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被疑者と被害者
しおりを挟む山崎了は、人が良かった。
「了はオヒトヨシだなぁ。」
昔から人にそう言われ続けてきた。
それは山崎本人も自覚するところであり、ある種の褒め言葉だと認識していた。
それゆえに、治すとか、反省するとか言う気持ちは全くおきなかった。
「人を騙すくらいなら騙される方がいいっちゃ」
山崎の祖母は、ことある毎にそう言っていた。
そんな祖母が山崎は大好きであった。
警察官になった今となっても、それは長所に違いなく、伸ばすことはあっても、足をひっぱるなどという事はないと考えていた...その時までは。
山崎は正に犯人(未だになんの罪かはわからないが)を追い詰めていた。
本当に、逃げる素振りを見せたら発砲もやむなしと考えていた。
一瞬たりとも目が離せない状況である、しかし、手錠をかけたりすることができないのだ。
もし仮に手錠かけた次の瞬間に入れ替わられたら?たぶん、取り逃がしてしまう可能性が高いからだ。
手錠をした状態では走るとなると、いかに瞬足の山崎にしても取り逃がす公算の方が高い。
周りに助けを求めたとしても、手錠をかけられた、身なりのよろしくない男の言う事をまともに取り合ってくれるとはおもえない。
つまり、近づかずに、相手を精神的に拘束し続ける以外にないのだ.......たぶん。
なにぶん、すべてがマニュアルにないことなので、自分の状況判断能力だけが頼りだ。
このまま、大きな通りにでて、運良くタクシーでも捕まえられれば、それで最寄りの交番までいき、事情を話し.......
話して信じてもらえるだろうか?
山崎はしばし考えた、それがスキになったのかもしれない...。
いきなり、横から激しい衝撃をうけた。
「ぐおっ!」
誰だ!山崎は一瞬なにが起こったかわからなかった。
頭をふって見上げると・・・
被害者の女性が苦しそうにしゃがんでいた。
あれ?もどってる?
ていうことは、今俺にタックルしてきたのは、彼女?
え?なぜ?
彼女は言った
「ごめんね・・・どうしても許せないの」
しまった!
その瞬間さすがの山崎も自分が騙された事に気がついた!
彼女は言っていた
「どうせ安全装置がついているんでしょ?」
そのとおり、安全装置は素人が触ってもわからないはずだ、だから、俺に返したのだ!
外してもらうために!
山崎は自分のお人好しを恨んだがおそかった。そして、その様子をみていたホームレスの男はすかさず逃げ出した。
最悪だ...。
犯人(仮)は逃げ出した。
いや、正確には逃げ出そうとして後ろを向いた。
次の瞬間、信じられない言葉を山崎は聞いた
「死ねえ!!」
彼女はたしかにそう言って発砲した。
山崎は拳銃を叩き落とそうとしたが遅かった...。
パーン!乾いた銃声
「あひっ! うわあああ!」
犯人(仮)はもんどりうって倒れた。
その、悲鳴を聞いて山崎は安堵した。
即死は免れたらしい。
あとは、急所さえ外れていれば助かる。
こんどこそ、山崎は彼女から拳銃を奪った。
「過剰防衛ですよ!いや、いまのは防衛ではないから殺人未遂です!」
彼女はすこし睨んだが、すぐに、そっぽを向いて言った。
「悪いのはソイツでしょ?」
「確かにそうだが、殺されるほどのことはしてないでしょ!」
「どうかしら?これからするかも知れないじゃない?・・・いや、必ずやるわ、保証する!」
へんな保証をもらった犯人(仮)に、ゆっくりと近づいた山崎は足を負傷してるだけらしい事を確認した。
たぶん、あれでは、立つことも厳しいだろう、二転三転したが、一応自分の身体にも戻ったし、犯人(仮)を無力化する事もできた様だ。
今度は被害者と被疑者の両方に注意を払いながら、山崎は喉が乾いている事に気がついた。
そういえば、走り通しでヘトヘトだ、しかも異常な緊張の連続で喉がカラカラになっていた。
「やばい、倒れそうだ・・・何か飲みものはありませんか?」
彼女も同じ乾きを感じていたらしく、ムスッとしたまま、軽く頷いた。
「自販機が、そこにあるけど、何がいい?奢るわ」
美女からの奢りだ
状況が状況でなければ、ロマンチックな気分にもなるのかもしれないが...。
先ほどの剣幕を見たあとではロマンスのロの字も出てこなかった
「水で」
「了解、私も水」
「ううう・・・」
ゾンビのような恨めしい声をだしてる被疑者が居るが...。
「俺のを後で分けるよ」
山崎が、そう言葉をかけた時
携帯が警報のような音を出した。
「緊急速報、緊急速報ただいま・・・」
ふたりはその内容に耳を疑った。
すこし離れたところでうめいている被疑者、ある意味で被害者は、聞いてるかどうかわからなかった。
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