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JKの証言
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「はい?なにか?」
池照と岩井は住所を頼りに早速、阿部真理亜の住んでいるアパートまできた。
しかし、おもむろに部屋から顔を出したのは三十代から40前後のイケメン風の男だった。
イケメン風というのは、全部が惜しい感じの中途半端なイケメンだ。
変な言い方をすれば、場末のホストがそのまま歳を取った…みたいな男である。
「あの、失礼ですがこちらに阿部真理亜さんは御在宅でしょうか?」
池照は丁重に挨拶した。
「え?真理亜?あんた真理亜のなんなの?」
「これは申し遅れました。こういうものです。」
男は警察手帳を見るなり、目が泳いで、体に僅かに緊張が走るのを池照は見逃さなかった。
「警察?警察があいつに何のようなんだ?」
「いえ、ある事件の参考人として、お話を聞きたいだけです。」
「はぁ、まあいいけど。」
そういうと男は中に声をかけた。
「おい!真理亜!警察が、お前に用事があるって!なんかやらかしたのか?」
しばらくして中から茶髪の長い髪が少し自然にウェーブしている女の子がでてきた。
「あの、外でいいですか?」
「え?あ、まあ、君がその方が話しやすいならそれでかまわないけど…。」
池照はそういって微笑んだ。
しかし、真理亜は池照の笑顔に特に反応する様子もなくスッとドアから出るとスタスタと歩き始めた。
池照と岩井は少し呆気に取られたがすぐに追いかけた。
真理亜はスタスタと歩くと近くの公園に入って行った。
もう日がくれてたので、他に人影はない。
近くの街頭が、ありふれた公園の遊具を照らしていた。
申し訳程度のベンチの所まで来ると、振りかえって言った。
「ここでいいですか?」
「いや、君がいいならいいけども。なんなら近くの喫茶店でもいいけども…。」
「いえ、ここで。」
そういうと、ベンチに座る訳でもなく真理亜は二人の刑事を警戒するように腕を組みながら見据えた。
「お嬢ちゃんなんで警察が来たかわかっとるんちゃう?」
岩井が珍しく最初からカマをかけるような事をいった。
「…いえ。」
少し間があったが否定された。
「ふーん、せやったらなんで場所を変えようなんて言ったんや?」
真理亜はしばらく沈黙した後で口を開いた。
「…聞かれたくないから。」
「え?誰に?」
「あの人達。」
あの人達って、顔を出した男以外に誰かが中に居たって事か…。
「あの…はじめに顔を出した男の人って、誰?父親には見えなかったけども。」
池照は気になっていた質問をしてみた。
「あれは…ママの友達。」
「そうなんだ、友達がたまたま来てたの?」
「まあね。」
「聞かれたくないって言うのはママに?お友達に?」
「どっちも。」
「そう…。」
なんか…場所を変えようと言った割には必要以上の事はしゃべらないみたいね…。
「あの…繰り返しになるけど、なんで我々が来たかわかるかな?」
池照は岩井の誘導尋問に乗ってみた。
「…なんとなく。」
「なんとなく教えてもらえる?」
「…援助のこと?」
二人の刑事は顔を見合わせた。
「ちがうんですか?」
二人の反応を察したのか、真理亜はそういった。
「ま、まあ違うけど…それはそれで問題だね。」
そうは言ってみたものの、援助交際となると管轄が違ってくる。
冷たいようだが、一課の刑事である池照や岩井は専門外なので、同じ警察でも少年課などにバトンを渡さないといけなくなる。
どこまで、突っ込んだ質問をしていいのか迷うところではある。
「そうか、お金に困ってたのかい?」
「…まあ。」
「誰と援助したの?」
「…知らない。」
「し、しらないって…。」
「…顔はなんとなく覚えてるけど、名前とか聞かないし、聞いても忘れるから。」
そういうと、真理亜はフッと笑った。
「お嬢ちゃんこの男はどう?見おぼえあるんちゃう?」
岩井は被害者の写真をみせた。
「…ないわ。」
真理亜は写真を一瞥すると即答した。
「ほんまに?よくみてよ?後で繋がりありましたって事になったら立場悪なるで?」
「…ないものはない。疑うなら調べたら?」
「…ふん、そうさせてもらうわ。」
取りつく島もない。さすがの岩井も捨て台詞を言うのがやっとの様だ。
「ごめんね、真理亜さん、先輩が変な事言って。」
池照はいつものように、相手の理解者という立場を取ったが真理亜は全く無表情だった。
「あの、実は少し聞きたいことがあってね、昨日の夕方くらいに近くのコンビニに行ってないかな?」
「行った。」
やはり即答なのね。
「そこで何をしたのか覚えてる?」
「トイレを借りた。」
「そうだね、その時なにか変わったことはなかった?」
「べつに。」
「あんた、干された女優みたいやな。」
岩井がまた余計な事を言った。
たぶん、場を和まそうとして言ったのだろうが、逆に凍りついてしまったようだ。
しかし腕をくんで、無表情で見返す顔はたしかに、その女優の若かりし頃に似てなくもないな、と池照は思った。
「あの、その時の事をできるだけ教えてもらえませんか?」
「覚えてない。」
「昨日の事ですよ。」
「頭が悪いの。」
「え?」
「刑事さんも興味ない事は忘れるでしょ?」
「はあ、まあ。」
「私も同じ。」
「でも、昨日の事ですからね。どっちのトイレに入ったかとか…とか。その時誰かと会ったとか…。覚えてないですか?」
池照は食い下がった。
「まったく。」
ものすごく記憶力が悪いのか非協力的なのかどっちかだなと池照はおもった。
もし、後者の方だとしたら、入りかたを間違ったのかもしれない…カマをかけずに、普通に調書していれば、あるいは…。
そんな事を考えながら池照が思案顔をして黙っていると、真理亜が溜息をついて言った。
「他になにもないなら帰るけど。」
「え?」
「ええよ。」
池照は真理亜の発言に驚いたが岩井の言葉に更に驚いた。
「いいんですか?」
「せやな、どうせ何も話す気なさそうやし、こんなベッピンさんのJKを夜中まで付き合わせたら怒られそうやしな。」
「それじゃ。」
そういうと、真理亜はまたスタスタと家に帰って行った。
岩井はその後姿に聞こえるように言った。
「でも、繋がりが掴めたらまたくるで!」
真理亜は一瞬足を止めたが、またそのまま歩き出した。
一応真理亜が家に入るまで見届けると、池照は言った。
「どう思います?」
「さあな、わからんけど取り敢えず調べるしかないやろ?あんだけ非協力的なんやから。」
それは、あんたのせいかもしれないけどね。
という、台詞を池照は飲み込んだ。
「ですよねぇ。」
そういうと、池照はすっかり夜になった空を見上げた。
空には綺麗な月が浮かんでいた。
池照と岩井は住所を頼りに早速、阿部真理亜の住んでいるアパートまできた。
しかし、おもむろに部屋から顔を出したのは三十代から40前後のイケメン風の男だった。
イケメン風というのは、全部が惜しい感じの中途半端なイケメンだ。
変な言い方をすれば、場末のホストがそのまま歳を取った…みたいな男である。
「あの、失礼ですがこちらに阿部真理亜さんは御在宅でしょうか?」
池照は丁重に挨拶した。
「え?真理亜?あんた真理亜のなんなの?」
「これは申し遅れました。こういうものです。」
男は警察手帳を見るなり、目が泳いで、体に僅かに緊張が走るのを池照は見逃さなかった。
「警察?警察があいつに何のようなんだ?」
「いえ、ある事件の参考人として、お話を聞きたいだけです。」
「はぁ、まあいいけど。」
そういうと男は中に声をかけた。
「おい!真理亜!警察が、お前に用事があるって!なんかやらかしたのか?」
しばらくして中から茶髪の長い髪が少し自然にウェーブしている女の子がでてきた。
「あの、外でいいですか?」
「え?あ、まあ、君がその方が話しやすいならそれでかまわないけど…。」
池照はそういって微笑んだ。
しかし、真理亜は池照の笑顔に特に反応する様子もなくスッとドアから出るとスタスタと歩き始めた。
池照と岩井は少し呆気に取られたがすぐに追いかけた。
真理亜はスタスタと歩くと近くの公園に入って行った。
もう日がくれてたので、他に人影はない。
近くの街頭が、ありふれた公園の遊具を照らしていた。
申し訳程度のベンチの所まで来ると、振りかえって言った。
「ここでいいですか?」
「いや、君がいいならいいけども。なんなら近くの喫茶店でもいいけども…。」
「いえ、ここで。」
そういうと、ベンチに座る訳でもなく真理亜は二人の刑事を警戒するように腕を組みながら見据えた。
「お嬢ちゃんなんで警察が来たかわかっとるんちゃう?」
岩井が珍しく最初からカマをかけるような事をいった。
「…いえ。」
少し間があったが否定された。
「ふーん、せやったらなんで場所を変えようなんて言ったんや?」
真理亜はしばらく沈黙した後で口を開いた。
「…聞かれたくないから。」
「え?誰に?」
「あの人達。」
あの人達って、顔を出した男以外に誰かが中に居たって事か…。
「あの…はじめに顔を出した男の人って、誰?父親には見えなかったけども。」
池照は気になっていた質問をしてみた。
「あれは…ママの友達。」
「そうなんだ、友達がたまたま来てたの?」
「まあね。」
「聞かれたくないって言うのはママに?お友達に?」
「どっちも。」
「そう…。」
なんか…場所を変えようと言った割には必要以上の事はしゃべらないみたいね…。
「あの…繰り返しになるけど、なんで我々が来たかわかるかな?」
池照は岩井の誘導尋問に乗ってみた。
「…なんとなく。」
「なんとなく教えてもらえる?」
「…援助のこと?」
二人の刑事は顔を見合わせた。
「ちがうんですか?」
二人の反応を察したのか、真理亜はそういった。
「ま、まあ違うけど…それはそれで問題だね。」
そうは言ってみたものの、援助交際となると管轄が違ってくる。
冷たいようだが、一課の刑事である池照や岩井は専門外なので、同じ警察でも少年課などにバトンを渡さないといけなくなる。
どこまで、突っ込んだ質問をしていいのか迷うところではある。
「そうか、お金に困ってたのかい?」
「…まあ。」
「誰と援助したの?」
「…知らない。」
「し、しらないって…。」
「…顔はなんとなく覚えてるけど、名前とか聞かないし、聞いても忘れるから。」
そういうと、真理亜はフッと笑った。
「お嬢ちゃんこの男はどう?見おぼえあるんちゃう?」
岩井は被害者の写真をみせた。
「…ないわ。」
真理亜は写真を一瞥すると即答した。
「ほんまに?よくみてよ?後で繋がりありましたって事になったら立場悪なるで?」
「…ないものはない。疑うなら調べたら?」
「…ふん、そうさせてもらうわ。」
取りつく島もない。さすがの岩井も捨て台詞を言うのがやっとの様だ。
「ごめんね、真理亜さん、先輩が変な事言って。」
池照はいつものように、相手の理解者という立場を取ったが真理亜は全く無表情だった。
「あの、実は少し聞きたいことがあってね、昨日の夕方くらいに近くのコンビニに行ってないかな?」
「行った。」
やはり即答なのね。
「そこで何をしたのか覚えてる?」
「トイレを借りた。」
「そうだね、その時なにか変わったことはなかった?」
「べつに。」
「あんた、干された女優みたいやな。」
岩井がまた余計な事を言った。
たぶん、場を和まそうとして言ったのだろうが、逆に凍りついてしまったようだ。
しかし腕をくんで、無表情で見返す顔はたしかに、その女優の若かりし頃に似てなくもないな、と池照は思った。
「あの、その時の事をできるだけ教えてもらえませんか?」
「覚えてない。」
「昨日の事ですよ。」
「頭が悪いの。」
「え?」
「刑事さんも興味ない事は忘れるでしょ?」
「はあ、まあ。」
「私も同じ。」
「でも、昨日の事ですからね。どっちのトイレに入ったかとか…とか。その時誰かと会ったとか…。覚えてないですか?」
池照は食い下がった。
「まったく。」
ものすごく記憶力が悪いのか非協力的なのかどっちかだなと池照はおもった。
もし、後者の方だとしたら、入りかたを間違ったのかもしれない…カマをかけずに、普通に調書していれば、あるいは…。
そんな事を考えながら池照が思案顔をして黙っていると、真理亜が溜息をついて言った。
「他になにもないなら帰るけど。」
「え?」
「ええよ。」
池照は真理亜の発言に驚いたが岩井の言葉に更に驚いた。
「いいんですか?」
「せやな、どうせ何も話す気なさそうやし、こんなベッピンさんのJKを夜中まで付き合わせたら怒られそうやしな。」
「それじゃ。」
そういうと、真理亜はまたスタスタと家に帰って行った。
岩井はその後姿に聞こえるように言った。
「でも、繋がりが掴めたらまたくるで!」
真理亜は一瞬足を止めたが、またそのまま歩き出した。
一応真理亜が家に入るまで見届けると、池照は言った。
「どう思います?」
「さあな、わからんけど取り敢えず調べるしかないやろ?あんだけ非協力的なんやから。」
それは、あんたのせいかもしれないけどね。
という、台詞を池照は飲み込んだ。
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空には綺麗な月が浮かんでいた。
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