愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

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王弟

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 それからのダリウスはより一層勉学に身が入るようになった。そしてそれに伴った成果も少しずつだが見え始めている。
「そこで受身に回って!」
「はい、先生!」
 剣術の授業でも、ダリウスは今までとは違い攻めるばかりの戦い方は控えるようになった。
(ちゃんと受身を取ることで安定感が増した気がする……!)
 ディランの剣を受け流したダリウスは、今までより相手に隙が生まれやすくなったことに気が付く。相手の攻撃を受けリズムを作り、強い一打で相手の剣を弾く。
 そうして生まれた大きな隙を見逃さず、ダリウスは渾身の一打を打ち込んだ。
「っ!」
 しかし、それは間一髪でディランに避けられた。
 そのまま身体を支えきれなくなったダリウスは地面に倒れ込む。しかし、その表情は確かな手応えを感じた様子だった。
「強くなったな、ダリウス」
「ありがとうございます、兄上」
 カイの言葉に支えられ卑屈さの減ったダリウスは、今までより素直に兄からの賞賛を受け取る。
「最後の踏み込みは少々甘かったですが、去なしは以前より格段に上達されましたね」
 教師の言葉も、反抗的になることなく受け入れられた。
「今日の授業はここまでに致しましょう」
 ダリウスとディランは良い背筋で礼をすると剣を片づけ、次の作法の授業を受けるべく城の中に戻ることにした。
「兄上、先に湯浴みへ向かって……」
 ダリウスは先に浴場へ向かうようディランに言おうと振り返るが、そこにディランの姿はない。
「兄上?……先に戻られたのかな?」
 いつもなら共に行動する兄の姿がないことにダリウスは違和感を覚える。
 しかし、そういうこともあるだろうと気を取り直して一人浴場へと向かうことにした。

 少し涼しい城の中に安らぎを感じながら歩いていると、不意に人の声が聞こえてきた。
 それはダリウスがカイと出会ったあの曲がり角の方からだった。
(カイの声だ!)
 あの時のお礼を言おう。そう思いダリウスは声のする方へ進路を変えることにした。こちらの存在には気がついていないらしいカイの、この前より少し高い声が聞こえてくる。
 少し驚かしてやろうと思ったダリウスはそっと静かに建物の影から様子を伺った。
 そこには太陽に照らされた花のように明るい笑顔のカイ、そして、ディランの姿があった。
(兄上……?)
 二人の元へ行こうとしたダリウスだったが、何故か二人の雰囲気に足が止まる。
「そんなに抱きつくな、カイ。その……汗臭いだろう?」
「いいえ、そのようなことはございません!私はディラン様の香りが大好きです」
 そう言って無邪気にディランの胸に顔を埋めるカイの姿に、
(ああ、二人は恋仲なのだ)
 とダリウスは即座に察する。
「この前、ダリウス様に不躾なことを言ってしまいました。お気に触っていなければいいのですが……」
「ああ、だからか。最近あいつが良い意味で変わった気がしていたんだが、カイのお陰だったんだな」
 そう言ってディランに抱き締められ、目尻を下げて頬を染めるカイに、ダリウスは今までに幾度となく抱いてきた感情に似たものが湧き上がってくるのを感じた。
 思わず口を抑えて、へたり込みそうになる脚をなんとか奮い立たせる。
(やめてくれ……)
 心の中でそう呟いた時だった。
 口元を抑える指の隙間を縫って滑り込んできた甘い香りが、ダリウスの鼻腔を刺激した。初めて嗅ぐ苦しいほどに甘いその匂いに顔を上げると、そこにはディランの腕の中で荒く息をするカイの姿があった。
 二人の姿に釘付けになるダリウスは、直感的にある真実に気が付いた。
(二人は運命の番なんだ)
「誰か!ヒートを起こした者がいる!」
 ディランの叫び声に、ダリウスはハッとする。その声を聞きつけた様にこちらに近づいてくる複数の足音が聞こえてきた。
(まずい、見つかったら盗み見ていたことが二人にバレる!)
 ダリウスは走ってその場を離れた。
 真っ直ぐに浴場へと向かうと、見たことを洗い流すかのように頭から熱い湯を被る。
「いやだ、二人が運命の番だなんて……」
 涙が溢れる目は焦点が合わず、ダリウスは倒れ込むように浴槽へ入った。
(初めて俺を受け止めてくれたカイも、聡明でずっと仲良くやってきた兄上も失いたくない……!)
 ダリウスは自分の中で何かが音を立てて壊れていくのを感じた。
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