安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第十一話 ミツキ様_5

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「私は一階の飲食店をメインに撮って来ましたよ!」

 その申告通り、絵里香は飲食店跡地を丹念に見て回っていた。

 ビルは全階がL字の廊下を180度ひっくり返した形になっており、最上階と一階は部屋数が少なくなっているが北の入り口から見て左右に店舗が入る形になっている。

 そんな一階を探索していた絵里香は、どうやら西側の元レストランをメインにすることにしたようだ。
 レンガ張りの壁を手伝いに移動しながら、真ん中に設けられたテーブルに向かう。

『うわ、これ! 見てくださいよ』

 そう言いながら向けたカメラの先には、唯一残っていたテーブルの上に埃まみれの皿と、薄汚れたカトラリーが映っていた。彼女が持ち込んだ私物だろうか。

『さっき通ったときはこんなもの無かったのに! もしかして…成仏できない怨霊が食事しようとしてる…? 怖いですねぇ~』
 誰かがぷっ、と小さく笑い声を漏らしたのが室内に響いた。

 見渡せば、何人かは苦笑いしているのが見える。

 まあ、シーツの上の埃にはうっすら皿が何回も置かれた跡が残っているし、カトラリーも同じサイズのスプーンばかりとお粗末な有様で。
 あえて誰も指摘しなかっただが…逆にその反応だけで、絵里香は自分の策が思っていたより評価を得られなかったことを十分理解したようだ。

「…きっと皆さんのはもっと凄いんでしょうね! ふん!」

 ぶすくれながらプレゼンを終えて後ろに引っ込んだ絵里香と入れ違いに、今度は剣持が前に出た。

「えー、こほん。私は彼女と違いですね、もっとそう…生活環境のほうを重点的に撮影することにしました」

 解説を入れながら、動画を再生する剣持。

 さて、動画の中の剣持はというと…
「え、ヤダ…気もち悪っ」
 まっさきに女子トイレに飛び込んだのを見て、絵里香が小声でつぶやく。

「気持ち悪いとはなんだね。こういう、水場にこそ霊が現れると言うのは常識なんだぞ! 私は霊能研究者として真摯にだな…」
 聞こえてしまったようで、剣持はテープを止めながら顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

「ま、まあまあ、動画再生してくださいよ。後で撮影する時間がなくなっちゃいますから」
「む…そうだな、私の時間がなくなるのは困る。まったく、これだから無知な小娘は…」

 桂木の取り成しで、ようやく剣持もぶつぶつ言いつつ動画再生に取り掛かった。

『むぅ…これは、感じる…邪悪な怨念が、隙を見て我々にとり憑こうとしているのだ』
 言いながら、壁のカビやトイレのこびりついた汚れ、ガラスのウロコなどを十分以上掛けて熱心に撮っている。誰も口にはしなかったが、はっきりいって絵里香のそれと五十歩百歩の出来である――剣持以外にとって。
 動画の内外の剣持はテンションが上がり次第に声高になっていったが、反比例して他の者は口数がめっきり絶えてしまっていた。

「ふふん、どうだ、撮影は私がメインを張るべきだろう?!」
「あー…ええ、なかなか興味深い出来ではありましたね。まあ、結論は最後まで見てから判断するんでもうちょい待っててくださいよ」
 たっぷり持ち時間一杯まで使って満足げな剣持に、田崎はあっさりいなして大島に目配せする。

「じゃあ、よろしくお願いします」
 三城の声に、再び一同はモニターに視線を向けた。

『あれ? ねえ、大島君? 大島君? ちょっと?』
 動画内では、どうやら三城は大島とはぐれたという設定らしい。
 腰が引けていて、演技なら役者としてもやっていけそうなくらいだ。部屋を覗いては見回り、と他の二人と違い自然体に見える。

『ちょ、ちょっと、こういうの止めようよ…割と洒落になんないって…』
 言いながら三部屋目に差し掛かったところだ。
 がたん、と大きな音が廊下側から聞こえ、おっかなびっくり歩いていた三城の体が大きく跳ねた。

『ひやっぃいっ?!』
 情けない声を上げながら慌てて振り返りスマホを向ける。が、何も見えない。
 誰かがぷふっ、と笑いを漏らしたのが静まり返っていた室内に響き渡った。三城は苦笑いしながら頬を掻いているが、それまで引き込まれていた証拠だ。
 はっきりいって、何らの特別さを演出していないにも関わらず他の二人よりもはるかに見せ方が上手い。変に自分を良くみせようとしておらず、自然体を装っているからこそ視聴者も自然体で観れるのだ。

 さて、動画内の三城はというとカツーンという甲高い金属音が響き渡ったところでしばらく突き出していたスマホをやがて引き戻し、自分の顔を大写しにする。

『や、やだなぁ、多分何か…そう、風かネズミ、或いは大島君のせいで何かが落ちたとかそんな音ですよ…ね? ね?』
 そう笑う三城だが、目は笑っていない。

 当人もそれを把握してか、努めて明るい口調で搾り出していく。
『いや、そうだ、きっと大島君でしょ。こうやってビビらすことで撮れ高を確保しようって魂胆なんでしょ。いやだなぁ、まったく、酷い話で…』
 そこまで言い指した大島は、何かに気づいたように一点を凝視する。

 かと思いきや、
『ぎゃあああ~~~~っ!』
 魂消る悲鳴を上げて、スマホを投げ落としたまま駆け去ってしまった。

「お、おお?」
「え、これも仕込み?」
 どうなるのか、引き込まれた視聴者側も固唾を呑んで見守る中、画面内では外から手が伸びてきて…スマホの電源を落とした。どうやら動画はここまでらしい。

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ツギハ26ニチ19ジ
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