もう一度あなたと

ブラウン

文字の大きさ
1 / 5

1 記憶

しおりを挟む
 父が亡くなるまで私は幸せだった。侯爵家領主の父そして母、私の3人仲良く過ごしていた。いつも3人で食卓を囲み、広大な土地、そして丘から見える海。私はお父さまに抱っこされ、そしてお父さまは横にいるお母さまの肩を抱きしめ、つむじにキスをし、愛しているの言葉と共にそれらを眺めていた。時には笑い合い、幸せな時だった。お母さまはお父さまを深く愛していた。そして父に似た私を愛してくれていた。私は父親譲りのプラチナブロンドにアクアマリンのような色の瞳。キリリとした外見になる。

 逆に母は金髪にアメジストの瞳でほんわかした女性だった。

 私、ティアナ アレラード マキシマス

 そして父が病気で亡くなった。父が亡くなった後、父の弟が爵位を継ぐ為、母は私を連れ、実家トゥーリオ侯爵家に身を寄せることになった。その頃から母は私を見ると父を思い出し、塞ぎ込み、私を遠ざけた。

 そんな状況でも、祖父母や伯父と伯父の奥様カーラ伯母様は温かく私に接してくれた。母には疎まれていたが明るく楽しく過ごすことができた。教養も祖父母、伯父、カーラ伯母様に習っていた。

 その母が再婚することになった。お相手はダングレッド公爵、騎士団長様だ。ダングレッド公爵様も奥様を亡くして数年、母と再婚することになった。私が13歳の時だった。父が亡くなって3年、母が夜会でダングレッド公爵様に見初められ、再婚することになった。母は30歳。まだまだ女盛りである。

 騎士団長であるダングレッド公爵様は、黒髪に藍色の瞳を持つ偉丈夫だった。評判は良い。ダングレッド公爵様も奥様を亡くされて5年。周囲から再婚を考えなさいとずっと言われていたが、愛する奥様のことを考えると再婚を考えられなかったが、母と出会い再婚に踏み切る決断をしたと言うことだ。

 ダングレッド公爵様には17歳の息子、アーサー様がいた。アーサー様もダングレッド公爵様には似た黒髪、藍色の瞳を持つ偉丈夫だ。王立学園の騎士科を主席で卒業、将来的に騎士団長を引き継ぐのではと噂される貴公子。

 母の再婚に私もついていく?どうして?ずっと父が亡くなってから疎まれていたのになぜ連れていくのだろう?祖父母や伯父伯母は私を養女にするから身一つでダングレッド公爵と再婚するようにと話し合っていたが、娘を置いていくのは世間体的に良くない、ダングレッド公爵は娘が欲しいと言っているので、娘を可愛がってもらえると言って、私を伴って再婚した。

 義父は私を娘として可愛がってくれた。義兄となったアーサーお義兄様の態度も初めは優しかった。いつも気にかけてくれた。ある時なぜか態度が冷たくなった。義父がフォローするには、今は17歳という年頃の男の子だから恥ずかしいだけだろう。だんだん家族として接するようになるよ、とおっしゃっていた。数年経っても冷たい態度は変わらなかった。

 再婚して2年後、私が15歳の時、ダングレッド公爵に似た黒髪に、母のアメジストの瞳を持つ女の子、エミリアが産まれた。みんなが公爵に似たエミリアを可愛がった。公爵は、自分によく似た、そして母の瞳を持つエミリアを大層可愛がった。

 公爵様は義娘の私も気にかけるが、やはり自分の血を引く、自分によく似た娘の方を可愛がった。

 アーサーお義兄様もエミリアを可愛がった。時々公爵様と母、エミリアの3人で庭の散歩をしているところに義兄も混じり談笑していた。義兄はエミリアを抱っこしていた。私が遠くで見ていたことに気づいていたのであろう、時々目が合った。でも、そのまま4人の世界だった。

 私の侍女に就いた4歳上のネリーはいつも励ましてくれた。ここで私には味方がいないので、ネリーに話し相手になってもらっていた。ネリーには文字の読み書きや計算などを一通り教え、いつでも自立できるようにした。

 ネリーとは友達、姉妹のように一緒にカフェやおしゃれな店などにも行った。

 公爵様は、ずっと疎外感を感じていた私を可哀想に思ったのか、アーサーお義兄様と婚約を決めのだ。アーサーお義兄様と私の子供ができたら、本当の意味で家族になれると公爵様は考えたとおっしゃっていた。私のことも考えてくれている、本当に優しい義父である。

 私は嬉しかった。アーサーお義兄様と結婚し、子供ができ、お父さまが生きていたときのような明るく楽しい家族になりたいと夢見ていた。婚約が決まってから、初めてアーサーお義兄様に刺繍のハンカチを作った。誕生日プレゼントだ。ドキドキした。どんな言葉をかけてくれるだろうか?刺繍は得意だったので上手くできたと思う。

「アーサーお義兄様、あの、これを。婚約者は誕生日に刺繍のハンカチをプレゼントをすると聞いたのでお義兄さまにこれを。ダングレッド家の家紋と騎士団なので剣と盾、そしてお義兄様の好きな花を刺繍しました」

 私は照れくさいながらも笑顔で、でも心の中では不安な気持ちで渡した。

「はぁ、こんなことをしなくていい。刺繍のハンカチなど捨てるほどある。婚約と言っても形だけだ。二度とこんなことをしなくて良い」

「形だけ?あっ、ご、ごめんなさい。勘違いしていたのですね。本当にすみません」

 恥ずかしかった。自分だけが思い上がっていたのだったのだ。もしかしてアーサーお義兄様は私との婚約は嫌なのかもしれない。他に愛する人がいるのかしら。結局、ハンカチは机の中にある自分にとって大事なものを入れる箱にしまった。婚約者だなんて思い上がらない戒めのハンカチだ。

 その後はアーサーお義兄様の誕生日に刺繍のハンカチ以外のプレゼントを用意していた。

 ある時お母様がこの屋敷に来て初めて私に話しかけてくれた。しかし内容が酷かった。

「ティアナ、貴女はアーサー様の婚約者なのだから、下手でも刺繍を送らないのかしら?私がそういった教養を教えてないようで恥ずかしいのだけど」

「ご、ごめんなさい」
 
 私は俯いてしまった。婚約後に渡そうとしたが拒絶された思いがあり、もう刺繍をする気にはなれなかった。

「まぁ、いいではないか、誰もが君のように刺繍が上手いわけではないんだよ。今度お母様に教わると良い。お母様はとても上手いんだよ。アーサーにも刺繍のハンカチをプレゼントしていたよ。騎士団でも好評なんだよ」

「なぁ、アーサー、別に下手でも婚約者からなら受け取るよな」

「ええ、それはもちろんです」

 顔を上げることができなかった。

 心はすでに悲鳴を上げていた。疎外感を感じる公爵家。亡くなった父に似た容姿。母は相変わらず私を見ていない。義兄も冷たい態度。なぜ私はここにいるのだろうといつも自問していた。

 時々カーラ伯母様がお茶会や劇、買い物に私を誘ってくれる。はじめは疎外感のことを伝えていたが、心配させたくなくて、仲良くしていると告げていた。

 アーサーお義兄様と婚約し、自分からなんとか話しかけたがいつも素っ気ない態度だった。16歳のデビュタントでパートナーを務めてくれたが、ダンスが終わると友人たちのところへ行ってしまった。

 伯父様伯母様がいたのでそちらに挨拶に向かった。

 カーラおば様は私を抱きしめてくれ、待合室に連れて行って話をした。

「アーサー様と婚約したけど、上手くはいっていないのね?」

「うーん、もともと好かれていないから冷たい態度かな。こんなことなら私を婚約者にしなくていいのに。私だけがあの家で疎外感を感じている。私の家ではないっ、ごめんなさい、カーラ伯母様。愚痴を言っているわけではないのよ」

 また抱きしめられた。

「ティア、ずっとずっと我慢してきたでしょう。私たちに心配かけてはいけないと思って。こんなことなら、やっぱりあなたを養女にして、わたし達で育てればよかった。今日はもう帰りましょう。どうせ、あちらのダングレッド公爵家は4人だけが家族なのでしょ?さぁ、あなたのお祖父様、お祖母様が待っているわよ」


 アーサーお義兄様のパートナーとして夜会に出るのはこの時、デビュタント以降誘われることはなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

ずっと温めてきた恋心が一瞬で砕け散った話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレのリハビリ。 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

真実の愛の祝福

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。 だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。 それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。 カクヨム、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...