ノエル

ひなた

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砂漠の国

35話 灰の灯

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灰の平原を越えたあと、三日。
ようやく風が戻った。
最初はかすかなそよぎ。
けれど、それは確かに“生きた風”だった。

「……風の音だ。」
アリアの目が輝いた。
ノエルも顔を上げる。
乾いた空気の中に、微かに潮の香りが混じっていた。

「近くに、水があるのか?」
ガルドが言うと、ヴァルンが頷いた。
「北東には、小さな村がある。
 カノン遺跡へ向かう隊が、昔よく立ち寄っていた場所だ。」

やがて、丘の向こうに灯りが見えた。
黄昏の中、わずかに光る松明の列。

その村は、思ったよりも“生きていた”。
壁は崩れかけていたが、煙突から煙が上がり、
どこかの家では子どもたちの笑い声が聞こえた。

「……ここだけ、別の世界みたい。」
アリアが呟いた。

村の名はリオナ。
ザハル北東の最果てにある、小さなオアシス村。
十数人ほどの村人が細々と暮らし、
帝国の侵攻を逃れて生き延びた人々の集まりだった。

「旅人さん、珍しいねぇ!」
陽に焼けた老婆が笑いながら声をかけてくる。
「北から来たんじゃないね? あそこは、今もう……」

「……風が止まってました。」
ノエルが静かに答える。

老婆は短く息を呑み、
それから、微笑んだ。
「そっかい。
 じゃあ、あんたらが風を運んできたんだねぇ。」

その言葉に、アリアの瞳がふっと和らぐ。
「……風は、誰のものでもない。
 でも、誰かが繋いでくれるなら、嬉しいです。」

老婆は嬉しそうに頷いた。
「いい言葉だねぇ。
 あんたら、ちょっと泊まっていきな。」

その夜、村の広場で小さな焚き火が焚かれた。
子どもたちが木の笛を吹き、大人たちが薄い酒を回す。
戦争の爪痕は深いが、笑い声だけは消えていなかった。

ノエルは焚き火のそばで、
パンを焼く少年と話していた。

「お兄ちゃんたち、兵士なの?」
「ううん、旅人だよ。」
「ふ~ん。じゃあ、カノンの方に行くの?」

ノエルは一瞬、言葉に詰まる。
少年の目は真っすぐで、無邪気だった。

「どうしてそう思うの?」
「夜になると、あっちが光るんだ。
 赤い光。まるで誰かが呼んでるみたいに。」

ノエルは息を呑んだ。
ガルドが肩越しに聞きながら、苦笑いする。
「呼ばれてんのかよ、ノエル。」
「……嫌な呼び方だね。」

少年はパンを渡して笑った。
「これ、旅の途中で食べて。
 風が守ってくれるように、おまじないの粉、混ぜてあるんだ。」

ノエルは受け取って、微笑んだ。
「ありがとう。……風、ちゃんと届いたよ。」

翌朝。
村を出る前、少年が駆け寄ってきた。
手には、小さな石。
淡い青色に光る、風の護り石だった。

「これ、持っていって!」
「いいの?」
「うん。お兄ちゃんたち、風を運んでくれたから。
 カノンで迷わないように、風の神さまが見ててくれる。」

アリアが目を細め、石を受け取る。
「ありがとう。きっと、この風が道を繋いでくれる。」

少年はうなずき、笑顔を見せた。
「うん! また帰ってきてね!」

ノエルは小さく笑い返した。
「……必ず。」

風が吹いた。
灰の空を払い、青がわずかにのぞいた。
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