22 / 29
王弟
22
しおりを挟む
それは二人での登城の帰りであった。
日の当たる中庭に差し掛かったところで子どもの黄色い声と共に少し高めの男性の声が聞こえてくる。
「カイ様がいらっしゃるようですね」
ダリウスの言葉に、アンバーもそこにカイとライルが居ることを察する。
「私は今日ヴェールをしていない。失礼だが貴様だけ行って来い」
そう言ってアンバーはダリウスの背中を押した。
「お久しぶりです、カイ様。ライル様も」
そう言ってダリウスは一人、カイとライルの元へと向かう。ダリウスに気がついた瞬間、二人は太陽の様な笑顔を見せた。
「ダリウスおじさま!」
「お久しぶりですダリウス様」
敬語で接するカイをダリウスは慌てたように制止する。
「カイ様、敬語はおやめください、あと『ダリウス様』と呼ぶのも……」
「だったらダリウスさ……ダリウスも敬語はやめて?僕達の仲でしょう?」
そう言ってダリウスを覗き込むような姿勢で少し頬を膨らませたカイは、なんとも言えない小動物の様な可愛さをしていた。
暫くどちらも引かずに沈黙していたが、ふいにそれがおかしくなり二人は笑い合う。
「カイ、私の負けだ。仰せのままに、敬語はやめよう」
少し姿勢を低くしながらダリウスがそう言ったのに対し、やっぱりカイは頬を膨らませる。
「またそんな意地悪な言い方をして!全く、貴方はどこか子供っぽいんだから」
そう言いながらも、カイはどこか懐かしそうな顔をしていた。
「ディランに会ってきたんでしょう?」
「ああ、相変わらずあの人は切れ者だ。俺じゃまだまだ追いつけない」
そう言って少し目を伏せるダリウスに、カイは優しく声をかける。
「昔言ったでしょう?いつかダリウスがこの国を救う日が来るって。日々貴方がこの国を支えているのもその一環だと僕は思うけどなぁ」
「……そうかもしれないな。ありがとう、カイにはいつも励まされてしまう」
そう言ってダリウスは見たこともない優しい笑顔を浮かべていた。
さらさらと風が草木を撫でる側でそれを聞いていたアンバーは、何か暗い感情が芽生えるのを感じていた。絶対にダリウスに対して、ましてカイに対して抱いてはいけない感情だと言い聞かせてもそれが消えることはない。
面白くない。嫌だ。やめてほしい。さっさと屋敷に戻りたい。
この感情の正体に気が付いてしまう前に。
何も聞きたくない、と周りの音を遮断するように目を閉じていたアンバーは、ダリウスに肩を叩かれるまでその気配に気が付かなかった。
「アンバー?」
ダリウスの声にハッとして振り返る。そこにはいつもと変わらない彼の姿があった。
「話はもういいのか?」
「ええ、カイ様もまた貴方に会いたいと仰っていましたよ」
「……そうか」
アンバーはそう応えるのが精一杯だった。
屋敷へ戻っても、アンバーは自身の気持ちに整理をつけられずにいた。
カイとダリウスの過去に何があろうと、今は義兄、義弟の間柄なのだから気にする必要はない。何よりカイはライルとディランを愛している。だから二人の間には何もない。
大体、ダリウスが誰を愛そうと自分には関係ないはずだ。
そう考えても、吐き出してしまいそうな程の嫌な感情がぐるぐると腹の中を這い回る。なんでもない様なダリウスの様子に腹が立って仕方がなかった。
「どうしたんですか?」
アンバーの不機嫌そうな顔に気が付き、ダリウスが尋ねる。
人の気も知らずにずけずけと。苛立ちを覚えたアンバーはそれに気を取られ、いつの間にか言わないつもりだったことを口走っていた。
「貴様は何故、いつからカイ様に想いを寄せているのだ?」
アンバーが自分の言葉にハッとして振り向くと、赤面しながら少し怒った様なダリウスの姿があった。
「何度も言いますが、カイ様に想いを寄せているなどということはありません」
ダリウスは噛み付く様に言うが、アンバーにはとても信じられなかった。
「なら王妃と王弟である貴様が何故あそこまで親しい間柄なのだ?」
アンバーは吐き捨てる様に聞く。ダリウスからの返答はない。
それにまた苛立ったアンバーがダリウスを睨みつけると、彼は戸惑った様子を見せた後、観念した様に自身とカイの過去について話し始めた。
日の当たる中庭に差し掛かったところで子どもの黄色い声と共に少し高めの男性の声が聞こえてくる。
「カイ様がいらっしゃるようですね」
ダリウスの言葉に、アンバーもそこにカイとライルが居ることを察する。
「私は今日ヴェールをしていない。失礼だが貴様だけ行って来い」
そう言ってアンバーはダリウスの背中を押した。
「お久しぶりです、カイ様。ライル様も」
そう言ってダリウスは一人、カイとライルの元へと向かう。ダリウスに気がついた瞬間、二人は太陽の様な笑顔を見せた。
「ダリウスおじさま!」
「お久しぶりですダリウス様」
敬語で接するカイをダリウスは慌てたように制止する。
「カイ様、敬語はおやめください、あと『ダリウス様』と呼ぶのも……」
「だったらダリウスさ……ダリウスも敬語はやめて?僕達の仲でしょう?」
そう言ってダリウスを覗き込むような姿勢で少し頬を膨らませたカイは、なんとも言えない小動物の様な可愛さをしていた。
暫くどちらも引かずに沈黙していたが、ふいにそれがおかしくなり二人は笑い合う。
「カイ、私の負けだ。仰せのままに、敬語はやめよう」
少し姿勢を低くしながらダリウスがそう言ったのに対し、やっぱりカイは頬を膨らませる。
「またそんな意地悪な言い方をして!全く、貴方はどこか子供っぽいんだから」
そう言いながらも、カイはどこか懐かしそうな顔をしていた。
「ディランに会ってきたんでしょう?」
「ああ、相変わらずあの人は切れ者だ。俺じゃまだまだ追いつけない」
そう言って少し目を伏せるダリウスに、カイは優しく声をかける。
「昔言ったでしょう?いつかダリウスがこの国を救う日が来るって。日々貴方がこの国を支えているのもその一環だと僕は思うけどなぁ」
「……そうかもしれないな。ありがとう、カイにはいつも励まされてしまう」
そう言ってダリウスは見たこともない優しい笑顔を浮かべていた。
さらさらと風が草木を撫でる側でそれを聞いていたアンバーは、何か暗い感情が芽生えるのを感じていた。絶対にダリウスに対して、ましてカイに対して抱いてはいけない感情だと言い聞かせてもそれが消えることはない。
面白くない。嫌だ。やめてほしい。さっさと屋敷に戻りたい。
この感情の正体に気が付いてしまう前に。
何も聞きたくない、と周りの音を遮断するように目を閉じていたアンバーは、ダリウスに肩を叩かれるまでその気配に気が付かなかった。
「アンバー?」
ダリウスの声にハッとして振り返る。そこにはいつもと変わらない彼の姿があった。
「話はもういいのか?」
「ええ、カイ様もまた貴方に会いたいと仰っていましたよ」
「……そうか」
アンバーはそう応えるのが精一杯だった。
屋敷へ戻っても、アンバーは自身の気持ちに整理をつけられずにいた。
カイとダリウスの過去に何があろうと、今は義兄、義弟の間柄なのだから気にする必要はない。何よりカイはライルとディランを愛している。だから二人の間には何もない。
大体、ダリウスが誰を愛そうと自分には関係ないはずだ。
そう考えても、吐き出してしまいそうな程の嫌な感情がぐるぐると腹の中を這い回る。なんでもない様なダリウスの様子に腹が立って仕方がなかった。
「どうしたんですか?」
アンバーの不機嫌そうな顔に気が付き、ダリウスが尋ねる。
人の気も知らずにずけずけと。苛立ちを覚えたアンバーはそれに気を取られ、いつの間にか言わないつもりだったことを口走っていた。
「貴様は何故、いつからカイ様に想いを寄せているのだ?」
アンバーが自分の言葉にハッとして振り向くと、赤面しながら少し怒った様なダリウスの姿があった。
「何度も言いますが、カイ様に想いを寄せているなどということはありません」
ダリウスは噛み付く様に言うが、アンバーにはとても信じられなかった。
「なら王妃と王弟である貴様が何故あそこまで親しい間柄なのだ?」
アンバーは吐き捨てる様に聞く。ダリウスからの返答はない。
それにまた苛立ったアンバーがダリウスを睨みつけると、彼は戸惑った様子を見せた後、観念した様に自身とカイの過去について話し始めた。
73
あなたにおすすめの小説
愛憎の檻・義父の受難
でみず
BL
深夜1時過ぎ、静寂を破るように玄関の扉が開き、濡れそぼった姿の少年・瀬那が帰宅する。彼は義父である理仁に冷たく敵意を向け、反発を露わにする。新たな家族に馴染めない孤独や母の再婚への複雑な思いをぶつける瀬那に、理仁は静かに接しながらも強い意志で彼を抱きしめ、冷え切った心と体を温めようとする。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる