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12話
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子供たちは、まだ見つからなかった。
町の空気は静まり返り、
星ヶ丘小の門をくぐっても、風に揺れる木の葉の音しか聞こえない。
休校が続く中、藤崎はひとりで町中を歩き回っていた。
春斗たちの足取りを追って――。
昼下がりの光が、校庭の砂を白く照らしていた。
山の中にかすかに旧校舎だけが見える。
何かに呼ばれるように藤崎は旧校舎に向かった。
旧校舎の前に人影が見え、藤崎は足を止めた。
入口の前、作業着姿の帽子を被った男がひとり
男は藤崎に気づくと、軽く会釈をした。
「……先生ですか?」
先に口を開いたのは男だった。
「星ヶ丘小の藤崎です。
あなたは?」
「長谷川と申します。
ここの管理を少し頼まれてまして。
古い建物は、点検しないと危ないんですよ。」
「管理、ですか。
でも旧校舎は、もう使われていないはずでは?」
男は曖昧に笑い、校舎の壁に手を当てた。
「ええ、そうですね。
ただ、放っておくと痛むのが早い。
ここには、まだ……残っているものが多いですから。」
その言い回しに、藤崎は違和感を覚えた。
昼の光が屋根の端を照らし、風が木の葉をかすめる。
校舎の窓は閉ざされているが、どこかでカーテンが揺れたように見えた。
「最近、このあたりで子供たちを見かけませんでしたか?」
藤崎が尋ねると、男は少しだけ目を伏せた。
「……ああ、春斗君たちのことですね。」
「……名前を、ご存じで?」
「この町では、知らない人の方が少ないですよ。
姿を消した子たちの話は、どこでも囁かれています。」淡々とした様子で長谷川は答える。
「……ここで事故があったのを、ご存じですか」
藤崎の問いに、男は小さく頷いた。
「ええ。忘れられるようなことじゃない。
“れん”という子だった。
優しい子だったよ。」
その名を聞いた瞬間、藤崎は息を呑んだ。
「あなたは……れんのことを知っているんですか?」
男は少しだけ目を細めた。
「町の誰もが知っていた。
でも、誰も口にしない。
口にすれば、自分も一緒に消えるから。」
昼の光の中で、男の言葉は妙に冷たく響いた。
「あなたは、あの事故のとき――」
藤崎が言いかけたが、
男は首を横に振り、穏やかに遮った。
「先生。この町では、“知らないふり”が一番の礼儀なんです。見たものを見たと言う人間は、長くはいられない。」
その目が一瞬だけ、藤崎の奥を射抜いた。
それはまるで、罪を知る者の目だった。
窓が軋む音がした。
藤崎が振り返ったとき、男はすでに立ち上がっていた。
「……行かれるんですか?」
「ええ。昼のうちにやることは済んだので。
暗くなるとこの辺りは危ないですから。」
帽子を軽く持ち上げ、男は別れのように会釈した。
「先生。子供たちは、ちゃんと“見て”くれる大人を待っています。それだけは、忘れないでください。」
言い終えると、男は校舎の裏手の坂道を下りていった。
足音は砂利に吸い込まれ、やがて聞こえなくなった。
藤崎はその背を見送りながら、
男が立っていた足元に目をやった。
そこに、小さな錆びた名札が落ちていた。
白く褪せたプレートには、かすかに文字が残っている。
かしわぎ
藤崎の喉がかすかに鳴った。
昼の太陽が、旧校舎の壁を照らしている。
だがその光の中に立つ影は、妙に長く、重かった。
町の空気は静まり返り、
星ヶ丘小の門をくぐっても、風に揺れる木の葉の音しか聞こえない。
休校が続く中、藤崎はひとりで町中を歩き回っていた。
春斗たちの足取りを追って――。
昼下がりの光が、校庭の砂を白く照らしていた。
山の中にかすかに旧校舎だけが見える。
何かに呼ばれるように藤崎は旧校舎に向かった。
旧校舎の前に人影が見え、藤崎は足を止めた。
入口の前、作業着姿の帽子を被った男がひとり
男は藤崎に気づくと、軽く会釈をした。
「……先生ですか?」
先に口を開いたのは男だった。
「星ヶ丘小の藤崎です。
あなたは?」
「長谷川と申します。
ここの管理を少し頼まれてまして。
古い建物は、点検しないと危ないんですよ。」
「管理、ですか。
でも旧校舎は、もう使われていないはずでは?」
男は曖昧に笑い、校舎の壁に手を当てた。
「ええ、そうですね。
ただ、放っておくと痛むのが早い。
ここには、まだ……残っているものが多いですから。」
その言い回しに、藤崎は違和感を覚えた。
昼の光が屋根の端を照らし、風が木の葉をかすめる。
校舎の窓は閉ざされているが、どこかでカーテンが揺れたように見えた。
「最近、このあたりで子供たちを見かけませんでしたか?」
藤崎が尋ねると、男は少しだけ目を伏せた。
「……ああ、春斗君たちのことですね。」
「……名前を、ご存じで?」
「この町では、知らない人の方が少ないですよ。
姿を消した子たちの話は、どこでも囁かれています。」淡々とした様子で長谷川は答える。
「……ここで事故があったのを、ご存じですか」
藤崎の問いに、男は小さく頷いた。
「ええ。忘れられるようなことじゃない。
“れん”という子だった。
優しい子だったよ。」
その名を聞いた瞬間、藤崎は息を呑んだ。
「あなたは……れんのことを知っているんですか?」
男は少しだけ目を細めた。
「町の誰もが知っていた。
でも、誰も口にしない。
口にすれば、自分も一緒に消えるから。」
昼の光の中で、男の言葉は妙に冷たく響いた。
「あなたは、あの事故のとき――」
藤崎が言いかけたが、
男は首を横に振り、穏やかに遮った。
「先生。この町では、“知らないふり”が一番の礼儀なんです。見たものを見たと言う人間は、長くはいられない。」
その目が一瞬だけ、藤崎の奥を射抜いた。
それはまるで、罪を知る者の目だった。
窓が軋む音がした。
藤崎が振り返ったとき、男はすでに立ち上がっていた。
「……行かれるんですか?」
「ええ。昼のうちにやることは済んだので。
暗くなるとこの辺りは危ないですから。」
帽子を軽く持ち上げ、男は別れのように会釈した。
「先生。子供たちは、ちゃんと“見て”くれる大人を待っています。それだけは、忘れないでください。」
言い終えると、男は校舎の裏手の坂道を下りていった。
足音は砂利に吸い込まれ、やがて聞こえなくなった。
藤崎はその背を見送りながら、
男が立っていた足元に目をやった。
そこに、小さな錆びた名札が落ちていた。
白く褪せたプレートには、かすかに文字が残っている。
かしわぎ
藤崎の喉がかすかに鳴った。
昼の太陽が、旧校舎の壁を照らしている。
だがその光の中に立つ影は、妙に長く、重かった。
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