愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

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蓮の似合わない男

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 アンバーとダリウスの間に微妙な空気が流れ始めてはや数日。会話も少なく、アンバーの触れられたくないことに触れたのなら蒸し返してはいけないかもしれないと考えるダリウスと、引っ叩くほど怒りをぶつけた手前どう収拾をつければいいのか考えあぐねているアンバー、双方のすれ違いにより二人は和解のチャンスを逃し続けていた。
 ダリウスがディランに呼び出されたのはそんな時だった。
「何故呼び出されたか分かるか?そうだ、お前らについてのことだ」
 間髪をいれずにそう言われるが、この時のダリウスはまだ
 (そうだったのか)
 と呑気に構えていた。
「私とアンバーについて何か……?」
 ダリウスの返事にディランは呆れ返る。
「あのなあ……、自分達に不仲の噂が流れていることを自覚しろ」
 それはダリウスにとって想定外の内容だった。先程までの余裕が消え、たらりと冷や汗が流れる。
「それは……、最近は否定はできませんが何故噂がたつほどにまで……?」
「民は思っているより噂好きだ。……自分達の行動を考えれば分かるだろう?」
「人目につくところでは何も……」
 まるで分かっていない様子のダリウスに、ディランは深く、深く溜息を吐く。
「だからだ!何もしていないからだ!共に姿を見せたのは殆ど婚姻の儀の日だけではないか!」
「アンバーがこちらに来てからほぼ毎日会っていましたが」
「それは結婚したらだろう!?仲睦まじい姿は見せず喧嘩の話は出る。当然の結果だ」
 やっと問題点を理解したダリウスを、ディランは消耗した目付きで見つめる。
 (『国の為に誰だろうと愛してみせる』とかなんとか言ってたよな?こいつに出来るのか?積極的にそうしてもらいたい訳でもないが……)
 ディランが見下ろす先には、どうしたものかと頭を抱えるダリウスの姿がある。
 恋人なんていた事がない状態からいきなり結婚した為、ダリウス自身仲のいい恋人、或いは夫婦といったものの立ち振る舞いは分からなかった。
 それを察し、こいつもまだまだ子どもだなと思いながらディランは一つ提案をする。
「アンバー殿を蓮灯祭れんとうさいに誘ってみてはどうだ?」
 蓮灯祭とは毎年夏に開かれる、蓮と火を祭る催しである。人の多い場であるためアピールには絶好の場だ。
 ダリウスはそれだ!と言わんばかりに目を輝かせ、勢い良く立ち上がる。颯爽と出口へと向かうが、直前でその行動力に感心しているディランへと向き直ると、ダリウスは最後に一つ質問をした。
「兄上、どのように誘えば良いのでしょう?」
「……そのくらい自分で考えろ」
 ディランは感心した自分が馬鹿だったという様な表情でしっしっと手を振り、ダリウスを謁見の間から追い出したのだった。

「アンバー、一緒に蓮灯祭へ行きませんか?」
 その夜、部屋で二人になったタイミングでダリウスは思い切って単刀直入にそう言った。久方ぶりの会話はまだどこかぎこちない。
「蓮灯祭?」
 初めて聞く単語に、アンバーは首を傾げる。
「毎年夏に開かれる祭りです。今年も近々開催されるので共にどうかと」
 久しぶりに目を見てそう言われ、アンバーは緊張から思わず目を逸らす。
 (それはつまり……デートということか?)
 思い返してみると、アンバーの人生で誰かとデートらしいものに行った記憶はあまり無かった。元伴侶であるセルジオと二人で共にどこかに行くといってもそれは結局のところ公務でしかなかったからだ。
「……何故私を誘うんだ?」
 自分が誘われるというのは更に想定外だったアンバーは、思わずそう尋ねた。多少の照れ隠しから少しつっけんどんになったその言葉を、ダリウスは拒否されようとしていると受け取ってしまったらしい。
「我々の不仲の噂を払拭する為です。王命と思ってください」
 夫に対するものとして最悪の誘い文句が誕生する。案の定アンバーも引いていた。
 (……なんだ。ダリウスの意志で誘われたわけではなかったのか)
 密かにそう思ってしまったことも、チクリと胸が痛んだことも、アンバーは気が付かなかったことにした。いや、むしろ認めようとしなかった。
「……そうか。王命ならば仕方ない、共に行こう」
 アンバーがなるべく自然にそう返すと、ダリウスは安堵の表情を浮かべる。
「話はそれだけか?私はもう寝るぞ」
 そう不貞腐れた様に言うと、アンバーはダリウスを放置してとっとと寝台へと向かってしまった。
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