僕のこと、ぼくの事を話そうか

はらひろ

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〈第三章 僕のこと⑥透編〉

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 明け方、僕は息苦しくて何度も寝返りをうった。右にぶつかり左にぶつかり、どうにも身体が窮屈だった。それに暑い。非常に暑い。
 僕の両隣から寝息が聴こえて、、僕は一発で目が覚めた!壮介もテントに潜り込んで寝ていたんだ。
 僕の気配を察してか、壮介がうっすらと重そうな瞼を細く開いた。
 一体いつから此処で寝てたの?
 「2人だけで寝るなんてズルいよ。ボクは淋しくなってしまったよ」
 もごもごと寝言のように呟くと、壮介はまた瞼を閉じた。
 僕はもう眠気なんかぶっとんで、壮介の無防備な寝顔に魅入っていた。嬉しくって仕方なかった。そうだよ。壮介ってこういう人なんだ。僕に関しては僕に負けないくらい異常なべったりやで。
 僕はテントという極めて狭い密室を利用して、僕は壮介に身体をかぶせた。頬を両手で挟み〈夢の中のキス〉をした。お酒の匂いは全然なく、僕は壮介が殆ど呑んでいない事を知った。何故だかとても嬉しい。壮介は僕が抜けてから、皆とお酒を楽しんだりはしなかったのだ。ああ壮介、、、
 僕のキスはいつもより熱を帯びていたかもしれない。自分でいうのも恥ずかしいんだけど、かなり執拗だと思う。何しろ壮介が寝ぼけたフリをして、僕の首に腕を絡めてきたものだから、、僕はぶっとびそうな理性を総動員して、ただただ唇に全集中していたという訳。
 だって壮介が僕に絡んでくるなんて初めてだったから。でもそれは僕へのお詫びのつもりだったのかな?こんな所に連れて来ちゃって、ごめんねっていう。いや、その考えは壮介に失礼だ。彼は同情でこんな事をする人じゃない。たおやかな外見とは違って、一本芯の通った人だ。押し付けられた政略結婚を蹴散らし、現金を強奪し僕の拉致まで試みた人物なのだから。だからこれは壮介の意思なんだ。でもどうして?僕は混乱しながらも期待しちゃうよ。
 葛藤があるのは分かってる。この睦言はあくまで明け方の夢にしておきたいんだよね。本当は起きているくせに。
 でも、そういう設定でもなければ、身を委ねられない壮介の道徳的心情を理解できるから、今はそれで構わない。構わないけど今日は覚悟してね。簡単には離してあげない。
 僕は耳たぶを甘噛みしてから、壮介の白い首筋に舌を這わせた。壮介の身体がピクピク震えて、僕にしがみついてきた。喘ぎ声が微かに漏れ始めたので、僕はその声を塞ぐべく、軌道修正して壮介の唇へと戻った。角度を変えて壮介の舌を絡め取り、吸いしゃぶり、飲み込みきれない膵液が顎を伝って首筋に零れてゆく。僕はそれを追ってまた首筋へと舌を這わせていった。壮介の長い指が僕の髪をまさぐってくる。
 僕らは何時までそうしていたんだろう。プラテーロの起き抜けの「ひん」という嘶きで、僕はようやく我に返った。
 いつもとは明らかに違ったキスに、僕は壮介の顔を見ることが出来ないでいた。
 こんなに赤裸々な欲情むき出しのキスをしてしまって、僕は気恥ずかしくなったんだ。壮介がどう思ったのか怖くもなったし。
 僕は力の限り壮介を抱きしめてから、するりとテントを抜け出した。冷たいシャワーを浴びるべく、朝日のなかへ躍り込んだ。


 憂鬱な1日の始まりは、思いもよらない素敵なキスで始まった。それだけで上機嫌になった単純な僕は、気乗りしないスケジュールを飛び切りの笑顔でこなしていた。
 朝食の支度と後片付けの手伝い。プラテーロとの散歩の後、テニスコートでご近所さんと共に一汗を流す。常々僕は疑問に感じる。別荘といったら、どうして必ずテニスなんだろう?ジョギングだって、ストリートバスケだって、それこそ日向ぼっこだって良いはずなのに。社交においてテニスは必修課目に違いない。
 ご近所さんとのテニスは僕にとって苦行でしかない。失礼にならないよう、深入りしないよう適度な挨拶を交わし、控えめにワンゲームだけ参加し、その後はギャラリーと化す。肝心なのは目立たないこと、出しゃばらない事だ。これほんと大事だよ。
 そうするうちに昼食となり、また支度と後片付けの手伝い。午後のティータイムの後、プラテーロと共に息抜きの散歩のあと昼寝をする。シエスタっていうのかな?優雅な習慣だよね。それから夕食の支度と後片付けの手伝い。軽く皆と談笑の一時を過ごす。
 何か無意味な時間を過ごしているみたいだけど、それは僕が楽しめてないからなんだろうな。普通の10代の男女なら、出会いにときめく頃なんだろうしね。
 それで、ようやく1日のルーティンが終わるのだ。僕はさっとシャワーを浴びてテントにて就寝。夜半に壮介が潜り込んできて、寝入ったところで念入りなキスを堪能。今度こそ本当の就寝。
 こうした決まり切ったスケジュールを3日ほどこなした僕は、いつ帰れるんだろうと心配になってきた。当初の予定はとうに過ぎ、4日目を迎えていた。僕はもう是が非でも帰りたかった。だけどツワモノの5人は、壮介が帰ろうと話題を振ると、何やかやとご託をつけて引き留めにかかる。これが実に上手いんだ。

 僕は午後のプラテーロの散歩を終えると、プラテーロの昼寝に付き添いながら、持参してきたドイツ語のリスニング学習を始めた。プラテーロは木陰で気持ち良さそうにまどろんでいる。
可愛い。僕は彼の背をそっと撫でながらイヤホンでドイツ語を聞き流すだけの、簡単な勉強を始めた。これなら勉強しているとは、ちょっと見には分からないだろう。午後のゆったりした時間に、音楽を楽しんでいるだけに見えるだろう。
 隠れて勉強するなんて変だけど、別荘地にきてまで学習しているなんて、嫌味に映っちゃうから、それなりに気を遣わないとね。僕は結構慎重タイプなんだよ。
 僕は自分でいうのも何だけど、とにかく勉強をしている。どちらかというと勉強好きではあるけれど、武器はたくさん身につけた方がいいに決まってるから。これからの人生方針を決めたばかりなんだから、努力はしないとね。何がいつ何処で役に立つかなんて分からないし、語学は出来るに越したことはないだろう?ちなみに英語はマスター済だ。今はドイツ語に挑んでいるけど、次はアジア圏の言語を学ぼうか思案中。
 別荘地における、模範的な高校1年生だと思わないかい?誰か僕を褒めてくれ!
 すると、頼んでもいないのに褒めてくれる人物が現れた。リストランテだ。
 「こんな所でまで勉強してるの?」
 「、、いえ音楽です」
 「口の動きが歌じゃないよ。何?ドイツ語かな」
 僕は正直に頷いだ。恐らくリストランテはドイツ語が堪能なのだろう。
 「透くんて礼儀正しいし浮ついた所がないね。綿貫くんの育て方がいいのかな」
 僕は警戒しつつイヤホンを外すと、  「どうも」と頭を下げた。
 「どうしてテントで寝てるの?」
 ーーきた!
 「プラテーロが部屋を汚すと失礼かと思って。調度品も高価そうですし」
 リストランテは、ふうんと言ってから、「でもね」と意地悪く微笑んだ。
 「でもね、せっかく用意してくれた部屋を全然使わない方が失礼だよ。ペットはともかく君たちくらいはさ。それに伊集院は部屋を汚した位で気分を害する男じゃないよ」
 僕は脳天をガツン!とやられた。
 確かにそうも受け取れるのだ。
 伊集院氏は器の小さい男と称されたと、不愉快な思いをしているのだろうか?それとも僕の反抗心が伝わったのだろうか?
 僕は「すみません」と小さく応えるのが精一杯だった。
 「君が謝ることじゃないさ。綿貫くんが許しているんだから。それからね、ロバもいいけど他人と交わった方がいいんじゃないのかな。余計なお世話かもしれないけど閉鎖的だよ。別荘に招待されて、見知らぬ人達と知り合いになるって意味は、まだ高校生の君には理解し難いのかな。伊集院の招待客は私も含めて皆、人を介して会いたがる人物ばかりなんだよ」
 僕は唇を噛んで項垂れた。全くもってその通りなのだから。
 そうだ伊集院氏の周りは超一流の人物ばかりだ。一般人が会いたいと願っても、叶う筈のない人達ばかりなのだから。
 「それからペットを大事にするのは良いことだけど、時と場合は考慮した方がいいと思うよ。嫌がる人は意外に多いから、まあ今後の参考にして」
 僕はといえば打ちのめされ、立ち尽くしていた。
 確かにペットを家族同然に扱うことを嫌う人はいるだろう。イギリスの上流階級では、人前では犬を可愛がるなと言われているらしい(また聞きだから真偽のほどは不明だが)。
 ペット(僕はプラテーロを家族と思っているが)を溺愛している飼い主の心情は、同じ仲間でしか分かち合えない。盲愛している様は、はたから見れば滑稽にしか映らないことも承知している。
 そしてこの別荘の人達は、動物と人を明確に区別したい側なんだ。人間の領域に動物を踏み入れさせたくない人々なのだから、さぞ不愉快な思いをさせてしまったに違いない。
 集団で過ごす以上は、その場に合わせなければいけなかったのだ。僕は僕なりに気を使ったつもりだったが、空回りもいいところだった。せっかくの好意を踏みにじって、自分だけの世界に浸っているとリストランテは批判しているのだ。別荘に招待されるという意味も分かっていないと苦言までくれた。
 「若いんだから知らなくて当然だよ。今度から配慮すればいいだけだよ。」
 血の気が引いて固まってしまった僕に、リストランテが慰めるように言った。
 「そうだ。明日の昼に近所の人を招いてガーデンパーティーをするって」
 励ますような明るい口調のリストランテの発言に、僕の緊張は益々高まってしまった。そんな僕の様子を面白がるように眺めてから、付け足しのように加えた。
 「テニスで一緒の人達とかだし平気だよ。軽いパーティーだから」
 とっさに僕の脳裏に、何かと絡んでくる、某高校2年の意地悪そうな男子の顔が浮かんだ。テニスで顔を合わせるたび、不愉快なことばかりしかけてくる、あの輩。
 僕はなんと返事をしたのだろう。記憶になかった。真っ青になっていたに違いないが。

 その夜、僕は努めてさり気なく、「今夜は部屋を使わせて貰わない?」と提案した。しかし壮介は「却下、トォニィと離れて眠るのは嫌だよ」と、即座に笑いながら退けてしまった。
 「でも、でもさ、せっかく用意してくれたのに、、申し訳なくない?」
 僕がもごもごと反論すると、壮介が僕の顔を両手で挟んで、真意を測るように見つめてきた。
 「部屋を使うかどうかは、こちらの勝手だろう」
 壮介の言葉に「そうなのかな、、」と僕は目を伏せた。その態度と物言いが余りに不自然だったのだろう。壮介の上手い誘導尋問に、僕は黙っているつもりだった昼の出来事を、白状させられていた。
 「彼は昔から考え違いの名人なんだ。」と壮介は苦々しく吐き捨てた。
 「ボクに直接言えばいいものを、わざわざトォニィが一人の時を狙うなんて!」とひどく憤慨し、「明日、帰ろう」と僕を強く抱きしめてくれた。
 リストランテの言い分はもっともだけど、ああした棘のある物言いは、僕をひどく傷つけてしまう。耐性をつけなくちゃと頑張っているんだけど、、どうやらトラウマになってるみたいだ。
 あのような場面に出くわすと、僕の封印があっさりと破壊されてしまうんだ。昔に引き戻されてしまうのだ。あの辛い怯えた暮らしに。壮介から引き離された空虚な時間に、あっという間に攫われてしまう。
 あの呼吸の音さえも気遣うほどの逼迫した空間に。
 あの頃の僕は、起きている時間の全てを勉強に注いでいた。それが唯一壮介との未来に繋がる手立てだったから。その希望がなかったら、僕はとうに崩壊していただろう。
 幸い僕は勉強が嫌いではなかったから、勉学に勤しんでいる間は、没頭し心を落ち着けることができた。十歳から中学受験までの僕の記憶は勉強しかない。目が覚めている間は、とにかく勉強をし続け、夜は夢で壮介に会えることを願って眠った。
 僕は幼心にも、いかに壮介に守られていたかを痛感した。彼は2重にも3重にも、愛情の防護壁で僕を守ってくれていた。壮介の側では冷たい風は、すきま風もなかったくらいに。
 僕は十歳の頃に戻ってしまっていた。世の中の全てが脅威のあの頃に。
 僕はもう帰りたかった。田舎家にひたすら帰りたかった。壮介とプラテーロとだけで過ごしていたかった。
 この束の間のテントでの息抜きも、それさえも責められてしまうなんて。
 どうしたらいいんだろう。
 壮介が僕を強く抱きしめていた。すっかり子供に帰ってしまった僕を、宥めるように髪を撫でてくれている。不覚にも堪えきれない涙が僕の頬を伝い、壮介が閉じた僕の瞼に優しいキスを落とした。
 僕がどれだけ壮介を必要としているか、彼は分かっているだろうか。僕は壮介しか要らないんだ。僕は壮介なしには生きられない。


 朝食後の紅茶を飲みながら、壮介がさり気なく、当たり前のように切り出した。
 「今日、これから失礼して帰るよ。お世話をかけたね。ありがとう」
 僕はチラリとリストランテを盗み見ると、案の定、彼は預けるような視線を僕に注いでいた。僕はついっとリストランテの視線を外した。
 馬鹿にしたければすればいいさ。痛いとこ突かれて、壮介に泣きついたって思われてもかわまない。実際そうだし。僕って奴はまだまだガキなんだよ。
 これって開きなおったっていうのかな?
 壮介がいうには、僕って存在は否応なしに害を受けてしまう要素が、人より多いってことらしい。生まれも家柄も容姿も成績に至るまで、あらゆる全てが秀でてて注目を集めてしまうからなんだって。だから羨望される一方で、僻まれたり妬まれたり、嫌がらせされ易いんだって。馬鹿馬鹿しいよね。
 そういう壮介も綿貫の家名により、随分と理不尽な思いをしたと慰めてくれた。その知名度や力量を逆手にとって反撃するばいいんだろうけど、生憎、壮介と僕はそういうタイプじゃない。ただ平穏に暮らしていたいだけの凡人だ。だからいつも、やられっぱなしになる。大人しい分、攻撃されやすいんだろうな。
 この短い滞在で感じたのは、壮介に対する周りの感情?扱い?意識?のことだ。壮介はこの別荘の人達に、特別何の感情も抱いていない。なのに周りが勝手に過剰に、壮介を意識しているみたいなんだ。執拗に絡んでくることからも、何かしらの思惑を抱いているのは、間違いないだろう。
 何も持たず自由気ままな壮介が羨ましいのかな?確たる自分軸をもつ壮介が。
 だって壮介は誰かと自分を比較したりしない。常に自分と他者の間に明確な境界線を引いていて、自分の信念を貫いて生きている。多少ぷらぷらに見えるけど、壮介は飾りを外した本質で人を見ている。学歴や経歴、家柄や地位などとは無縁のところで生きている。
 僕のことも僕として愛してくれている。ブレないんだ壮介は。
 だからきっと絡んで困らせたくなるのかもしれない。余りにも浮世離れしていてさ。
 僕への悪意は、、、それは彼らが縛られている、社会的立場によるものだと思うことにした。それは僕の罪じゃない。僕が気に入らないのならそれで構わない。媚びたりおもねったりする気はないからね。
 そういう点で、僕はやっぱり壮介に育てられた子供だって実感する。僕は誰かをライバル視したことも、特定の誰かに負けたくないと思ったこともない。向上心がないって言われればそうだけど。僕は僕自身の絶対評価のもとで生きている。決してハードルが低い訳じゃないよ。もっと遠く大きなところに目標を置いているだけだ。他人と関わりたくないだけとも言えるけど。
 ただ、そうした人間はともすれば敬遠されがちだ。他人なんか眼中にないって態度が、不遜に映るのかもしれない。
 僕はもうどうでも良かった。壮介さえ居てくれたら、心の平穏は保たれるのだから、誰にどう思われようが今更関係ない。そう今更だ。
 「急にどうしたんだ?今日はガーデンパーティーがあるって言ったろう」
 伊集院氏がムッとした声をだした。
 「急ってことはないだろう?もともと3日の予定だったんだから。既に1日オーバーしているよ」
 壮介が淡々と応えていた。幾分、棘のある声音だけどね。
 壮介の声はその姿に良く似合う甘いテノールだ。壮介は僕を綺麗なトォニィと褒めてくれるけど、壮介の方が何倍も美しいと思う。涼しげで端正な顔立ち。すっと通った鼻筋、しなやかな肢体。
 ふいに僕は今朝のことを思い出して、頬が上気するのを感じた。
 すっかり落ち込んでいた僕は、プラテーロにピッタリ貼り付いて寝ていたんだ。プラテーロは暑いのに嫌がらずに僕を受け入れてくれたよ。ほんと優しいんだ。
 プラテーロの体温に慰められながら寝ていたら、、、そうしたら明け方の夢に壮介がでてきたんだ!
 僕の顎を持ち上げて、壮介からキスしてくれたんだ。モチロン唇にだよ。僕は無我夢中でこたえていた。
 壮介の舌って、まるでそれ自体が生き物みたいなんだ。柔らかくって淫猥で、、僕を追いかけては焦らして。捕まえては突き放したり、思う様に絡め取ったりして、、ああ言い尽くせないよ。語彙が足りない。つまり物凄くキスが上手いってこと。
 僕は壮介以外は誰も知らないけど、こういう事って本能的に察知するんじゃないかな。だって壮介のキスはもろに腰に響いて困ったんだ。僕は喘ぎ声を殺すのに必死でさ。
 僕は僕の倍の人生を生きている男性としての壮介を、考えずにはいられなくなった。これまでの彼の恋の相手に、嫉妬せずにはいられなかった。この唇を何人もの女性が、何百回いや何千回、味わったのだろうと。だってそうだろう?経験値がハンパない気がする。だってこんなにキスが上手いんだよ!どこで上達したんだよ!
 いつの間にか上下が入れ替わって、僕は壮介を組み伏せていた。溺れかけた人のように、僕は喘いで喘いで彼の唇に食らいついていた。僕って奴は自分でも本当に呆れるばかりだ。うう恥ずかしい奴だ。
 ああ、いけない。今は帰る帰さないと揉めている最中だった。
 リストランテが胡乱げに僕を見ている。昨日の大打撃から、立ち直りが早すぎるからだろう。単純な僕は今朝のキスで、すっかりご機嫌になっていたから。
 リストランテの冷ややかな視線なんて、どうってことない。どうでもいいんだ。さっさと帰れれば、もうそれだけで。
 「弱ったな。三軒先の息子が今日到着するんだよ。ほら透くんと同じ高校の子。透くんの話もしているから帰られると困るんだけど」
 ITが勝手な事を言ってる。しるか!
 「テニスで一緒の女の子たちも透くんのファンみたいだからねえ。彼女たちもきっとガッカリするだろうなあ。これでキャンセルしたら女性陣に恨まれちゃうよ」
 ゴルフ倶楽部がまたもや大袈裟に話を膨らませてきた。
 「そうそう私も会うたびに透さんの事ばかり聞かれて。是非合わせて欲しいって頼まれていますのよ」
 夫人も白々しく歯の浮くような言葉で、懐柔作戦に参戦してきた。一刻も早く立ち去って欲しいくせに、そんな素振りは微塵も見せないあたりはさすがだ。
 「そんな事は知らないよ。ここはボクの別荘じゃないし、またボクらも単なるゲストにすぎない。帰るくらいでそう騒がないでほしいな。さっきも言ったように、ボクらは既に1日延泊しているんだから」
 壮介にしては珍しくキツイ口調だ。穏やかに微笑んではいるけれど、そうとう腸が煮えくり返っているみたいだ。
 壮介って僕が絡むと人格が激変するところがあるんだ、昔から。
 決して手を上げたりしない人なのに、僕が赤ん坊の頃、僕に悪さをしたといって伊集院氏を殴ったくらいだからね。
 「ボクはトォニィを晒し者にする気はないって、何度も言ってるだろう?」
 コツコツと指でテーブルを叩き、なんで分かんないかなあ、と不機嫌を演出し始めた。
 「ガーデンパーティーなんて、ご近所さんとの親睦会なんだから、軽く参加すればいいだろ。そう神経質になるなよ」
 「ボクは繊細で神経質なんだよ伊集院。知ってるだろ?それにボクのご近所じゃない。ご近所っていうけど、どうせ君らの大切な取引先連中なんだろう?彼らのご機嫌とりなら、この4日、トォニィは実に献身的に働いたじゃないか。礼を言って欲しいくらいだよ。それとも、、何か企んでる?」
 壮介の言葉は的を得たようだ。
 誰もが気まずそうに互いを、チラチラと見やっている。
 僕は驚いて傍らの壮介を眺めた。壮介は表情を隠していたけど、それが事実なら怒り心頭だろう。
 僕がパンにマーマレードを塗りながら固まっていると、足元に座っていたプラテーロが、僕の膝に乗り上げてきた。うわっぷ!僕はジャムがたっぷりのパンを、もろに顔面にぶつけてしまった。ああもうお行儀が悪いよ、プラテーロ。そんなに僕の食事が気になるの?
 「そういう事なら、尚更辞退したいな。ほらプラテーロも帰りたいと言っているし」
 したり顔で一同を見渡す壮介に、僕はプラテーロにパンを少し与えていいか尋ねた。あ、リストランテが睨んでる。
 「駄目だよ。人間の食べ物には添加物が含まれているからね。塩分も糖分も多いから、プラテーロの身体に悪い」
 僕は、ごめんねとプラテーロの頭を撫でなから「美味しいものを食べさせられないのって、辛いかも」と言い、おしぼりで顔のジャムを拭き取った。
 「いくら可愛くても無闇に与えては駄目だよ。プラテーロにとって毒になる食べ物もあるんだから。プラテーロが病気になったら、それこそ可哀想だろう?」
 僕は無言で頷いた。全くその通りだ。
 「トォニィはすっかりお兄さん気分みたいだね。でもまだまだ子供だ。ほらマーマレードが残ってる」
 さっきのジャムが拭ききれていなかったらしい。僕は慌ててTシャツの肩口で拭おうとしたら、、壮介が僕の顎を持ち上げ、頬をペロッと舐めてしまった。ベロってね。
 普段の習慣って恐ろしい。僕はハッと周りの視線に気付いて赤面したけど、壮介ったら平然としているんだ。そりゃあ赤ん坊の頃から、僕にキスしまくりの彼にとって、どうって事はないんだろう。幼子なら微笑ましい光景だ。けど、けどね!僕はもう高校1年生なんだ。そんな事を人前でされたら恥ずかしくって仕方ないよ。
 それでなくとも今朝のテントでの一件で、僕は腰くだけになっているんだから。
 「こちらも田舎家の留守を頼んできている身だからね、帰りが長引くと迷惑をかけてしまうんだ。何度も言うけど1日オーバーしている」
 伊集院氏は壮介の決心の固さを、いや頑なさを感じとったのだろう。「透は?」と僕に矛先を向けてきた。
 「なあ透、透はどうなんだ?」
 どうって?モチロンすぐに帰りたい!でもそんな事はストレートに言える訳がない。
 「僕ですか?そろそろ課題処理が気になってます。帰る時期は叔父さんの体調次第ですが、、運転するのは叔父さんだから」
 ここで残りますって言えるほど、僕は大人じゃないからね。せいぜい宿題山積みの16歳を利用させて貰います。
 「わかった。パーティーは顔だけ出してくれればいい。それで帰っても遅くはならんだろう」
 「ああじゃあ、そうさせて頂くよ」
 皮肉めいた?応酬は決着がついた。なんだか悲しいけどね。
 壮介は「すぐに発てるように荷物をまとめておいで」と、僕とプラテーロを部屋に追い立てた。かなり不機嫌だった。


 朝食後、僕らはガーデンパーティーの準備に取り掛かった。といっても伊集院氏の使用人や料理人が、わらわらとやってきて、何もかも彼等が行ってくれたのだが、、
 僕?僕は邪魔にならないよう、プラテーロと大人しくしてたよ。
 とにかく後1、2時間の辛抱だ。ゴールはすぐ側だ。
 お客様に失礼のないよう挨拶をして、相槌を打って、当たり障りのない会話をして。その繰り返しだ。
 だけど、、ぞろぞろと集まってくる人の多さに、僕は慄いていた。簡単なパーティーじゃなかったの?いや、これが簡単なパーティーなの?
 この人混みは何なんだ?
 恐ろしいことにご近所さんが、自分達の招待客も連れてきている。連れ客の方が多いんじゃないか?僕は暗澹たる気持ちに陥った。
 まあね、、伊集院氏やリストランテ達と繋がりたい人は沢山いるだろうから、当然といえば当然なのかもしれないが。
 とくにメインホストの大物政治家の息子、伊集院氏。彼は近いうちに最年少で出馬するんじゃないかと注目の的だ。彼と顔つなぎになりたい人は山程いるだろう。伊集院氏自身も人脈をいっぱい作りたいだろうし。それは他の者達も同じだろう。社交の場とは本来こういうものなのだから。
 僕はひっそり隠れていればいいやと、と自分の立ち位置を決め込んだ。
 だが、ひっそりに徹しようとしていたのに、どうも周りはそれを許してくれなかった。
 何故か伊集院氏が僕を連れ回して、一緒に挨拶しようとするんだよ。
 僕は壮介にsosを発信していたが、彼も様々な人に捕まっていた。
 他のメンバーは毎年集まっているから、新参者が珍しいのかな。
 とにかく僕は一通りの挨拶が終わると、隅っこに繋がれているプラテーロの処へ、すぐに駆けつけた。
 「ごめんねプラテーロ。知らない人ばかりで心細かったよね。あともう少しだから」
 「もう少しって何が?」
 意地悪な声音に、僕は反射的に身構えた。僕に何かと絡んでくる2年生、某なにがしだ。名前なんて覚えちゃいない。
 彼の隣には黒いドーベルマンが寄り添っていて、僕は密かに警戒態勢をとった。
 「君の話題で持ちきりだよ。誉れ高い最難関K校の生徒にして、あの綿貫財閥の御曹司ってね。しかも女連中はみんな君の美貌に失神寸前だよ。いやはや羨ましい限りです」
 僕は短く「どうも」とだけ返事をした。随分と芝居がかった奴だ。
 「どうも?どうもだけ?エリートは違うね。いやはや、どうもとは、、カイザー静かにしろ。何それ犬?違うみたいだな。仔馬?」
 「ロバだよ」
 僕はプラテーロを後ろに隠した。
 「へえロバってこんな大きさだった?かなり小さいな。もしかして、成長の止まってるペットって、それのこと?じゃあ奇形ってことか」
 某なにがしの嫌味に腹が立って仕方なかったが、それよりカイザーというドーベルマンの瞳が気になっていた。明らかに狩猟の訓練を受けている様子で、獰猛な気迫が漂っている。
 敏感に察知したプラテーロが、僕の背後でプルプル怯えていた。
 僕は気取られないよう、静かにプラテーロの綱を外した。
 「カメラマンの大内さんが、君を撮りたいって騒いでたよ。美貌の中に見え隠れする虚無感や鬱屈さが堪らないんだってさ。君の家って随分複雑なんだな。知らなかったよ。あの勘当されてる頼りない叔父上が正当な後継者なんだって?はぐれ者同士が仲良くつるんでるってホントなんだ」
 ゴシップ好きどもめ!
 壮介の言葉は当たっていた。僕らは晒し者いがいの何者でもなかった。伊集院氏は退屈している上流階級の連中に、格好の餌を与えたわけだ。僕らという、かなり美味しいご馳走をね。
 僕がだんまりを決め込んでいると、某なにがしは焦れったい表情になった。
 「そのロバもどうせ規格外の除け者だったんだろう?遊んでやるよ」
 カイザーがね!と言うなり、某なにがしは手に持っていたリードを放した。
 咄嗟に僕はテーブルを跳ね上げ、腕にプラテーロを抱き込んだ。
 ガチャガチャと食器の割れる音と、ドーベルマンのキャインと鳴く声が入り混じっていた。
 間一髪。
 勢いよく飛び込んできたドーベルマンは、もろに鼻面をテーブルに打ち付け血が飛び散っていた。
 「何するんだよ!」
 僕なにがしが烈火の如く怒っていたが、僕の憤りの方が上回っていた。
 「それはこちらのセリフだ!言いたい事があるなら、直接僕に言ってくれ。犬をけしかけるなんて最低だ!」
 僕はもがくプラテーロをきつく抱きしめながら睨みつけた。少しでも力を緩めたら、パニックになってるプラテーロはどんな行動を起こすか分からない。
 暴れるプラテーロは、思いもよらない力があって、僕は尻もちをつきながら、彼を抑え込むのに懸命だった。
 「遊んでやろうとしたのに、どうしてくれんだよ!カイザーが怪我したよ?ああ?」
 まるでチンピラだ。
 騒ぎを聞きつけた人々がわらわらと集まりだし、僕らを遠巻きに見物していた。そう、まさに見物だ。
 そこに聞き覚えのある、せせら笑いが混じっていた。
 「はは、そうは見えなかったぜ。危なくソイツはカイザーに噛まれるところだった。ナイス綿貫」
 あーあ、あぶねぇな割れてるよ。と笑って僕の肩をぽんっと叩いたのは、良く見慣れた同級生だった。
 「橘くん?」
 そうか、、三軒先のK校の息子って彼だったのか。
 「トォニィ、どうしたんだ?怪我は?」
 次いで真っ青になった壮介が飛んできて、僕とプラテーロの身体を点検し始めた。
 「大丈夫だよ。どこも切ってないから」と言っても壮介は納得せず、結局、壮介の気が済むまで、僕らは隅々まで検分されるハメになった。
 衆人環視の中でやるのは、、ほんと勘弁して。まるっきりの子供扱いは、かなり恥ずかしいんだから。
 「それよりプラテーロが怯えて、どうしようもないんだ」
 僕の右脇の下に鼻を押し込んで、プラテーロがブルブル震えている。可哀想に、よほど怖かったんだね。でももう大丈夫だよ。
 壮介も安心させるように僕ごとプラテーロを抱き込んだ。プラテーロがキューンと悲しげに鳴いて壮介をみた。
 「ほうら、よしよし。もう大丈夫、平気だからね」それから僕をみて「よく守ってくれたね。ありがとうトォニィ」と安堵したように微笑んだ。
 「トォニィ、悪いけど、このままプラテーロを抱っこしててくれる?」
 壮介はそう言うと、ひっくり返ったテーブルを起こして、割れた食器の片付けを始めた。
 「おいお前、うちのカイザーをどうしてくれるって聞いてんだけどよ!」
 某なにがし、いやチンピラが何か言ってる。とても良家の子息とは思えない口調に態度だ。
 「犬をけしかけたのはそっちだろう?カイザーに謝るのは、むしろそっちじゃないか?詫びて手当てしてやれよ」
 「ああ?何いってんだよ」
 「最低だよ。愛犬を使うなんて最低だ」
 「なんだと!」
 某なにがしが気色ばむと、橘くんが割って入ってきた。
 「お前が悪いよ。さっきお前が綿貫を侮辱した言葉を、この場で再現してやろうか?両親、顔面蒼白だろうな」
と、意地悪く嘲笑し、某なにがしの親だろう大人に顎をしゃくった。
 「馬鹿もここまで来ると大したもんだな。さっきのお前の言葉を、ここにいる皆さんが耳にしたら、どういう反応をすると思う?そんな事も分かんない訳?まあ間違いなく綿貫財閥は敵になるぜ。いいの?本社も関連企業も綿貫様なしでは存続不可能だろう?そして財閥に睨まれたくない方々も、、まあ、お付き合いを色々考えてしまうだろうねえ」
 くつくつと小馬鹿にして笑う橘くんの言葉に、某なにがしの親が血相変えて息子に詰問していた。父親の顔があっという間に、真っ青を通り越して真っ白になっていた。
 「教えて差し上げましょうか?」
 橘くんが慇懃にお辞儀をしてみせると、某なにがしの父親は慌てたように「いや、礼二くん、結構だ」と忌々しく渋面をつくった。
 それから僕にお詫びを言ってきたので、びっくりしてしまった。
 「子供同士の言い争いですから」
 心底呆れてしまった。一体どういう理屈で高校生同士の諍いに親がでてくるんだ?僕がいくら侮辱されたとしても、本家が取り扱うはずはないのに。ましてビジネスに影響などあるわけがない。あり得ない。
 「訳がわからないって顔だな」
 「当然だろ、変だよ。それより来てたんなら、もう少し早く助けて欲しかった」
 「無茶いうな。これでも全速力で着いたばっかりなんだぜ。なにせ綿貫家の御曹司が初めて社交の場に出るからって、召集されてさ」
 え?僕が?今なんて言った?
 僕が言葉の意味を測りかねていると、「キミ、それは本当ですか?」と険しい壮介の声が背後から低く響いた。
 「ああ失礼、透の叔父です。よろしく。不躾な質問だけど、今の話は誰からあったんですか?」
 「あ、どうも始めまして。綿貫コーポレーションからです。内輪の披露目があると連絡が入ったそうです」
 「伊集院氏の別荘でですか?」
 微笑んではいたが、壮介の眼は笑ってなんかいなかった。
 「はい、そうです」
 橘くんも不穏な空気を察知したのだろう。用心するような声音に変わっていた。
 「そうですか成る程、それでこのお披露目会に、わざわざ皆さん出席されているという事ですか、成る程ね」
 さすがの僕も嵌められた事が分かった。僕は震えのおさまらないプラテーロを撫でてやりながら、せっかくのお披露目をぶち壊した自分の快挙に、喝采をあげたかった。
 「掃除機をかけるから、もう少しプラテーロを抱いててくれないか。掃除がすんだら、すぐ帰るからね」
 屹然と壮介は言うなり、掃除機を取りに母屋に歩き出した。プラテーロが後を追いたがり、腕の中でもがいた。
 「駄目だよ。まだ破片が散ってて危ないんだから。ヒヅメに刺さったらどうするの」
 「これロバってほんと?小さいままってのも?」
 僕がそうだと頷くと、橘くんは妙に感心して「悪くないな」とプラテーロの頭を撫でてくれた。
 「イカスな、コンパクトなのはいいよ。住むのも連れて歩くのにも都合がいいし」
 「あはは、まあね。でさ橘くん、悪いけど、あのワゴンから毛布を持ってきて欲しいんだ。うん、ショックでお漏らししちゃってて」
 僕の下半身はプラテーロのおしっこで濡れていて、どれほど怖かったんだろうと可哀想になった。
 僕は尻の下に毛布を敷いてもらい、人工芝がプラテーロのおしっこで濡れるのを防いだ。ギリギリセーフ。手入れの行き届いた芝を汚す訳にはいかないもんね。それにリストランテの嫌味は聞きたくないし。
 「よく平気だな、おしっこだろ」
 「プラテーロのおしっこなんてキレイなもんだよ。穀物と水で組成されているもの」
 「そうなんだろうけどさあ」
 橘くんは納得できない様子だったが、おしぼりを何個か持ってきてくれ、プラテーロと僕を拭いてくれた。意外にも世話好きな人らしい。
 「マジで帰るのか?」
 おしっこまみれのタオルと毛布を片付ける僕に、橘くんが聞いてきた。
 「うん。本当はもっと早く帰る予定だったんだ。お陰でとんだ事件に巻き込まれちゃった」
 僕は肩を竦めてプラテーロの首にリードを付けると、壮介を探しに裏手に足を運んだ。
 プラテーロを壮介に確かに預けるまで、着替えが出来ないし、、それにとても好奇の目に耐えられなかったんだ。退散するにかぎるよ。

 裏に回った途端、珍しくキツイ口調の壮介の声が飛び込んできた。
 「どういう事か聞いているんだ、ボクは。つまりキミはボクらを売ったわけか?」
 思わず僕は橘くんと目を合わすと、物陰にそっと隠れた。静かにおし、プラテーロ。
 「人聞きが悪いな。何度も言ってるだろう。綿貫氏に頼まれただけだ。見聞を広げさせたいって。お前だって透と実家の和解を望んでいたじゃないか」
 「それは向こうがトォニィにきちんと謝罪してからだ。それが筋ってものだろうに。キミだって両親と兄の酷い仕打ちは知っているだろうに。よく手を貸す気になれたものだ。選挙に向けての根回しか?マメだな」
 最後の一言は、文字通り吐き捨てるって感じだった。
 「言葉がすぎるぞ。過去の経緯はどうあれ、綿貫家は透の能力を買っているんだ。認めたんだから充分じゃないか」
 「そんな事、嬉しくとも何ともないよ。そもそも能力がなければ認めないってこと自体がおかしな話なんだ。愛情のかけらもない」
 「分かってないな、甘いぜ。考えてもみろよ。あの綿貫コーポレーションの次期総帥として紹介しようってんだぜ。事実上、膝を折った訳じゃないか。お前だってそろそろ戻ってもいい時期だ。今回のパーティーはお前のためでもあるんだぜ」
 「禊は済んだって?」
 壮介の声が地を這うように低くなった。端麗な容姿だけに怒るといっそう凄みがでる。
 「キミは恐ろしい誤解をしているようだね伊集院。トォニィは綿貫を継ぐ気はないよ。もちろんボクもだ。綿貫と繋がりが欲しいなら、ボクと付き合っても無意味だよ」
 これは痛烈な皮肉だ。
 僕はなんだか哀しくなってしまった。友人と思っていた人が、背後の権力目当てだったなんて信じたくない。そして壮介はそれを糾弾し、決別しようとしている。見ていられない。
 「大人になれよ。相変わらず子供だな」
 この嫌味な口調はリストランテだ。
 「子供相手に意地悪するのは、大人の行為なのかな?」
 リストランテの顔が苦々しく歪められた。
 「まあまあお互いそう熱くなるなよ。綿貫も冷静に。確かに虫がいいかもしれないが、悪くない話じゃない。綿貫氏は引け目を感じているだろうし、恩をうったと思えばいいさ」
 この無神経なITの発言には、僕もムッとして出ていこうとしたが、橘くんに止められた。
 「このお歴々は綿貫の息がかかった者達なのかな?いつの間に懐柔されたんだろう。ボクも迂闊だったよ」
 「そんな言い方はよせ。俺達だってお前を心配してるんだ。家に戻れよ」
 「ありがとう、と言うべきなのかな。でもね、それこそ余計なお世話なんだよ、伊集院」
 「綿貫くん、君は透くんを大切にしているというが、独りよがりなんじゃないか。自分の私怨に透くんを巻き込んでいるんじゃないのか。彼の将来を思えば、こんなチャンス、みすみす棒に振るなんて考えられない事だ。君は透くんの保護者という立場だが、綿貫コーポレーションとは比較にもならない。それくらい強力なんだ」
 「ああそうか、綿貫は外食部でキミの会社と提携したんだった。見返りにボクかトォニィを連れてこいと頼まれたのかい?それじゃあ、トォニィが十歳の時に両親と兄との間で交わした約束を教えてあげよう。
 トォニィはk校受験希望と、合格したら成績上位5番以内を条件に、中学高校の学費援助を頭を下げて頼んだんだ。援助は高校までしか頼んではいない。それも順位が下がったら打ち切って構わないとしている。十歳の子供がだよ。信じられるかい?彼は卒業後は一人でやっていくつもりだよ。賢い子だし貯蓄もしている。しっかりした子なんだ」
 壮介の言葉に伊集院氏たちは、少なからず動揺したみたいだった。
 「、、だが子供の貯金なんてたかが知れてるだろ。大学は諦めるのか?」
 「それは本人次第だよ。大学は出たほうがいいと思うけど、他にしたい事があるなら、それで構わないと思ってる」
 「無責任じゃないか。k校っていったら有名進学校だ。優秀な子なら尚更大学まできちんと出してやるのが、保護者の務めだろう」
 「本人が行きたいならボクが費用をだすよ。それよりボクはトォニィには、好きなように生きて欲しいんだ。失敗したって何だって。伸び伸び育って欲しいだけだ」
 「ふん、君にそんな甲斐性があるとは思えないけど。伸び伸びっていうけど、それは君のような人生の落伍者を推奨してるってことかい?」
 僕は絶対にリストランテを許さないと誓った。馬鹿にするにも程がある。
 だが壮介は皆の顔を見渡しながら、うっすらと冷笑を浮かべるだけだった。
 「キミたちには、ボクはそう映っているんだろうね」
 それから面白そうに微笑んだ。
 「それより何故こんな事になったのか解せないね。ボクらは仲良くやれてたように思うんだけど。錯覚だったのかな、ねえ伊集院」
 「すれ違いと誤解だらけだよ。お前はいつも透、透、透 だ。透しか見ていない。透占有率100%だ。昔よりたちが悪く悪くなったぜ」
 伊集院氏の何かを噛み殺したような声音に、リストランテも同意した。
 「世の中が見えてない。盲目になってしまっている。はっきり言って、透くんと係わってからの綿貫くんは、人違いしたようだよ。こんなに頑なな人じゃなかった」
 「困ったとき頼ってもくれなかった。あんな馬鹿をしでかす前に相談もしてくれなかった。お前こそ俺達を何だと思ってるんだ」
 伊集院氏とリストランテに詰め寄られ、壮介は眉をしかめて首を振った。
 「迷惑をかけたくなかっただけだ」
 「綿貫くんは透くんと離れた方がいい。すっかり透くんに駄目にされてしまった。彼のせいで君の人生は180度変わってしまったんだよ?綿貫の直系の血を継いでいるのに。今の君はどうだ?あれほど才気煥発だった君がこんな体たらくで、、」
 「トォニィの悪口は許さないよ。それにボクはキミらが思うほど生活には困っていない。心配は無用だし、ボクは綿貫の名前で成功したいなんて望んだ事もない。見当違いもいいところだ。
 もう失礼するよ。ああそれから割れた食器、マイセンかな?ちゃんと弁償するから。蛇足だけどこんな屋外のパーティーに高級食器はご法度だよ。おっかなくて使えないし割れたら危険だ。いっそプラスチックの方が気が利いてる。気楽に使えるし何より安全だ」
 壮介には通じなかったようだが僕には分かった。
 彼等は彼等なりに壮介を大切に思ってくれていたんだ。僕というお邪魔虫が壮介の前途を打ち砕いたと言いたいんだ。
 そうだね。僕はすっかり壮介に甘えて独占しすぎていた。責められるべきは僕なんだ。
 鈍い壮介。僕は無性に哀しくなった。
 「待ってくれ綿貫。生活に困ってないって、、もしかしてs社との提携の噂って、、まさかと思ってたが綿貫の名前がチラッと聴こえて、、あのAIの構想概念と性格づけ、、以前、君と話したあのプログラムを実現したのか?まさか、とんでもない」
 ITの焦点の定まらない瞳に、壮介は「ああ」と無造作に頷いた。
 「構想は僕たちだけど技術はS社が頑張ってくれたよ。だから日本市場においては我が社が独占権を得るだろうね。共同運営者が奔走してるよ」
 僕はびっくりして慌てて両手で口を塞いだ。そうでもしないと奇声を発してしまいそうだったから。だって信じられる?あの壮介がそんな大層な事業をしていたなんて!
 僕と橘くんは、そっとその場を退散した。おしっこで濡れた服を着替えたかったけど、とても言い出せる雰囲気じゃなかったし、、話の内容に罪悪感や動揺、それに衝撃を覚えていたから。
 とても暑い夏の日だから、じきに濡れた衣類も乾くだろう。とてもとても暑い午後だから。


 沈黙を破ったのは橘くんだった。
 「噂には聞いてたけど、マドンナって迫力あるのな」
 僕らは別荘脇にある、雑木林のベンチに座っていた。ここなら駐車場からもよく見える。一段落したら壮介が僕を見つけてくれるだろう。
 僕は落ち着きを取り戻したプラテーロを撫でながら「マドンナって誰?」
と尋ねた。橘くんは「知らねぇの?」と驚いた声を発した。
 「お前の叔父さんさ。高校時代ずっとそう呼ばれてたそうだぜ」
 初耳だった。確かに壮介は美しく慈愛に満ちた人だから、マドンナと呼ばれるのに相応しい。じゃなくて、、なんで僕は知らなかったんた?まあ壮介自身が言う筈もないし、壮介の友人たちと僕には接点がないから、知りようもないんだけど。だけどなんか嫌だな。壮介のことなら何でも知っておきたいのに。
 もしかして伊集院氏やリストランテ、ITも信奉者だったりしたのかな?まさかね。
 「静謐な美しさで絶大な人気があったっていうぜ。ほんとに知らねぇの?」
 僕はこくんと頷き、何故そんな事を橘くんが知っているんだろう、と疑問に感じたが、すぐに「ああ」と合点がいった。綿貫家は色んな意味で注目を集めているのだから。
 「大会社の上に、スキャンダルが盛りだくさんだもんね」
 「気にするなよ。あれだけ身体張って大事にしてくれる人、そうはいないぜ」
 うん、と返事してから僕は力なく続けた。
 「でも僕が叔父さんの人生を狂わせたんだよ。彼らの指摘は当たってる。僕がいなければコーポレーションの担い手として、父と共に働いていただろうから」
 「綿貫の父さんか、、」
 橘くんの難しそうな声に、綿貫家の事情は各界では周知のことなのだろうと暗澹たる気持ちになった。だからこそ壮介はその世界からの脱却を試みたのだろうが。でも、果たしてその行為は正しかったのかな。現に壮介は人並み外れた能力を持ち、その力を具現している。
 「気にすんなよ」
 橘くんが繰り返した。
 「あの人たちは羨ましがってるだけだ。やっかんでるんだ。マドンナがお前に夢中だから。学生の頃みんなお前に嫉妬してたって聞いたぜ。実の母親でもあんなに愛してはくれないって。見返りも期待も全くなく、全身全霊で愛情を注ぐ人を初めて見たってさ。お前になりたくて随分と嫉妬したって言ってた。赤ん坊にさ、はは」
 「妬むって、、誰が?僕のこと詳しいんだね」
 橘くんは口が滑ったって表情になったが、「まあ、いいか」と吐息を吐いた。
 「マドンナに憧れた連中の1人か俺の親戚なんだ。同級生だったらしい。当時のお前のことは、その親戚が教えてくれたんだ。
 それから俺、綿貫家の婿候補に挙がってんだってさ。だから事情通なのさ。笑えるよな」
 戸籍上の父は再婚して3人の娘を設けていた。今度は正真正銘父の子だ。
 綿貫財閥の婿か、、本家は慎重に選びたいのだろうな。確かに橘くんは良い人選だと思う。候補か、、何人候補がいるんだろうか。
 「随分早い気もするけど、本家は見る目があると思うよ。橘くんなら諸手を挙げて大歓迎だ」
 「やめてくれ。俺はそんな気ねえぜ」
 僕は黙って頷いた。自分の人生は自分で切り拓いていきたいもんね。
 「ところでさ、大河内都って覚えてる?」
 唐突にでた名前に、僕は一瞬たじろんだ。忘れるわけがない。僕が中学2年のとき壮介のアパートにいた女性だ。壮介が交際していた相手。僕がぶち壊した相手。ここでも僕は身勝手な独占欲で、壮介の人生を台無しにしたのかもしれない。
 「叔父さんの付き合ってた人。遊びに来てたとこを僕が追い出した」
 「都から聞いた。俺の従姉妹なんだ。まあ追い出して正解だったんじゃね。あいつ綿貫の名前で近づいたもんだったし。いくら勘当されてても直系の息子だ。ゆくゆくは後継者になるだろうって狙ってたみたいだしさ」
 「、、ならいいけど」
 橘くんの言葉は僕の良心の呵責を、多少なりとも慰めてくれた。
 「都がさ。ぶうぶう文句言ってたんだ。すごく失礼な子供で頭にきたって。でも綿貫さんは全然怒りもしないし、私を庇ってもくれなかったって。綿貫さんの特別はあの子だけなの、あの子しか要らないのよって。かなり激怒してたんだぜ。あの2人の間には脂取り紙1枚も入る隙間がないってさ。それを聞いて俺は俄然興味がわいた。学校でのお前は人当たりの良い優等生だから意外でさ。でも、ここでは随分子供っぽく見えるな」
 「餓鬼だもの」
 僕は力なく項垂れた。そうなのだ。壮介の前では僕は甘ったれの子供に帰ってしまうんだ。
 ため息がでた。今日はもう何度ため息をついただろう。
 「なあ、さっきの話って本当なのか?」
 どの話?と僕はプラテーロの首筋に顔を埋めて聞いた。
 「高校卒業までしか、学費援助を頼んでないって話」
 「本当だよ」
 僕は至極当たり前に答えてから、「荒稼ぎしてたのは卒業後にそなえるためだよ。提示されてる情報から読みとる推理力が足りないね」と軽く笑った。
 「個人の事情なんて知るわけねえだろ。でもどうせなら大学までにすりゃ良かったのに」
 「小学生の僕には高校生でさえ、随分大人に見えたんだ。大学なんて考えもしなかったよ」
 「まあ、そうかもな」
 「援助を頼んだら、もしかしたら学科の制約も受けそうだし、、返済金が増えるばかりだ」
 それに、と僕は言い淀んでから「父の二の舞いになりたくなかったから」
 と呟いた。
 橘くんは押し黙って僕の言葉を考えていた。
 綿貫家の婿候補だというし、自らも情報通というくらいだから、僕の家の複雑な事情は全て聞き及んでいるだろう。
 綿貫の祖父母は子供に恵まれず、遠縁の子供を養子に迎えていた。それが戸籍上の僕の父にあたる、だが皮肉にもすっかり諦めきっていた16年後に、奇跡的に子宝が授かった。それが壮介だ。
 皆が正当な血筋だの直系だのというのには、そうした背景がある。
 だが歳の離れた兄弟は仲が良かったらしい。壮介は経営に携わる気なんて、さらさらなかったと笑っていた。優秀な兄を尊敬しており、会社は兄が継いで然るべきだと思っていたという。
 父も養子として、いずれは会社を背負う者として勉学に励み、そして事実、仕事では見事な手腕を発揮していた。しかし一見、順風満帆にみえた父の人生は思わぬ所で足を攫われた。
 母の不貞だ。意に沿わぬのはお互い様の政略結婚で一方的に花嫁に裏切られ、あまつさえ若くして頭角を現した父の剛腕さが、古参の重役連から疎まれた。
 そして養子というだけで、経営権の正当性を問われ、誹謗中傷までも受けたのだから。
 壮介が暴挙にでて相続放棄、剥奪にならなかったら、父の今までの努力は水疱に化したのではないかと、哀しくさえなってしまう。父に好感は持てないが、心情を汲み取れないほど僕は子供ではなかった。
 「叔父さんは僕をすごく守ってくれたよ。あの大きい本家で僕は叔父さんと2人だけで、別棟で暮らしていたんだ。北風の存在は知っていたけど、実際に冷たい風を受けることは殆んどなかった。本当に幸せに暮らしてた。でも十歳のとき、ビッグバンが起きた!」
 「ああ」と橘くんがうめき声をだして、それから唐突に「こりゃあ有明は望み薄、いや皆無だな。本人も分かっちゃいるんだろうが」と、訳の分からないことを言った。
 「有明くんって4組の?」
 「そう、その有明。あいつ血を吐いてさ。お見舞いに行ってて来るのが遅れたんだ」
 「吐血って、、癌、、とか?」
 「いや、胃潰瘍だってさ。本人は癌だと思い込んでいたから、焦っちまったぜ」
 僕は有明くんの清潔感溢れる、健康的な笑顔を思い起こしていた。サッカー部所属の控え目な男子だが、他校の女子の間では密かに人気があるという。
「高校1年生で胃潰瘍なんて辛いね。強いストレスがあったのかな」
 僕が気の毒がると「お前がそれを言うか」と苦い顔をされた。
 「お前、去年の遠泳のとき、溺れた有明を助けただろ?」
 僕は、ああと思い出した。
 「それは誤報だよ。溺れてなんかいなかった。中々戻らないから心配して探しに行ったけど。足をつったから引き返して、近くの岩場で休んでただけだよ」
 中学三年生まで僕は水泳部に所属していた。自分でいうのも何だけど、結構早かったんだよ。今は帰宅部だけどね。体力つくりのために、また運動を始めようかな?ここぞ!でいう踏ん張り時は、体力がものをいうから。
 「有明はそこで水泳部のマーメイドにノックアウトされたらしい。でも相手は同性だ。付き合っている彼女もいる。悩みに悩んだ有明は胃潰瘍になっちまった」
 僕は神妙に話を聞いていた。有明くんの葛藤が胸に突き刺さるほど理解できるから。
 マーメイドって言葉には、げんなりしたけど。僕は何故かマーメイドって呼ばれていたんだ。理由を尋ねると、すばしっこいし速いから、だってさ。
 マーメイド、、嫌な響きだ。壮介のマドンナとどっちが恥ずかしいだろう。
 「で、血を吐いてようやく決別の決心をしたらしい。これ有明から」
 手渡されたのは何処にでも売っている、真っ白な封筒だった。
 「それって勘違いじゃなかったのかな?去年の僕は小さかったからさ。15センチは低くて、女の子みたいだったし。でもそういう夢は覚めたんじゃないかな。僕の背はこんなに伸びて、今も伸び続けてる」
 有明くんを弁護する訳じゃないけど、これは正直な感想だった。男しかいない学校に、女みたいな奴がいれば錯覚もするだろう。
 「それがそうでもないんだな。別の色香が漂い始めたそうだ」
 僕の隠しきれない壮介への劣情が、だだ漏れしているのだろうか。だとしたら由々しき事態だ。
 「、、ありがとうって伝えてくれる?それからゴメンって」
 橘くんは、謝ることないよ、ケリつけたかったんだろ、と笑って帰っていった。
 プラテーロが封筒に興味を示して、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
 封を切ると、中には1枚の絵ハガキが入っていた。青一色に塗られたハガキだった。表にも裏にも文字1つない。真っ青な絵ハガキ。それだけだった。ブルー。煌めく青色。
 それは去年の海の色だ。有明くんのみた綺麗な海の青だった。

 壮介が僕を呼んていた。やっと僕らは開放されるのだ。ようやく田舎家に帰れるのだ。ようやく、、
 その前にプラテーロのおしっこで濡れた服を、着替えさせてもらおう。
 
 

 
 




 


 





 
 
 
 

  


 
 

 



 



 
 
 
 


 


 
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