少女探偵

ハイブリッジ万生

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池照刑事は如月如鏡との通話の後すぐに先輩の岩井刑事にこの自殺は事件性が高い事とその根拠を告げた。
(因みに岩井は刑事という名前ではない。)


「せやかて工藤。」

「いや、工藤じゃないですよ、池照です。」

「あ、せやったか失敬失敬。」

「真面目に考えて下さいよ。」

池照は憮然として岩井を見た。

「真面目に考えとるがな、要は手柄を立てたがる後輩のイキリ推理を聞かされて、どうやってなだめようか真面目に考えとるよ。」

「なんですか、イキリ推理って?そんな日本語ありませんよ。」

「イキリオタクがあるならイキリ推理もあるやろ?ていうか、さっきの電話誰に掛けてたの?」

池照は心の中で焦った、まさか一般人に事件の事を相談していたなんて知れたら何を言われるかわからない。

極力平静を装って言った。

「誰って、昔からの友達ですよ。」

ある意味ウソではない。発信履歴を調べられても裏山にしか掛けてないのだから…。

「如月の嬢ちゃんじゃないよね?」

その時僅かにぎょっとした顔をしてしまった。

池照は自分の未熟さを呪った。

「図星か…例の事件の後かなり入れ込んでたからなぁ。」

「まだ、なにも言ってませんよ。」

「すでに顔で言ってるんやで。」

やっぱりこの先輩は苦手だと思った。

普段はやる気のない風でいてどうでも良いときに信じられないくらいに鋭い。

池照は上を見上げて、大きくため息をついた。


「だとしたらどうだというんです?」

覚悟を決めて池照はそう言い放った。

「誰に何をどう相談しようと、事件がより速く解決すればそれで良いじゃないですか?」

池照は岩井をまっすぐに見てそう言った。

「有罪。」

「へ?」

「情報漏洩と少女趣味の罪により有罪。」

「なんですかそれ!」

「と、普通なら言いたいところだけどな、あの嬢ちゃんが特別やって事は認める。」

「でしょう?」

「あの子、妙に大人っぽいから少女趣味は保留にしといてやるわ。」

「そっち!」

「そっちや、とりあえずこのあとの飯はお前の奢りやからな。」

「ええ?」

「当たり前やろ!有罪なんやから!」

「は、はあ。」

「それと防犯カメラ見せてもらえるようにさっきの店長に話通しておけよ。」

「え?」

「え?じゃないよ、自殺じゃないとしたら証拠がいるやろ?」

「あ、じゃあ、他殺で行くんですね?」

「まだ、可能性の段階やって、あくまでも!」

「ありがとうございます!先輩!」

「おう!晩飯も奢れよ!後輩!」

「えー!」

岩井は池照のリアクションをみて口の端を上げてフッと笑った。


「ここのコンビニは見ての通り女性専用が1つ、その奥に並んで男女兼用が1つあって、更に奥の正面に洗面台があります。二つのトイレの手前にドアがありますので中の様子まではわかりません。」

そう言って店長の山田は防犯カメラの映像を写した。

ちょうど入り口から雑誌コーナーを歩いてトイレのドアが映るアングルのカメラがあったのでそれを池照と岩井は見せてもらっていた。

「1日分全部見るんですか?」

「いんや、マルガイが入ってから、第一発見者が発見するまででええよ。」

岩井はそういうと池照に「それで良いよな?」という様な目配せを送った。

池照は頷いた。

「あの、マルガイって?」

「ああ、ガイシャ、っていうか被害者の事やで。素人さんにはちと難しかったやろか?業界用語なもんで。」

そういうと、岩井はニッっと笑った。

池照は岩井が言うとお笑い業界て意味に聞こえるな、と思ったが黙って同じようにニッと笑って言った。

「すみませんね、お手数かけてしまって、ここで見るのがなんでしたらデータだけもらっても大丈夫なので…。」

「いえ、全然大丈夫ですよ、こんな事になってしまって、今日は営業できませんし、私も協力できる事があるかもしれませんし…。」

随分と協力的で良かった、たぶん半分は野次馬根性なんだろうけど、下手に拒絶されるより全然良い。

「ご協力感謝します。」

池照は一応そう言って笑顔を作った。

笑うと本当に男性ファッション誌の表紙みたいだな、と、山田店長は思った。





池照と岩井、山田の三人は山田のパソコンの前で防犯カメラから抜いたSDカードの映像を見ていた。

18:01被害者の男性がトイレに入っていく様子が映し出された。

18:02赤い服のショートヘアーの女性が入っていった。

18:05赤い服の女性は出てきた。

18:06黄色い服の女性が出てきた。

18:07小学生くらいの女の子が入っていった。

18:09女子高生が入っていった。

18:12小学生が出てきた。

18:14紫色の服のおばさんが入っていった。

18:16紫のおばさんが出てきた。

18:19女子高生がでてきた。

18:20紫のおばさんが入って行った。

18:21 丸刈りの男子高校生が入って行った。

18:25紫のおばさんが出てきた。

18:27に男子校生が中の様子がおかしいと言ってきた。

店長が専用のドアを開ける道具を持ってきて発見された…と。

じっと画面を見ていた岩井はどうだ?

という目配せを池照に送った。

池照は頭をふって言った。

「これだけではなんとも言えませんね、それぞれの容疑者…というか、関係者から話を聞かないと。」

一応、自殺の線もあるので池照は言い直した。

「だな。」

岩井は短く答えた。

「あと、黄色い服の女性が入ったところまで巻き戻してみる必要がありそうだ。」

確かに被害者以外は出入りが確認できているが、黄色い服の女性は出たところしか写ってなかった。

「でも容疑者の可能性は低くないですか?」

池照は言った。

「なんでや?」

「だってガイシャの前に入ってるんですよ。」

「まあ、普通はそうやろうけど、衝動的にって事もあるやろ?」

「衝動的?」

「だから、ばったり出くわして衝動的にやってしまった…とか?」

「なるほど。」

池照は如鏡の言っていた、衝動的な現場という言葉を思い出して納得した。



早速巻き戻して見てみると、確かにガイシャの前に黄色い服の女性が入っていってるのが写っていた。

どうも慌てている様子で、頭を押さえながら小走りで入って行くのが写っていた。

「頭が痛いんですかね?」

「さあ、これだけじゃわからんなぁ。」

「この、黄色い服の女性だけは常連のお客さんじゃないと思うんですよ。」

コンコン

そう店長が言い終えたタイミングでノックの音がした。

「はーい、空いてますよー。」

岩井が呑気に応答した。

「失礼します、だいたい終わったので報告に伺いました。」

池照は服装と顔をみて鑑識の誰かだと言うことまではわかったが、名前が出てこなかった。

「お疲れさん、なんか変わったことあった?」

「えーと、遺体は司法解剖に回しましたので、詳しいことは後程、あと便器の陰にこんなものが。」

鑑識の男はビニールを目の前に掲げて見せた。

「ん?ネイル…か?」

「ですね。」

袋の中には今時っぽい模様のネイルが1つだけ入っていた。

「犯人が落としたんですかね?」

「だとありがたいんやけどね…。いやいや、まだ他殺と決まった訳じゃないんやから。」

そういうと、岩井は神妙にネイルを観察した。

それにしても…。

関西出身でもないのに、お笑い好きってだけで良く関西弁喋る勇気あるなぁ…と、池照は思った。




「それで、その丸刈りの高校生はどこかに行ってしまったんですね?」

「はい。」

申し訳なさそうに山田は言った。

「まさか、警察に連絡してる間にどこかに行ってしまうとは思わなくて…。」

「いえ、それは店長さんのせいではありませんよ。それに、その青年の気持ちもわからなくありませんし…。」

そう池照は慰めた。

「せや、いきなり、ドアあけたら知らんおっさんの死体なんてなぁ、俺ならその場で走り去るわ。」

と、岩井が刑事らしからぬ事を言ったが、おそらく、店長の緊張をほぐすためだろう。

「まあ、その青年は青葉高校の生徒らしい事はわかっているので直ぐに身元はわれるでしょう、それよりその時の青年の話を聞かせてください。」

「え?どうしてわかるんです?」

「今時丸刈りをする高校生といったら野球部くらいでしょう?それも強豪じゃないと生徒に丸刈りを強制したりしませんからね、それでこの辺の強豪といえば青葉です。」

「な、なるほど!」

「まあ、あとでちゃんと裏は取りますけどね。それよりその後どうしたんですか?」

「え、ええそうですね。私がアルバイトの子とカウンターにいるとその青年がやってきて、トイレの様子がおかしいので確認してくれないかと言われたので確認しに行きました。」

「直ぐに?」

「まあ、店もそんなに混んでなかったのでアルバイトの子でなんとかやりくり出来るだろうと思って直ぐに向かいましたよ。どう変なのか知りたかったですし、イタズラでもされてたら大変ですからね。」

「なるほど。それから?」

「それから、一応鍵を外から簡単に開けられる物を持ってましたのでそれを持ってきて…。」

「それって見せてもらえます?」

「もちろん。」

そういうと、すぐ近くの引き出しのなかからスッと先がクエスチョンマークみたいに曲がった薄いプラバンに柄がついた物を見せた。

「これです。」

「ほう、これは業者から支給されるんですか?」

「そうです。」

「これでしか開かないんですか?」

「いやあ、そう言われると…たぶん他のなにかでも開きそうではあります。」

「ですよね。」

プラバンを剣の様にして遊んでいる岩井を横目に見ながら池照は言った。




「それで どうしました?」

「どうへんなのか 聞いても とにかく来てくれと 言われたので 仕方なく アルバイトの子に 少しの間 店を任せて 様子を見にいきました。」

「 そのアルバイトの子は 何て名前ですか?」

「山口です、青葉大学の学生さんで柔道部らしいので頼もしいんですよ。」

「なるほど、ではそのアルバイトに店を任せたあとあなたはその高校生についていったと…。」

「はい、そしたらやはりその高校生の言った通り変でした。」

「どのように?」

「あの、アラームが鳴っているんですよ…トイレの中で。」

「それが変なんですか?」

「いやいや、変でしょう?ずっと鳴ってるんですよ?」

「ずっと?」

「ええ、ずっとです。」

「どのくらい?」

「え?私が行ってから3分は鳴ってたから、その前からだとするともっとですね…。」

「確かに変ですね、それは…。」

「でしょう?それで、何回かノックしたあとに開けますよ!って大声で言っても返事がないので…。」

「開けたんですね?」

「開けました。」

「そして見た。」

「見ました。」

店長は思い出したのか少し眉をしかめて口をへの字に曲げた。

池照はこの店長吐かないところを見ると以外と死体なれしてるなと思った。弱い人は大人の男性でも普通に吐くものだ。スプラッター映画好きな人は耐性が多少あるらしいが…。

「そのあとすぐ警察に連絡して、アルバイトの子を返したと…。」

「はい。」

「なんでアルバイトの子は返したんです?」

「いや、こんな事になっちゃって営業できないし、間違って遺体を見ちゃっても嫌だろうし。」

「大丈夫でしょう?柔道部なんでしょ?」

「柔道部と言っても女の子ですからね。」

「え?女の子なんですか?」

「え、ええ、山口は女の子ですよ。」

池照は紛らわしいなぁ…と思いながら、そういえば勝手に勘違いしたんだと自分を恥じた。

「なるほど、それは賢明な判断です。」

そういうと岩井が口を挟んだ。

「そうかなぁ?返した事によって逆に疑われちゃうかもやで?」

「そんな…。彼女は本当に関係ないんですよ。」

店長が不服そうに言った。


「まあまあ、冗談やがな、そないにむきにならんでもエエがなぁ。」


池照はこの変な関西弁が合ってるのかどうか、本気で知りたくなってきた。








その後、黄色い服の女性以外は常連のお客さんという店長の証言を元に、近所の高校などから捜査を進める事になった。

「それにしても、学生さんは、わりと分かりやすいと思いますけど、主婦は調べにくいですよね。」

と、店長が余計な心配をしてくれたが、池照が直ぐに返した。

「いえ、そうでもないですよ」

「え?なぜです?」

「コンビニですから近所に住んでる可能性が高いですし、もしそうでないなら車で来ているはずです。」

「まあ、そうですね、どこかに行く通り道とかでしょうから。」

「それなら外の防犯カメラに車が写ってるはずですよね?」

「あーなるほど!さすが刑事さん!」

「いえ、これくらいは当然ですよ。」

池照は誉められて少し照れたが、如鏡を思い出してすぐに真顔に戻った。

本当にこれくらいは当然だよな。

「刑事!何してるんや?おいてくでぇ?」

岩井がドアから顔だけだしてコテコテの関西弁でそう言った。

「はい、今行きます。じゃあ店長、これしばらくお借りしますね。」

防犯カメラの映像の入ったSDカードをつまんで軽く会釈した。

「ええ、もちろんどうぞ。業者の方も警察のかたに渡したと言えば文句は言わないでしょうから。」

山田はそう言って笑顔を作った。




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