愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

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蓮の似合わない男

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 屋敷に着いたアンバーは、いつになく引け目を感じた様な顔をしていた。
「どうしたんですか?」
 ダリウスの声にも応えない。
「服のことなら気にするなと従者も言っていたでしょう?あの者は腕が良いですから、すぐ洗えば血くらい落ちますよ」
 そう言ってもアンバーの顔は晴れない。着替えの服の留め具を全て留め終えた後は、静かに街の方を見つめていた。
「……花火」
 アンバーがポツリと呟く。ダリウスもその言葉に、花火そのものは屋敷から見えないものの音だけが辺り一体に響いていることに気が付く。
「花火、見られなくて悪かったな」
 アンバーは短くそう言う。
 彼の祖国リリーシャには、花火を上げる習慣はなかった。それ故、今回は彼にとって初めての花火であると同時に、最後の花火であると本人は思っていた。
 暫くその様子を見下ろしていたダリウスは、徐に歩み寄るとアンバーの横にストンと腰を下ろした。
「蓮灯祭は毎年あるんです。来年、再来年も一緒に行って見ればいい」
 その言葉はアンバーにとって想定外だった。彼としては、これで当初の目的は達成されたのだから来年は何もないと思っていたからだった。
「……来年も?」
「何かご不満でも?」
 少し不貞腐れた様な顔をするダリウスを可愛いと思ってしまったのはアンバーにとって不覚であった。どんな言葉選びをすればいいのか分からなかったアンバーは、とにかく不満など無いと否定するべく頭を横に振る。
「良かった」
 柔らかく微笑んだダリウスは、そっと衣嚢から何かを取り出す。
 ダリウスの手の中を覗き込むと、そこにはシャラシャラと月明かりを反射し輝く硝子の蓮の花の髪飾りがあった。
「一人で行かせてもらった時に買ったんです。貴方にと思って」
 照れくさそうに言ったダリウスの言葉に、アンバーは驚きを禁じ得なかった。
「カイ様の為に買いに行ったのではなかったのか?」
「カイ様はご自分で蓮灯祭に行かれている筈です。ですからこれは貴方に」
 自分の為に悩んで贈り物をされたのはアンバーにとって初めてのことだった。しかし、アンバーの顔は曇ったままだった。
「どうしたんですか?」
 ダリウスの声に、アンバーは言いにくそうに言葉を返す。
「『清らかな心』を意味する蓮が、私に似合うとは思えなくて……」
 アンバーの返答に、ダリウスはそんなことか、と安堵の表情を見せる。
「誰かを傷つけない為に理性的に行動した貴方に似合わないはずがないでしょう?」
 そう言い切ったダリウスに、アンバーの表情は少し柔らかくなる。
「そ、そうだろうか……?」
「ええ、きっと似合いますよ。……つけてみて貰えませんか?」
 そう言ってダリウスはアンバーの黄金の髪に触れる。そして誘導されるまま、アンバーはダリウスに背を向けた。
「……今更だが、男に髪飾りを贈るのはどうなんだ?」
 顎先より少し長い程度の髪を結われながら、アンバーは照れ隠しにそういう。
「嫌ならカイ様に渡してもいいのですよ?」
「そ、それは駄目だ!」
 それを揶揄う様に言ったダリウスの言葉を掻き消すかの如く大きめの声で言い返してしまったアンバーは、まるで自分が必死になっている様で、恥ずかしさから目を伏せる。
「できましたよ」
 そう言われ鏡を見るが、ハーフアップにされ飾りが後頭部にきたことでアンバー自身には見えなかった。
「うん、やっぱり似合っていますよ」
「……本当だろうな」
 素気なくそう返すが、アンバーはこんなに幸福でいいのだろうか、と心の中でその幸せを噛み締めていた。
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