ノエル

ひなた

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砂漠の国

33話 焼けた祈り

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太陽はまだ高いのに、空の色はどこか白く濁っていた。
風が吹いても砂は舞わず、音だけが広がる。

「この辺りに村があるって、地図じゃ書かれてたけど……」
アリアが呟いた。

「見ろ、あれだ。」
ガルドが指差す先。
丘の向こうに、崩れた塀と、焦げた屋根が並んでいた。

「……人の気配が、ある。」
ヴァルンの言葉に、ノエルは短剣を抜いた。

村は、ほとんど焼け落ちていた。
土の匂いに混じる焦げ臭さ。
倒れた井戸、黒く染まった祠。
そして、煙の残る家の前で、泣き叫ぶ声がした。

ノエルたちが駆けつけると、
数人の村人が地面にひれ伏していた。
その前に立つのは、帝国の兵装を着た男たち。
鎧は擦り切れ、目は虚ろ。
けれど、手にした剣だけが光を帯びていた。

「動くなッ!」
ノエルが叫ぶより早く、
ガルドが前に出て盾を構えた。

「帝国の残党か……!」

「……俺たちは、命令を遂行する……」
先頭の男が低く呟く。
「紅蓮の印が消えるまで……」

その腕には、赤い焼印。
皮膚が裂け、そこから淡い炎が漏れ出していた。

「まさか、こいつら……!」
アリアの目が見開かれる。
「半分、紅蓮の兵に……!」

「来るぞ!!」
ガルドが咆哮し、前線に立つ。
火花と砂煙が一斉に上がる。

ノエルは短剣を構え、素早く背後に回り込んだ。
相手の剣が風を裂く音。
その刃先をすり抜け、ノエルは兵の喉元に刃を当てた。

「やめろ! もう戦う理由なんて──!」

だが、男は微動だにしない。
その瞳は“命令”しか見ていなかった。

「命令を……遂行する。」

ノエルの目の前で、兵士の体が赤く光り始める。
「アリアっ!!」

「風よ――遮れ!!」

一瞬、強風が巻き起こり、
爆発の炎を押し返した。
それでも衝撃波が地面を割り、村の家々が崩れ落ちる。

ノエルは吹き飛ばされながらも立ち上がり、叫んだ。
「やめてくれっ! もう誰も、死ななくていい!!」

しかし炎の兵は笑った。
「命令が……神だ。」

次の瞬間、その胸をヴァルンの剣が貫いた。
赤い光が弾け、音もなく消えた。

「……すまない。」
ヴァルンの声は震えていた。

戦いが終わったあと、村は静まり返った。
ノエルは祠の前に立っていた。
そこには、風の女神の像があった――だが、
その顔は割られ、代わりに赤い紋様が刻まれていた。

アリアが震える手で跪く。
「……これは、祈りの場所だったのに……」

ヴァルンが視線を落とす。
「帝国の兵は、信仰を焼く。
 “神を超えるための炎”――それが紅蓮の思想だ。」

ガルドが重く呟いた。
「神でもない奴が神のまねごとをしようってのか。
 まったく、くだらねぇ話だ。」

ノエルは、祠の破片を拾い上げた。
風をかすかに感じた気がした。

「……この風、まだ残ってる。」

アリアが顔を上げる。
「風は、誰にも奪えないもの。」

ノエルは微笑み、小さく頷いた。
「だったら僕たちが、取り戻そう。」

風が吹いた。
灰の中に、小さな花の種が舞い上がった。
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