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砂漠の国
27話 戦いのあと
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夜明けとともに、港は静まり返っていた。
昨日まで賑わっていたはずの桟橋は黒く焦げ、
波が打ち寄せるたびに、炭のような破片がゆっくりと流されていく。
焼け落ちた倉庫の隙間からは、まだ白い煙が上がっていた。
瓦礫をかき分ける兵たちの足元には、
燃え尽きた木材と──冷たくなった人影。
「……ひどいな。」
ガルドが低く呟く。
その声に答えるように、遠くで泣き声が聞こえた。
アリアが駆け寄り、膝をつく。
腕の中には、小さな子どもを抱いた女性がいた。
女性は腕を震わせながら、かすれた声で言った。
「夫が……まだ、倉庫の中に……」
「任せて。」
アリアの瞳が決意を宿す。
彼女の風が静かに吹き、崩れかけた梁を押しのける。
ガルドが手を貸し、僕も力を込めて木材をどかした。
中から現れた男の手は、かすかに動いた。
「……まだ息がある!」
兵たちが駆け寄り、担架を運ぶ。
その時、女性の涙が頬を伝い、アリアの手を握った。
「ありがとう……ありがとう……」
アリアは微笑んだ。
でも、その表情の奥には、何かを押し殺すような影があった。
昼になっても、王都の空は煙に覆われていた。
街の至るところで救助と修復が続いている。
焼け落ちた建物の壁には、赤黒い焦げ跡が奇妙な形で残っていた。
まるで“紋様”のように。
「……見ろ、あの模様。」
ガルドが低く言う。
「港の桟橋にも同じ跡があった。偶然じゃねぇ。」
ヴァルンがその焦げ跡を見つめ、わずかに表情を曇らせた。
「……“印”か。」
「印?」
僕が聞き返すと、ヴァルンはすぐに首を振った。
「いや、何でもない。ただの焼け跡さ。」
彼の声には、どこか焦りが混じっていた。
アリアがその様子を見つめながら、小さく呟いた。
「ヴァルン、あなた……前にも見たことがあるのね?」
その問いに、ヴァルンは一瞬だけ目を閉じた。
だが次の瞬間には、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「気のせいだ。さ、これ以上ここにいても仕方がない。」
風が吹き、灰を巻き上げる。
ヴァルンのマントがはためき、焦げ跡を隠すように覆い隠した。
僕たちは防衛隊の報告を終え、王都の高台にいた。
そこから見える海は、赤く染まったまま静まり返っていた。
「……戦が、ここまで来たんだね。」
僕の声に、アリアが頷く。
「でも、まだ守れたわ。みんなが動いたから。」
「これからだ。」
ガルドの声は重く、けれど確かだった。
「次は本格的に来る。あの“赤い紋様”の連中がな。」
ヴァルンは沈黙していた。
その横顔は、どこか遠くを見つめていた。
「……俺は、もう同じ過ちを繰り返したくない。」
誰にともなく呟いたその言葉が、
風の中にかき消されていった。
僕はそっと拳を握った。
焦げた匂いの残る風の中で、
胸の奥に小さな炎が、確かに灯っていた。
昨日まで賑わっていたはずの桟橋は黒く焦げ、
波が打ち寄せるたびに、炭のような破片がゆっくりと流されていく。
焼け落ちた倉庫の隙間からは、まだ白い煙が上がっていた。
瓦礫をかき分ける兵たちの足元には、
燃え尽きた木材と──冷たくなった人影。
「……ひどいな。」
ガルドが低く呟く。
その声に答えるように、遠くで泣き声が聞こえた。
アリアが駆け寄り、膝をつく。
腕の中には、小さな子どもを抱いた女性がいた。
女性は腕を震わせながら、かすれた声で言った。
「夫が……まだ、倉庫の中に……」
「任せて。」
アリアの瞳が決意を宿す。
彼女の風が静かに吹き、崩れかけた梁を押しのける。
ガルドが手を貸し、僕も力を込めて木材をどかした。
中から現れた男の手は、かすかに動いた。
「……まだ息がある!」
兵たちが駆け寄り、担架を運ぶ。
その時、女性の涙が頬を伝い、アリアの手を握った。
「ありがとう……ありがとう……」
アリアは微笑んだ。
でも、その表情の奥には、何かを押し殺すような影があった。
昼になっても、王都の空は煙に覆われていた。
街の至るところで救助と修復が続いている。
焼け落ちた建物の壁には、赤黒い焦げ跡が奇妙な形で残っていた。
まるで“紋様”のように。
「……見ろ、あの模様。」
ガルドが低く言う。
「港の桟橋にも同じ跡があった。偶然じゃねぇ。」
ヴァルンがその焦げ跡を見つめ、わずかに表情を曇らせた。
「……“印”か。」
「印?」
僕が聞き返すと、ヴァルンはすぐに首を振った。
「いや、何でもない。ただの焼け跡さ。」
彼の声には、どこか焦りが混じっていた。
アリアがその様子を見つめながら、小さく呟いた。
「ヴァルン、あなた……前にも見たことがあるのね?」
その問いに、ヴァルンは一瞬だけ目を閉じた。
だが次の瞬間には、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「気のせいだ。さ、これ以上ここにいても仕方がない。」
風が吹き、灰を巻き上げる。
ヴァルンのマントがはためき、焦げ跡を隠すように覆い隠した。
僕たちは防衛隊の報告を終え、王都の高台にいた。
そこから見える海は、赤く染まったまま静まり返っていた。
「……戦が、ここまで来たんだね。」
僕の声に、アリアが頷く。
「でも、まだ守れたわ。みんなが動いたから。」
「これからだ。」
ガルドの声は重く、けれど確かだった。
「次は本格的に来る。あの“赤い紋様”の連中がな。」
ヴァルンは沈黙していた。
その横顔は、どこか遠くを見つめていた。
「……俺は、もう同じ過ちを繰り返したくない。」
誰にともなく呟いたその言葉が、
風の中にかき消されていった。
僕はそっと拳を握った。
焦げた匂いの残る風の中で、
胸の奥に小さな炎が、確かに灯っていた。
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