22 / 106
第十一話 ミツキ様_5
しおりを挟む
「私は一階の飲食店をメインに撮って来ましたよ!」
その申告通り、絵里香は飲食店跡地を丹念に見て回っていた。
ビルは全階がL字の廊下を180度ひっくり返した形になっており、最上階と一階は部屋数が少なくなっているが北の入り口から見て左右に店舗が入る形になっている。
そんな一階を探索していた絵里香は、どうやら西側の元レストランをメインにすることにしたようだ。
レンガ張りの壁を手伝いに移動しながら、真ん中に設けられたテーブルに向かう。
『うわ、これ! 見てくださいよ』
そう言いながら向けたカメラの先には、唯一残っていたテーブルの上に埃まみれの皿と、薄汚れたカトラリーが映っていた。彼女が持ち込んだ私物だろうか。
『さっき通ったときはこんなもの無かったのに! もしかして…成仏できない怨霊が食事しようとしてる…? 怖いですねぇ~』
誰かがぷっ、と小さく笑い声を漏らしたのが室内に響いた。
見渡せば、何人かは苦笑いしているのが見える。
まあ、シーツの上の埃にはうっすら皿が何回も置かれた跡が残っているし、カトラリーも同じサイズのスプーンばかりとお粗末な有様で。
あえて誰も指摘しなかっただが…逆にその反応だけで、絵里香は自分の策が思っていたより評価を得られなかったことを十分理解したようだ。
「…きっと皆さんのはもっと凄いんでしょうね! ふん!」
ぶすくれながらプレゼンを終えて後ろに引っ込んだ絵里香と入れ違いに、今度は剣持が前に出た。
「えー、こほん。私は彼女と違いですね、もっとそう…生活環境のほうを重点的に撮影することにしました」
解説を入れながら、動画を再生する剣持。
さて、動画の中の剣持はというと…
「え、ヤダ…気もち悪っ」
まっさきに女子トイレに飛び込んだのを見て、絵里香が小声でつぶやく。
「気持ち悪いとはなんだね。こういう、水場にこそ霊が現れると言うのは常識なんだぞ! 私は霊能研究者として真摯にだな…」
聞こえてしまったようで、剣持はテープを止めながら顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「ま、まあまあ、動画再生してくださいよ。後で撮影する時間がなくなっちゃいますから」
「む…そうだな、私の時間がなくなるのは困る。まったく、これだから無知な小娘は…」
桂木の取り成しで、ようやく剣持もぶつぶつ言いつつ動画再生に取り掛かった。
『むぅ…これは、感じる…邪悪な怨念が、隙を見て我々にとり憑こうとしているのだ』
言いながら、壁のカビやトイレのこびりついた汚れ、ガラスのウロコなどを十分以上掛けて熱心に撮っている。誰も口にはしなかったが、はっきりいって絵里香のそれと五十歩百歩の出来である――剣持以外にとって。
動画の内外の剣持はテンションが上がり次第に声高になっていったが、反比例して他の者は口数がめっきり絶えてしまっていた。
「ふふん、どうだ、撮影は私がメインを張るべきだろう?!」
「あー…ええ、なかなか興味深い出来ではありましたね。まあ、結論は最後まで見てから判断するんでもうちょい待っててくださいよ」
たっぷり持ち時間一杯まで使って満足げな剣持に、田崎はあっさりいなして大島に目配せする。
「じゃあ、よろしくお願いします」
三城の声に、再び一同はモニターに視線を向けた。
『あれ? ねえ、大島君? 大島君? ちょっと?』
動画内では、どうやら三城は大島とはぐれたという設定らしい。
腰が引けていて、演技なら役者としてもやっていけそうなくらいだ。部屋を覗いては見回り、と他の二人と違い自然体に見える。
『ちょ、ちょっと、こういうの止めようよ…割と洒落になんないって…』
言いながら三部屋目に差し掛かったところだ。
がたん、と大きな音が廊下側から聞こえ、おっかなびっくり歩いていた三城の体が大きく跳ねた。
『ひやっぃいっ?!』
情けない声を上げながら慌てて振り返りスマホを向ける。が、何も見えない。
誰かがぷふっ、と笑いを漏らしたのが静まり返っていた室内に響き渡った。三城は苦笑いしながら頬を掻いているが、それまで引き込まれていた証拠だ。
はっきりいって、何らの特別さを演出していないにも関わらず他の二人よりもはるかに見せ方が上手い。変に自分を良くみせようとしておらず、自然体を装っているからこそ視聴者も自然体で観れるのだ。
さて、動画内の三城はというとカツーンという甲高い金属音が響き渡ったところでしばらく突き出していたスマホをやがて引き戻し、自分の顔を大写しにする。
『や、やだなぁ、多分何か…そう、風かネズミ、或いは大島君のせいで何かが落ちたとかそんな音ですよ…ね? ね?』
そう笑う三城だが、目は笑っていない。
当人もそれを把握してか、努めて明るい口調で搾り出していく。
『いや、そうだ、きっと大島君でしょ。こうやってビビらすことで撮れ高を確保しようって魂胆なんでしょ。いやだなぁ、まったく、酷い話で…』
そこまで言い指した大島は、何かに気づいたように一点を凝視する。
かと思いきや、
『ぎゃあああ~~~~っ!』
魂消る悲鳴を上げて、スマホを投げ落としたまま駆け去ってしまった。
「お、おお?」
「え、これも仕込み?」
どうなるのか、引き込まれた視聴者側も固唾を呑んで見守る中、画面内では外から手が伸びてきて…スマホの電源を落とした。どうやら動画はここまでらしい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ26ニチ19ジ
その申告通り、絵里香は飲食店跡地を丹念に見て回っていた。
ビルは全階がL字の廊下を180度ひっくり返した形になっており、最上階と一階は部屋数が少なくなっているが北の入り口から見て左右に店舗が入る形になっている。
そんな一階を探索していた絵里香は、どうやら西側の元レストランをメインにすることにしたようだ。
レンガ張りの壁を手伝いに移動しながら、真ん中に設けられたテーブルに向かう。
『うわ、これ! 見てくださいよ』
そう言いながら向けたカメラの先には、唯一残っていたテーブルの上に埃まみれの皿と、薄汚れたカトラリーが映っていた。彼女が持ち込んだ私物だろうか。
『さっき通ったときはこんなもの無かったのに! もしかして…成仏できない怨霊が食事しようとしてる…? 怖いですねぇ~』
誰かがぷっ、と小さく笑い声を漏らしたのが室内に響いた。
見渡せば、何人かは苦笑いしているのが見える。
まあ、シーツの上の埃にはうっすら皿が何回も置かれた跡が残っているし、カトラリーも同じサイズのスプーンばかりとお粗末な有様で。
あえて誰も指摘しなかっただが…逆にその反応だけで、絵里香は自分の策が思っていたより評価を得られなかったことを十分理解したようだ。
「…きっと皆さんのはもっと凄いんでしょうね! ふん!」
ぶすくれながらプレゼンを終えて後ろに引っ込んだ絵里香と入れ違いに、今度は剣持が前に出た。
「えー、こほん。私は彼女と違いですね、もっとそう…生活環境のほうを重点的に撮影することにしました」
解説を入れながら、動画を再生する剣持。
さて、動画の中の剣持はというと…
「え、ヤダ…気もち悪っ」
まっさきに女子トイレに飛び込んだのを見て、絵里香が小声でつぶやく。
「気持ち悪いとはなんだね。こういう、水場にこそ霊が現れると言うのは常識なんだぞ! 私は霊能研究者として真摯にだな…」
聞こえてしまったようで、剣持はテープを止めながら顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「ま、まあまあ、動画再生してくださいよ。後で撮影する時間がなくなっちゃいますから」
「む…そうだな、私の時間がなくなるのは困る。まったく、これだから無知な小娘は…」
桂木の取り成しで、ようやく剣持もぶつぶつ言いつつ動画再生に取り掛かった。
『むぅ…これは、感じる…邪悪な怨念が、隙を見て我々にとり憑こうとしているのだ』
言いながら、壁のカビやトイレのこびりついた汚れ、ガラスのウロコなどを十分以上掛けて熱心に撮っている。誰も口にはしなかったが、はっきりいって絵里香のそれと五十歩百歩の出来である――剣持以外にとって。
動画の内外の剣持はテンションが上がり次第に声高になっていったが、反比例して他の者は口数がめっきり絶えてしまっていた。
「ふふん、どうだ、撮影は私がメインを張るべきだろう?!」
「あー…ええ、なかなか興味深い出来ではありましたね。まあ、結論は最後まで見てから判断するんでもうちょい待っててくださいよ」
たっぷり持ち時間一杯まで使って満足げな剣持に、田崎はあっさりいなして大島に目配せする。
「じゃあ、よろしくお願いします」
三城の声に、再び一同はモニターに視線を向けた。
『あれ? ねえ、大島君? 大島君? ちょっと?』
動画内では、どうやら三城は大島とはぐれたという設定らしい。
腰が引けていて、演技なら役者としてもやっていけそうなくらいだ。部屋を覗いては見回り、と他の二人と違い自然体に見える。
『ちょ、ちょっと、こういうの止めようよ…割と洒落になんないって…』
言いながら三部屋目に差し掛かったところだ。
がたん、と大きな音が廊下側から聞こえ、おっかなびっくり歩いていた三城の体が大きく跳ねた。
『ひやっぃいっ?!』
情けない声を上げながら慌てて振り返りスマホを向ける。が、何も見えない。
誰かがぷふっ、と笑いを漏らしたのが静まり返っていた室内に響き渡った。三城は苦笑いしながら頬を掻いているが、それまで引き込まれていた証拠だ。
はっきりいって、何らの特別さを演出していないにも関わらず他の二人よりもはるかに見せ方が上手い。変に自分を良くみせようとしておらず、自然体を装っているからこそ視聴者も自然体で観れるのだ。
さて、動画内の三城はというとカツーンという甲高い金属音が響き渡ったところでしばらく突き出していたスマホをやがて引き戻し、自分の顔を大写しにする。
『や、やだなぁ、多分何か…そう、風かネズミ、或いは大島君のせいで何かが落ちたとかそんな音ですよ…ね? ね?』
そう笑う三城だが、目は笑っていない。
当人もそれを把握してか、努めて明るい口調で搾り出していく。
『いや、そうだ、きっと大島君でしょ。こうやってビビらすことで撮れ高を確保しようって魂胆なんでしょ。いやだなぁ、まったく、酷い話で…』
そこまで言い指した大島は、何かに気づいたように一点を凝視する。
かと思いきや、
『ぎゃあああ~~~~っ!』
魂消る悲鳴を上げて、スマホを投げ落としたまま駆け去ってしまった。
「お、おお?」
「え、これも仕込み?」
どうなるのか、引き込まれた視聴者側も固唾を呑んで見守る中、画面内では外から手が伸びてきて…スマホの電源を落とした。どうやら動画はここまでらしい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ26ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる