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第十一話 ミツキ様_4
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その後も、壁の染みやら転がってる瓦礫やらを「きゃー、こわーい」と言いながら見て回る絵里香に付き合うことしばし。
「よし、これだけ撮ったらここはもういいだろ。じゃあ、俺はそろそろ行くんで」
いい加減派手なぶりっ子にうんざりしてきたところで解散を告げると、絵里香は口を尖らせた。
「えぇー、もう行っちゃうんですかぁ? 絵里香、怖いんですけどー」
「そうは言ってもお仕事だしねぇ。それにほら、これからは絵里香ちゃんの独壇場だから。上手くやれば、単独でコーナーもらえるかもよ? 絵里香ちゃんナレーションも上手いし、きっといい評価がもらえるって」
「ええー、そうですかねぇ?」
「そうそう、長年カメラマンやってきた俺の評価だからね」
適当な言葉でありながらも、絵里香は自分に余程自信があるのだろうかあっさり納得したようだ。
「そっかぁ。ここは確かにあたしの腕の見せ所かも知れませんね! 絵里香、頑張りますよ!」
「ああ、頑張ってね」
円満に別れた桂木は二階へと上っていく。ここには…
「あ、遅いよキミィ」
桂木は階段を上りきったところで、丁度トイレから出てきた剣持とばったり顔を合わせた。
「ホラ」
そう言いながら手を突き出したのを見て、桂木が怪訝そうな面持ちになる。
それをみて、剣持は明らかにむっとした顔つきになった。
「飲み物だよ飲み物。まったく、気が利かないなぁ。そんなんじゃこの業界やってけないよ!」
「…済みませんが、俺はカメラ撮ってたんで。大島に言って貰えませんか」
そういうと、剣持はちっと舌打ちした。
「その大島くんがどこにもいないんだよ!」
大分カリカリ来ているようで、カメラの前でも隠そうとしない。
このままでは撮影の空気が悪くなりそうなので、やむなく桂木がひとっ走りして飲み物を買ってくる羽目になった。
「よし、それじゃさっさと終わらせるぞ!」
礼も言わず一息に飲み干すと特大のゲップを吐き、空き缶をその辺に投げ捨て先を促す剣持に、これならまだ絵里香の相手していた方が気が楽だったなと桂木は聞こえない程度に嘆息したのだった。
さて、この建物。二階からは完全に事務所然とした部屋が連なっている。
最初の勢いも数分のことで、以降先を歩きたがらない剣持の代わりに必然的に桂木が後ろ向きのまま先導する形で歩いていく。床には大きな瓦礫などはないが、それでもカメラを抱えたままバック移動はどうしても足が遅くなる。
このままだと進行に大きな遅れが出ないだろうか、桂木は内心焦りを抱いていた。
「これはとんでもないことですよ。今も邪悪な霊が渦巻いている」
対し剣持はというとさすがにカメラの前では横暴さは隠しているが、それでも桂木のことなどおかまいなしに自分のペースで撮影を続けていく。剣持の撮り分を終える頃には、桂木も重い疲労に包まれていた。
「お疲れ様です。それじゃあ、俺は上に行きますんで」
「あ、おい、まだこの後の撮影に…」
それでも笑顔を浮かべ、剣持が何か言おうとするより先に桂木は上へ逃れた。
「遅いっすよ、桂木さん」
待ち構えていたのか、階段を上りきったところで能天気な三城の声が無遠慮に投げかけられ、桂木も思わず顔をしかめてしまう。
「お疲れ様です、桂木さん。…やっぱ大変でした?」
後ろにいた大島がひょっこり顔を覗かせ、そう言ってくるのに桂木はああ、と無愛想に返した。この男、下に行くとこき使われるのが判っていたため上でもたくさしていたのだろう。
「それで、ここの撮影は?」
「ああ、終わりましたよ。後は一階で順番に撮影するついでに、撮影したデータを持ち寄ってみるんですよね」
三城は興奮したように返した。
実は三城たちにとってはここからが本番となる。
三人には桂木が撮ったのとは別に個々人で撮影してもらい、一番面白い動画を撮った奴をメインに据えて四階から屋上の祠までを撮影する流れになっていることが伝えられている。
三城は時間を無駄にしないため、他の人と違い先に回していたわけだ。後輩として揉まれた経験がある分他の二人と違い気が回るのだろう。
尚、各自個人行動しているときにどんな撮影をしているかは桂木たちも一切把握していない。
「自信は?」
「ありますよ。そのために大島さんにも手伝ってもらいましたからね」
「大島?」
「やだなぁ、判ってますって。表に出ないように気をつけてますんで…さ、ほら、さっさと撮影しちゃいましょうよ」
大島に促され、それまでと同じような流れで撮影をしていく。
あらかた三階の撮影を終えたところで、どこからかふらっと田崎が現れた。
「おう、そっちも終わったみたいだな。それじゃあ下行くぞ」
「でさあ、俺は言ってやったんだ。銃を向けられるたびに五円貰ってたら、今頃大金持ちだってな」
桂木たちが一階につくと入り口脇のATM跡地ですでに絵里香たちが待機していた。
「あはは、おもしろーい」
そう愛想笑いをする絵里香の目は暗く淀んでいる。
剣持と二人きりとか…桂木は同類哀れんでいた。
「はいはい、それじゃあ暇を持て余してるようだから、さっさと撮影したものをみせてもらおうかね」
「はい、はーい!」
一刻も早く剣持から離れたいらしく、勢い良く絵里香が手を上げる。レディーファーストということで、さっそく彼女の動画を観ることとなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ24ニチ19ジ
「よし、これだけ撮ったらここはもういいだろ。じゃあ、俺はそろそろ行くんで」
いい加減派手なぶりっ子にうんざりしてきたところで解散を告げると、絵里香は口を尖らせた。
「えぇー、もう行っちゃうんですかぁ? 絵里香、怖いんですけどー」
「そうは言ってもお仕事だしねぇ。それにほら、これからは絵里香ちゃんの独壇場だから。上手くやれば、単独でコーナーもらえるかもよ? 絵里香ちゃんナレーションも上手いし、きっといい評価がもらえるって」
「ええー、そうですかねぇ?」
「そうそう、長年カメラマンやってきた俺の評価だからね」
適当な言葉でありながらも、絵里香は自分に余程自信があるのだろうかあっさり納得したようだ。
「そっかぁ。ここは確かにあたしの腕の見せ所かも知れませんね! 絵里香、頑張りますよ!」
「ああ、頑張ってね」
円満に別れた桂木は二階へと上っていく。ここには…
「あ、遅いよキミィ」
桂木は階段を上りきったところで、丁度トイレから出てきた剣持とばったり顔を合わせた。
「ホラ」
そう言いながら手を突き出したのを見て、桂木が怪訝そうな面持ちになる。
それをみて、剣持は明らかにむっとした顔つきになった。
「飲み物だよ飲み物。まったく、気が利かないなぁ。そんなんじゃこの業界やってけないよ!」
「…済みませんが、俺はカメラ撮ってたんで。大島に言って貰えませんか」
そういうと、剣持はちっと舌打ちした。
「その大島くんがどこにもいないんだよ!」
大分カリカリ来ているようで、カメラの前でも隠そうとしない。
このままでは撮影の空気が悪くなりそうなので、やむなく桂木がひとっ走りして飲み物を買ってくる羽目になった。
「よし、それじゃさっさと終わらせるぞ!」
礼も言わず一息に飲み干すと特大のゲップを吐き、空き缶をその辺に投げ捨て先を促す剣持に、これならまだ絵里香の相手していた方が気が楽だったなと桂木は聞こえない程度に嘆息したのだった。
さて、この建物。二階からは完全に事務所然とした部屋が連なっている。
最初の勢いも数分のことで、以降先を歩きたがらない剣持の代わりに必然的に桂木が後ろ向きのまま先導する形で歩いていく。床には大きな瓦礫などはないが、それでもカメラを抱えたままバック移動はどうしても足が遅くなる。
このままだと進行に大きな遅れが出ないだろうか、桂木は内心焦りを抱いていた。
「これはとんでもないことですよ。今も邪悪な霊が渦巻いている」
対し剣持はというとさすがにカメラの前では横暴さは隠しているが、それでも桂木のことなどおかまいなしに自分のペースで撮影を続けていく。剣持の撮り分を終える頃には、桂木も重い疲労に包まれていた。
「お疲れ様です。それじゃあ、俺は上に行きますんで」
「あ、おい、まだこの後の撮影に…」
それでも笑顔を浮かべ、剣持が何か言おうとするより先に桂木は上へ逃れた。
「遅いっすよ、桂木さん」
待ち構えていたのか、階段を上りきったところで能天気な三城の声が無遠慮に投げかけられ、桂木も思わず顔をしかめてしまう。
「お疲れ様です、桂木さん。…やっぱ大変でした?」
後ろにいた大島がひょっこり顔を覗かせ、そう言ってくるのに桂木はああ、と無愛想に返した。この男、下に行くとこき使われるのが判っていたため上でもたくさしていたのだろう。
「それで、ここの撮影は?」
「ああ、終わりましたよ。後は一階で順番に撮影するついでに、撮影したデータを持ち寄ってみるんですよね」
三城は興奮したように返した。
実は三城たちにとってはここからが本番となる。
三人には桂木が撮ったのとは別に個々人で撮影してもらい、一番面白い動画を撮った奴をメインに据えて四階から屋上の祠までを撮影する流れになっていることが伝えられている。
三城は時間を無駄にしないため、他の人と違い先に回していたわけだ。後輩として揉まれた経験がある分他の二人と違い気が回るのだろう。
尚、各自個人行動しているときにどんな撮影をしているかは桂木たちも一切把握していない。
「自信は?」
「ありますよ。そのために大島さんにも手伝ってもらいましたからね」
「大島?」
「やだなぁ、判ってますって。表に出ないように気をつけてますんで…さ、ほら、さっさと撮影しちゃいましょうよ」
大島に促され、それまでと同じような流れで撮影をしていく。
あらかた三階の撮影を終えたところで、どこからかふらっと田崎が現れた。
「おう、そっちも終わったみたいだな。それじゃあ下行くぞ」
「でさあ、俺は言ってやったんだ。銃を向けられるたびに五円貰ってたら、今頃大金持ちだってな」
桂木たちが一階につくと入り口脇のATM跡地ですでに絵里香たちが待機していた。
「あはは、おもしろーい」
そう愛想笑いをする絵里香の目は暗く淀んでいる。
剣持と二人きりとか…桂木は同類哀れんでいた。
「はいはい、それじゃあ暇を持て余してるようだから、さっさと撮影したものをみせてもらおうかね」
「はい、はーい!」
一刻も早く剣持から離れたいらしく、勢い良く絵里香が手を上げる。レディーファーストということで、さっそく彼女の動画を観ることとなった。
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