少女探偵

ハイブリッジ万生

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モンキー先生

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池照はどうしても、猿野文紀の人となりを知る必要があると思い、青葉高校で粘っていた。猿野は読書部の顧問をしていたという事もあって、読書部の生徒ならなにか知っているかもしれないと読書部部員を呼ぶことにしたが、生憎部長一人を除いて補修授業を受けているという事で、部長だけ呼んで話を聞くことになった。




「え?モンキー先生の事ですか?」

読書部の部長でストレートヘアと眼鏡がいかにも読書しますけどなにか?と言ってそうな読書女子の遠野日向(とおのひなた)さんは池照に会うなりそう言った。

「モンキー先生?」

「読書部の中ではモンキー先生って渾名で通ってます。」

「猿野だから?」

「それだと、子供のつけた渾名じゃないですか?名前の方からですよぅ。」

十分子供じゃないかな…という台詞は飲み込んで池照は猿野の名前を思い出してみた。確か…文紀(ふみのり)。

「ああ、そういうことか!文紀先生の読み方を変えると確かにモンキになるね?」

「でしょ!読書部らしい渾名でしょ?」

読書部らしいかどうかはわからないが池照は愛想笑いをした。

「確かにね。でも、先生にモンキーなんて渾名をつけてるの知られたら大変じゃない?」

「なんで、わかるんですか?確かにばれた時大変な騒ぎになったんですよ。」

「え?そうなの?」

ていうか、普通わかるよ。

「もともとキレやすい所がある先生だったんだけど、その時は完全にキレた感じで暴れちゃって…。」

「ありゃりゃ、そりゃ災難だったね。」

「そう!でも、うちの読書部の男子ってなんで読書部にいるのか不思議なくらい男子が体格よくてね!
まぁたぶん、読書部の女子がお目当てだと思うんだけどねぇ。
あ、私は違うわよ?そんな自惚れてないし!まぁ、少しは自信あるんだけど自分から言うのははしたないでしょ?
ていうかなんの話だっけ?
そうそうそれでそのヒステリー起こした猿野先生を男子が取り押さえちゃったの!モンキー先生って大人にしては小さい方だったからね。
もちろん他の先生方が来るまでの間だけどね。
それから学校に来なくなったのよね、やっぱりプライドが傷ついたのかしらね?
でもそれで私たちを攻めるのはお門違いだと思うのよね、渾名くらいで先生がキレるほうが問題だと思うのよ。まぁもともとが問題のある先生だったしね。というのも…。」

「わかった!君が協力的な事はよくわかった!とても有難いんだが…もっと落ち着いて話して貰ってもいいんだよ?」

池照はたまらずストップをかけた。

こういう子が将来井戸端会議の主役になるに違いない。

池照は自分がしゃべった訳でもないのに置いてあった水をグイっと飲んだ。



「あの、それだと、猿野先生はその時取り押さえられた生徒に怨みをもってるってことになる?」

「たぶん怨んでるとおもうわ!でも自業自得だけどね。」

「なんで?」

「結構黒い噂もあるのよ、生徒に手を出したとかなんとか、まぁ噂だけどね。あ、私は大丈夫よ!毅然としてるもの!」

そういって、遠野は池照に微笑んだ。

「そ、そう。それは良かった。」

「まぁ、ちょっと近寄りがたいというのもあるかもしれないんだけど…一応部長だしね?」

「うん、確かに。」

確かに、近寄りがたい…ていうか会話が成り立たなそう。

「それで、その被害にあった女生徒はわかってるの?」

「いや、そこまではわからないっていうか…あくまで噂なのごめんね。」

なんで謝られたんだろう?

「ていうか、猿野先生は情緒不安定だからそんな噂がたったのかもね?」

「情緒不安定だった?」

「そう、よくなんでもないことでキレたりして医者にかかっているって聞いたことがあるわ!精神安定剤も毎日のんでたんじゃないかしら?よく寝てたもの。」

「寝てた?」

「そう、薬のききかたにムラがあるとかで授業中でも平気で寝るの。寝たら起きないからみんなで寝猿!起こ猿!起き猿!とか言ってからかってたわね。どうおもう?」

「それは…困った先生だね。」

「でしょう?だから来なくなってから、まわりの先生も言葉には出さないけどホッとしてたみたいだったわ。」

「ふーん、なるほど、じゃあ復帰を喜んでる先生は少なかった?」

「そうね、皆無かも?」

そういって、遠野は微笑んだ。

「なるほどね、ありがとう。とても参考になったよ。」

「いえいえ!なんでも聞いていいですよ、部長だし!なんなら捜査に参加しても…。」

「いや、それは大丈夫だから…。」

「そう?LINE教えようか?」

「え?」

協力者が増えるのはありがたいが…事件以外で振り回されるのは勘弁して欲しい。

「もし、必要になったらこちらから連絡するよ。」

そういって、いつもの微笑みで返した。


池照が帰ろうとすると遠野が引き留めた。

「あの!刑事さん!」

池照は一瞬名前を呼ばれた錯覚に陥った。

直ぐにそんな訳がないことを理解するのだが、どうしても体は反応して挙動不審になってしまう。

「え?な?なに?」

「そういえば見せようと思って持ってきたんですけど写真、見ます?」

「何の写真?」

「読書部で集合写真撮った時のやつです。」

読書部全員の名前は控えてあるし、あんまり意味はないように思えたが、折角なので見せてもらう事にした。

「ありがとう。見せてくれるかい?」

「はいこれ!」

少し上から撮っている凝ったアングルで真ん中に猿野先生、その回りに読書部の生徒数人、と…あれ?

「あの、ここに映ってるのは?」

「え?えーと、中川くんね。」

「え?読書部じゃないよね?」

「まぁ、読書部じゃないけど、ちょくちょく来るのよ。
ほら、うちの学校は部活動の掛け持ち禁止でしょ?でも、入ってから合わない事に気がつく子もいるのよねぇ、特に体育会系は落ちこぼれたら居る場所ないんじゃないかしら?
だから、中川くん野球部の練習をなんだかんだ理由をつけてサボっては、こっちの部室に顔を出してる訳。
もしかしたら私がお目当てなんじゃないかしらって勘繰ったりしたけど、確証はないわ。
私じゃなくても、読書部の女子は結構粒揃いだから誰かが目当てなのは確実だと思うんだけどね。
まぁそんなわけで部員じゃないんだけど、準レギュラーみたいな感じで部室に顔を出すわけ。来年は正式に入るって言ってたわ。」

でかした!

心の中で遠野を褒めた。

彼女の演説が長くても今回は気にならなかった。

中川良太くん。君の事、勘違いしてたよ…すぐに顔に出る性格ではあっても、嘘をつけない性格ではなかったんだね。

池照は刑事の威厳を保つ為に溢れそうになる笑みを堪えた。

「そういえばLINE交換、やっぱり念のためお願いして良いかな?」

池照は何か彼女が喜びそうな事をしてあげたくなったのでそう言った。

もたろん本当に捜査に役立つ情報の提供も期待できなくはない。

「え?本当に?」

「捜査に協力していただけるなら喜んで。」

「やった!」

遠野日向は喜びを隠さなかった。


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