愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

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蓮の似合わない男

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 蓮灯祭の当日は少し蒸し暑い日となった。
「王命だから来てくれ」という最低の誘われ方だったものの、アンバーはどこか浮かれていた。少なくとも、着ていく服で小一時間悩む程度には。
「暗い紫は……祭りには流石に無いな。だが私に明るい色なんて似合うわけが……」
 ぶつぶつと呟きながら、アンバーは鏡の前で服を合わせては別の服を、と繰り返す。従者に聞いても
「どれもお似合いにございます」
 と定形文が返ってくるばかりで一向に出口が見えない。
「やはり先程の暗い色の方が……」
 アンバーがそう言って振り返ると、そこにはいつの間にかダリウスが立っていた。アンバーは盛大に驚いた様子を見せる。
「いつの間に!……着替え中に来るとは、いささか無礼ではないか?」
 そう言ったアンバーだが、ダリウスに視線でそろそろ時間だと言われ、待たせている手前何も言えなくなる。
「どれで悩んでいるんですか?」
 ダリウスはゆっくりと近づいて来ながらそう言った。
「……この暗い紫か、そっちの薄い緑かだ」
 ダリウスはアンバーと従者からそれぞれを受け取ると、アンバーの肩の辺りから顔を覗かせて鏡の前に立つ彼の身体に服を当てる。
 一、二回交互に当てながら暫くの間じっくりと考えるダリウスの体温が伝わり、アンバーの胸は意図せず跳ねる。
「や、やはり私に明るい色は似合わないよな!」
 聞こえてしまいそうな程の鼓動を掻き消すようにアンバーはそう言ってダリウスの方に視線を向ける。すると「そんなことはない」と言いたげなダリウスと目が合った。一際大きく胸がドキリとしたせいで声が漏れそうになるのをアンバーはなんとか堪える。
「迷われるのも分かりますが、今日はこっちです。薄い蓮の葉の様な色ですし、純粋な感じで似合ってますよ」
「……わかった、今日はこちらにする。すぐに行くから外で待っていろ」
 アンバーは止めようと思ってもにやけてしまうのを、ダリウスにも従者にもバレないようにするのに必死だった。
 (純粋さが似合うなんて言われたことないぞ!?自分には暗い色しか似合わないと思っていたが……あいつが言うなら……)
 今はまだ気まずい最中であったことをようやく思い出したアンバーは、ぶんぶんと頭を振って喜んでしまったことを消そうとする。だが、胸の温かさまで消えることはなかった。

 屋敷を出るまでが嘘のように、移動中は終始無言であった。
 (先程のは、まず屋敷の従者から我々への認識を変える為にやったことだったのか?)
 アンバーがそう思っても仕方がないほど、二人の間に会話はなかった。
 少し気落ちしたアンバーが顔を上げると、そんなアンバーを励ますかの様な柔らかな灯りが見えてきた。よく見るとそれは白と淡いピンクとのグラデーションになった提灯で、紙を透けて出たことでその柔らかな灯りを発していたのだった。
「蓮灯祭は蓮と火を祭る祭りです。なのでこの様に街中に蓮の花の色を模した提灯を吊るします」
 沈黙を破ったダリウスが、徐にアンバーの手を取る。
「そろそろ人が増えてきます。手を繋ぎましょう」
「……仲睦まじそうにしなければいけないからな」
 アンバーの返答は、意に反して不貞腐れた様な嫌味ったらしい言い方になる。それはアンバーにとっても想定外で、自分の気持ちに理解が追いつかないでいた。
 ダリウスは思いがけない返答に戸惑いつつも、自分以上に困惑しているアンバーにを見て、今のは言葉のあやだったのだと認識する。
「いいえ、貴方と逸れたくないからです」
 そう言ってダリウスはアンバーの指と指の間にするりと自分の指を滑り込ませる。
「なっ……!これではまるで恋人ではないか!」
「恋人なのだから当然でしょう?」
 前にもこんな会話をした気がする。そう思いながら、アンバーは言い返すことが出来なかった。
 (そうか……たとえ仮初めであっても私は彼の……)
 ダリウスの骨張った手にああ、こいつもαの男なのだなとアンバーは思う。握った手が汗ばんでいくのはきっと今日が蒸し暑いせいだと、彼は自分に言い聞かせた。
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