1 / 29
プロローグ
1
しおりを挟む
セルジオ・ラシールはある少年に出会った瞬間、これが運命の番というものなのだと一瞬で理解した。この人の為なら全てを捨てられると。
「もう……大丈夫ですよ……」
そう軽い言葉遣いで声をかけられ新鮮さを感じたのは、彼が齢十五にして王という立場にいたからだろうか。皆セルジオを避けるような真似はしなかったが、敬意という壁がいつも彼を孤独にさせていた。
そんな日々をいとも簡単に変えてしまったのは一人の少年だった。
レイという名のその少年は、隣国で策略に嵌り追放された聖者だった。
聖者としてその癒しの力で人々を救いながらもΩであるという理由でまともな生活はさせてもらえず、追放後は隣国からの森を三日三晩彷徨っていたという。
そして、森の浅い所まで出たところで散策中に魔物に襲われ大怪我を負ったセルジオと出会った。
歩くのもやっとに見えるほどふらついていたレイは、それでもその力を使い、彼の命を救った。
もう大丈夫だと、セルジオを安心させるようにその弱々しい、しかし透き通る様な声で呟くように言うと、レイはパタリと倒れ、それからまる二日目を覚さなかった。
なんとか抱え込んだ腕の中のレイを見て、セルジオは乾きが潤う様に熱が湧き出すのを感じた。
顔が紅く染まっていくのが見なくても分かった。
(この人が命懸けで俺を救ってくれたように、俺も全てをこの人に捧げたい)
自分の世界にレイが入り込んでくるのを感じた。自分の一部になったように。
それが、運命の番というものだった。
それからというもの、表向きはラシール王国の王と聖者という立場で、裏では恋人としてお互いを支えながら彼等は生きてきた。
魔物に傷つけられた多数の兵士をレイが救ったことがあった。
レイを今更連れ戻そうとする隣国にセルジオが啖呵を切ったこともあった。
そうして七年の時が流れた。
「セルジオ、僕も後半年で二十歳。成人だよ」
「ああ、そうだな……」
今でも覚えている。夕暮れの城下町を見ながら、お互い勇気が出ず長い沈黙が流れた。
「……ねぇ」
「……なあ」
二人の声が重なった。
気まずくなり再び沈黙しそうになるが、それは駄目だと何かがセルジオを突き動かし、気付いた時にはレイに思いをぶつけてしまった後だった。
「レイ、成人したら王妃に……俺と結婚してくれないか!」
レイの目が見開かれた。
夕日をキラキラ反射する宝石の様な赤い瞳が次第に濡れ、大粒の涙を一つ流すと、小さな身体がピョンっと跳ねてセルジオの腕の中に飛び込んだ。
「もちろん!」
そうして二人は結婚の約束をした。
(まだ正式なものではないが、すぐに正式に婚約をしよう。式は花の綺麗な季節がいいだろうか。花婿になったレイはどれほど美しいだろうか。結婚したら……もうこの熱を抑えなくていいだろうか)
そう色々考えるたび、セルジオの胸は高鳴った。
後半年。早く半年が経たないだろうか。そう思わない日はなかった。
しかし、神は彼等に試練を与えた。
ある朝、家臣が血相を変えて文を持ってきた。
文は此処らで最大の国土、最強の国力を持つリリーシャ帝国からだった。
国交も不安定ではないものの、友好国と呼べる程でもない間柄。下手な真似は出来なかった。
「文の内容は……?」
とても言い辛そうに家臣が読み上げた内容は、リリーシャ帝国第二王子、アンバー・ド・リリーシャとの縁談だった。
セルジオは頭を抱えた。レイとの婚約発表はまだだ。
婚約していればこの縁談も断れたが、一国の王、二十二歳、婚約者無し、相手は大国となれば、断るのは非常に難しかった。
「……ルーシェル宰相、なんとか断れないか?」
「断れば国交上の軋轢は免れないかと……」
「なんとしても断ってくれ」
「!しかし、それでは国民が……!」
「俺はレイに全てを捧げると誓ったんだ!」
「陛下!貴方様がお考えになるべきはレイ様だけではございません!貴方様は王で有らせられる!……どうかお考え直しを……」
レイに全てを捧げる。そう誓ったが、セルジオはレイの為でも国民を捨てることは出来なかった。
「レイ……申し訳ない!」
セルジオは泣きながらレイに謝罪した。世界一大切な人との約束一つ守れないのかと自らが不甲斐なくて仕方なかった。
「いいんだよセルジオ。もし君が僕の為に国民を捨てていたら、僕は君を軽蔑していた」
しゃがみ込みセルジオの涙を拭いながらレイは言う。
「大丈夫、セルジオが僕のこと大好きなのは知っているから……」
そう言いながらもレイは泣いていた。
その夜は二人で泣いて、泣いて、泣いて。気がついたら朝で、二人でベッドの上にいた。
それから三ヶ月後、秋の深まってきた頃にアンバー・ド・リリーシャはラシール王国の地を踏んだ。
「もう……大丈夫ですよ……」
そう軽い言葉遣いで声をかけられ新鮮さを感じたのは、彼が齢十五にして王という立場にいたからだろうか。皆セルジオを避けるような真似はしなかったが、敬意という壁がいつも彼を孤独にさせていた。
そんな日々をいとも簡単に変えてしまったのは一人の少年だった。
レイという名のその少年は、隣国で策略に嵌り追放された聖者だった。
聖者としてその癒しの力で人々を救いながらもΩであるという理由でまともな生活はさせてもらえず、追放後は隣国からの森を三日三晩彷徨っていたという。
そして、森の浅い所まで出たところで散策中に魔物に襲われ大怪我を負ったセルジオと出会った。
歩くのもやっとに見えるほどふらついていたレイは、それでもその力を使い、彼の命を救った。
もう大丈夫だと、セルジオを安心させるようにその弱々しい、しかし透き通る様な声で呟くように言うと、レイはパタリと倒れ、それからまる二日目を覚さなかった。
なんとか抱え込んだ腕の中のレイを見て、セルジオは乾きが潤う様に熱が湧き出すのを感じた。
顔が紅く染まっていくのが見なくても分かった。
(この人が命懸けで俺を救ってくれたように、俺も全てをこの人に捧げたい)
自分の世界にレイが入り込んでくるのを感じた。自分の一部になったように。
それが、運命の番というものだった。
それからというもの、表向きはラシール王国の王と聖者という立場で、裏では恋人としてお互いを支えながら彼等は生きてきた。
魔物に傷つけられた多数の兵士をレイが救ったことがあった。
レイを今更連れ戻そうとする隣国にセルジオが啖呵を切ったこともあった。
そうして七年の時が流れた。
「セルジオ、僕も後半年で二十歳。成人だよ」
「ああ、そうだな……」
今でも覚えている。夕暮れの城下町を見ながら、お互い勇気が出ず長い沈黙が流れた。
「……ねぇ」
「……なあ」
二人の声が重なった。
気まずくなり再び沈黙しそうになるが、それは駄目だと何かがセルジオを突き動かし、気付いた時にはレイに思いをぶつけてしまった後だった。
「レイ、成人したら王妃に……俺と結婚してくれないか!」
レイの目が見開かれた。
夕日をキラキラ反射する宝石の様な赤い瞳が次第に濡れ、大粒の涙を一つ流すと、小さな身体がピョンっと跳ねてセルジオの腕の中に飛び込んだ。
「もちろん!」
そうして二人は結婚の約束をした。
(まだ正式なものではないが、すぐに正式に婚約をしよう。式は花の綺麗な季節がいいだろうか。花婿になったレイはどれほど美しいだろうか。結婚したら……もうこの熱を抑えなくていいだろうか)
そう色々考えるたび、セルジオの胸は高鳴った。
後半年。早く半年が経たないだろうか。そう思わない日はなかった。
しかし、神は彼等に試練を与えた。
ある朝、家臣が血相を変えて文を持ってきた。
文は此処らで最大の国土、最強の国力を持つリリーシャ帝国からだった。
国交も不安定ではないものの、友好国と呼べる程でもない間柄。下手な真似は出来なかった。
「文の内容は……?」
とても言い辛そうに家臣が読み上げた内容は、リリーシャ帝国第二王子、アンバー・ド・リリーシャとの縁談だった。
セルジオは頭を抱えた。レイとの婚約発表はまだだ。
婚約していればこの縁談も断れたが、一国の王、二十二歳、婚約者無し、相手は大国となれば、断るのは非常に難しかった。
「……ルーシェル宰相、なんとか断れないか?」
「断れば国交上の軋轢は免れないかと……」
「なんとしても断ってくれ」
「!しかし、それでは国民が……!」
「俺はレイに全てを捧げると誓ったんだ!」
「陛下!貴方様がお考えになるべきはレイ様だけではございません!貴方様は王で有らせられる!……どうかお考え直しを……」
レイに全てを捧げる。そう誓ったが、セルジオはレイの為でも国民を捨てることは出来なかった。
「レイ……申し訳ない!」
セルジオは泣きながらレイに謝罪した。世界一大切な人との約束一つ守れないのかと自らが不甲斐なくて仕方なかった。
「いいんだよセルジオ。もし君が僕の為に国民を捨てていたら、僕は君を軽蔑していた」
しゃがみ込みセルジオの涙を拭いながらレイは言う。
「大丈夫、セルジオが僕のこと大好きなのは知っているから……」
そう言いながらもレイは泣いていた。
その夜は二人で泣いて、泣いて、泣いて。気がついたら朝で、二人でベッドの上にいた。
それから三ヶ月後、秋の深まってきた頃にアンバー・ド・リリーシャはラシール王国の地を踏んだ。
35
あなたにおすすめの小説
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
愛憎の檻・義父の受難
でみず
BL
深夜1時過ぎ、静寂を破るように玄関の扉が開き、濡れそぼった姿の少年・瀬那が帰宅する。彼は義父である理仁に冷たく敵意を向け、反発を露わにする。新たな家族に馴染めない孤独や母の再婚への複雑な思いをぶつける瀬那に、理仁は静かに接しながらも強い意志で彼を抱きしめ、冷え切った心と体を温めようとする。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる