CHANGE syndrome

ハイブリッジ万生

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逆転のカード

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最初は目の錯覚かと思ったが...

そうではなかった。

不気味なほどの紫

俺は地球ごと終わるのかと思った。

それならそれで面白い

昔やった桃太郎ナントカというお金を儲けていくボードゲームを思い出した。

そのなかで普段は全く役に立たないようなカードがある、自分を含めてプレイヤー全員のお金をゼロにしてしまうカード

もちろん自分にある程度お金がある時に使えば自分も被害に合うので、誰もつかわない

しかし、それを使う条件が整った人間にとっては驚異的な1発逆転を狙えるのだ、つまり、何も持たない、という特殊な条件を満たした人間にのみ強烈に有利に働く

その条件を俺は今リアルに満たしている。

この紫の光がもしも、そのカードだったとしても...俺にとっては逆転になりうるのだ全部がゼロになる事で今1番上にいるヤツも俺も同じになるんだ。

そんな不穏な夢想をしていると誰かに声をかけられた。

「おいおーい、何たそがれちゃってるのーおじいちゃん」

若い男の声だ、一瞬で夢想は消えて現実に引き戻された。


おじいちゃん?おれの事か?

たしかに無精髭をのばし放題のうす黒い顔は見た目を老けさせている...しかし、おじいちゃんと言われる年齢ではないぞ

「どうしたんでちゅか?シカトでちゅか?スルースキルでしゅか?頭イーでちゅねーー」

今度はちがう男が明らかに馬鹿にした口調で煽ってくる...くそ、厄介だ...この手のヤカラは何が引き金になるかわからない

「い、いえ、すみません」

とりあえず、愛想笑いをして、謝る、これがホームレスの先輩から聞いた防衛手段だ...なんとかやり過ごすしかない、逃げるのは逆効果だ、熊と同じで逃げれば必ず追ってくるだろう。

「はぁ?なにそれ?なにか悪いことしたんでちゅか?」

揚げ足を取られた、こちらが謝ったのを逆手に取られてしまった、ヒキコモリをしてるときにこういうSNSなどで絡んでくるネットヤンキーみたいな人間の事を思い出して憮然とした顔を作ってしまった。

「あー反抗的でちゅねー?これは、お仕置きが必要ですね?」
もうひとりに目配せした
「ジジイ!アウトー!タイキックー!」

バラエティでよく見る罰ゲームを俺にしようというのか、ようやくコイツらの意図がみえた、最初からこれが目的だったのだろうくそ...一か八か...

俺は覚悟を決めると走り出した

「あ、逃げた!」

「ちょ待てよ!」

お前はキムタクか、そんな悪口を言う余裕もなく俺は走った



「はぁっ・・・はぁっ・・・」
ダメだ、やっぱりダメ、普段ろくに体を動かしてないのと、ろくなものを食べてないのがたたって、すぐに限界が来た。

「まてってばよ!」
追いついてきたヤカラ(と言っても高校生...下手すると中学生くらい)の飛び蹴りが俺の脇腹を襲った。

「ぐうっ」

「ヒーハー!」
もうひとりが謎の雄叫びをあげた。

「逃亡罪によりタイキックが加算されマースぅ!」

くそ、ふざけるな...普通に考えたらお前らの方が暴行罪という罪だ!

しかし、彼らの目には俺は普通の人には見えてないらしい、普通の人じゃないので何をしてもいいというのか?

それとも、映画「イージーライダー」の中で自由を謳歌する青年を袋叩きにする奴らのように、俺の自由が疎ましいのか?

いや、何も考えてはいないんだろう、つまり楽しんでるだけだ、よほど日常がつまらないんだろう。

しかし...だからと言っておめおめとタイキックをされる理由にはならない。

俺は呼吸を整えると最後の反抗を試みる事にした。

窮鼠猫を噛む...

だ。

これの意味はわかる

追い詰められたネズミは相手が猫でも


噛む!









俺は苦しむフリをしながら(実際にかなり苦しいのだが)体制を低くして相手の動きを覗った。

相手がタイキック(本当のタイキックはもっとちゃんとしてるのだろうがあくまでも、彼らの中でのタイキック)をしようと足を振りあげた瞬間を捉えた。

タックル

そうだ、これは体格差が大きくものをいうのだ、例え筋肉のつき方や年齢差があっても、体の大きな人間から喰らうタックルはダメージがおおきいはずだ。

「うおっ」

若者は完全に不意をつかれたとみえて呆気なく倒れた。

「なにすんだジジイ!」

大声を上げて仲間の若者がケリを入れてくる

「ぐうっ」

俺はやられると思って目をつむり体を硬直させていたが...なぜか、なんともない。
恐る恐る目を開けると、もうひとりの若者が誰かを蹴っている。

「オラ!オラオラぁ!」

仲間割れ?え?なんで?
急に仲間割れがはじまったのか?
なぜ?

「やめろ!俺だ!サトシだ!」

ん?間違って蹴ってるのか?
だとしたらかなり間抜けだ

「あ、馬鹿かお前は、ていうかなんでお前がサトシの名前をしってんだ?あ?」

ガッとケツにケリが決まって相当痛そうだ

「やめ!ユウヤ!俺だって!サトシだ!なんで?なんで?」

「ふざけんなてめえ!」

「ヤバイよ!か、体が!入れ替わってるんだよ!」

「はあ?なにすぐにバレる嘘をついてんだあてめぇ!」

「うそじゃない!やばいよ!入れ替わってるんだって!」

ん?今のはサトシの口癖じゃ...
それに、こんなバカバカしい嘘をつくだろうか...?

「じ...じゃあ俺の姉貴の名前を言ってみろ!」

「ユウヤ、お前の姉貴はマイで高校2年生ショートカットで、テニス部だけどゲームのテニスは弱い!これでどうだ!」

「おまえ・・・本当に?」

あまりの事に愕然とするふたり。

ゆっくりとこっちをむく...

どうしよう?

①逃げる

②戦う

③仲間になる

どうやら最後のはなさそうだ...。



「まて、俺になにかしたら戻れなくなるぞ!」
俺はハッタリをかますことにした。

なにがなんだかわからない

それは俺もおなじだ

しかし、条件が同じだと知られればまたサンドバックにされかねない...。

だからこちらに圧倒的なアドバンテージがあると思わせる必要がある。

「いいか、俺になにかしたら、2度とこの体はもどらない、理解したか?」

サトシと呼ばれた方は激しく頷いた。

意外とかわいいじゃないか

見た目はジジイだが

あ、あれは俺か、酷いな...あれじゃジジイと言われてもしかたない、上下色違いの、ジャージをみすぼらしくはいているし......なんか、見てるだけでイラッとしてくる...。

あ、イケナイイケナイ、立場が逆転するというのはこういうことなんだな、今の俺は活力に満ちている、頭も回る、怖いもの知らずになるのもしかたない、しかし抑えるんだ、今まで培った知識があるだろ...。

ん?若い体に経験が合わされば鬼に金棒じゃないか?このまま逃げてしまおうか?

「ぐあっ!」

そんなことを考えていると、スキが生まれていたらしい、体に物凄い衝撃が走った!ユウヤだ!ユウヤは俺のハッタリが効いていなかったらしい、誤算だ...ユウヤがタックルをして来た。

イケナイ癖だ、優位に立つとついつい油断してしまう 。







どうなった!

俺は今度はすぐに目を開けた。

素早く状況を確認しなければ。

目の前にいるのはサトシ!

ということは今の俺はユウヤだ!

依然として、こちらのアドバンテージにかわりない!

このまま逃げてしまえば俺の勝ちだ。

「サトシ!俺にタックルだ!」

ん?何言ってるんだ?自分にタックルさせたらお前らどうしで入れ替わるだけだろ?

いや、ちがうかな?こいつが言ってる俺って言うのはユウヤの事では?とすると...。

「ぐはっ」

気がついた時には後ろからタックルを決められていた!くそ!

おまえら考え無しに行動しやがって
どうなってもしらんぞ!

まぁ、どうなるか俺もわからんけど
たぶんタックルすると入れ替わるんだろう...なぜ?とかいう疑問は当然浮かんで来たが、あの紫の空をみた時から何か、とんでもない事がおこる予感がしていた。

とんでもない異変...それが吉とでるか凶とでるかはわからないが、いまの俺にとっては、どんな変化も大歓迎だ、これ以上悪くなる事は多分ないのだから。

「おい!おまえどっちだ?」
「サトシだ!」
「本当か?じゃあ俺の母ちゃんの名前をいえ!」
「ミサエ!」
「よし!逃げるぞ!サトシ」

目を開けるとふたりの逃げていく後ろ姿が見えた

「ま、待て!」

痛い...立ち上がるのも辛い。

さんざん痛めつけられてたからな...

よくこんな体でタックルできたもんだ(俺は変な所で感心した...)。

くそ、でもまぁ...いいか、あいつらを追っ払うことができた、ざまあみろだ。

「ふふ...ふふふ」

おれは仰向けになると自然と笑いがこみ上げてきた、これは?なんだ?

なんだかわからない?でもこれは思ってたカードよりいいじゃないか?
名付けて、入れ替えカード?か?

これで・・・。逆転だろ?

「ふふふ...ふふふふ...ヒーーハーーー!」思わず訳の分からない叫びをしてしまった

天空には依然として禍々しい紫が広がっていた。









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