
『友田、お前は俺にヒロイン攻略のためのサポートキャラだ、彼女たちの好感度を聞き出して俺に教えるキャラだからよろしくな!』と義人の肩に手を置いて満面の笑みを浮かべていた。
(あの時から、あいつはおかしくなっちまったんだよな……)
今年から同じクラスになり、そこそこ話すようになった相手から急にそんな事を言われた義人は、それはもう困惑した。お前はサポートキャラだ、特定の女子から好感度を聞いてくるのが役目だ、などと言われても飲み込めるわけが無い。
義人は何度も卓哉に反論したが、自称主人公は聞く耳を持たなかった。そしてついに折れた義人は、卓哉の言うサポートキャラを渋々こなしている。
結論として、青野卓哉は主人公ではない。全ては彼が勝手に始めた妄想物語なのである。そして友田義人は友人サポートキャラでもない。
それならば何故、義人はまだ友人キャラであり続けているのか。
「……と、そろそろ待ち合わせの時間だな。行くか」
義人は開いていた手帳を閉じ、時計を確認しつつ教室を出た。
彼が来たのは学校の近くにあるカフェ。円形のテーブルを囲う席には、同じ学校の制服を着た四人の女子が先に座っていた。義人が来たことに気づいた一人、名波が声をかける。
「友田お疲れー」
「名波もお疲れさん。昨日は災難だったな」
「本当よ。そもそもあいつとお出かけとか全然乗り気じゃなかったのに、向こうから断られるなんて本当最悪! 昔はああじゃなかったのにな……」
「だよなー……」
優紀と義人のため息に、氷織と千紗は苦い顔、夏蓮は少し怯えた表情をする。
「何かあいつ、急に変わっちゃったわよねー。こう、目がギラギラしていて欲まみれっていうか」
「『優紀はメインヒロインで俺にゾッコンなんだ!』とか急に言い出したよな」
「何回聞いてもあの勘違いっぷりにはゾッとするわ。元からアイツの視線には思う所があったけど」
そう呟きながら手を置いた大きめの胸は未だ成長中である。卓哉はその成長を隣からジロジロと見つづけていた。視線に気づきつつも知らんぷりをしていた彼女だが、好感度がまだ四十程あるのは幼馴染みとしての温情なのだろうか。
「それを言ったら、瀬戸先輩の方が災難でしたよね?」
「ええ、昨日は本当にしつこかったから通報しようか迷ったわ」
肩まで伸びた綺麗な黒髪の彼女、氷織は額に手を当てて肩を落とす。生徒会長である彼女は、問題児と称されている卓哉の事を聞いた。そこで彼女は卓哉を更生させるためにあえて接触したのだが、今ではもう諦めに入っているらしい。それほど彼は人の話を聞かなくなっているようだった。
「大変でしたね……。通報しちゃっても良かったんじゃ? もう更生は無理そうですし……」
「更生はもういいの。けれど、会長としてはうちの学校から逮捕者なんて出てほしくないのよ」
「でも、それで自分の身を危うくするのは良くないですよ」
「……ええ、そうね。ありがとう、友田君」
義人の言葉を聞いて、氷織はフッと笑みを浮かべた。普段は人を寄せ付けない冷たい印象を与えがちな彼女だが、心を開いた相手にのみ優しい目を向けるのである。
二人の会話を打ち切るように、茶色いボブヘアーでやや大きめのカーディガンの袖をヒラヒラさせながら千紗がうーんと唸り声を出した。
「あいつ、もうすっかりならず者になっちゃったみたいだねー。あたしの情報網にも、青野がどうしてああなったのかわからんのよー」
「ネトゲの誘いは未だに来るのか?」
「もー毎晩誘ってきてるし鬱陶しいんだよねー。あ、でも昨日うちのパソコンがあいつのメールに『スパムの可能性があります』って警告してきたのはちょっとウケたかも」
「冷めきってるなあ……」
そりゃそうよー、と項垂れる彼女はこれまで卓哉と頻繁にネトゲで遊ぶ仲だった。けれど、卓哉がおかしくなってから千紗は露骨に会うことを避けていた。ネトゲ自体は続けているが、サーバーを変えたり時間帯をずらしたりと巧妙に回避しているらしい。
卓哉の奇怪な行動を知るほど怯えを増していく四人目、ばっちりとした瞳を潤ませている夏蓮は義人の制服の裾を摘まみながら口を開いた。
「うぅ……」
「一ノ瀬さん、大丈夫?」
「何とか……。友田先輩が青野先輩の動きを教えてくれているお陰で、休み時間はいつも身を隠して避けてこれていますけど、やっぱり聞いてるだけで怖いですぅ……」
「よしよし……、只でさえ男性が苦手なのにあいつに会わせるのはやはりマズそうだね」
そう言いつつ、義人は夏蓮の緩いウェーブがかかった髪を撫でる。すると彼女は安心したのか笑みを取り戻した。
「こんなに可愛い後輩を怖がらせるなんて、やっぱあいつ通報したほうがいいんじゃないの!?」
「彼の行動は度を超しているから、最早会長としても庇いきれないわね」
「ゲームでもリアルでも、可愛い娘は守るべし!」
「わ、私も……皆さんと一緒に頑張りますっ!」
「……これなら、あいつの言うラブコメにはならなそうだ」
自称主人公から友人キャラと言われている彼友田が、何故彼女たちの好感度を知っているのか。答えは卓哉よりも先に彼女たちと親しい仲になっていたからである。
そして彼が友人キャラであり続ける理由は、彼女たちを守るためだった。
『俺、このギャルゲー世界の主人公だったわ! 前世の記憶を思い出したんだよ!』と。
義人や周囲の人間からしたら、ただの痛い奴にしか見えない。クラスメイトは皆ドン引きである。正面から聞いていても全く理解が追い付かない義人を置いてけぼりにしたまま、卓哉は更に続ける。
『友田、お前は俺にヒロイン攻略のためのサポートキャラだ、彼女たちの好感度を聞き出して俺に教えるキャラだからよろしくな!』と義人の肩に手を置いて満面の笑みを浮かべていた。
(あの時から、あいつはおかしくなっちまったんだよな……)
今年から同じクラスになり、そこそこ話すようになった相手から急にそんな事を言われた義人は、それはもう困惑した。お前はサポートキャラだ、特定の女子から好感度を聞いてくるのが役目だ、などと言われても飲み込めるわけが無い。
義人は何度も卓哉に反論したが、自称主人公は聞く耳を持たなかった。そしてついに折れた義人は、卓哉の言うサポートキャラを渋々こなしている。
結論として、青野卓哉は主人公ではない。全ては彼が勝手に始めた妄想物語なのである。そして友田義人は友人サポートキャラでもない。
それならば何故、義人はまだ友人キャラであり続けているのか。
「……と、そろそろ待ち合わせの時間だな。行くか」
義人は開いていた手帳を閉じ、時計を確認しつつ教室を出た。
彼が来たのは学校の近くにあるカフェ。円形のテーブルを囲う席には、同じ学校の制服を着た四人の女子が先に座っていた。義人が来たことに気づいた一人、名波が声をかける。
「友田お疲れー」
「名波もお疲れさん。昨日は災難だったな」
「本当よ。そもそもあいつとお出かけとか全然乗り気じゃなかったのに、向こうから断られるなんて本当最悪! 昔はああじゃなかったのにな……」
「だよなー……」
優紀と義人のため息に、氷織と千紗は苦い顔、夏蓮は少し怯えた表情をする。
「何かあいつ、急に変わっちゃったわよねー。こう、目がギラギラしていて欲まみれっていうか」
「『優紀はメインヒロインで俺にゾッコンなんだ!』とか急に言い出したよな」
「何回聞いてもあの勘違いっぷりにはゾッとするわ。元からアイツの視線には思う所があったけど」
そう呟きながら手を置いた大きめの胸は未だ成長中である。卓哉はその成長を隣からジロジロと見つづけていた。視線に気づきつつも知らんぷりをしていた彼女だが、好感度がまだ四十程あるのは幼馴染みとしての温情なのだろうか。
「それを言ったら、瀬戸先輩の方が災難でしたよね?」
「ええ、昨日は本当にしつこかったから通報しようか迷ったわ」
肩まで伸びた綺麗な黒髪の彼女、氷織は額に手を当てて肩を落とす。生徒会長である彼女は、問題児と称されている卓哉の事を聞いた。そこで彼女は卓哉を更生させるためにあえて接触したのだが、今ではもう諦めに入っているらしい。それほど彼は人の話を聞かなくなっているようだった。
「大変でしたね……。通報しちゃっても良かったんじゃ? もう更生は無理そうですし……」
「更生はもういいの。けれど、会長としてはうちの学校から逮捕者なんて出てほしくないのよ」
「でも、それで自分の身を危うくするのは良くないですよ」
「……ええ、そうね。ありがとう、友田君」
義人の言葉を聞いて、氷織はフッと笑みを浮かべた。普段は人を寄せ付けない冷たい印象を与えがちな彼女だが、心を開いた相手にのみ優しい目を向けるのである。
二人の会話を打ち切るように、茶色いボブヘアーでやや大きめのカーディガンの袖をヒラヒラさせながら千紗がうーんと唸り声を出した。
「あいつ、もうすっかりならず者になっちゃったみたいだねー。あたしの情報網にも、青野がどうしてああなったのかわからんのよー」
「ネトゲの誘いは未だに来るのか?」
「もー毎晩誘ってきてるし鬱陶しいんだよねー。あ、でも昨日うちのパソコンがあいつのメールに『スパムの可能性があります』って警告してきたのはちょっとウケたかも」
「冷めきってるなあ……」
そりゃそうよー、と項垂れる彼女はこれまで卓哉と頻繁にネトゲで遊ぶ仲だった。けれど、卓哉がおかしくなってから千紗は露骨に会うことを避けていた。ネトゲ自体は続けているが、サーバーを変えたり時間帯をずらしたりと巧妙に回避しているらしい。
卓哉の奇怪な行動を知るほど怯えを増していく四人目、ばっちりとした瞳を潤ませている夏蓮は義人の制服の裾を摘まみながら口を開いた。
「うぅ……」
「一ノ瀬さん、大丈夫?」
「何とか……。友田先輩が青野先輩の動きを教えてくれているお陰で、休み時間はいつも身を隠して避けてこれていますけど、やっぱり聞いてるだけで怖いですぅ……」
「よしよし……、只でさえ男性が苦手なのにあいつに会わせるのはやはりマズそうだね」
そう言いつつ、義人は夏蓮の緩いウェーブがかかった髪を撫でる。すると彼女は安心したのか笑みを取り戻した。
「こんなに可愛い後輩を怖がらせるなんて、やっぱあいつ通報したほうがいいんじゃないの!?」
「彼の行動は度を超しているから、最早会長としても庇いきれないわね」
「ゲームでもリアルでも、可愛い娘は守るべし!」
「わ、私も……皆さんと一緒に頑張りますっ!」
「……これなら、あいつの言うラブコメにはならなそうだ」
自称主人公から友人キャラと言われている彼友田が、何故彼女たちの好感度を知っているのか。答えは卓哉よりも先に彼女たちと親しい仲になっていたからである。
そして彼が友人キャラであり続ける理由は、彼女たちを守るためだった。
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