少女探偵

ハイブリッジ万生

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聖母の母

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岩井は単身、真理亜の自宅に向かった。しかし、目的は別の所にあった。



ガチャ。

「あれ?また刑事さん?真理亜なら居ませんよ。」

阿部の家から髪をかきながら出てきたのはこの前も居た残念なホスト風の男だった。

「わるいね、なんども。せやかて、仕事やさかい、多目にみてちょうよ。」

「はあ、まあ、いいですけど…。」

「そういえば君この前もおったよね?なんで?」

「なんでって、言われても…住んでますから。」

「え?そうなん?真理亜ちゃんからはお母さんの友達って聞いとるよ?」

「それは…まあ、友達といえば友達ですからね、おかしくないでしょ?泊まりにくる友達。」

「せやな日数によるけども…どれくらいおるん?それと名前も教えてえや。」

「え?なんでそんなこと言わないとダメなんですか?なんの事件の捜査かしりませんけど。事件に関係あるんですか?」

たしかに、直接は関係ないかもしれないが、念の為、色々と情報はあった方が良い。

「念のためや、そないに目くじら立てんでもええがな、それとも、言えない訳でもあるんか?そういえば初めて君におうたときも挙動不審やったよな?」

そう、岩井は初対面の時の男の挙動に疑問を抱いていたので真理亜が居ない可能性が高い昼に訪問したのだ、真理亜の母に話を聞くついでにこの男が居ればという狙いがあったのだが…見事に的中したようだ。

「きょ、挙動不審?そりゃあ、昔は悪いことのひとつやふたつはやってましたからね、警察って聞くだけで構えちゃうのは仕方ないでしょ?パブロンの犬ですよ。」

「それいうなら、パブロフの犬やろ!風邪薬みたいな顔してからに!」

「どんな顔ですか風邪薬みたいな顔って!」

「いいから、何日か言わんかい、あと名前も!」

「半年くらいです。」

中から女性の声で答えが来た。

「おや、起こしたみたいでえろうすんませんなぁ。」

阿部の母はネグリジェのような格好で出てくるなり言った。

「真理亜の事件じゃなかったの?なんでうちの人に絡んでるの刑事さん。」

「うちの人?」

「そうよ、半年前にここに移ってきてからずっと住んでるの、わかるでしょ?」

「内縁の夫って意味やな?」

岩井は40歳くらいの不健康な色気をもった真理亜の母親を見て言った。


「さよか、それならそうとはよゆうてくれんと、この男が友達だとかいうから。」

「いや、友達って言ったのは真理亜でしょ?」

「それをあんたも否定せんかったやないか?」

「それは…まだ籍もいれてないし、友達以上恋人未満ってやつですよ。」

「なんやそれ?友達ならせいぜい泊まるのは2日か3日やろ?半年も泊まってる友達ってなに?シェアハウス?」

「まぁ、ある意味シェアハウスで。」

「なにそれ…だったら家賃いただかないと困るわね。」

「えー、そりゃないよ、ゆーちゃん。」

「人前でゆーちゃんはやめなさい、加納さん。」

「ゆーちゃん?」

「あの、私の名前が友里亜なんで、そう呼ばれてるんです。」

「ほう、友里亜さんやね。」

どうしても世紀末を描いた漫画を思い出してしまうなと岩井はおもった。

「ほいで、こちらの加納さんとは半年前から同棲してはるんですね?その前は?」

「その前は別々でした、部屋も狭くて親子がやっと住めるくらいの所でしたので。」

「さよか、その前は別々と…。あと真理亜ちゃんの事やけど…。」

「はい。」

「なんか危ない遊びとかしてはる気配ない?」

真理亜が援助交際している事を知ってるかどうかわからないのでわざとあやふやな表現をした。
「危ない遊び?具体的にはどんな遊びですか?」

「いや、具体的にと言われても困りますわ、まだ捜査中なもんで。」

そういうと岩井はポリポリと頭をかいた。

「麻薬とかはやらないと思うんだけど、あの子に限って…。」

「なんでですか?」

「私がその…悪い見本だったからね。」

「薬をやってはったんで?」

「いえ薬ではないです!もしやってても刑事さんの前で言わないですよそんなこと!」

「せやな…おかしいとおもったんや、ほいで?」

「お酒の方で結構みっともない所を見せてたんで。」

「アル中やったん?」

「はい、それで、あの子は中毒の怖さは知ってるかと…。」

「なるほどなぁ…。」

岩井は真理亜に少し同情した。


「その時からこの加納さんにも色々と面倒かけてたんでなんとなく、そういう関係になったんですけど…やっぱり真理亜には全然認められてないみたいで…。」

「僕は全然かまわないんだけどね、友達って良い響きじゃない?友達の友達は皆友達だ!てね?」

岩井は、こんな軽い男が今はもてるらしいとどこかの記事で読んで苦虫を噛み潰したような顔になったのを思い出した。

「あの、念の為やけど、半年前住んではったのもこの近くですか?」

「いえ、隣町の紅葉町です。」

「なるほど、紅葉町ね。最後にもうひとつええか?2日前真理亜ちゃんが帰ってきてから変わった様子なかったやろか?」

「変わった様子…ですか?」

「とくにはないとおもいますよ。」

加納が答えた。

岩井は、おまえには聞いてないがな、という目で一瞥するともう一度友里亜に聞いた。

「細かいことでも良いんやで?」

「そうですね、細かいことですけど、居間のソファーで寝る様になった事くらいですかね?」

「ソファーってそこの?」

「はい。」

居間は子ども部屋からも寝室からも繋がっていて、そこから近くの公園も見えた。もちろん玄関にも一番近い。

「なんでか分かります?」

「さぁ?」

「でもそれって、もっと前からじゃなかった?」

また加納が割り込んで来た。

「そうだったかしら、そういえば気がついたらそこに寝てたわね。ごめんなさい、もっと前からだったみたい。」

「では事件とは関係なさそうやね?」

「ですね。」

「じゃあ、このへんで、帰りますわ、またなにかあったら
協力たのんます、友里亜さんとあと、加納さん?そういえば下の名前なんでした?」

「栄吾です。」

「えいごさん。惜しいな。」

「え?なにがです?」

「いや、こっちの話です。ほな、失礼しますぅ。」

阿部友里亜。真理亜の母。

加納栄吾。母の友達。

メモ帳に書いた名前に目を落とすと岩井は真理亜の身の上を思って嘆息した。

友里亜は加納に感謝してたようだが、岩井は加納の薄っぺらい笑い方が気になった。

根っからの依存体質の男がよくやる笑い方だ。

もちろん、一、二度会っただけで全てを推し量るのは難しい。

もしかしたら素晴らしい魅力的な男性なのかもしれないが…。

「第一印象は友達以下やで。」

岩井は誰に言うともなく、そう呟いた。



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