愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

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プロローグ

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 セルジオ・ラシールはある少年に出会った瞬間、これが運命の番というものなのだと一瞬で理解した。この人の為なら全てを捨てられると。
「もう……大丈夫ですよ……」
 そう軽い言葉遣いで声をかけられ新鮮さを感じたのは、彼が齢十五にして王という立場にいたからだろうか。皆セルジオを避けるような真似はしなかったが、敬意という壁がいつも彼を孤独にさせていた。
 そんな日々をいとも簡単に変えてしまったのは一人の少年だった。

 レイという名のその少年は、隣国で策略に嵌り追放された聖者だった。
 聖者としてその癒しの力で人々を救いながらもΩであるという理由でまともな生活はさせてもらえず、追放後は隣国からの森を三日三晩彷徨っていたという。
 そして、森の浅い所まで出たところで散策中に魔物に襲われ大怪我を負ったセルジオと出会った。
 歩くのもやっとに見えるほどふらついていたレイは、それでもその力を使い、彼の命を救った。
 もう大丈夫だと、セルジオを安心させるようにその弱々しい、しかし透き通る様な声で呟くように言うと、レイはパタリと倒れ、それからまる二日目を覚さなかった。
 なんとか抱え込んだ腕の中のレイを見て、セルジオは乾きが潤う様に熱が湧き出すのを感じた。
 顔が紅く染まっていくのが見なくても分かった。
 (この人が命懸けで俺を救ってくれたように、俺も全てをこの人に捧げたい)
 自分の世界にレイが入り込んでくるのを感じた。自分の一部になったように。
 それが、運命の番というものだった。

 それからというもの、表向きはラシール王国の王と聖者という立場で、裏では恋人としてお互いを支えながら彼等は生きてきた。
 魔物に傷つけられた多数の兵士をレイが救ったことがあった。
 レイを今更連れ戻そうとする隣国にセルジオが啖呵を切ったこともあった。
 そうして七年の時が流れた。
「セルジオ、僕も後半年で二十歳。成人だよ」
「ああ、そうだな……」
 今でも覚えている。夕暮れの城下町を見ながら、お互い勇気が出ず長い沈黙が流れた。
「……ねぇ」
「……なあ」
 二人の声が重なった。
 気まずくなり再び沈黙しそうになるが、それは駄目だと何かがセルジオを突き動かし、気付いた時にはレイに思いをぶつけてしまった後だった。
「レイ、成人したら王妃に……俺と結婚してくれないか!」
 レイの目が見開かれた。
 夕日をキラキラ反射する宝石の様な赤い瞳が次第に濡れ、大粒の涙を一つ流すと、小さな身体がピョンっと跳ねてセルジオの腕の中に飛び込んだ。
「もちろん!」
 そうして二人は結婚の約束をした。
 (まだ正式なものではないが、すぐに正式に婚約をしよう。式は花の綺麗な季節がいいだろうか。花婿になったレイはどれほど美しいだろうか。結婚したら……もうこの熱を抑えなくていいだろうか)
 そう色々考えるたび、セルジオの胸は高鳴った。
 後半年。早く半年が経たないだろうか。そう思わない日はなかった。

 しかし、神は彼等に試練を与えた。

 ある朝、家臣が血相を変えて文を持ってきた。
 文は此処らで最大の国土、最強の国力を持つリリーシャ帝国からだった。
 国交も不安定ではないものの、友好国と呼べる程でもない間柄。下手な真似は出来なかった。
「文の内容は……?」
 とても言い辛そうに家臣が読み上げた内容は、リリーシャ帝国第二王子、アンバー・ド・リリーシャとの縁談だった。
 セルジオは頭を抱えた。レイとの婚約発表はまだだ。
 婚約していればこの縁談も断れたが、一国の王、二十二歳、婚約者無し、相手は大国となれば、断るのは非常に難しかった。
「……ルーシェル宰相、なんとか断れないか?」
「断れば国交上の軋轢は免れないかと……」
「なんとしても断ってくれ」
「!しかし、それでは国民が……!」
「俺はレイに全てを捧げると誓ったんだ!」
「陛下!貴方様がお考えになるべきはレイ様だけではございません!貴方様は王で有らせられる!……どうかお考え直しを……」
 レイに全てを捧げる。そう誓ったが、セルジオはレイの為でも国民を捨てることは出来なかった。
「レイ……申し訳ない!」
 セルジオは泣きながらレイに謝罪した。世界一大切な人との約束一つ守れないのかと自らが不甲斐なくて仕方なかった。
「いいんだよセルジオ。もし君が僕の為に国民を捨てていたら、僕は君を軽蔑していた」
 しゃがみ込みセルジオの涙を拭いながらレイは言う。
「大丈夫、セルジオが僕のこと大好きなのは知っているから……」
 そう言いながらもレイは泣いていた。
 その夜は二人で泣いて、泣いて、泣いて。気がついたら朝で、二人でベッドの上にいた。

 それから三ヶ月後、秋の深まってきた頃にアンバー・ド・リリーシャはラシール王国の地を踏んだ。
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