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運命じゃない二人
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「エリオス様……」
従者の青年はエリオスを庇うように一歩前に出る。
アンバーにとって本来そんな仕草は茶飯事だった。だがリリーシャから離れ、ダリウスに絆されてしまったのだろうか、今のアンバーの心にはチクリと刺さった。
「アンバー兄上、何故ここに……?」
「それはこちらの台詞だ、エリオス」
アンバーはリリーシャにいた頃の癖が戻り口調が少しきつくなる。そのせいで二人は更に警戒したように表情が固くなった。
「時間はあるか?ここで立っている訳にもいかない、そこの茶屋に入ろう」
「失礼ですが時間が……」
彼はなるべく自然にそう誘うが、従者はそれを断ろうとする。しかしそれを制止したのはエリオスだった。
「大丈夫だエルド。……兄上、船の乗り込みまでにはまだ時間があります、参りましょう」
小さな声で従者にそう言ってから、エリオスはアンバーの提案を承諾した。
港町で外国の文化が入ってきていることもあり、その店は椅子座の仕様になっていた。エリオス達を奥に座らせメニューを開くが、やはり共通語の表示もありリリーシャ出身の彼等でも読むことができた。
「僕等は珈琲を……兄上は?」
「私は甘茶を頼む」
店員が席を離れると、エリオスは驚いたように話しかける。
「兄上が甘いものを嗜まれるのは知りませんでした」
そう言われたアンバーは、少し言いにくそうにしながらも応えた。
「お前が生まれた頃にはもう痩せていたから知らなかっただろうが……その、昔から太りやすくて……。だが甘味は好物なんだ」
アンバーは恥ずかしそうに外に目をやる。
重たい沈黙が流れ始めるが、飲料がつくまでにはまだかかりそうだ。空気を打開すべく今度はアンバーが質問をする。
「お前は何故オステルメイヤーに来ていたのだ?」
その瞬間エルドがキッとアンバーを睨みつける。それに気づかなかった様にエリオスはえーっと、と視線を逸らしつつ答えた。
「実はフレイン……恋人と別れたんです。蓮灯祭に合わせてその傷心旅行といいますか……」
「……別れた?」
アンバーの目付きが変わる。恋人と添い遂げたいが為に国交を乱し、ディランやダリウスを混乱させたことをアンバーは許すことができなかった。
「お前達の為にどれだけの混乱が起きたと思っている?その上その男と別れただと?」
「失礼ながらそれはあの男が……」
エルドが庇おうとするのを、エリオスはそっと止める。その目は潤み、スラックスをぎゅっと掴む手は微かに震えていた。
「仕方がなかったのです。彼は……他に愛する人ができたと書き残して、駆け落ちしてしまって……」
エリオスは鼻を啜り、ポロッと涙を流す。
「本当に彼を愛していて、僕の知らないことを色々教えてくれた彼が大好きで……。もし彼が戻ってきてくれるなら……!」
エルドは同情するようにエリオスの肩を撫でる。その間にもエリオスの涙は増えてゆき、とうとう両手で顔を覆ってしまった。
「愛していたのは僕だけだったんだ……!彼がいないのなら、僕にはもう何も残っていない……!」
話にならないな。アンバーはそう思う。国交の為自分を押し殺し、妾のことばかりを気に掛ける夫を許し続けた彼には、エリオスの行動が理解できなかった。それに、何もないという割には少なくともこんなに同情してくれる従者がいるし、愛してくれる父親が二人、エリオスにはいる。
泣き止まないエリオスとそれを慰めるエルドに呆れながら、アンバーは配膳された茶を飲み始めた。温かくて甘いミルクの入った茶は、アンバーを二人から引き離すようにじんわりと味蕾を癒しながら広がる。
まだ僅かにすんすんと鼻を啜りながらも、泣き止んだエリオスは珈琲に手を伸ばした。カップが持ち上がるのとほぼ同時に、客の来店を告げるベルがなる。
「あっ!」
入ってきた男は店内を見渡し、アンバーと目があった瞬間に目を輝かせた。
「お待たせしましたアンバー。……こちらの方々は?」
その男、ダリウスは三人の席まで来るとそう尋ねた。
「……私の弟のエリオスだ」
アンバーは気まずいながらにそう答える。それを聞いたダリウスは、二人に向かって一礼しながら名乗った。
「これは失礼いたしました。私はここオステルメイヤーの宰相、ダリウス・オステルメイヤーでございます」
(私との初対面の様に抱きついたりしないだろうな……?)
アンバーは一瞬不安になるが、ダリウスも流石にそんなことはしなかった。アンバーはそっと胸を撫で下ろす。しかし、直後に別の不安に襲われた。
「リリーシャ帝国第三皇子、エリオス・ド・リリーシャで……」
ダリウスを見上げたまだ少し潤んだ大きな目の色が明らかに変わる。そして、それはダリウスもまた一緒だった。
従者の青年はエリオスを庇うように一歩前に出る。
アンバーにとって本来そんな仕草は茶飯事だった。だがリリーシャから離れ、ダリウスに絆されてしまったのだろうか、今のアンバーの心にはチクリと刺さった。
「アンバー兄上、何故ここに……?」
「それはこちらの台詞だ、エリオス」
アンバーはリリーシャにいた頃の癖が戻り口調が少しきつくなる。そのせいで二人は更に警戒したように表情が固くなった。
「時間はあるか?ここで立っている訳にもいかない、そこの茶屋に入ろう」
「失礼ですが時間が……」
彼はなるべく自然にそう誘うが、従者はそれを断ろうとする。しかしそれを制止したのはエリオスだった。
「大丈夫だエルド。……兄上、船の乗り込みまでにはまだ時間があります、参りましょう」
小さな声で従者にそう言ってから、エリオスはアンバーの提案を承諾した。
港町で外国の文化が入ってきていることもあり、その店は椅子座の仕様になっていた。エリオス達を奥に座らせメニューを開くが、やはり共通語の表示もありリリーシャ出身の彼等でも読むことができた。
「僕等は珈琲を……兄上は?」
「私は甘茶を頼む」
店員が席を離れると、エリオスは驚いたように話しかける。
「兄上が甘いものを嗜まれるのは知りませんでした」
そう言われたアンバーは、少し言いにくそうにしながらも応えた。
「お前が生まれた頃にはもう痩せていたから知らなかっただろうが……その、昔から太りやすくて……。だが甘味は好物なんだ」
アンバーは恥ずかしそうに外に目をやる。
重たい沈黙が流れ始めるが、飲料がつくまでにはまだかかりそうだ。空気を打開すべく今度はアンバーが質問をする。
「お前は何故オステルメイヤーに来ていたのだ?」
その瞬間エルドがキッとアンバーを睨みつける。それに気づかなかった様にエリオスはえーっと、と視線を逸らしつつ答えた。
「実はフレイン……恋人と別れたんです。蓮灯祭に合わせてその傷心旅行といいますか……」
「……別れた?」
アンバーの目付きが変わる。恋人と添い遂げたいが為に国交を乱し、ディランやダリウスを混乱させたことをアンバーは許すことができなかった。
「お前達の為にどれだけの混乱が起きたと思っている?その上その男と別れただと?」
「失礼ながらそれはあの男が……」
エルドが庇おうとするのを、エリオスはそっと止める。その目は潤み、スラックスをぎゅっと掴む手は微かに震えていた。
「仕方がなかったのです。彼は……他に愛する人ができたと書き残して、駆け落ちしてしまって……」
エリオスは鼻を啜り、ポロッと涙を流す。
「本当に彼を愛していて、僕の知らないことを色々教えてくれた彼が大好きで……。もし彼が戻ってきてくれるなら……!」
エルドは同情するようにエリオスの肩を撫でる。その間にもエリオスの涙は増えてゆき、とうとう両手で顔を覆ってしまった。
「愛していたのは僕だけだったんだ……!彼がいないのなら、僕にはもう何も残っていない……!」
話にならないな。アンバーはそう思う。国交の為自分を押し殺し、妾のことばかりを気に掛ける夫を許し続けた彼には、エリオスの行動が理解できなかった。それに、何もないという割には少なくともこんなに同情してくれる従者がいるし、愛してくれる父親が二人、エリオスにはいる。
泣き止まないエリオスとそれを慰めるエルドに呆れながら、アンバーは配膳された茶を飲み始めた。温かくて甘いミルクの入った茶は、アンバーを二人から引き離すようにじんわりと味蕾を癒しながら広がる。
まだ僅かにすんすんと鼻を啜りながらも、泣き止んだエリオスは珈琲に手を伸ばした。カップが持ち上がるのとほぼ同時に、客の来店を告げるベルがなる。
「あっ!」
入ってきた男は店内を見渡し、アンバーと目があった瞬間に目を輝かせた。
「お待たせしましたアンバー。……こちらの方々は?」
その男、ダリウスは三人の席まで来るとそう尋ねた。
「……私の弟のエリオスだ」
アンバーは気まずいながらにそう答える。それを聞いたダリウスは、二人に向かって一礼しながら名乗った。
「これは失礼いたしました。私はここオステルメイヤーの宰相、ダリウス・オステルメイヤーでございます」
(私との初対面の様に抱きついたりしないだろうな……?)
アンバーは一瞬不安になるが、ダリウスも流石にそんなことはしなかった。アンバーはそっと胸を撫で下ろす。しかし、直後に別の不安に襲われた。
「リリーシャ帝国第三皇子、エリオス・ド・リリーシャで……」
ダリウスを見上げたまだ少し潤んだ大きな目の色が明らかに変わる。そして、それはダリウスもまた一緒だった。
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面白くて一気読みしちゃいました!
アンバー様は境遇に恵まれなかっただけで心根はすごく優しい方なんだろうなというのがとても伝わりました…幸せになって欲しい…😭
続きも是非読みたいです!応援してます!✨️
WarNar様
ご感想ありがとうございます!
綺麗に筋や流れがまとまっているとのお言葉、大変嬉しいです。
お仕事の支えになっているとは……!これからも投稿頑張っていきます!!!
はじめまして。コメント失礼します!作品、楽しく読ませていただいております。
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