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9話
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春斗の父の背を、藤崎は遠くから追っていた。
夜の霧の中、足音を立てないように歩く。
父の歩幅は一定で、道を覚えているかのように迷いがない。
やがて住宅街に入る。
外灯の少ない通り。
父は角を曲がり、自宅の前で足を止めた。
小さな二階建ての家。
玄関脇の植木が風に揺れている。
父は鍵を回し、静かに中へ入っていった。
藤崎は距離を保ったまま
家の前の電柱の影から様子をうかがった。
窓にはカーテンがかかり、明かりもつかない。
中の様子は一切見えなかった。
藤崎はもう少し近づこうかと思ったが、
夜の静けさの中で自分の呼吸がやけに大きく聞こえ、
足が動かなかった。
やがて家の中から、
わずかに声のようなものが聞こえた気がした。
だが、それが人の声なのか、
風の音なのか、確かめることはできなかった。
藤崎は息を吐き、
背を向けてその場を離れた。
翌朝、藤崎は町役場を訪れた。
「星ヶ丘小学校に関する古い記録を見たい」と告げると、職員が渋い顔をした。
「何のために?」
「休校中の安全確認です。
昔の建物の図面などを見たくて。」
形式的なやりとりを交わし、
しばらくして古い資料室へ通された。
天井の低い部屋。
棚の奥に、茶色く変色したファイルが積まれている。
藤崎はその中から“旧星ヶ丘小学校・職員関係書類”と書かれた箱を見つけた。
埃を払い、慎重に開く。
中には、古い名簿と報告書が束になって入っていた。
「平成○年度 職員一覧」
その中に、見覚えのある名前があった。
柏木誠
藤崎は息をのむ。
ページをめくると、翌年度の名簿からはその名が消えていた。
別の資料を探すと、「事故報告書」というファイルが見つかった。
手書きの文字がにじんで読みにくいが、
確かにこう書かれている。
「児童一名死亡 担当教員:柏木誠」
その下に、修正液で消された箇所。
光を当てると、薄く文字が浮かび上がった。
れん
指先が震えた。
紙の端に、小さく走り書きのような文字が残っていた。
「再発防止 田所」
藤崎は書類を閉じ、
長い息を吐いた。
柏木、れん、田所。
そして春斗。
すべての線が、
ゆっくりと一本につながっていく。
外では、昼なのに霧が降り始めていた。
窓越しに見える空は、
まるで夜のように白く霞んでいた。
夜の霧の中、足音を立てないように歩く。
父の歩幅は一定で、道を覚えているかのように迷いがない。
やがて住宅街に入る。
外灯の少ない通り。
父は角を曲がり、自宅の前で足を止めた。
小さな二階建ての家。
玄関脇の植木が風に揺れている。
父は鍵を回し、静かに中へ入っていった。
藤崎は距離を保ったまま
家の前の電柱の影から様子をうかがった。
窓にはカーテンがかかり、明かりもつかない。
中の様子は一切見えなかった。
藤崎はもう少し近づこうかと思ったが、
夜の静けさの中で自分の呼吸がやけに大きく聞こえ、
足が動かなかった。
やがて家の中から、
わずかに声のようなものが聞こえた気がした。
だが、それが人の声なのか、
風の音なのか、確かめることはできなかった。
藤崎は息を吐き、
背を向けてその場を離れた。
翌朝、藤崎は町役場を訪れた。
「星ヶ丘小学校に関する古い記録を見たい」と告げると、職員が渋い顔をした。
「何のために?」
「休校中の安全確認です。
昔の建物の図面などを見たくて。」
形式的なやりとりを交わし、
しばらくして古い資料室へ通された。
天井の低い部屋。
棚の奥に、茶色く変色したファイルが積まれている。
藤崎はその中から“旧星ヶ丘小学校・職員関係書類”と書かれた箱を見つけた。
埃を払い、慎重に開く。
中には、古い名簿と報告書が束になって入っていた。
「平成○年度 職員一覧」
その中に、見覚えのある名前があった。
柏木誠
藤崎は息をのむ。
ページをめくると、翌年度の名簿からはその名が消えていた。
別の資料を探すと、「事故報告書」というファイルが見つかった。
手書きの文字がにじんで読みにくいが、
確かにこう書かれている。
「児童一名死亡 担当教員:柏木誠」
その下に、修正液で消された箇所。
光を当てると、薄く文字が浮かび上がった。
れん
指先が震えた。
紙の端に、小さく走り書きのような文字が残っていた。
「再発防止 田所」
藤崎は書類を閉じ、
長い息を吐いた。
柏木、れん、田所。
そして春斗。
すべての線が、
ゆっくりと一本につながっていく。
外では、昼なのに霧が降り始めていた。
窓越しに見える空は、
まるで夜のように白く霞んでいた。
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