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王弟
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温かい。
微睡の中ダリウスは腕の中の温もりを、縋るように抱き締めた。
決して柔らかく包み込んでいてくれている訳ではない。どちらかと言えば骨張っていて硬い、人だろうか。人だとしたら、二十代にもなった大男が誰かに抱きついているということになる。少し、いや大分恥ずかしいな、とダリウスは考えながらもそれを離そうとはしなかった。
ダリウス。
不意にそう呼ばれた気がして、目を開く。
(アンバー……?)
抱きついていた相手はアンバーらしいが、ぼんやりしていて顔はよく見えない。
(これは夢か。でもなんで俺はアンバーに抱きついて……)
ダリウス。
再び、もっとはっきりとアンバーの声が名前を呼ぶ。
(アンバーが呼んでいる……起きなければ……)
ダリウスは声のする方へ進むようにして、意識を覚醒させた。
「ダリウス」
今度は確実に、アンバーがダリウスを呼んだ。
それでもダリウスの実感はまだ遠くにあり、要するに寝ぼけた状態にあった。少し赤く腫れた目をしぱしぱさせながら再び夢に戻ろうとするのを、アンバーは必死に揺すって起こす。
「ん……」
「な、おい貴様!」
覚醒しきらないダリウスに一層抱き締められ、アンバーは赤面しながらそれを引き剥がそうとした。
「貴様、いい加減に起きろ!」
アンバーの一際大きい声に、ダリウスの意識は完全に現実へと引き戻される。
顔を上げると、夢の中のと同じよう自身がアンバーに抱きついていることに気が付き、ダリウスは慌てた。徐々に思い起こされる寝る前の記憶。
(確か俺はみっともなく泣いて、アンバーに抱き締められて……まさかそのまま寝たのか!?)
ダリウスの顔に「やってしまった」という表情が広がっていく。
「アンバー、申し訳ございませ……」
「まず退いてもらえないか?流石に腕が痺れた」
自分がアンバーの腕を下敷きにしていることに気が付き、更に慌てながらダリウスは勢いよく上体を起こす。
恥ずかしさから赤くなったり、申し訳なさから青くなったりしながら謝罪し続けるダリウスの頬に、起き上がったアンバーは手を添えた。
いつになく優しいその手つきと、じんわり伝わる熱に、ダリウスは心臓が五月蝿くなるのがわかった。
「泣き疲れて寝るなんて、まるで子供だな」
そう言ってアンバーは微笑む。その表情は今までに見たことがないような慈愛に満ちた笑顔で、ダリウスは思わず息を呑む。
「綺麗……」
そう呟くと、ダリウスはアンバーの唇に自身の唇を重ねた。突然のことに、アンバーはぽかーんとしたまま動けなくなる。
「……ダリウス……貴様、今何を?」
「すみません……笑った貴方がとても綺麗で、この人が自分の夫だと思ったら嬉しくてつい……」
ダリウスは見惚れたようにどこかぼーっとした目でアンバーを見ながら言う。しかし、それはアンバーにはとても信じられない言葉だった。今まで美しいと言われてもそれは建前でしかなく、必ず裏にはそれを否定する陰口があった。
それでも愛した者にそう言われ、アンバーは信じたくてたまらない衝動に駆られる。今までそれで何度傷ついたか覚えていない訳ではない。
(私はまた愚かにも信じてしまうのか?)
アンバーは自問する。
相手が自分の言葉を信用していないことを察したダリウスは、もう一度、目を合わせて言った。
「どんな貴方も美しい。……最近よく笑ってくれるようになって、どんどん綺麗になっていっている。と、私は、思って……」
段々と恥ずかしくなってきたダリウスは、上手く言葉を紡げないまま赤面する。しかし、それでもアンバーから目を逸らすことはせず、真っ直ぐに見つめ続けた。
(照れている様子なのにこんなに真っ直ぐ……まさか、本気で……?)
アンバーは嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を逸らしたくなる。
(いや……それは駄目だ)
それはダリウスに対して不誠実だ、とアンバーは思い直す。
そして一呼吸置くと、アンバーはもう一度とびきりの笑顔で微笑み返した。
微睡の中ダリウスは腕の中の温もりを、縋るように抱き締めた。
決して柔らかく包み込んでいてくれている訳ではない。どちらかと言えば骨張っていて硬い、人だろうか。人だとしたら、二十代にもなった大男が誰かに抱きついているということになる。少し、いや大分恥ずかしいな、とダリウスは考えながらもそれを離そうとはしなかった。
ダリウス。
不意にそう呼ばれた気がして、目を開く。
(アンバー……?)
抱きついていた相手はアンバーらしいが、ぼんやりしていて顔はよく見えない。
(これは夢か。でもなんで俺はアンバーに抱きついて……)
ダリウス。
再び、もっとはっきりとアンバーの声が名前を呼ぶ。
(アンバーが呼んでいる……起きなければ……)
ダリウスは声のする方へ進むようにして、意識を覚醒させた。
「ダリウス」
今度は確実に、アンバーがダリウスを呼んだ。
それでもダリウスの実感はまだ遠くにあり、要するに寝ぼけた状態にあった。少し赤く腫れた目をしぱしぱさせながら再び夢に戻ろうとするのを、アンバーは必死に揺すって起こす。
「ん……」
「な、おい貴様!」
覚醒しきらないダリウスに一層抱き締められ、アンバーは赤面しながらそれを引き剥がそうとした。
「貴様、いい加減に起きろ!」
アンバーの一際大きい声に、ダリウスの意識は完全に現実へと引き戻される。
顔を上げると、夢の中のと同じよう自身がアンバーに抱きついていることに気が付き、ダリウスは慌てた。徐々に思い起こされる寝る前の記憶。
(確か俺はみっともなく泣いて、アンバーに抱き締められて……まさかそのまま寝たのか!?)
ダリウスの顔に「やってしまった」という表情が広がっていく。
「アンバー、申し訳ございませ……」
「まず退いてもらえないか?流石に腕が痺れた」
自分がアンバーの腕を下敷きにしていることに気が付き、更に慌てながらダリウスは勢いよく上体を起こす。
恥ずかしさから赤くなったり、申し訳なさから青くなったりしながら謝罪し続けるダリウスの頬に、起き上がったアンバーは手を添えた。
いつになく優しいその手つきと、じんわり伝わる熱に、ダリウスは心臓が五月蝿くなるのがわかった。
「泣き疲れて寝るなんて、まるで子供だな」
そう言ってアンバーは微笑む。その表情は今までに見たことがないような慈愛に満ちた笑顔で、ダリウスは思わず息を呑む。
「綺麗……」
そう呟くと、ダリウスはアンバーの唇に自身の唇を重ねた。突然のことに、アンバーはぽかーんとしたまま動けなくなる。
「……ダリウス……貴様、今何を?」
「すみません……笑った貴方がとても綺麗で、この人が自分の夫だと思ったら嬉しくてつい……」
ダリウスは見惚れたようにどこかぼーっとした目でアンバーを見ながら言う。しかし、それはアンバーにはとても信じられない言葉だった。今まで美しいと言われてもそれは建前でしかなく、必ず裏にはそれを否定する陰口があった。
それでも愛した者にそう言われ、アンバーは信じたくてたまらない衝動に駆られる。今までそれで何度傷ついたか覚えていない訳ではない。
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アンバーは自問する。
相手が自分の言葉を信用していないことを察したダリウスは、もう一度、目を合わせて言った。
「どんな貴方も美しい。……最近よく笑ってくれるようになって、どんどん綺麗になっていっている。と、私は、思って……」
段々と恥ずかしくなってきたダリウスは、上手く言葉を紡げないまま赤面する。しかし、それでもアンバーから目を逸らすことはせず、真っ直ぐに見つめ続けた。
(照れている様子なのにこんなに真っ直ぐ……まさか、本気で……?)
アンバーは嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を逸らしたくなる。
(いや……それは駄目だ)
それはダリウスに対して不誠実だ、とアンバーは思い直す。
そして一呼吸置くと、アンバーはもう一度とびきりの笑顔で微笑み返した。
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