ノエル

ひなた

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シルヴェイン王国

48話 森の試練

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森が沈黙していた。
木々は凍りついたように動かず、空気は重たく、音のない海の底にいるみたいだった。

セイヴは足を止めた。
長い髪がわずかに揺れ、瞳がノエルたちを見据える。

「……この先は、里の領域だ。」

声は低く、冷ややかで、風のない空間によく響いた。
ノエルはアリアと顔を見合わせたが、何も言えなかった。

「風は、見知らぬ者を拒む。
森が君たちを受け入れるか――それを確かめよう。」

そう言った瞬間、彼の周囲に淡い光が散った。
風のない森で、彼の指先から波紋のように空気が広がる。
その波がノエルたちに触れた瞬間、視界が弾けた。


光が消えると、ノエルは森の中に一人で立っていた。
見覚えのあるはずの森なのに、どこか違う。
木々は同じ形を繰り返し、奥へ進んでも同じ景色が続く。

終わりのない道。
風もない。
ただ、葉が静かに揺れる音だけがしていた。

(……どうすれば、抜けられる?)

歩くうちに、心細さが胸に滲む。
誰もいないのが、こんなに苦しいとは思わなかった。

そのとき、風の音がした。
耳元で、誰かの声が混じる。

「君は何を求めて歩く?」
「……風を、取り戻したい。」
「それは、お前のためか? 誰かのためか?」
「わからない。でも――止まってるのが、苦しいんだ。」

声は笑ったような気がした。
すると、目の前の木々が崩れ、奥に光が見えた。
そこには、無数の木々の枝が絡まり、まるで“閉ざされた門”のように見えた。

ノエルは手を伸ばす。
枝に触れた瞬間、指先が淡く光り、風が一筋流れた。

「その手が触れれば、理は揺らぐ。」
「揺らいでもいい。……だって、閉じられたままじゃ、風は死んでしまうから。」

次の瞬間、風が吹いた。
森が息を吹き返し、光の中で幻が溶ける。

ノエルが目を開けると、森の静けさが戻っていた。
アリアとガルドも同じ場所に立っている。
セイヴは少し離れた木の根の上で、じっと彼らを見ていた。

ガルドが聞いた
「……お前、何をした?」
「風を呼んだだけだ。……森が応えた。」

その目は冷静で、しかしどこかで驚きを隠していた。
ノエルのまわりには、かすかな風が流れていた。

「森の結界は、外の者を拒む。
だが今、風は君を拒まなかった。」
「試してたんだね。」
「疑うのは生きるためだ。……森も、俺も。」

彼は小さく息をつく。
その吐息が、初めて“人間らしい”温度を持っていた。

「――進もう。森が道を閉ざさなかったのなら、今は従うべきだ。」

木々の間に光が射す。
細い風の道が伸び、その先に淡く揺れる影が見えた。
ノエルは胸に残る風の感触を確かめながら、ゆっくりと歩き出した。
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