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青年の証言(2日目)
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中川良太の偽証《ぎしょう》の証拠を掴んだ池照は、運良くまだ学内に残っていた彼を知り合いの読書部部長、遠野日向《とおのひなた》に呼び出してもらった。
「え?どういうこと?」
中川良太は部屋に入るなり遠野を咎《とが》めるように言った。
校内放送で呼び出す事も出来たが、できるだけ目立たない様にという学校側からの要望に応えて、顔見知りの遠野日向に頼んで中川良太を連れてきてもらった。
どんな理由で連れてこられたのか知らないが池照に会うのは期待外れだった様だ。
「ごめんね、話があるのは.......こっちの刑事さんなの。本物の刑事だよ?」
「いや、知ってるけど.......」
中川良太は池照を見て、明らかに動揺しているようだった。
「突然呼び出してすまないね。ちょっと聞きたいことが出来たんでね、迷惑だった?」
「い、いえ」
迷惑であっても、迷惑だと言える雰囲気ではない。
「これ、この写真に写ってるの君だよね?」
池照は例の集合写真を見せて言った。
「あ.......」
中川は池照が何を言いたいのか察知すると黙ってしまった。
「なんで黙るの?」
「いや、あの.......」
「知ってたんだよね?」
「あ、はい」
「あんまり知らない先生って言うのは嘘だよね?」
「あ、いや、ほんとに知らないです、この写真もたまたま写りこんだっていうか」
「ほかの人にも聞こうか?」
「.......」
また黙ってしまった。
「まずいな」
誰に言うともなく池照は言った。
「いやぁ、まずい.......このままだと君を連行しないといけないかもね」
中川良太は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして池照を見た。
「な、なぜです?」
「なぜって、事件についてここまで明らかな嘘をつかれるとねぇ、どうしたって疑わしくなる」
「う、疑わしいって.......いわれても」
「そりゃ、そうだろ?やましいことがなければ嘘をつく必要もない」
「あの.......ちょっと怖くなって」
「怖くなって嘘をついた?」
「.......はい」
やっと認めたか、心の中で池照はタメ息をついた。
「本当は知っていたんだね?」
「.......はい」
「なにか言えない理由があった?」
「え?なにかって?だから怖かったから.......です」
「なにが?」
「.......なんとなく」
「なんとなくは理由にならないなぁ」
「そ、そんなこと言われても.......」
「たとえば.......そうだな」
池照は中川を観察しながら言った。
「犯人だとばれそうになるのが怖かった.......とか?」
なぜか横にいる遠野日向がゴクリと唾を飲んだ。
そして、言った。
「中川君、正直に言って!」
「いや、僕じゃない!知らない!関係ない!」
そう叫ぶと中川良太は部屋を飛び出した。
「中川君!」
遠野日向は条件反射的に後《あと》を追った。
そして、部屋を出る直前で池照を振り向いて無言で首肯《うなず》くと追いかけていった。
今の首肯きは「私に任せておいて!」て意味かな。
池照も、さすがに学校内を刑事が走り回る訳にもいかず、しかし遠野に任せるのも不味い。彼女は単なる一般市民なのだから。
未成年の一般市民を捜査に巻き込んだとあっては、なにかあった時に世間に申し開きできない。
いや、そういえば、如月のお嬢様はもっと未成年か.......。
池照は自分の自己矛盾に気が付いて誰も見ていないのに赤面した。
(遠野さん!深追い禁物!戻ってください!)
(( ゚Д゚)ゞラジャー)
先程教えてもらったLINEが早速役に立ったな、と池照は思った。
遠野日向が協力的なのは嬉しいがあまりにも協力的過ぎるのはよろしくない。
本当に中川良太が犯人だとしたら、なにをするか分からないからだ。
それにしても、いきなり逃げ出すとは思わなかった.......いや、普段の池照なら、いきなり相手が逃げ出すような取り調べはしないだろう。
武勲を焦ったか。
自己分析しつつ天井を見上げてタメ息をついたところで遠野が帰ってきた。
ガララ
「はぁはぁ.......ごめんなさい!取り逃がした!」
ドアが開くのと息切れしながら吐いた台詞がほぼ同時だった。
「いや、遠野さん。御協力感謝します。が、あまり突発的に動かないで頂きたい、危険ですので」
そう言われた遠野は何故か潤んだ目で池照を見上げると息を整えながら言った。
「わ、わたしは、だ、大丈夫、し、心配かけて、ご、ごめん」
いや、これは逆効果だったか。と池照は内心で悔やんだ。
しかし、あんまり無下な台詞も吐けず苦笑いするしかない。
「いや、ほんとうに無茶しないで欲しい」
「う、うん」
「いや、本当に」
「うん、うん」
えーと、どうしよう.......。
「じゃあ、僕は帰るから。またなにかあったら連絡してくださいね」
「らじゃ!」
そういって遠野は軽く敬礼のポーズをとった。
池照は何を言っても、逆効果になる気がして早々に立ち去る事にした。
去り際にもう一度念を押してみた。
「あの、本当に危険な事はしないでくださいね」
「うん。わかった!もう!心配性なんだからぁ~」
何故か声が甘え口調だ。
池照は思った。
.......不安だ。
「え?どういうこと?」
中川良太は部屋に入るなり遠野を咎《とが》めるように言った。
校内放送で呼び出す事も出来たが、できるだけ目立たない様にという学校側からの要望に応えて、顔見知りの遠野日向に頼んで中川良太を連れてきてもらった。
どんな理由で連れてこられたのか知らないが池照に会うのは期待外れだった様だ。
「ごめんね、話があるのは.......こっちの刑事さんなの。本物の刑事だよ?」
「いや、知ってるけど.......」
中川良太は池照を見て、明らかに動揺しているようだった。
「突然呼び出してすまないね。ちょっと聞きたいことが出来たんでね、迷惑だった?」
「い、いえ」
迷惑であっても、迷惑だと言える雰囲気ではない。
「これ、この写真に写ってるの君だよね?」
池照は例の集合写真を見せて言った。
「あ.......」
中川は池照が何を言いたいのか察知すると黙ってしまった。
「なんで黙るの?」
「いや、あの.......」
「知ってたんだよね?」
「あ、はい」
「あんまり知らない先生って言うのは嘘だよね?」
「あ、いや、ほんとに知らないです、この写真もたまたま写りこんだっていうか」
「ほかの人にも聞こうか?」
「.......」
また黙ってしまった。
「まずいな」
誰に言うともなく池照は言った。
「いやぁ、まずい.......このままだと君を連行しないといけないかもね」
中川良太は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして池照を見た。
「な、なぜです?」
「なぜって、事件についてここまで明らかな嘘をつかれるとねぇ、どうしたって疑わしくなる」
「う、疑わしいって.......いわれても」
「そりゃ、そうだろ?やましいことがなければ嘘をつく必要もない」
「あの.......ちょっと怖くなって」
「怖くなって嘘をついた?」
「.......はい」
やっと認めたか、心の中で池照はタメ息をついた。
「本当は知っていたんだね?」
「.......はい」
「なにか言えない理由があった?」
「え?なにかって?だから怖かったから.......です」
「なにが?」
「.......なんとなく」
「なんとなくは理由にならないなぁ」
「そ、そんなこと言われても.......」
「たとえば.......そうだな」
池照は中川を観察しながら言った。
「犯人だとばれそうになるのが怖かった.......とか?」
なぜか横にいる遠野日向がゴクリと唾を飲んだ。
そして、言った。
「中川君、正直に言って!」
「いや、僕じゃない!知らない!関係ない!」
そう叫ぶと中川良太は部屋を飛び出した。
「中川君!」
遠野日向は条件反射的に後《あと》を追った。
そして、部屋を出る直前で池照を振り向いて無言で首肯《うなず》くと追いかけていった。
今の首肯きは「私に任せておいて!」て意味かな。
池照も、さすがに学校内を刑事が走り回る訳にもいかず、しかし遠野に任せるのも不味い。彼女は単なる一般市民なのだから。
未成年の一般市民を捜査に巻き込んだとあっては、なにかあった時に世間に申し開きできない。
いや、そういえば、如月のお嬢様はもっと未成年か.......。
池照は自分の自己矛盾に気が付いて誰も見ていないのに赤面した。
(遠野さん!深追い禁物!戻ってください!)
(( ゚Д゚)ゞラジャー)
先程教えてもらったLINEが早速役に立ったな、と池照は思った。
遠野日向が協力的なのは嬉しいがあまりにも協力的過ぎるのはよろしくない。
本当に中川良太が犯人だとしたら、なにをするか分からないからだ。
それにしても、いきなり逃げ出すとは思わなかった.......いや、普段の池照なら、いきなり相手が逃げ出すような取り調べはしないだろう。
武勲を焦ったか。
自己分析しつつ天井を見上げてタメ息をついたところで遠野が帰ってきた。
ガララ
「はぁはぁ.......ごめんなさい!取り逃がした!」
ドアが開くのと息切れしながら吐いた台詞がほぼ同時だった。
「いや、遠野さん。御協力感謝します。が、あまり突発的に動かないで頂きたい、危険ですので」
そう言われた遠野は何故か潤んだ目で池照を見上げると息を整えながら言った。
「わ、わたしは、だ、大丈夫、し、心配かけて、ご、ごめん」
いや、これは逆効果だったか。と池照は内心で悔やんだ。
しかし、あんまり無下な台詞も吐けず苦笑いするしかない。
「いや、ほんとうに無茶しないで欲しい」
「う、うん」
「いや、本当に」
「うん、うん」
えーと、どうしよう.......。
「じゃあ、僕は帰るから。またなにかあったら連絡してくださいね」
「らじゃ!」
そういって遠野は軽く敬礼のポーズをとった。
池照は何を言っても、逆効果になる気がして早々に立ち去る事にした。
去り際にもう一度念を押してみた。
「あの、本当に危険な事はしないでくださいね」
「うん。わかった!もう!心配性なんだからぁ~」
何故か声が甘え口調だ。
池照は思った。
.......不安だ。
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