少女探偵

ハイブリッジ万生

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戦慄のお茶会

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事件のあった翌日、池照の斡旋のお陰で安定した収入が見込める様になった裏山は詳しい仕事の内容やらの打ち合わせがあると言うことでまた如月邸に来ていた。


「そういえば、詩歌は人を殺した事はあるの?」

裏山詩歌《うらやましいか》は突然の如月如鏡《きさらぎしきょう》からの、あり得ない質問に、口に含んでいた紅茶をぶちまけそうになるのを必死に耐えた。

口許に持っていっていたティーカップを少し揺らした程度で済んだのはある意味奇跡的であると言えた。

「如鏡さん、なんてこと聞くんですか?」

「あら、いけなかった?それより、バアヤが居ない所では呼びすてでかまわないわよ。こちらも呼びすてにしてる訳だし」

ひとしきり、如月邸の中で入ってはいけないところ、触れてはいけない貴重品などの説明を新人の裏山詩歌に垂れていた桜庭彩《さくらばあや》は一旦、本来の仕事に戻る為にこの場に居なかった。

「くれぐれも粗相のない様に!私が見てなくてもKISARAGIさんが観てますからね!」

そう捨て台詞を吐くと何故か怒った様にバアヤは去っていった。

「いえ、やっぱりやめときますよ。普段から慣れておかないと、咄嗟の時に出てしまいますからね」

「そう、残念ね。あと、質問の答えをまだ聞いてないわね、もう一度言う?」

詩歌は大きく手を前で振ると慌てて言った。

「いえいえ!それには及びません!殺したことなんてないですよ!殺してたらここに居ないでしょ!如鏡さん!」

「あら、どうして?裏山流は影山流と並び立つ暗殺拳じゃないのかしら?」

如鏡《しきょう》の言葉に詩歌《しいか》は戦慄した。

如鏡の発した名は遠い昔の敗北の記憶を呼び覚まさせたからだ。

「な.......なぜ、その名を?」

「ん?なに?」

「なぜ影山の名を知ってるので?調べて出てくるとは思えませんが.......」

「もちろん、調べたわけじゃないわ、聞いたの」

「.......誰に?」

「影山から」

「な、なぜ影山流とお知り合いなので?」

「貴方が来る前のボディガードだったの」

影山.......まさか、あいつか?

「あの.......その、影山の下の名前は?」

「残念ながら、知らないわ、最後まで教えてくれなかったから」

「最後?」

「そう最後」

「死んだんですか?」

「あら、なんとなく嬉しそうね」

「い、いえ、そんなわけありませんよ。いくら同業者といえども.......お悔やみ申し上げます」

「バカね。まだ死んだとは言ってないわよ。ヘッドハンティングされたの」

「え?ヘッドバンキング?」

「あのね。いくら黒づくめに長髪でもロッカーじゃないわ」

黒づくめに長髪と聞いて更に知っている奴に違いないという確信に変わった。

「で、ですよね。それでどちらにハンティングされたんですか?」

「桜家」

「あぁ、名前は聞いたことがあります」

確か桜家は如月家と並び立つ名家の筈だ。

「そう、それでバアヤはさくらと呼ばれるのが嫌なの.......変でしょ?」

「え?あ、あぁ.......そうだったんですね」

俺はバアヤの事より、昔馴染みの思い出したくない顔を思い浮かべて額に汗が滲んできた。

「何を焦ってるの?」

「い、いえ.......知ってる影山かと思いまして」

「あら?もし、良かったら紹介しましょうか?」

なにー!

それはまずい。

例え何もなくても、アイツならなんやかんや難癖を付けてでも俺にちょっかいを掛けてくるに違いない!

もちろん、普通の人にはそんな事はしないだろう、相手が俺だからアイツは気兼ねなくちょっかいをかけてくるのだ。

ちょっかいくらい大したことないって思う奴もいるかも知れないが全然ちがうのだ。

猫がジャれてくる様な気軽さで相手が虎だった時を想像してみてくれ。

つまり、命懸けの冗談ってわけだ。

やられるこっちはたまったもんじゃない!

「い、いえそれには及びません。相手も忙しいでしょうし.......」

俺はなんとかはぐらかそうと思った。

「あらそう.......残念ね」

「お気遣いなく」

「じゃあ.......これからゲームをしない?」

「ゲームですか?」

「そう、そのゲームで勝てたら」

「勝てたら?」

「ご褒美として、会わせてあげるっていうのはどう?」

「え?ご褒美?そうですね」

俺は絶対に勝たない事を心に決めた。


「なるほど、受けて立ちましょう」

どんなジャンルのゲームだろうと、最初から負けるつもりなら問題はない。

ドンと来いだ。

「で?どんなゲームです?」

「ディベート」

「ディ.......ディベート?え?」

「そう、論理のゲームね」

ええええ!思ってたのと違う!

「じゃあ、お題はそうね.......死刑が必要かどうかなんてどう?」

「え?あの.......」

「なにかしら?」

「判定は誰が?」

「そうね、お互いに紳士的であることを信じて自己申告というのは?」

「.......いいでしょう」

自己申告なら問題ないな.......うん。


「ではどちらにしますか?」

「え?何を?」

「死刑が必要かどうか」

「あ、あーそうですね。じゃあ、不必要って方で」

そう言えば、この前見た漫才にそんな題材のがあったのを思い出していた。

「わかったわ、じゃあそちらからどうぞ」

「そうですね。やはり人権の問題から言っても死刑は相応しくないと思います。今は少なくなりましたけど、冤罪なんてケースもありますからね。間違いで人が人を殺す可能性が僅かでもあるようなものは廃止すべきかと」

何となく、あてずっぽうで話し出した割には結構良いことを言ってる気がするが、まさかこれで勝ったりしないよな.......。

「なるほど、でも、それで死刑がなくなれば、人を殺しても死ぬことはなくなって、最悪でも無期懲役。となれば殺人をする人が沢山出てくるんじゃない?」

なるほど、やはりそうなるのか。

俺は心の中で漫才師のやり取りを思い出していた。

「わたくしめに妙案あり」

「あらなに?」

「つまり、監修した後に何もしないから犯罪が減らない訳です。悪しき心を矯正するプログラムを入れるわけです」

「具体的には?」

「具体的にはですね。例えばすぐカッとなるタイプの犯罪者には、カッとなると身体的に負荷のかかるプログラムを行います」

「つまり拷問するってこと?」

歯に絹を着せない物言いに少し慌てたが直ぐに笑顔を返しながら否定する。

「いえいえ、あくまでも矯正プログラムです」

「なるほどね。でもさっき言ってた冤罪はどうするの?間違いで捕まえて強制的に矯正されたら人権問題じゃない?」

なるほど、と納得しかけた俺にさらなる反論が閃いた。

「まぁ、例えば冤罪だったとしても問題ありません。もし、間違いで捕まった人がいてもその人はアングリーコントロールができる人の筈ですのでそもそも負荷がかかりません」

「犯人がアングリーコントロールが出来ないという特徴を持っているとして。たまたま、冤罪で捕まった人もアングリーコントロールが出来ない人の場合もあるでしょう?」

「え?えーと、その場合は.......まぁ、アングリーコントロールが出来ないという事自体が反社会的といえるので、それを矯正すること自体が犯罪率の低下に繋がると考えられます」

「なるほどね」

え?納得した?ヤバい、つい納得させてしまった!

俺は子供相手に本気を出しすぎたかと反省した。


が杞憂だったようだ。

「でもね。ついカッとなるというのも性格の1つだと思うんだけど」

「はい?」

「例えば怒りやすいという性格というのはスポーツで言うと負けず嫌いという事に繋がるし、公的な仕事で言うと不正を許さないという事にもなる。つまり社会的には価値的に使われる可能性があって一概に犯罪に繋がるだけとは言いづらいわよね?それを強制的に矯正するのは社会的損失になるし、なんの罪も犯してないなら人生の原動力を理由なく奪われる事になるわよね」

「え?ええまぁ.......でも瞬間的に怒りやすいのは治した方が良いのでは?」

「瞬間的に怒りやすくても直ぐに覚めてサバサバする性格の人も居るし、むしろ表面的には穏やかそうな人でも怒りを内側に溜め込む人の方が殺人などの重犯罪を犯しやすいんじゃないかしら?そもそも、怒りやすいかそうでないかで犯罪しやすいかどうかを決めるのがナンセンスであって、そのベクトルがどこに向かってるのかが重要なんじゃない?」

「ベクトルといいますと?」

「つまり、悪に対する怒りなら正義でしょ?」

「.......確かに」

「それを間違いで矯正して良いの?」

「.......不味いですね」

「あら、もう降参?」

「.......はい、負けました」

最初から負けるつもりで居たけどなんか悔しい。



「紅茶が冷めてしまったわね、入れ直して来ようかしら?」

「い、いえ、如鏡さんにそんな事をさせたなんて、後でバアヤに知れたら殺されますよ」

「あら.......殺人事件ね?」

ちょっと、、、このお嬢様どこまで本気かわからないのが怖い。

詩歌は冷めた紅茶をグイっと飲み干すと取ってつけたような笑顔で答えた。

「ですね」



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