88 / 106
第五十九話 指定席
しおりを挟む
久しぶりの実家帰省で指定席に座っていたところ。
「すみません、席譲ってもらえませんか」
子連れの、やけに息を切らしたおばさんがうとうとしていた私に声をかけてきた。
「いや…いやですよ」
ははぁ、これがネットでたまに見かける図々しい子持ち様って奴か。
俺はそういう手合いが嫌いなので、知らずぶっきらぼうに断った。
そもそも目的地は終点になるので座っていたい。
だからさっさと諦めろ、そう思っていたのだが。
「お願いします、お願いします! もう、私たち………つ、疲れて」
そう言いながらそのおばさん、ちらちら自分の子供を見て言う。
それが、『子供がいるんだから配慮しろよ』と言っているように見えて猶更俺は不快感を募らせた。
「いや、だから嫌だって言ってるんですよ。疲れてとか言いますけど、俺も疲れてるんでね。わざわざ金を払って座ってるんだ、あんたも座りたかったなら金を払えば良かったじゃないか。乞食かよ、恥ずかしくないのあんた」
そう突っぱねる。
ここまでの騒ぎで、周りがちょっとざわついたように感じた。
もしかしたら親子の方に同情してなんか口出ししてくる奴がいるかもしれない。
ただまあ、そのときはそいつに席を変わってもらえば済む話だからな。
俺は威圧するように腕組みをして、無視して目をつむる。
「そっ、それじゃあ、お金! お金…払います! 幾らだったら替わってもらえますか?!」
「ぁあ?」
意外な言葉に、俺はちょっと驚く。
「そ、それなら…」
そんな返しされるとは正直思いもしなかった。
そもそも、そんなに席が買いたかったら俺じゃなく車掌に言えば良いじゃないか、という冷静な言葉が脳裏をよぎるのと同時に、一瞬「幾ら吹っ掛けてやろうか」という下卑た考えが浮かんでしまった。
いや、待て待て、やはり金の問題じゃない。
俺は考えがまとまらないときのいつもの癖で、額をぴしゃりと叩いた。これは、昔から喧嘩っ早い俺に対し、親父が冷静になるためとやらせてきたものだ。
俺は今、眠い。金は欲しいが、それでも引き換えにするほど俺は困窮してるわけではない。
それに、金で済ませたら…金づくで動かせると言ってるみたいでかっこ悪い。
しばらく迷ったものの、俺は改めて断ろうと口を開く。
そのときだった。
「ああっ…」
俺の返事を待っていた母親が、子供を振り向いたかと思うと胸の内に抱え込む。
と同時に大きな衝撃が列車全体を駆け抜け、座っていた座席ごと俺の世界がぐるりと回転し…俺の意識を刈り取った。
次に俺が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
目を覚ましたと聞かされ、涙ながらに飛び込んだ父母が色々教えてくれた。
どうやらあの列車、撮り鉄による置石のせいで横転し、勢いそのままに崖に突っ込んだという大事件になっていたそうだ。
そして、たまたま俺だけが周りの座席にぶつからず、人一人分拓けた床に投げ出されたことで潰れた車体に圧殺されずに済んだのだと。
なお、子供ごと押しつぶされた年配女性の亡骸が俺の裾をつかんでいたせいでひっぱりだすときは大層苦労したそうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ21ニチ19ジ
「すみません、席譲ってもらえませんか」
子連れの、やけに息を切らしたおばさんがうとうとしていた私に声をかけてきた。
「いや…いやですよ」
ははぁ、これがネットでたまに見かける図々しい子持ち様って奴か。
俺はそういう手合いが嫌いなので、知らずぶっきらぼうに断った。
そもそも目的地は終点になるので座っていたい。
だからさっさと諦めろ、そう思っていたのだが。
「お願いします、お願いします! もう、私たち………つ、疲れて」
そう言いながらそのおばさん、ちらちら自分の子供を見て言う。
それが、『子供がいるんだから配慮しろよ』と言っているように見えて猶更俺は不快感を募らせた。
「いや、だから嫌だって言ってるんですよ。疲れてとか言いますけど、俺も疲れてるんでね。わざわざ金を払って座ってるんだ、あんたも座りたかったなら金を払えば良かったじゃないか。乞食かよ、恥ずかしくないのあんた」
そう突っぱねる。
ここまでの騒ぎで、周りがちょっとざわついたように感じた。
もしかしたら親子の方に同情してなんか口出ししてくる奴がいるかもしれない。
ただまあ、そのときはそいつに席を変わってもらえば済む話だからな。
俺は威圧するように腕組みをして、無視して目をつむる。
「そっ、それじゃあ、お金! お金…払います! 幾らだったら替わってもらえますか?!」
「ぁあ?」
意外な言葉に、俺はちょっと驚く。
「そ、それなら…」
そんな返しされるとは正直思いもしなかった。
そもそも、そんなに席が買いたかったら俺じゃなく車掌に言えば良いじゃないか、という冷静な言葉が脳裏をよぎるのと同時に、一瞬「幾ら吹っ掛けてやろうか」という下卑た考えが浮かんでしまった。
いや、待て待て、やはり金の問題じゃない。
俺は考えがまとまらないときのいつもの癖で、額をぴしゃりと叩いた。これは、昔から喧嘩っ早い俺に対し、親父が冷静になるためとやらせてきたものだ。
俺は今、眠い。金は欲しいが、それでも引き換えにするほど俺は困窮してるわけではない。
それに、金で済ませたら…金づくで動かせると言ってるみたいでかっこ悪い。
しばらく迷ったものの、俺は改めて断ろうと口を開く。
そのときだった。
「ああっ…」
俺の返事を待っていた母親が、子供を振り向いたかと思うと胸の内に抱え込む。
と同時に大きな衝撃が列車全体を駆け抜け、座っていた座席ごと俺の世界がぐるりと回転し…俺の意識を刈り取った。
次に俺が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
目を覚ましたと聞かされ、涙ながらに飛び込んだ父母が色々教えてくれた。
どうやらあの列車、撮り鉄による置石のせいで横転し、勢いそのままに崖に突っ込んだという大事件になっていたそうだ。
そして、たまたま俺だけが周りの座席にぶつからず、人一人分拓けた床に投げ出されたことで潰れた車体に圧殺されずに済んだのだと。
なお、子供ごと押しつぶされた年配女性の亡骸が俺の裾をつかんでいたせいでひっぱりだすときは大層苦労したそうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ21ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる